今回の実例は、前回のとゆるく関連したトピックから。
毎年3月8日は「国際女性デー」である。この日*1は英語圏のTwitterでは、「女は感情的で理性的な思考はできない」という19世紀の誤った、非科学的な迷信にすぎないような価値観を打ち砕くために発言し行動してきた女性たちや、立派な業績があるにもかかわらず女性であるがゆえに正当な評価を得ることができずにきた女性たちを讃える投稿があちこちから相次いでなされる。例えばこういう投稿だ(映像はノーベル賞を受賞した女性たちのスライドショー)。
Women are the architects of society.#InternationalWomensDay #InternationalWomansDay #IWD2018 #WomensDay2018 #WomensDay #internationalwomensday2018 #PressforProgress #happyWomensDay2018 #IWD18 #women #NariShakti #NariShakti4NewIndia #womensdayquotes #ernest6words #sixwordstories pic.twitter.com/Tv6W0WcfJC
— Six Word Stories (@ernest6words) March 8, 2018
それと同時に、次のような情けない、嘆かわしい投稿もたくさんなされる。
what about international men’s day
— dunking dad (@dunkingdad) March 7, 2019
「女性たちの功績を讃えよう」という日に、わざわざこういうことを言う人は「女性女性と女ばかり厚遇されているな!」という世界観の持ち主で、普通に知っていて当然のことを知らなかったり、普通に疑問に思ったらちょっと調べればわかるようなことも調べていなかったりすることがよくあるのだが、実際、「国際男性デー」というのもちゃんとある。11月19日だ。
といっても「男性たちの功績を讃えよう」という声は少ない。「男性たち」はいちいち「男性たち」呼ばわりはされず、単に「科学者」だったり「芸術家」だったり「政治家」だったりするのがデフォだからだ。「ウィンストン・チャーチルは英国で最も偉大な政治家のひとりとみなされている」のであり、「ウィンストン・チャーチルは英国で最も偉大な男性政治家のひとりとみなされている」とは言わないし、ましてや「ウィンストン・チャーチルは英国で最も偉大な男性のひとりとみなされている」なんて言ったら「は?」と返されるだろう。逆に、例えばマリー・キュリーについては「最も偉大な科学者」ではなく「最も偉大な女性」という取り上げられ方をしていても違和感は少ないだろう。この非対称性こそが問題だという認識を共有するだけのシンプルなことが、なぜかすさまじい心理的抵抗を引き起こしているのが現状だが。
ともあれ、今年私が見かけた11月19日の投稿には「男らしさ」の神話をもっともっと疑問視していくべきだという主旨のものが多かった。「男らしさ」は男性たちを追い込み、追い詰めているというのは、少なくとも25年前には言われていたことなのだが、現状、まだ「男らしさ」という押し付けには問題がある、という認識を共有していく段階のようである。
Phrases like: "Man up, take it like a man" only perpetuate the attitude that it is not ok to express emotions.
— Bob Morley (@WildpipM) November 20, 2019
"man-pain" belittles those feelings.
Roughly 70% of suicides are male.
Maybe it's time to reconsider what masculinity is.#InternationalMensDay
Be well, be kind
一方で、上で見たような、3月8日の「国際女性デー」に際してわざわざ「男性デーはないのか」的なことを言わなければ気が済まない人に「今日ですよ」とご親切にも指摘してあげるツイートもある。
Today. What you up to? https://t.co/PUaLM0HmaS
— Richard K Herring (@Herring1967) November 19, 2019
3月8日の国際女性デーに「国際男性デーはないの?」とツイートするおバカさんたちに「あるよ、11月19日だよ」と伝えて回る活動をしている、英コメディアンのリチャード・ヘリングさんが、以前引用ツイートした人たちに、「ほら今日だよ。何してる?」と言って回っていて大変立派。#国際男性デー https://t.co/8GrNNAw8H4
— たまさか (@TamasakaTomozo) November 19, 2019
ちなみに、「国際男性デー」という言葉は、その当日である11月19日よりも、「国際女性デー」である3月8日に、より多くググられるらしい。なんかもう本当に...。https://t.co/BrSssNdeqO
— たまさか (@TamasakaTomozo) November 19, 2019
これに対して「男性をバカにしてマウントを取っている」とかいうリプがついている地獄のような世界が現実なのだが(誰が誰を「バカにしている」んだろうね? 「国際女性デー」にわざわざ「女はいいな」と卑屈な態度に出てみせるのは「バカにしている」ことにはならないのだろうか?)、それが世間というものならば、今日ここで英語の実例として見る発言はそういうもののひとつというふうに解釈されるかもしれない。なぜそう解釈するのかは私には理解が及ばないことだが。
というわけで今回の実例:
Charles Rennie Mackintosh said his wife, Mary, was the greater artist. He credited her with 'two thirds' of his architectural achievement (incl his iconic rose motif). Nobody listened, but he said it nonetheless. We need to credit Mary more - just like he said. /5 pic.twitter.com/p1L2giwkg6
— Sara Sheridan (@sarasheridan) November 19, 2019
ツイート主のサラ・シェリダンさんはスコットランドの作家。このツイートで取り上げられているチャールズ・レニー・マッキントッシュは19世紀末から20世紀初めにかけて特にグラスゴーで多くの仕事をしたスコットランドの建築家でインテリアデザイナーだ。
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*1:日本では時差があるので9日付で流れてくるものが多い。