Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

neither A nor B, neither of ~, the former ~とthe latter ...の対比(ドナルド・トランプの「グリーンランドを購入したい」発言)【再掲】

昨日(8月20日)はお休みしちゃってすみません。今日もまた準備ができていないので、明日(22日)に予定していた再掲分を今日(21日)掲載し、今日(というか昨日)の分は明日、土曜日ですが、新規で掲載することにします。

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このエントリは、2019年8月にアップしたものの再掲である。重要構文目白押しの実例を扱っている。

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今回の実例は、8月第4週の全世界の国際ニュース面に「?」を漂わせた件の関連記事から。

8月第4週全体で見ると、後半に各メディアでトップニュースになっていたアマゾンの熱帯雨林の火災が国際的にも最も注目されていたかもしれないが: 

その前に最も大きく取り上げられていたのは、ドナルド・トランプの奇矯な発言だった。週末に始まったこの発言に関する騒動は、週半ばまでおおいに盛り上がっていた(たとえ否定的に取り上げるにせよ、メディアがその発言にいちいち注目してヘッドラインを仕立て上げ、「報道」やら「賛否両論」やらが盛り上がれば盛り上がるほど、トランプ側は喜ぶのだが、メディアもページビューが欲しいから、そういうのでいちいち騒ぐ)。

Donald Trump has confirmed he is considering an attempt to buy Greenland for strategic reasons, though he said the idea is “not No1 on the burner”.

The US president’s interest, reported earlier this week, was greeted internationally with widespread hilarity but with indignation in Greenland and Denmark.

The government of the semi-autonomous Danish territory insisted it was not for sale. The Danish prime minister called any discussion of a sale “absurd”.

 

https://www.theguardian.com/world/2019/aug/18/trump-considering-buying-greenland

この発言には、当然、現地グリーンランドから「NO」の大合唱が起きた。今回実例として見るのはそういった記事のひとつ: 

www.theguardian.com

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本日、記事の更新時刻が遅くなります。→すみません、休載します。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

本日、相変わらずの35度超えの暑さのなか、買ったばかりの本を読みながら凍りプリンを食べるなどしていたら、アップ予定の記事が全然書けていないのに3時を過ぎていました。面目ない。17:30くらいにはアップしたいです。→リアルタイムでいろいろ起きているので、19:30になります。→申し訳ありません。休載します。暑さに負けました。「リアルタイムでいろいろ起きている」というのはこちら: Alexei Navalny: Russian opposition leader 'poisoned'

 

読んでる本はこちら。さすが川端先生です。 

 

オーウェルでは、例の「紅茶の淹れ方論争本」も再版されることになってます。 故小野寺先生の翻訳です。これは私はハードカバーで持ってる。

 

nofrills拝

black cat appreciation dayは「黒猫の良さを認識する日(黒猫鑑賞デー)」。このappreciationは「感謝」ではありません。

今回は、いつもとは少々違った感じで。

手元にある英和辞典で、appreciationという単語を引いてみてほしい。《意味》がたくさんあって、どれが《正しい意味》(つまり、自分が今見ている文に適した語義)なのかが判断できなくなりそうなほどだと感じられるだろう。

例えば、私の手元にある『ジーニアス英和辞典 第5版』ではこのようになっている。

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ジーニアス英和辞典 第5版』(大修館書店、2014年)、104ページ

第一の語義として「鑑賞(力)、〔良質の物を〕味わう力」で、art appreciationという用例が出ている。続いて2番目の語義として「十分な理解[認識]; 思いやり」で、3番目に「感謝」が挙げられている。4番目は特定の文脈があっての語義で、5番目はあまり日常的に見るものではない。

もう1冊、本棚で一番大きな場所を占めている研究社の『大辞典』ではこうだ。

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『新英和大辞典 第6版』(研究社、2002年)、119ページ

私はこの単語は研究社が書いているこの語義*1で最初に覚えたのだが(問題集の解説に書いてあったので)、最初の語義が「(人・物の)真価を認める[理解する]こと、(物事を)心から楽しむ[味わう]こと」*2。2番目が「(好意などへの)感謝、謝意」で、3番目が「(的確な)判断、理解、認識」などとなっている。

 

ではここで問題。

"Black cat appreciation day" はどういう意味になるだろうか。

*1:研究社の『中辞典』でもとてもよく似た記述になっていることが、 https://ejje.weblio.jp/content/appreciation で確認できる。

*2:これが実にわかりやすくてよいので、ぜひ覚えてもらいたい。

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報道記事の見出し, 過去進行形の受動態, 等位接続詞andの構造, sipという動詞, 省略(デス・ヴァレー54.4度)

今回の実例は報道記事から。

米国西海岸の時間で16日(大まかに、日本では17日)、カリフォルニア州で気温が54.4度を観測したというニュースは、日本語のメディアでも報じられている。ただしそれが「世界最高」なのかどうかは、言ってることがバラバラな状態だ。

例えば朝日新聞は(「専門家の検証を経て、公式記録として認証されれば」というif節つきで、)この気温が世界最高気温となるということを見出しでも記事でも伝えている: 

www.asahi.com

NHKは見出しで「世界3番目か」と言っているが、記事の中身を読めば「信頼できない記録2件に次いで3番目」、つまり「世界一」と言っている(公共放送のニュースの見出しがミスリーディングなのは困ったものだ)。内容的には朝日新聞の報道と同じだ: 

アメリカの)国立気象局は正式な審査をしたうえで記録を認定することにしていて、認定されれば、1913年に同じデスバレーで観測された56.7度、1931年に北アフリカチュニジアで観測された55度に次いで、観測史上、世界で3番目に高い気温となります。

ただ、アメリカの複数のメディアは、これまでの記録はともに正確性が疑問視されているとして今回、観測された気温が「信頼できる記録としては世界で最も高い」などとしています。

www3.nhk.or.jp

共同通信記事(下記は産経新聞系ニュースサイト掲載)は漠然と「暑さ」と見出しを打っている: 

www.sankeibiz.jp

英語圏では、私が見ていた範囲では、「検証待ちではあるが世界最高気温」ということを、見出しで "record", "world's highest" といった語句を使い、また慎重な場合は引用符を使って(報道記事見出しの引用符は「誰かの主張」であることを示す記号である)報じていた。

というわけで今回の記事(ロイター)はこちら: 

uk.reuters.com

わかりやすい内容が読みやすく書かれている、さほど長くない記事なので、大学受験生なら(わからない単語を辞書で調べさえすれば)読めるだろう。

なお、今さっき確認したところ、私が見たとき(日本時間で昨日)とはけっこう記述が変わってしまっているが、今回実例として見る部分は書き換えられていないところから。

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result in ~, 動名詞の意味上の主語(新型コロナウイルスと国際郵便)

今回の実例は報道記事から。

新型コロナウイルスの影響が郵便物に出ていて、一時は国際郵便の引き受けが停止されていたほどだが、現在では再開されている。ただし、世界的に飛行機が減便されている影響がある、という記事が、アイルランドアイリッシュ・タイムズに出ていた。いわく、便数が減っているので運べる郵便物の量が減り、その結果、宛先によっては、封筒は送れるが箱(小包)は送れないとか、送ることはできるがサイズに制限があるということになっているそうだ。また、対面での配達を行わないことにしている国では、郵便受けに入らないようなサイズの郵便物は、必ず配達されるとは約束できない状況になっているとか。

アイルランドは国外に移住する人が多いので(過去の話ではなく現在進行形で)、日本で「実家のおかんが米と野菜を送ってきてくれた」みたいな感じで、あるいは在外日本人に、日本にいる家族がふりかけ海苔などを送るみたいな感じで、ちょっとしたものを詰めた小包を送ることがよくある。そのような小包を "care parcel" と言うが、国によってはその引き受けができなくなったりしていて、けっこう影響がありそうだ。

日本の郵便局(日本郵便)のサイトで「各国・地域における郵便物の取扱状況等について」という告知を確認してみたが、現時点で最新の告知文書は8月6日付で、まだそのような告知は出されていない。今後、日本でも状況が変わってくるかもしれないので、国際郵便物を送る予定がある人は、送り先の国の郵便局の告知などもチェックしておいたほうがよいかもしれない。ついでに言うと、現在進行形で米国の郵便がめちゃくちゃなことになっていると伝えられているので、米国宛ての郵便物は(はがき・封書でも小包でも)状況をチェックしてから発送したほうがよい。

https://www.post.japanpost.jp/int/information/2020/overview.html

 

というわけで、今回の記事はこちら: 

www.irishtimes.com

見出しは「オーストラリアとニュージーランドへの郵便引き受け停止」だが、記事の中ではフランスをはじめとする欧州各国や米国などの話もある。

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形式主語itの構文, howの節(間接疑問文), 成句 'easier said than done' (1957年の同性結婚式)【再掲】

このエントリは、2019年8月にアップしたものの再掲である。疑問詞節(間接疑問文)の中に形式主語itの構文が入っているパターンで、こういうのの構造が取れるかどうかが「英語力」と呼ばれるものを大きく左右する。

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今回の実例は、60年ほど前と現在との米国の社会・制度の違いについて、改めて考えさせられるような記事から。

米国で同性間の結婚が法的に認められるようになったのは21世紀に入ってからである。最初はいくつかの州が州法を制定し、やがて同性結婚を認める州が増加していった。そして「2015年6月26日、合衆国最高裁判所は『法の下の平等』を定めた『アメリカ合衆国憲法修正第14条』を根拠にアメリカ合衆国のすべての州での同性結婚を認める判決をだした(9人の裁判官のうち5人が同性婚を支持、4人が反対……)。これによりアメリカ合衆国において同性婚のカップルは異性婚のカップルと平等の権利を享受することになった」

このように、同性のカップルが男女のカップルと同じ権利を手にするまでの道のりは決して平坦なものではなかったし(50年前、1969年の「ストーンウォール暴動」については、当ブログでも6月に記事を取り上げた)、同性結婚ができるようになったからといって偏見や差別が消えたわけではなく、現在もなお「闘い」は続いているのだが、それでもなお、60年ほど前に米国の同性カップルが置かれていた状況と今日のそれとは、まるで別物である。

今日の記事は、1957年、ペンシルヴァニア州フィラデルフィアで現像に出された一本のフィルム*1をめぐる記事である。そのフィルムに撮影されていた人たちがどこの誰なのかはわかっていない。ただ、その「不適切」とか「不道徳」とかいったふうに判断されたために、現像ショップから顧客の手に返されることのなかった写真は、男性同士のカップルが堂々と結婚できるようになった米国で、南カリフォルニア大学の「ナショナル・ゲイ&レズビアン・アーカイヴ」におさめられ、1950年代にも彼らのような人が存在していたという事実を伝え続けるのだ。

記事はこちら: 

www.bbc.com

*1:「写真の現像」が何のことかわからない世代の人に向けてちょっと説明しておくと、デジタルカメラが使われるようになる前は、写真はカメラ本体にセットしたフィルムに記録されており、そのフィルムを最初から最後まで使い終わったら、お店に「現像 development」と「焼き付け print」を頼まなければならなかった。現像の設備のある写真店に頼むこともできたが、多くの場合、その作業は大手フィルムメーカーの大規模な専門のラボで行われていて、アメリカなどではファーマシー(薬局)などが受付窓口となって、顧客の撮影済みフィルムを預かっていた。日本ではお米屋さんや本屋さんが窓口になっていたが、後にコンビニが普及するとコンビニに持ち込むことも多くなった。こういった店では写真の「拡大 enlargement」も依頼することができ、日本語圏でも英語圏でも同じように、「現像・焼き付け・拡大」をまとめて「DPE」と呼んでいた。

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not so much A as B, 等位接続詞and (「ピータールーの虐殺」の今日性)【再掲】

このエントリは、2019年8月にアップしたものの再掲である。今回もまた「受験英語でおなじみの構文」を取り上げている。

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今回も、前回の記事と関連して、「ピータールーの虐殺」に関する記事から。

前回書いた通り、1819年8月16日に起きたこの事件は、2018年にマイク・リー監督によって映画化され、2019年の現在、日本でもロードショー公開中である。

そして、2019年8月16日に、事件現場となったマンチェスター市のセント・ピーターズ・フィールドでは、本降りの雨の中、200周年を記念する集会 "From the Crowd" が行われた。軍隊に出動命令がくだされた1時30分には黙祷がおこなわれ、200年前に選挙法改正要求の集会に来ていた人の子孫がスピーチをし、また、現在のマンチェスターで暮らす人々が、それぞれの問題意識に応じて変革の必要を訴えた。その中に、映画『ピータールー』を作ったマイク・リーの姿もあった。リーは、香港のデモや英国での政治不信を参照しつつ「ピータールーの虐殺」事件は現代にも通じるものだとし、「200年前に選挙法改正を求めた人々がタイムマシンに乗って2019年に来たら、投票に行かない人々の多さに立腹し、戦慄し、うんざりし、なんとまあひどいことだと言うだろう」と述べた。

今回の実例は、そのマイク・リーがこの集会のあとで書いた文章から。記事はこちら: 

www.theguardian.com

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見かけ上、if節が仮定法過去で主節が仮定法過去完了というパターンの仮定法の文(レバノン、ベイルート大爆発と俳優ラッセル・クロウの支援)

今回の実例はTwitterから。

今月初めに起きたレバノンベイルートでの大爆発では、現時点で少なくとも220人が亡くなり、生命にかかわらない程度の怪我を負った人は6000人以上にのぼる。爆発によって建物に被害が生じた範囲はとても広く、爆発地点から10キロも離れたところでも被害が報告されている。人口密集地での爆発だったので、30万人以上が住む場所を失ったという。

https://en.wikipedia.org/wiki/2020_Beirut_explosions#Damage

爆発地点のすぐそばで、地域的には東ベイルートにあるGemmayze地区も大きな被害を受けた。ここは下記記事などを見るに、人々の活気があふれる庶民的な街であり、同時にアート系の尖った感じもする地域のようだ。東京でいえば下北沢や谷根千、ロンドンでいえばショーディッチやカムデンのような感じだろう。

https://www.independent.co.uk/news/world/middle-east/beirut-explosions-lebanon-gemmayze-a9658681.html

この地域に、「安くて美味い」と評判のレストランがある。フランス語で(オスマン帝国崩壊後、レバノンはフランスの支配下におかれた)シンプルにLe Chefという名称のこの店は、日本語にすると「レストラン」というより「食堂」「定食屋」としたほうがしっくり来そうな感じだが、地元の多くの人たちが頼りにしてきた店で、アメリカの旅するシェフ、故アンソニー・ボーディンのTV番組でも知られていたという。

爆発でひどいダメージを受けたこの店を再建しようというクラウドファンディングが、英語圏ジャーナリストたちによって開始されたのは、爆発から1週間がたったころだった。(英語圏の報道機関に属するジャーナリストたちもレバノン出身の人もいるし、英米などの出身でもベイルート駐在になれば、旅行者向けの気取ったレストランではなく庶民の食堂を使うから、この店をよく利用していたのかもしれない。)

https://www.gofundme.com/f/rebuild-le-chef

そのクラウドファンディングに、いきなりばーんと大金を出した人がいるという。それに驚いた主宰者は次のような投稿をした。

 「ラッセル・クロウさんという方から大きな金額のご支援をいただいたのですが、これはあのラッセル・クロウさんなのでしょうか」というリチャード・ホールさん(英ジャーナリスト)の問いかけに、ラッセル・クロウ本人が答えた。

今回、実例として見るのはそのツイート。こちら: 

 

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本日、記事のアップロードが少し遅れます。(PC不調のため)

いつもご覧いただきありがとうございます。

 

本日、PCが不調のため(とにかく重い)、記事のアップロード時刻が少し遅れます、1時間後の16:30に再度チェックしてみてください。宜しくお願いします。

 

nofrills拝

 

時差の計算は具体的にどうすればよいのか、 help + 動詞の原形(ダジャレがライオンを救う #savelions )

今回の実例は、Twitterでのハッシュタグ募金の呼びかけの文面から。あるいは「言語の壁を越えたダジャレを言うのはだれじゃ、と思ったら、オックスフォード大学だった件」。

日本に住んでる人ならだれでも知ってると思うが、日本のプロ野球球団に「西武(せいぶ)ライオンズ」という球団がある。45年くらい前 (!) に志村けんが全国のお茶の間に届けた『東村山音頭』で、「庭先にある」と歌われている、あの多摩湖の湖畔にあるスタジアムが本拠地だ。つまり、東京都と埼玉県の県境のすぐ埼玉県側に本拠のある球団である。

この球団のルーツは九州の福岡県にあり*1、もしそのまま「西鉄ライオンズ」として今も存続していたら、今回のオックスフォード大学もノリノリでツイートしているダジャレは存在していない。実に数奇なめぐりあわせではないか。

などというどうでもいい話はさておき、今回の実例はこちら: 

このツイート(とそれに付属している画像のテクスト)を一読して、何が行なわれるか、それに参加するにはどうしたらいいか、といったことが把握できただろうか。

*1:1978年に西武鉄道グループに買収されて、埼玉県に引っ越してきた。詳細は https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9F%BC%E7%8E%89%E8%A5%BF%E6%AD%A6%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%82%AA%E3%83%B3%E3%82%BA を参照。

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such ~ that ..., 「どうしても~しようとしない」のwouldn't(レバノン、大爆発の経緯と政府への抗議)

今回の実例は解説記事から。

レバノンの首都ベイルートの大爆発から1週間となる11日、爆発の起きた午後6時過ぎにキリスト教の教会の鐘の音とイスラム教のモスクの祈りの声が同時に響いた。

 レバノンは1975年から90年に内戦を経験している。同時期に紛争が起きていた北アイルランドベルファストで、とりわけ爆弾攻撃が盛んな警察署周りの区域が「ベイルート」と呼ばれていたということを、私は北アイルランド紛争のドキュメンタリーか当事者の回想で知ったのだが、レバノン内戦はボムが日常茶飯事の紛争地から見ても激しいものだったということだ。この内戦は、非常に大雑把に単純化してしまえば、東西冷戦という国際情勢を背景とし、第二次世界大戦後の中東という場所で、右翼のキリスト教徒と左翼のイスラム教徒の間で起きたものだ(実際にはこんなに単純なものではないので、各自、いろいろなソースでご確認されたい)。

この状況を背景とし、キリスト教徒(ファランヘ党員)の男とイスラム教徒(パレスチナ難民)の男の些細な言い争いが国じゅうを巻き込んだ大掛かりな裁判に発展していくさまを描いた『判決、ふたつの希望』という映画が非常によかったので、ぜひ見ていただきたいと思う。レバノン内戦は、「善と悪」、つまり「一方的被害者と一方的加害者」という構造ではない。

判決、ふたつの希望(字幕版)

判決、ふたつの希望(字幕版)

  • 発売日: 2019/02/27
  • メディア: Prime Video
 

そういった文脈においてみれば、冒頭で紹介した「キリスト教の教会の鐘の音と、イスラム教のモスクの祈りの声が、人々の上に同時に響いている」ということの意味がより深く具体的なものとして感じられると思う。

さて、そのベイルート大爆発。経緯としては、港湾地区で倉庫が火災になり(出火原因はほぼ確実にこれだろうと言われているものがあるがまだ確定はしていない)、消防隊が消火活動に当たっているときに何かに引火して爆発が起き、多くのレバノン市民が高層住宅のベランダなどからその火災と爆発を見ているときに、2番目の大爆発が起きた(このため、爆発の瞬間がスマホなどでとても多くの角度から動画撮影されていた)。この2番目の大爆発は、6年も前から港湾の倉庫に無造作に置きっぱなしにされていた大量の硝酸アンモニウム(鉱山などの発破作業で使われるほか、テロリストがカーボムなど爆発物を作るときによく使われる化学物質)だったと考えられている、ということは既に書いているのだが、その大量の硝酸アンモニウムがなぜ放置されていたのか、いったい誰のものなのか(所有権はどこにあったのか)といったことは、爆発から1週間が経過し、内閣が総辞職した今もまだ完全には明らかになっていない。大手報道機関が調査報道を行なっていて、少しずつ明らかになってきてはいるが。例えば下記のロイター報道を参照。

このように、国際報道がかなりのリソースを割いてベイルートでのとんでもない出来事について伝えているが、そのベイルート、国際報道機関にとっては中東における拠点の都市で、多くのジャーナリストがベイルートに住んで仕事をしている。今回、大勢のジャーナリストが負傷している。多くが(ジャーナリストでない市民たちと同様に)自宅で仕事中に爆発の影響を受けているが、もしも新型コロナウイルスによるリモート勤務が導入されていなくてオフィスに普通に出勤していたら、もっとひどいことになっていただろうと言われている。実際、報道機関のオフィスで窓ガラスが割れ、大きなガラス片が椅子に突き刺さっているような写真もTwitterで見た。

その爆発時の生々しい状況から、少ししてわかったことなどを含めて、爆発から4日後の8月8日付で出されたBBCの長文記事 (Long Read) を、今回は見てみよう。インタラクティヴの形式のページで、爆発前後の変化がいかに大きいかを示す写真なども効果的に盛り込まれており、とても具体的で迫力のあるページ構成になっている。

記事はこちら: 

www.bbc.co.uk

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本日、記事のアップロードが少し遅れます(雷のため)。

いつもご覧いただきありがとうございます。

本日(8月12日)、東京がひどい雷に見舞われている間、PCの電源を落としているので、記事のアップロード時刻が少し遅れます。2時間後の17:30にチェックし直してみてください。

nofrills拝

関係形容詞, 前置詞+関係詞(長崎への原爆投下から75年)

今回の実例は、75周年という節目の年に長崎の平和祈念式典に「海外」から寄せられたメッセージから。

「75周年」がなぜ節目になるのかは、(週末・休日の再掲分を除いた)前回記事(先週金曜日掲載)に書いた。もしも新型コロナウイルスの脅威がなかったら、今年の広島と長崎の式典には、世界各国から国を代表する立場の人たちが大勢いらしていたことだろう。

一方、当の「唯一の被爆国」では、議会制民主主義のもと国のトップに立っている(にもかかわらず、絶賛憲法違反中の)人物、つまり総理大臣は、「核兵器禁止条約」をシカトするということをやってのけ、「核兵器廃絶」というスローガンを現実に応じた形で唱えることすらやめてしまっている(なぜかブルームバーグのフィードでは話が逆になっているのだが)。自分が「廃絶しないほうがいい」という立場に立っていて、何が「立場の異なる国々の橋渡し」か。

長崎の被爆者団体は、日本政府が核兵器禁止条約に署名・批准するよう繰り返し求めているが、政府は米国の核の傘に依存していることを理由に賛同していない。安倍首相はこの日の平和祈念式典でのあいさつでも核兵器禁止条約については触れず、「(核兵器保有の有無などで)立場の異なる国々の橋渡しに努める」との従来の考えを述べただけだった。

 

mainichi.jp

 

そればかりではない。例によって安倍晋三氏の式典でのスピーチ(あいさつ)は使い回しだ。それを指摘する新聞報道も「長崎市で9日に開かれた長崎原爆犠牲者慰霊平和祈念式典に出席した安倍晋三首相のあいさつが、6日の広島市の平和記念式典でのあいさつとほぼ同じだという指摘がソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)上で相次いでいる。実際に首相官邸のホームページで見比べてみると、確かに酷似している」(毎日新聞)という調子で、新聞記者まで、スピーチを聞いてればわかるようなこと、あるいは仮に式典の中継を見ていなくても発言内容を記したものを見比べれば瞬時にわかることを「SNSでみんなが言ってるので初めて気づきました~!」みたいな調子で書いてるのってあまりに異常なことで、そりゃ「編集権の独立」という概念が日本で通じるはずがないよね、と思っている。

 

 

そんな中でも、9日の長崎の式典には、国際機関や姉妹都市などから多くのメッセージが寄せられ、それを市のサイトがまとめて掲示している。

www.city.nagasaki.lg.jp

そのひとつに、英国の作家で2017年にノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロ氏のメッセージがある。イシグロ氏は長崎市生まれで、幼少時にお父さんの仕事の都合で英国(イングランド)に引っ越し、以降ずっと英国に暮らしてきた。日本は二重国籍を認めておらず、氏は英国籍を取得しているので、「イギリス人の作家」である。

イシグロ氏のメッセージは下記で読める(PDF): 

"Message for the 75th Nagasaki Peace Ceremony"

https://www.city.nagasaki.lg.jp/heiwa/3020000/3020300/p035001_d/fil/1.pdf

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becomeの使い方, it was ~ that ... の強調構文(「ピータールーの虐殺」とガーディアン紙)【再掲】

このエントリは、2019年8月にアップしたものの再掲である。ここで取り上げているような《状態》と《動作》の区別を意識的にするようになると、英語の理解度・使える度がぐんとアップする。

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今回の実例は、ある女性が先祖の偉業について調べて知った事実を説明しているインタビュー記事より。

 

今から200年前、1819年8月16日。英国(イングランド)の都市マンチェスターの中心部にあるセント・ピーターズ・フィールドで、選挙権の拡大を求める選挙法改正要求の大規模な政治集会が開かれているところに軍が突入した。非武装の民間人の間に死者18人、負傷者数百人を出したこの事件は「ピータールーの虐殺」と呼ばれ、元々ラディカリズム(急進主義)の流れがあったマンチェスターに、『マンチェスター・ガーディアン』というラディカルな新聞を誕生させた。

とはいえこの事件、ほんの十数年前までは「知る人ぞ知る」という存在で、ほぼ忘れ去られていた。現場にはイングランドで歴史的な場所に掲げられることになっている青い銘板(ブルー・プラーク)があったものの、そこに書かれていたのは「6万人規模の政治集会でハントという人が演説し、軍隊が強制排除した」ということだけで、死傷者が出たことはこれだけではわからなかった。それを変えさせたのが事件について知っている人たちの市に対する働きかけで、2007年に新たに死傷者数を明示し、広場にいたのが女性や子供を含む平和的な(非武装の)人々であったこと、軍隊はその人々を攻撃したということをはっきり記した赤い銘板が新たに掲げられることとなった。

マンチェスターのエリア*1出身の映画監督、マイク・リーが、自分の地元で200年前に起きたこの民衆に対する武力弾圧事件を映画化しており、それが現在日本でも『ピータールー マンチェスターの悲劇』としてロードショー公開中だが*2、リーはこの映画公開時のインタビューで「地元の人間だが私はこの事件について知らなかったし、うちの父は社会主義者だったがこの事件については何も言っていなかった」と語っていた(この記事ジャーヴィス・コッカーの質問に対するリーの答えを参照)。そのくらい、知られていない事件だったわけだ。

見る人が無意識のうちにでも現代のいろいろなものを重ね合わせずにはいられない映画予告編*3

www.youtube.com

 

今年、2019年の8月は事件から200年ということで、ガーディアン紙(マンチェスター・ガーディアン紙が1959年に改名)がたくさんの記事を出していた。下記のカテゴリーで読める。

https://www.theguardian.com/uk-news/peterloo-massacre

 

今回の実例はそれらの記事のひとつから。記事はこちら: 

www.theguardian.com

スー・ステネットさんの5代前(っていうことだよね)のご先祖はジョン・エドワード・テイラーマンチェスターのビジネスマンで、「ピータールーの虐殺」事件で弾圧された選挙法改正運動の声をまとめて発信していた「マンチェスター・オブザーヴァー」紙*4が警察によって閉鎖されたあと、「マンチェスター・ガーディアン」を創刊し、初代編集長となった。ウィキペディアによると、テイラーは選挙法改正運動の活動家のやっていることには批判的だったが、「マンチェスター・オブザーヴァー」の閉鎖という事態に直面し、テイラーらの実業家団体は危機感を覚え、事件から約2年後の1821年5月、「マンチェスター・ガーディアン」を創刊したという。

記事はそのステネットさんとの質疑応答の形式でまとめられている。個人が自分が調べた過去の事実についてまとめて述べ、自分の見解・意見を語る、という形の文章として、よい見本となっていると思う。英語の表現・文法だけでなく論理展開や話の流れの作り方など、英語を使う人にとって参考になる部分がてんこ盛りだ。ぜひご一読いただきたい。

*1:正確にはソルフォード (Salford)。ここはかつてはマンチェスターとは別の独立した町だったが、70年代の市町村合併的なことを経て、グレーター・マンチェスターという都市の一部となった。 https://en.wikipedia.org/wiki/City_of_Salford を参照

*2:劇場一覧は: https://gaga.ne.jp/peterloo/theater/ 8月9日から公開が始まっているのは東京・横浜・名古屋・大阪・京都・神戸・福岡でそれぞれ映画館は1館だけ。全国の他の都市では9月以降の公開が予定されている。

*3:ただしナレーションの「英国史上最も残忍な事件」っていうのは、「え?」って感じだけど……アイルランドとかインドとかケニアとかマレー半島とかカリブ海とかでどんだけの残忍な流血事件が英国・イングランドによって起こされたことか。

*4:現代の「ガーディアン」紙の日曜版が「オブザーヴァー」紙である。

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長い文、頭のなかでの「英文和訳」のすすめ(ロンドン、超富裕層の警備事情)【再掲】

このエントリは、2019年8月にアップしたものの再掲である。こういう長い文を、迷わずに読めるようになると、英語を読むのが楽しくなってくる。簡単ではないかもしれないが、スポーツや楽器と同じで、練習あるのみである。

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今回も前回と同じ記事から、だらだらとしてやたらと長い文を読んでみよう。

記事はこちら: 

www.theguardian.com

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