Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

同格, the + 比較級, 【ボキャビル】credit A with B, 多義語の意味の確定の仕方, 分数の表し方, など(国際男性デーに)

今回の実例は、前回のとゆるく関連したトピックから。

毎年3月8日は「国際女性デー」である。この日*1英語圏Twitterでは、「女は感情的で理性的な思考はできない」という19世紀の誤った、非科学的な迷信にすぎないような価値観を打ち砕くために発言し行動してきた女性たちや、立派な業績があるにもかかわらず女性であるがゆえに正当な評価を得ることができずにきた女性たちを讃える投稿があちこちから相次いでなされる。例えばこういう投稿だ(映像はノーベル賞を受賞した女性たちのスライドショー)。

それと同時に、次のような情けない、嘆かわしい投稿もたくさんなされる。 

「女性たちの功績を讃えよう」という日に、わざわざこういうことを言う人は「女性女性と女ばかり厚遇されているな!」という世界観の持ち主で、普通に知っていて当然のことを知らなかったり、普通に疑問に思ったらちょっと調べればわかるようなことも調べていなかったりすることがよくあるのだが、実際、「国際男性デー」というのもちゃんとある。11月19日だ。

といっても「男性たちの功績を讃えよう」という声は少ない。「男性たち」はいちいち「男性たち」呼ばわりはされず、単に「科学者」だったり「芸術家」だったり「政治家」だったりするのがデフォだからだ。「ウィンストン・チャーチルは英国で最も偉大な政治家のひとりとみなされている」のであり、「ウィンストン・チャーチルは英国で最も偉大な男性政治家のひとりとみなされている」とは言わないし、ましてや「ウィンストン・チャーチルは英国で最も偉大な男性のひとりとみなされている」なんて言ったら「は?」と返されるだろう。逆に、例えばマリー・キュリーについては「最も偉大な科学者」ではなく「最も偉大な女性」という取り上げられ方をしていても違和感は少ないだろう。この非対称性こそが問題だという認識を共有するだけのシンプルなことが、なぜかすさまじい心理的抵抗を引き起こしているのが現状だが。

 

ともあれ、今年私が見かけた11月19日の投稿には「男らしさ」の神話をもっともっと疑問視していくべきだという主旨のものが多かった。「男らしさ」は男性たちを追い込み、追い詰めているというのは、少なくとも25年前には言われていたことなのだが、現状、まだ「男らしさ」という押し付けには問題がある、という認識を共有していく段階のようである。

一方で、上で見たような、3月8日の「国際女性デー」に際してわざわざ「男性デーはないのか」的なことを言わなければ気が済まない人に「今日ですよ」とご親切にも指摘してあげるツイートもある。

これに対して「男性をバカにしてマウントを取っている」とかいうリプがついている地獄のような世界が現実なのだが(誰が誰を「バカにしている」んだろうね? 「国際女性デー」にわざわざ「女はいいな」と卑屈な態度に出てみせるのは「バカにしている」ことにはならないのだろうか?)、それが世間というものならば、今日ここで英語の実例として見る発言はそういうもののひとつというふうに解釈されるかもしれない。なぜそう解釈するのかは私には理解が及ばないことだが。

 

というわけで今回の実例: 

ツイート主のサラ・シェリダンさんはスコットランドの作家。このツイートで取り上げられているチャールズ・レニー・マッキントッシュは19世紀末から20世紀初めにかけて特にグラスゴーで多くの仕事をしたスコットランドの建築家でインテリアデザイナーだ。 

世界現代住宅全集11 チャールズ・レニー・マッキントッシュ ヒル・ハウス

世界現代住宅全集11 チャールズ・レニー・マッキントッシュ ヒル・ハウス

 

*1:日本では時差があるので9日付で流れてくるものが多い。

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《結果》を表すto不定詞, 接続詞のyet, despite -ing, in one's own right (芸術家ドラ・マール。「ピカソの愛人」扱いはもう終わり)

今回の実例は、ロンドンのテイト・モダーンで開催される美術展に関連して、ある芸術家の生涯と業績をざっと振り返っている記事から。

ピカソという画家は、美術に興味のない人でも「偉大な画家」として(あるいは「わけのわからない絵を描いているのになぜか巨匠とされている理解しがたい画家」として)知っているくらいに有名な画家だ。美術に少し関心がある人なら、彼が生涯で何度かがらりと作風を変えたことも知っているだろうし、かなり長生きしたことや、いわゆる「女性関係」が現代では顰蹙を買うようなものだったことも、評伝などを読んで知っている人もいるだろう。

 個人的には、精神的に疲れたときなんかにピカソがささっとサインペンか何かで描いたようなシンプルな素描を見ると気が休まるのだが、漠然と「女性の扱い」について腹が立っているようなときには絵の向こうにあれこれ問題が見えてきてしまい、「どのツラ下げて鳩とか!」などと思えてくるので逆効果。いろいろと難しい。

 というわけで、ピカソのことはよく語られるし、ピカソと深くかかわった女性たちのことも、「天才画家の生涯を彩った女性たち」的なナラティヴで、わりとよく語られる。

「彩った」だなんて、サンドイッチに添えられるパセリか、刺身に乗せられる菊*1みたいな扱い方をされてしまっているが、彼女たちはピカソの添え物である以前にひとりの人間だった。

 

ドラ・マールは、1930年代後半から45年までピカソの「愛人」だったこととか、『泣く女』のモデルになった女性であることとか、『ゲルニカ』の制作光景の記録者となったことで知られているが、彼女自身アーティストであり、ピカソと知り合う前から、パリのシュルレアリスムの芸術家たちの一員として活躍していた。 

Dora Maar

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ゲルニカ―ピカソ、故国への愛

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そのドラ・マールの作品展が、パリのポンピドーセンターからロンドンのテイト・モダーンに巡回してくる(来年はロサンゼルスにも行く)とのことで、彼女についてまとめた記事がBBCに出ているわけだ。

記事はこちら: 

www.bbc.com

*1:あれはたんぽぽではない。

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挿入, 比較級 + than ever, whyの節, 前置詞+動名詞, 関係代名詞の非制限用法(テリーザ・メイと保守党)【再掲】

このエントリは、今年4月にアップしたものの再掲である。少々長い文で、一度読んだだけで英文の構造を正確につかむための練習台としてはよい例だと思う。

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今回も実例は、Brexitをめぐるロイターの報道記事から、少々長たらしい文だが、まずは構造を正確につかむことが必要だ。

uk.reuters.com

 

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to不定詞の副詞的用法, 関係代名詞のwhat, try to do ~, those who ~(北アイルランド和平合意から21年)【再掲】

このエントリは、今年4月にアップロードしたものの再掲である。素材とする英文を書いたのは英語母語話者ではないが、英語としてTPOにふさわしい、非常に品格のある文になっている。

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今回の実例は、Twitterから。

21年前の昨日、1998年4月10日(現地時間)に、北アイルランド紛争終結させ、北アイルランドについて英国とアイルランド共和国の双方が主体的に関わっていくという枠組みを作った和平合意が、長い長い交渉の末、両国政府と北アイルランドの各政党・政治集団の代表者によって署名された。正式には「北アイルランド和平合意」「ベルファスト合意」と言うが、署名された日が聖金曜日だったことにちなんだ「グッドフライデー合意」(略称はGFA)の名称がよく使われている。

ただし、現在ニュースに出てくることが多い北アイルランドの政党DUPは、この合意締結に反対していたので、交渉の席にいなかった。ざっくり言えばDUPは今でもこの合意に賛成していない、というスタンスを取っている。

合意の文面は誰でも読めるようになっているし、長いものではないので、関心がある方はご一読されたい(ただし、法的文書なので、読みやすいものではない)。

peacemaker.un.org

翻ってこんにち、アイルランドの北部6州(北アイルランド)とそのほかの26州(アイルランド共和国)の間の自由な往来(ボーダー、境界線)をめぐることを主因として、よくわからないカオスになっている英国のEU離脱が、元々の予定期日の3月29日を過ぎて延長されている。

そして4月10日は、英国のメイ首相がさらなる延長を求めてEU各国の首脳と話し合いを行なうことになっていた。その結果、10月末までの延長が決まったのだが、その話し合いが始まる前に、EUBrexit関連問題担当の代表者となっているヒー・フェルホフスタット氏(元ベルギー首相)が、GFAについて次のようなツイートをしていた。添付されている画像は、21年前に交渉当事者たちによって署名がなされた合意文書の表紙の写真である。

 

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やや長い文, provide A with B, a chance to do ~, have one's sayなど(内戦を超え、独立を問うレファレンダムを実施する島)

今回の実例は、南太平洋の小さな島のニュースから。

地図帳が手元にある人はそれを開いてみていただきたい(地図は、世界史年表についているのでも何でもいい)。日本の本州から太平洋をずっと南に進んでいって赤道を超えたところにあるかなり大きな島がニューギニア島。ここは東西真っ二つになるように国境線が引かれていて*1、西側はインドネシア領、東側はパプアニューギニア(頭文字を取ってPNGと表記される)という独立国のメインランドになっている。

PNGという国は、そのメインランドのほか、周辺にある島々を集めてひとつの国を構成している。その島々のひとつがブーガンヴィル島 (ブーゲンヴィル島: Bougainville Island) である。この名前からは、花の「ブーゲンビリア」が容易に連想されるが、この島とその花とは直接関係はない。ただしどちらも、18世紀から19世紀初頭にかけて世界を巡ったフランスの航海者、ド・ブーガンヴィルに名前の由来がある。

この島は、19世紀の帝国主義の時代はドイツ領とされ、20世紀は第二次世界大戦(太平洋戦争)の戦場とされる時期もはさみつつ*2、オーストラリアの統治下とされたあと、1975年のPNGの独立の際にPNGの一部となった。しかし1988年には島のPNGからの独立運動が起きる。20世紀後半、西洋諸国から独立した国で、さらに分離独立運動が起きることが頻発したが、多くの場合、その背景には豊富な地下資源をめぐる思惑があった*3。ブーガンヴィル島の独立運動も例外ではなく、この島には世界最大級の銅山があった。独立運動を戦った軍事組織、「ブーゲンビル革命軍 (BRA)」についてのウィキペディア記事から: 

ブーゲンビル革命軍(英語: Bougainville Revolutionary Army, BRA)は、パプアニューギニアからの独立を求めるブーゲンビル島の先住民たちによって、1988年に結成された軍事組織。

BRAの指導者たちは、ブーゲンビルは民族的にはソロモン諸島の一部であると論じ、島内で展開されていた大規模な鉱業は地元に利益をもたらしていないと主張した。1989年、BRAの指導者たちはパプアニューギニアからのブーゲンビルの独立を宣言し、ブーゲンビル暫定政府を樹立した。この結果、BRAと、オーストラリアの支援を受けたパプアニューギニア政府軍との間で、戦闘が激化していった。

1991年1月、ホニアラ宣言(で停戦が合意された)。しかし、停戦は程なくして破れ、戦闘は継続した。1997年、国民会議党のビル・スケートがパプアニューギニアの首相に選出され、ブーゲンビル紛争の平和的解決を最優先の課題とすることを公約した。

こういった取り組みの結果、the Bougainville Peace Agreement (BPA) という停戦協定(和平協定)で1988年12月から1998年4月まで続いた内戦は終わり、2005年にはブーガンヴィル島に自治政府が発足した。 

この協定には、「2020年6月までにブーガンヴィルの独立を問うレファレンダム(住民投票)を実施すること」と明記されていた。そのレファレンダムが、紆余曲折はあったものの、今週末、2019年11月23日から12月7日の日程で実施されるということで、そのレファレンダム実施委員会の委員長を務めるバーティ・アハーンがガーディアンに寄稿している。今回はその記事を見よう。記事はこちら: 

www.theguardian.com

バーティ・アハーンは1997年から2008年までアイルランド共和国の首相を務めた政治家である。日本で多少でも知られているとしたら「アイルランド経済を『ケルトの虎』と呼ばれるまでの好調に導いた政治家」としてかもしれないが、国際社会で彼が今なお一定のステータスを持っているのは、2008年のリーマン・ショックであっけなくポシャった「ケルトの虎」(「ケルトの猫になった」と言われた)の功績のためではなく、前任者の仕事を引き継いで、1998年4月のベルファスト合意(グッドフライデー合意)を実現に持ち込み、誰も終わらせることができないと思われていた北アイルランド紛争を終わらせたという功績による。グッドフライデー合意は実に交渉のたまもので、つまり当事者すべてから一定の「妥協」を引き出したことでようやく成立したのだが、今回のブーガンヴィル島独立レファレンダムについての文章でもそういったことが語られている。

 

*1:この国境線は、19世紀の帝国主義の時代に西洋列強がこの島を植民地化し、オランダとドイツとイギリスの間で勝手に分割したことによる。西側はオランダ領とされ、そこからいろいろあって(いろいろありすぎるのだが)今日のインドネシアになった。東側の北半分はドイツ領、南半分はイギリス領とされた。イギリス領の部分はその後オーストラリアに継承された。第一次世界大戦でドイツが敗北すると、島の東半分はオーストラリアの統治下におかれた。第二次世界大戦でめちゃくちゃなことになったあと、戦後は引き続きオーストラリアが統治したが、1975年に「パプアニューギニア」という独立国家となった。そのあたりのことはウィキペディア日本語版でも確認できる。

*2:日本語圏でこの島の名前でウェブ検索すると、第二次大戦で日本軍が大量死したことやその関連の記述ばかりが上に来るようだ。現在のことというよりも。

*3:それに加えて、東西冷戦の構図、つまり「防共」という名目もあることが多かった。これについてはインドネシアの例を参照するとわかりやすいだろう。衝撃的なドキュメンタリー映画『アクト・オブ・キリング』を参照。

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thoughやhoweverを使った論理展開、助動詞+完了形、など(気候変動とヴェネツィアの冠水)

今回の実例も、前回と同じ記事から。前回は記事の冒頭部分を見たが、今回は記事の中ほどで、世界的に関心を集めているイタリアのヴェネツィアについての部分から。

日本語では外国の地名など固有名詞は現地の音を参照してカタカナにするのが原則だが(ただし中国の地名などについては例外)、英国の言葉である英語ではしばしば、現地語とは違った読み方をすることがある。「ヴェネツィア Venezia」はその代表例で、英語では「ヴェニス Venice」という。同様にイタリアの「フィレンツェ Firenze」は英語では「フロレンス Florence」だし、「ローマ Roma」は「ローム Rome」、というように地名ひとつとってもいろいろあるのだが、当ブログでは基本的に日本語で定着している表記を採用している。

実用英語となると、こういった「英語独特の呼び方をする、英語圏以外の地名」も、重要なものは押さえておかないといけないのだが(例えば英語のラジオのニュースを聞いていて「"サイベリア" に隕石が落下し……」と流れてきたら「シベリアに隕石が落下した」と即座にピンとこなければならない、とかいったことがかなりたくさんある)、大学受験の段階ではそこまで手を広げようとする必要は必ずしもないだろう。ただし、例えばロシア語やロシアの地域研究の方面に進みたい人は、いずれ英語で論文を読んだり発表を聞いたりすることになるのだし、ロシアの地名の英語読みに早いうちからなじんでおきたいと思ったらそうすればいい。大学受験までの基礎力づくりの段階で重要なのは、固有名詞をたくさん覚えておくことというよりむしろ、この先、自分がやりたいようなことができるようにしておくことだ。

 

閑話休題。記事はこちら: 

www.bbc.com

今回はちょっと長めに文章を切り取って、論理展開を見ていこう。

 

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付帯状況のwith, if節(名詞節), 疑問詞節, など(気候変動と、全世界的に発生している洪水や森林火災)

今回の実例は、気候変動についての解説記事から。

今年(も)、日本は度重なる豪雨と台風に見舞われて、あちこちでひどい被害が出たが、そのような極端な天候 (extreme weather) は全地球規模で起きていて、イングランド北部では11月上旬から洪水(川の氾濫)が続いている。11月7日(木)には川の堤防が決壊して付近が冠水するということが起きていたのに、ボリス・ジョンソン首相が内閣の危機に際しての緊急会合(Cobraミーティング)を招集したのは週明けの11日(月)という安倍内閣もびっくりの遅さで、あからさまな北部軽視だと批判が出ている。ジョンソンは今選挙戦の真っ最中で全国各地をめぐり有権者と直接話をしているが、行く先々で有権者の怒りの言葉にさらされている*1

 

同時期に、イタリアのヴェネツィアヴェニス)が冠水して大変なことになっている。こちらは雨が原因ではなく高潮。

www.afpbb.com

 

高潮は毎年のことだが、ここまでひどくなったのは気候変動が原因(のひとつ)だと市長は述べている。ただし、もちろんというべきか原因は複合的なもので、市民にしてみれば、防波堤の建設が汚職のために進んでいないということが大きいという(気候変動は今すぐ人が何かしてどうこうということはおそらくないが、防波堤の建設は今すぐ人が動けば事態は変えられるわけで、そちらが重要視されるのは当然のことだ)。

www.afpbb.com

 

一方オーストラリアでは未曽有の規模の森林火災(山火事)が起きているし、米カリフォルニア州も大変なことになっている。

www.huffingtonpost.jp

 

今回実例として参照するのは、そういうことがあちこちで起き、日々のニュースとして流れてくる中で出た解説記事だ: 

www.bbc.com

 

*1:近年の英国の政治はひどくぐだぐだになっているのだが、それでも、事実上ほぼ一党独裁の専横政治化している日本の政治よりはずっとましで、英国政治を見ていたほうが人間というものについて絶望しないで済むというのは、こういうことだ。

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the fact is (that) ~, 英文読解(書いてあることを書いてあるままに読むということ)、英作文のコツなど(昆虫の減少という問題)

今回の実例も、前回と同じ記事から。

前回は長くなってしまうので言及しなかったが、「昆虫の減少」というトピックでこの10年ほど世界的に注目を集めているのが「ミツバチの減少」である。ミツバチの減少については、日本語圏でもささっと検索すれば、ここ何年かの間に書かれた文章が数多く見つかる。例えば2015年5月号のナショナル・ジオグラフィックは、記事の前置きの部分で、「どのような問題か」を次のようにまとめて伝えている: 

巣箱から突然、たくさんのミツバチが消えていなくなる「蜂群崩壊症候群(CCD)」という現象が、2007年に報告された。欧米各地で突如として頻発したこの現象を、マスコミは「世界の農業を揺るがす脅威」と報じた。なにしろ世界の食料供給の3分の1は昆虫による受粉に依存し、その主役はミツバチなのである。


蜂群崩壊症候群の原因は、一つだけではなさそうだ。今では研究者の大半が、害虫、病原体、殺虫剤、生息環境の減少などの複合的な要因が背景にあると考えている。……

https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/magazine/15/041900003/042000004/

ここで指摘されている「要因」は、それぞれ別々に存在するのではなく、相互に関連しあっている。それを認識しておくことが、今回見るような環境問題についての記事を読むうえで、準備として必要となる。大学入試でも環境問題というテーマは頻出だ。凡庸な言い方になるが、日ごろから広く関心を持ち、視野を広げておくことで、読解に必要な基礎的な知識を身に着けるようにしておきたい。

 

では、記事はこちら: 

www.bbc.com

 

記事の枕の部分で紹介されている報告書(前回はリンクだけしたが): 

https://www.somersetwildlife.org/sites/default/files/2019-11/FULL%20AFI%20REPORT%20WEB1_1.pdf

表紙など込みで全48ページと、なかなかボリュームがあるが、写真も多いのでざっとスクロールしながら目についたところだけでも読んでみるとよいかもしれない。語彙は大学受験生にはちょっと高度かもしれないが、 英語の長文読解でなかなか容赦のない問題を出す大学を志願している人には、読解のよい練習台になりそうだ。特に40ページの「最近の殺虫剤(農薬)は昔のものに比べて安全だと言われているが?」のセクションなどは、英語の文章のロジックがよくわかる記述になっているので、長文読解の参考書をやったあと、何か練習台を探している人にはおすすめである。

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go + 形容詞, 英文読解, -ing形の区別, thatの省略, 関係代名詞など(昆虫の減少という問題に、私たちは何ができるか)

今回の実例は、都会生活でも実感できる環境問題についての青少年向けの記事から。どこぞの環境大臣などが言ってる、若者向けにするには「セクスィ~」にしなければということは、こういうことなのだろうか。つまり、「ただ読んで『深刻な問題ですね』で終わらせるのではなく、『自分にもできること』を提案し、取り組みを促す」という方向性。それなら「セクスィ~(閣議決定)」路線でもいいんじゃないかと思う。

BBC Newsの中に、Newsbeatというコーナーがある。現在はBBC Newsの一般のサイトとシームレスで、普通にNewsを見ているつもりでリンクをクリックしてみたらNewsbeatだったということがよくあるが、NewsbeatはBBC Radio 1のニュース番組で、"Newsbeat is produced by BBC News but differs from the BBC's other news programmes in its remit to provide news tailored for a specifically younger audience." との由。つまり青少年向けのニュース番組である。ラジオという音声ベースの媒体だし、内容も語彙も構文も、一般に「読まれる」ことを前提とした記事よりも平易だから(だからといって非ネイティヴ英語話者である英語学習者にとって「簡単」とは限らないのだが)、長文多読の素材に向いている記事が多い。Newsbeatの記事は下記リンクから一覧できる。

www.bbc.com

 

今回の記事のトピックは、昆虫が減少しているという件。これは東京で私も感じていたのだが*1id:cenecio さんも感じていらっしゃるとのことで、先日ブログに書いていらした。

cenecio.hatenablog.com

私の住んでいるエリアでは、立派な庭があって庭木が植えられているようなお宅が近年次々とマンションやアパートに建て替えられていて、「庭木」というものがどんどん減っていて、住宅街の立派な一本桜(ソメイヨシノ)が姿を消した次の年には、隣の区画のヤマザクラが消えて、自転車で数分行ったところにあるハナカイドウやハナミズキに満たされた庭のある家が取り壊されて時間ぎめの駐車場になったりしている。かなり離れた場所だが、道路の拡幅のために家が立ち退いた場所もあり、そこにそびえ立っていた何の種類だかわからないが巨木もなくなった。昨年(2018年)10月の台風で公園の木が何本も倒された影響もある(巨木がすさまじい風に揺らされたため、根本が緩んで倒木の危険が生じたとかで伐採されたものもあるし)。寿命を迎えたというソメイヨシノの巨木が私が行動する範囲で数本切られた。一方で新築の豪華マンションの周りには若い木が新たに植えられているから、この先はまた環境が変わってくるのかもしれないが、ともあれ、今は目で見えるレベルで「緑が減った」と感じられている。

 

そういう場合でも、昆虫が生きられる環境を人の手で作ることは可能だ、というのが今回の記事。こちら: 

www.bbc.com

 

ヨーロッパでの昆虫の減少は、10年ほど前から深刻な状態にあると言われているが、今回、英国でthe South West Wildlife Trustsという機関が調査報告書をまとめた。そこに示された危機的な状況に対して、都市に住む人間は何ができるか、ということについて箇条書きのような形式で示した記事で、とても読みやすいので、英語の勉強のために全文を読むことは有益だと思う。

*1:蛾はいっぱいいるんだけど蝶を見かけなくなったし(大きなアゲハ蝶やマツグロヒョウモンも、小さなシジミ蝶も)、カナブンのような甲虫もしばらく見ていない。夏に、なぜかうちの外壁にしがみついて鳴いているアブラゼミの声に悩まされることも減った。

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the + 比較級 ~, the + 比較級 …と劣勢比較の合わせ技、「時間がかかる」の表現、to不定詞の形容詞的用法(いつまで続く、Brexit騒動)【再掲】

このエントリは、今年4月にアップしたものの再掲である。「定番」といえる構文が次々と出てくる記事を取り上げているので、「これ、学校で習った!」と実感しながら読み進めてもらえるのではないかと思う。(学校で習った構文が、学校の教科書や教材以外の場所で出てくるのに遭遇すると、何となくうれしくなったりするものだ。)

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今回の実例は、そろそろ「300年が経過してもまだやってるんじゃないか」と思われるようになってきたBrexitについてのニュースから、文法項目はつい2日前に見たのと同じ比較級の構文と、さらにその数日前に見た劣勢比較の合わせ技。

この合わせ技を使いこなせるようにしておくと、英作文のときも自由度がぐんと高まる。

というのは、ジョージ・オーウェル1984年』の「ニュースピーク」ではないが、ある形容詞・副詞の対義語を知らなくても否定語をつければ反対の意味を表せる(例えば「ハーゲンダッツのアイスクリームを2割引の日に買わなかったというささいなことが彼を激怒させた」の「ささいな」を知らなくても、「重要でない」と言えば、言いたいことは伝わる)わけで、劣勢比較のlessを使えば、適切な単語を知らない場合でも「~すればするほどますます…でなくなる」と表現することができるからだ。実際、大学入試の自由英作文で「住民が増えれば増えるほど、ひとりひとりの一票の重要性が減る」といったことを表現する必要が出てくることは多くあり、そのときに今回見るような表現を自分で使えるようにしておくことは非常に大きな助けになるだろう。

 

記事はこちら。記事の見出しは普通の《the + 比較級 ~, the + 比較級 …》だが、リード文(見出しの下にある部分)に劣勢比較との合わせ技が出てきている: 

uk.reuters.com

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be followed by ~, 接続詞のas, begin -ing, try to do ~(ルワンダのジェノサイド発生から25年)【再掲】

このエントリは、今年4月にアップしたものの再掲である。英文を正確に読解するためのポイントがまとまっている文章で、内容を把握せずに読み飛ばしてしまうくせがついている人が、一歩一歩立ち止まって確認する練習に使うには、ちょうどよい素材となるだろう。

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今回の実例は、ルワンダのジェノサイドの始まりから25年(四半世紀)の節目に行われた式典についての報道記事から、25年前に何が起きたのかを解説する部分から。

 

「ジェノサイド」は、ギリシャ語で「民族、種族」を表すγενοσと、ラテン語で「~を殺す」を意味する-cideという接尾辞から成る合成語で、民族や種族の抹殺を意図した行為をいう。第二次世界大戦後に導入された考え方で、ナチスによるユダヤ人絶滅(ホロコースト)や、旧ユーゴスラヴィア解体・ボスニア内戦の際の民族浄化スーダンにおけるダルフール紛争などがジェノサイドにあたると認定されているが、その中でも現代において最も深刻なケースだったのが、1994年のルワンダでのジェノサイドである。

25年前に何があったのか、詳細は、本エントリ末尾の書籍リストに譲るとして、記事はこちら: 

uk.reuters.com

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【ボキャビル】quid pro quo, 前置詞+関係代名詞, 報道記事の見出しのルール(米トランプ大統領のウクライナ疑惑)

今回の実例は、米ドナルド・トランプ大統領の弾劾の是非に関する公聴会が始まる前の報道記事から。

日本語圏では10月の災害に続き、11月は大学入試やら「桜を見る会」やらの日本の国内ニュースがたいへんなことになっているので扱いが相対的に小さいのではないかと思うが、英語圏ではウクライナ疑惑とトランプ弾劾の行方が連日トップニュースの一角を占めている。これは米国のメディアだけでなく英国のメディアでも同じだ。(ただしもちろん、英国のメディアの最大の関心は、自国のニュース――総選挙や水害――に向けられている。)

私は個人的にはアメリカの政治にはあまり興味がない。同時期に英国の総選挙のニュースが進行しているので、そちらを見るだけで手いっぱいで、上院を共和党が押さえている以上は結論がわかりきっているトランプ弾劾については見出しくらいしか見ていないから、最新の状況は実はよくわからない(ただ、こういうことになった理由の大枠は押さえているつもりだし、結論はわかりきっていても、こういういわば「ドラマ」を展開することを民主党が選んだことの意義はあるということも理解しているつもりだ)。

何が起きているのかは、パトリック・ハーランさんがわかりやすく解説してくれている記事があるので、そちらをご覧いただければと思う。

www.newsweekjapan.jp

 

さて、というわけで今回の記事。弾劾のあれこれが今のように動き出す前、先週の報道記事で、この見出しが目を引いた。

www.theguardian.com

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oddという単語をスムーズに訳せますか(左右バラバラの靴下で、いじめに反対する意思表示)

今回の実例はTwitterから。

11月12日、Twitterの画面を見てみたら、UKで#OddSocksDayというハッシュタグがTrendsに入っていた。

"odd" という単語は、日常で頻出の単語だが意味範囲が広く、なおかつ日本語ではぴったり対応する語がないので、日本語を母語として英語を学んで身に着ける私たちにとっては非常にやりづらい語だ。だがこのハッシュタグでの "Odd socks" という使い方は、具体例としてとてもよい。私もoddという単語を最初に知ったときに、この例で習いたかった……と思うくらいによい例である。

早速実例を見てみよう。 "Odd socks" とはこういう状態のことだ。

 

つまり、 "odd socks" とは「片方ずつ違っている靴下」のこと*1

これでoddという語は、「対のものが、対になっていない状態」、つまり「片方(ずつ)しかない状態」を言う、ということがおわかりになるだろう。

だがoddという語について、この《意味》だけを覚えていても、受験でも実用英語でも、たぶんほとんど役に立たない。

ここで辞書を見てみよう。

*1:日本語でも「片方ずつ違っている」など回りくどく言わずに一言で済ませられる表現もあるのだが、現代の感覚では、残念ながらあまり使いたくないような表現である

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同格, continue to do ~, 不定詞の受動態, 分詞構文,【ボキャビル】pseudo-, on the other hand (クロアチアにおける過去の美化という問題)

今回は前回の続きで、クロアチアでの「クリスタルナハト(水晶の夜)」記念行事でのスピーチから。

前回簡単に述べたが、クロアチア第二次世界大戦時は「クロアチア独立国」(Nezavisna Država Hrvatska: NDH) として枢軸側(ドイツやイタリアの側)にいた(ただし現在ではNDHは正当な政権とは見なされていない)。NDHではナチス・ドイツと同様に人種法が制定され、前回の前置き部分で言及したヤセノヴァッツ強制収容所で行われたようなユダヤ人やロマなどに対する迫害は「合法的」なものだった。

このNDHを作ったのが、クロアチア民族主義の集団「ウスタシャ」で、第二次大戦前は当時のユーゴスラヴィア王国内で暴力的な独立運動を行っていた。NDHはその独立運動が結実したものというのが彼らの見方で、現代では組織としてはウスタシャは存在しないが、クロアチアの極端な民族主義は消えたわけではなく*1、外部の者たちが批判的にクロアチアのウルトラ・ナショナリズムを「ウスタシャ」と呼ぶことがある。

今回見る部分には、これらの単語が出てくるので、最初に軽く解説しておいた。では、記事を見ていこう。

*1:チトーの時代には消えたように見えてはいたのかもしれない。

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長い文, 時制の一致, it is ~ to do --, 等位接続詞and, 挿入, while (第二次大戦とクロアチアの歴史認識問題)

今回の実例は、前回見た記事でも言及されていた「クリスタルナハト(水晶の夜)」に関連した記事から。

「クリスタル(水晶)ナハト(夜)」は1938年11月9日から10日にかけて、ドイツ各地で発生した反ユダヤ暴動のこと。割られたガラスが夜の月明かりの中できらきらときらめいてまるで水晶のようではないかとヨーゼフ・ゲッベルスが思ったことで、このような名称がついているが、その内容は凄惨で、人が住んでいる住宅やシナゴーグユダヤ教の礼拝施設)に対する焼き討ちや建造物の破壊がなどが行われ、少なくとも91人のユダヤ人が殺された。のちのホロコーストにつながっていく重大な事件である。詳細は下記書籍やウィキペディアなどをご参照いただきたい。

水晶の夜―ナチ第三帝国におけるユダヤ人迫害

水晶の夜―ナチ第三帝国におけるユダヤ人迫害

 

 

2019年11月10日は、「ベルリンの壁」の崩壊(1989年)から30年という記念日だったが、同時に「クリスタルナハト」から81年の日でもあった。ドイツでは近年、極右勢力が政治的に伸長してきているが、それだけでなく、1か月前の2019年10月9日には、東部の都市ハレでシナゴーグに対する銃撃テロが行われている。この日はユダヤ教の非常に重要なお祭りの日(ヨム・キプール)で、シナゴーグの中にはものすごくたくさんの人がいたそうだが、幸いなことに扉が閉まっていたため銃撃犯が建物内に入れず、大量の犠牲者を出すことはなかった(それでも2人が殺されている)。

そういうことが起きている中で、ドイツの首相も大統領も、「ベルリンの壁」の崩壊30周年という場で、「ベルリンの壁」以前の自国の歴史――ナチス・ドイツ――への言及も欠かさなかった(関東大震災のときの朝鮮人虐殺を無視するどこぞの都知事とは大違いである)。81年前の「クリスタルナハト」も1か月前のシナゴーグ襲撃も、晴れやかな場である「壁」崩壊30周年の式典でしっかり言及されていた。

 

一方、ドイツ国外でもクリスタルナハトの記念行事が行われていた。今回見るのはクロアチアでの行事を伝える現地英語メディアの記事である。

クロアチア第二次世界大戦時は、当初はユーゴスラヴィア王国内のクロアチア自治州であったが、1941年に民族主義者(反セルビア勢力)が蜂起し、「クロアチア独立国(NDH)」となった。NDHはナチス・ドイツとイタリアの傀儡国家で、領域内のセルビア人やユダヤ人、定住生活を送らないロマの人々を厳しく迫害した。特に内陸部に設けられたヤセノヴァッツ強制収容所では、これら迫害対象となった民族の人々や、クロアチアの政権批判者など合わせて約10万人が殺害されている。詳細は下記英語版ウィキペディアを参照(記事を読み進めていくとかなりショッキングな写真が表示されるのでご注意を)。

en.wikipedia.org

 

という基礎知識を踏まえたところで、記事はこちら: 

 

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