Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

be about to do ~, some + 単数形, 《結果》を表すto不定詞, 直説法か仮定法かを根拠をもって判定する, など(連載:「フォー・シーズンズ」事件、その4)

今回は前回の続き。

ところでこのfiasco(ぐだぐだ)の件、発生したのは日本時間で8日未明で、2日以上たってようやく日本の大手報道が見出しにするレベルで取り上げたという(朝日新聞、2020年11月10日 13時8分。h/t watto)。現地の記者さんからはとっくに上がっていたはずで、となると紙面掲載の判断に異様に時間がかかっていたということになるけど、ネタが古くなってから取り上げたのは「ネットで話題」だからでしょうかね。

 

というわけで、フィラデルフィア郊外の高速道路と線路に挟まれた工業地帯のど真ん中の造園業者に呼びつけられた報道陣の一部が、「バイデンがペンシルヴァニア州を制し、選挙人270人を獲得」という速報を受けて撤収していたころ、私の見る画面は文字通り歓声に包まれていた。

アメリカの右翼が雑に「リベラル liberal」と呼んでいる人々は決して一枚岩ではなく、この大統領選の投票日になっても大きく割れていて、民主党側の全員が歓声を上げていたわけではないのだが(「プログレッシヴズ progressives」と呼ばれる人々はおおむね静かだったようだ)、それでもニューヨークやシカゴなどから、街の人々が歓声を上げているビデオが次々とツイートされてきて、私の見る画面を覆いつくしていた。

このツイートはいわば「体言止め」の形で、S+Vの構造を持つ文ではない。2つあるing形の1つ目の "reacting" は《現在分詞》で《後置修飾》。2つ目の "calling" は《動名詞》で、"the AP" がその《意味上の主語》だ。

こういう文法的な根拠を意識して意味をとるのと、単語の並びを見て何となく勘で意味をつなぎ合わせるのとは、仮に結果(日本語訳した文)が同じでも中身が全然違うし、言語運用力としては別物。当然、根拠のあるものでないと使い物にならない。

それはそれとして、この「APがジョー・バイデン勝利を報じたことに反応するマンハッタン」というフレーズは、自分で使いたいときに引き出しから取り出せるようにひな形として頭の中に置いておくと便利だろう。「和文英訳」しようとすると、こういう端的な表現で済むところを無駄にだらだらと長くしてしまいがちだが、こういうシンプルな表現でよいのである。というかこう書かないと伝わらないことがある。

こちらは非常にシンプルな《命令文》。「シカゴの音声を聞いてください」。

これらのほかの音声ツイートは、私の当日のログにあるので、関心がある方はそちらを見ていただきたい。

さて、APが速報を出してから8分後、この日の状況をずっと実況ツイートしてきた英インディペンデントのリチャード・ホール記者は、フィラデルフィア郊外の造園業者「フォー・シーズンズ・トータル・ランドスケーピング」の敷地内から、次のように報告している。

文はドナルド・トランプの弁護士チームのひとりであるコーリー・ルワンダウスキ氏が話を始めようとしているところだ、という内容だが、このツイートのメインは写真だろう。今ではすっかり有名になった、高校の文化祭か何かのような、本当にとってつけたような会見場の光景。ホースとなどのディテールが味わい深い。ホースの上の方にある四角いものは、危険物取扱に関する表示だそうだ(造園業者だから肥料などの化学物質を保有している)。

英文としては、"be about to do ~" は「今にも~しそうである」の意味の頻出表現。"moments after ~" のmomentsは「~の少し後」と訳せるが、moment(「瞬間」「ごく短い時間」)が可算名詞なのはおもしろいなあとよく思う。また、この文では接続詞afterの後ろに現在完了が来ているのも見どころだが、大学受験生ならそこまで考えなくてもよいだろう。"be projected to do ~" は「~すると予測されている」「~する見込みである」の意味で、より頻繁に見聞きする "be expected to do ~" の類義表現である。

しかし、「今にも始まりそうだ」というツイートから10分後、ホール記者は: 

"some" は可算名詞の複数形と一緒に使えば「いくつかの~」の意味になるが、単数形と一緒だと「何らかの~」と解釈することになる。reasonは前置詞はforを伴うということもチェックしておこう。「何らかの理由で、記者会見は遅らされている」。

ちなみにこのsomeの用法は、someone(「誰か」)にも見られるもので、英英辞典の定義を見ると意味がはっきりわかるかもしれない。例えばMerriam-Websterは次のように定義している。日本語にすれば「特定のものではない」とか「まだ決まっていない」といった意味合いだ。

being an unknown, undetermined, or unspecified unit or thing

www.merriam-webster.com

この定義文で "an unknown... unit or thing" と単数であることに注目しよう。

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現在完了, 省略, メディアが「次期大統領」と書き始めるときの手続き, など(連載:「フォー・シーズンズ」事件、その3)

今回もまた、前々回前回の続き。もう前置きは書かずにいきなり話を始める。

というわけで、あまりに考えられないようなことが目の前で、なおかつ地球の反対側で起きているので、私は目をぐるぐるさせながら画面を凝視していた。流れてくる珍妙な話――いくつもいくつも流れてくるのだが、そのどれもが同じことを言っていて、そして私はそれがあまりに珍妙なので、自分が英語を正確に読めている気がしなくなってきて、頭がやばいことになっていた(あまりに変な話にパニックになり、言語中枢がぁぁぁとなっていた)――を飲み込むことができそうでできずにいたときに見たのが下記だ。

 "instead of ~" や "end up" といった受験でもよく出る表現が入っているが、文意は「名門ホテルのフォー・シーズンズを押さえるはずが、町場の造園業者を押さえてしまったのか。タージ・マハルを予約したと言って、実はカレー屋でしたっていうような話か」(直訳ではない)。"The equivalent of ~" も頻出表現で「~と等しいもの」。

そしてジェイムズ・ベジックさんのこの投稿に対する英デイリー・ミラーのマイキー・スミス記者のリプライに、「誰がうまいこと言えと」とつぶやいてしまった。

「タージ・マハルを予約したはずが、アトランティック・シティのトランプ・タージマハルだった、というような事案かも」。

 アトランティック・シティのトランプ・タージマハルは、トランプが経営していたカジノで、1990年の開業の1年後には破産し、その後経営がトランプの手を離れていたが、最終的に2016年の大統領選挙の前に閉鎖された。

www.afpbb.com

これを見てようやく、完全に話が飲み込めて、安心することができた。東京でいえば、「おおくら」と言うから「ホテルオークラ」かと思ったら、近所の居酒屋の「大蔵」だった、みたいなことだろう。なぜそんなことが起きるのかは想像がつかないが(だから脳がバグる)、担当スタッフが電話番号を探したときに間違えたとかだろう。それにしたって、そもそも、造園業者 (landscaping company) が記者会見場の提供なんてするんだろうか。いや、食堂とか書店ならまだわかりますよ。でも造園業者? ……というわけで、たぶん単なる間違いなんだろうけれど(この「間違い」を描写するときには、mishapblunderfiascoという単語が使われている)この会社に何かがあるのかもしれないと、呼びつけられた記者たちが考えたのも当然である。

そしてGoogleマップを頼りに現場に急行した記者たちが見たものは……

前々回前回も見た英インディペンデントのリチャード・ホール記者の実況ツイート。《現在完了》のお手本のような文だ(《完了》の用法)。「フォー・シーズンズ・ランドスケーピングに到着しました(したところです)」という言葉に、敷地の外に集まっている人々の写真。そして、《next to ~》を使って、「それ(造園業者)は『ファンタジー・アイランド』というアダルト本のショップの並びにあります」。

ここで、それまで「何これ、信じがたいことが起きてるんだけど」というムードだった英語圏Twitterが、一気に爆笑に包まれた感じがある。

ちなみに、スミス記者の早い段階でのツイートにも書いてあるし、Google Mapsでも確認できるが、造園業者の向かいは火葬場だ(火葬場といっても日本のそれのように立派な建物の立派な施設があるわけではない)。並びの店は、ホール記者は「アダルト本の店」と看板通りのことを書いているが、Twitterでは多くの人がもっと直接的な商品の名称で語っていて、さすがにそれは転記するのがはばかられるから書かないけれど、要するに、人が人として生まれることが決定づけられることと、骸となって火葬されることとがつながってる場所の中に、トランプ陣営が(間違って)手配した記者会見場の「四季造園」があるということで、そりゃ笑うよね。

トランプ支持者は「リベラルがトランプ陣営をバカにして嘲笑している」と憤慨したかもしれないが、事実は、「嘲笑」とかそういうレベルの話ではない。あまりにおもしろいめぐり合わせに噴き出しているだけだ。それ以前に、あまりに変なことが起きているので笑わずにはいられないのだが。

いや、Boratというよりこれか:  

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時制の一致, 近未来の予定を表す現在進行形, 前置詞+関係代名詞, 連鎖関係代名詞, など(連載:「フォー・シーズンズ」事件、その2)

今回は、前回の続き。前置きを書いているとまた終わらなくなるのでサクサク行こう。

前回は、現地時間で7日(土)の朝、現職の大統領が「弁護士による記者会見を行う。フィラデルフィアフォー・シーズンズで11時」とツイートしたのをすぐに消して、「でっかい記者会見をどーんとやる。フィラデルフィアフォー・シーズンズ・トータル・ランドスケーピングで11時半」と投稿し、現地にいる記者たちが「フォー・シーズンズ・トータル・ランドスケーピングって何よ?」と次々にGoogle Mapsで調べだし、それが普通に記者会見をやるような場所ではなく、市郊外の工業地帯にある小さな造園業者だということがわかったというところまで書いた。どう見ても「フォー・シーズンズ」違いであるが、今にいたるも、トランプ陣営はこれが「間違い」だったとは言っていない。傍観者的には、「記者会見場の手配もまともにできないのか」と思うし、「会見場の手配もまともにできないたちが不正投票について法廷で追及するって息巻いたところで、無理があるのでは」としかも思えないのだが。

ともあれ、リアルタイムでこれを見ていた私が、目をぐるぐる回しながらなんとか記録したものによると、早くもこのタイミングで英タブロイド、デイリー・ミラー(米国でいうとニューヨーク・デイリー・ニュースに相当)のミッキー・スミス記者が手早く記事をまとめていた。下記記事である。

www.mirror.co.uk

この見出しを見たとき、私はまだ、爆笑しながらも「わけがわからないよ、どうしよう、英語が読めなくなっちゃったのかも」というモードだったのだが、"Confusion" と言い切ってくれているので「わけがわからなくっていいんだ」と大いに安心することができた。ミラーは英国のメディアなのでイギリス英語で "gardening" としてくれているのも安心感があってよい(米国からのツイートでは "landscaping" という用語で入ってきていて、それも私の中では不安を引き起こした……あまりなじみがない用語だから)。

この記事は次のように書きだされている。茶化しているような部分(これがあると英語学習者には単に読みにくくなるという部分)*1をグレーで示して転記すると: 

Donald Trump sparked confusion today as he announced a press conference by his legal team would take place outside a landscape gardening firm.

In a series of tweets, the President announced his team of lawyers, led by Borat 2 star and former New York Mayor Rudy Giuliani, would speak to the press outside the Four Seasons in Philadelphia.

He wrote: "Lawyers press conference at Four Seasons, Philadelphia. 11.00 A.M."

But eight minutes later, the original tweet was deleted.

The President, who is expected to lose the election at some point today, said: "Four Season's (sic) Landscaping!" - quote tweeting his original tweet, which had already been deleted.

Finally there was clarity.

Trump tweeted to clarify that the Four Seasons he meant was not the hotel in Philadelphia, but a landscaping business around 11 miles away, called Four Seasons Total Landscaping.

2か所ある "would" は、どちらも《時制の一致》による過去形で、可能性を表すのにつかう仮定法のwouldではない。「~する予定であると述べた」「~することになっていると告げた」みたいに訳出すればよい。

ほかは特に文法解説ができるところはないのだが(強いて探せば関係代名詞があるが飛ばす)、内容としては、トランプは最初の「フォー・シーズンズで」というツイートを投稿して8分後にそれを消していて、それを消す前にそのツイートを引用する形で「フォー・シーズンズ・ランドスケーピングで」と修正したツイートを投稿していたが、そのどちらも最終的には削除されている。つまり、いったんアップした情報を修正したり削除したりと混乱しているわけだ。

そして「ようやくはっきりしたことがわかった (Finally there was clarity)」のだが、トランプの言っていたのはホテルのフォー・シーズンズではなく、「都心部から11マイル(約18キロ)離れたフォー・シーズンズ・トータル・ランドスケーピングという造園業者」のことだった、と。

*1:英語の報道文はこういうふうにして情報を入れ込んでくる。これに慣れないと報道記事は小説などよりも読みづらいと感じると思う。

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大っぴらに書くのがはばかられる語を含む文をどう表記するか, ボキャビル, など(連載:「フォー・シーズンズ」事件、その1)

今回は、この週末に英語圏で人々の目を点にさせ*1、続いて爆笑の渦に叩き込んだ「四季」にまつわるお話。

「日本には四季がある」のは事実だが、それをひっくり返して「日本以外には四季がない」とするのは論理的な誤りで、言うまでもなくもちろん日本以外の世界各地も四季はある(中には「常夏」の地域もあるが)

しかし現実には、「日本には四季がある」のが何か特別なものであるかのように語ること(そういうナラティヴ)がどうも目に付く。そのナラティヴは近年の日本の国粋主義プロパガンダの一環だろうと私は考えている*2。あるいは、当たり前のことを疑わせるというカルト的洗脳の手法*3

事実としては、「日本以外にも四季がある」。現につい先日、北米の秋の色を表現するための多彩な語彙を、辞書の名門Merrium-Websterのアカウントがフィードしていた: 

北米と言えば毎年春には「ワシントンの桜」のニュースがあるし、夏は今年は「デスヴァレーの気温」や「山林火災」がニュースになったし、冬は豪雪が報じられたりするわけで、普通にニュース見てれば「四季折々」なのはわかるだろうが、「日本だけに四季がある」と思っている人たちはそう思わないようだし、この語彙の量を見てもなんとも思わないかもしれない。でも、秋の木の葉の色についての表現は、少なくとも現在では「赤い(紅い)」か「黄色い」、「茶色い」くらいしか使われない日本とは段違いの豊かさである。実際こういう英語の語彙は、その中で生活していなければ、自分で使えるような形で身につけるのが難しい(私はredとscarletの違いがよくわかっていないし、それ以前に夕空の色はorangeなのかpinkなのかもわかっていると自信を持てるほどにはわかっていない)。そのくらい、すべてに密着している感覚的な語彙が、アメリカ英語ではこれだけ豊かなのだ(たぶんイギリス英語でもあまり違いはないが、木の数が北米に比べたら圧倒的に少ないことの影響はあるかもしれない)。

ともあれ、北米を含む「欧米」にもこういうふうに「四季」があるわけで、The Four Seasons*4という名称の企業や楽曲などの一覧がウィキペディアにもある: 

https://en.wikipedia.org/wiki/The_Four_Seasons

もちろん、ウィキペディアで項目化されないような小規模な企業などは、それこそ星の数ほどあるだろう。

というわけで、今回、この週末に起きたのは、いわば「そっちのFour Seasonsじゃねぇwwwww」という事案である。

Four Seasonsといえば、まず、世界的に展開している超有名な高級ホテルである。ウィキペディアによると、1960年にカナダで建築の心得のある創業者によって1軒のビジネスホテルとして始まり(つまり、カナダにも四季はあります)、現在ではビル・ゲイツサウジアラビアの王族のひとりが大株主になっているとか。全施設のリストは英語版ウィキペディアにはないけれど、日本語版が網羅的な一覧を載せている。すごいね、いっぱいある。

そして、米大統領選の開票がどんどん進められて、最後まで結果が出てなかったいくつかの州での開票作業も終盤というタイミングで、情勢不利の風向きに対して「選挙不正 voter fraud」だと根拠もなくわめきちらしていた現職ドナルド・トランプの陣営が、開票結果の公表が待たれているペンシルヴァニア州(略称PA)の最大都市フィラデルフィアでの会見を予告した。場所は「フォー・シーズンズ」、時刻は午前11時だ。

f:id:nofrills:20201109162003j:plain

https://twitter.com/atrupar/status/1325221361036521476

だが現職のこのツイートはすぐに消されて、次のツイートが投稿された。

f:id:nofrills:20201109162134j:plain

https://twitter.com/atrupar/status/1325221361036521476

「弁護士による記者会見を行う」が「でっかい記者会見をどーんとやる」になり、「フォー・シーズンズ」が「フォー・シーズンズ・トータル・ランドスケーピング」になり、「11時」が「11時半」になった。

この3つの修正のなかで普通にありえるのは最後の時刻の修正だけである。最初の修正はまともな大人の出す声明とはちょっと考えられないクオリティで、いわば「いつものトランプ節」なのだが、やっぱり普通じゃない。

というかそんなことより「フォー・シーズンズ・トータル・ランドスケーピング」って何。

*1:ちなみに日本語の「目を点にする」「目を皿にする」「目をハートにする」といった慣用表現は、英語母語話者の人にはとてもおもしろいものに聞こえると聞いたことがあります。言葉っておもしろいですね

*2:私が最初に気づいたのは石原都政下での教育現場(都立高校)からの報告。すごい報告でした。

*3:カルトはそういうことを実際にやります。箸の上げ下ろしみたいな日常的なことで、それまでその人が当たり前としてきたものをブチ壊し、その人が従順に言うことを聞いていれば洗脳できてるということで。

*4:「四季」の意味では定冠詞をつけるのをお忘れなく。

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等位接続詞but, 【ボキャビル】give ~ credit, think+O+C, manage to do ~, など(Brexit合意成立で真顔のジョーク)【再掲】

このエントリは、2019年10月にアップしたものの再掲である。短い文の中に文法・語法的見どころがぎゅっと詰まった上に、ブリティッシュ・ユーモアというてんこ盛り案件である。

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今回の実例はTwitterから。

日本時間で17日夜、「延々と交渉が行われたあとで、英国のEU離脱に関する英国とEUの間の合意が成立した」というニュースが流れてきた。2016年のレファレンダム(国民投票)以降のニュースを追ってきた人は、そこで、「おお、やりましたね!」的に反応することはない。英国政府とEUの間で合意が成立するまでも大変なことは大変だが(主に英国の政権を担っている保守党の党内事情と、英国会下院で保守党が数を維持するために頼りにしている北アイルランドDUPが原因で)、もっと大変なのはその先、つまり英国会で採決にかける段階だということは、ニュースを見てきた人ならだれもが知っている。

しかも、今回ボリス・ジョンソン首相が最終的にはDUPを無視する形で取り付けた合意は、テリーザ・メイ前首相が欧州大陸から英国に持ち帰った合意案 (Withdrawal Agreement: WA) が3度にわたって議会で否決されるうえで大きな問題となっていたいわゆる「バックストップ (backstop)」(アイルランド島にあるボーダーに関する措置の一部で、万が一の場合の保険のようなもの……EU離脱強硬派はこの保険のようなものが抜け穴として利用されると主張し、受け入れることを拒否していた)を取り除くことには成功したが、強硬派(の少なくとも一部)にとっては「バックストップ」よりもっと悪い条件を設定している。

これが笑わずにいられようか。いや、できない。(反語)

私などは、あまりニュースを見ていると頭がおかしくなってしまうほどすべてが捻転しまくっていて、実際のところ、お布団かぶって寝てしまいたい。寒いし。いやほんと、東京は30度か18度かみたいな天候で参りますよね。

と、そんなこんなで、ネットの向こうから何かが漂ってきているかのようで、ニュースを見ているだけのこちらも妙な具合になってきて、紅茶とルイボスティーを飲みながら、何を見てもゲタゲタと笑えてしまってしかたがない。あちらの「とんでもないニュースによるハイ」な気分がうつってしまったようだ。

というわけで、今日の実例には何か解説記事を選ぼうと思っていたのだが、記事ががんがん書き換わってしまってあとあとまで参照できるテクストとして定まらないので、報道機関の記事は諦めた。代わりに、Twitter上を飛び交っていた英国伝統の「真顔で言うジョーク」から。

 

デイヴさんのこのツイートは、《等位接続詞》のbutで3つの項目(文)がつながれていて、3つ目の項目が「オチ」になっているジョークである。

《等位接続詞》で3つの項目を並べる場合、接続詞は2番目と3番目の間に置かれる。1番目と2番目の間にはコンマを置く。接続詞の前のコンマは、このように文をつなげる場合は置くのが普通だが、単語を並べるときは置かないこともある。

  I like dogs, so does my wife, but our son is allergic to dogs. 

  (私は犬が好きだし、妻もそうなのですが、息子が犬アレルギーで)

 

最初の文: 

We should give Boris Johnson some credit

このcredit、およびgive ~ credit (= give credit to ~) という熟語については少し前に取り上げたので、そちらを参照されたい。

hoarding-examples.hatenablog.jp

 

2番目の文: 

no one thought it possible

主語を "no one" にした全否定の文。「だれも~ない」という意味になる。

《think + O + C》は「OをCだと思う〔考える〕」の意味で、Cにはこの実例のように形容詞が来ることが多いので、be動詞が抜けているようにも見えるかもしれない。

  I thought the movie interesting. 

  = I thought the movie was interesting. 

  (私はその映画は面白いと思った)

この文は、文意をまとめると、「だれもそれを可能だとは思わなかった」ということになる。

 

3番目の文(ジョークの「オチ」): 

but he has managed to negotiate a #BrexitDeal even worse than Theresa May's

ハッシュタグの "#BrexitDeal" はちょっと見づらいので普通に書き直すと: 

but he has managed to negotiate a Brexit deal even worse than Theresa May's

《manage to do ~》は「なんとかして~する」とか「~をやりおおせる」といった意味合い。実際に用いられる場合は辞書で見る以上に表情豊かなフレーズなので、問題集などで見かけたら注意を払ってみてほしい。英語が楽しくなると思う。

 

"even worse" のevenは副詞で、ここでは比較級を強めて「いっそう~、なお~」といった意味を表す。うまく訳出できないことも多いevenなので、英文和訳に出てきたら何が何でも日本語にすることを考えるより、意味合いを込めた日本語になるよう訳文単位で考える方がよい(時間のかけ方という点でも、良い結果になるという点でも)。

また、ここでは "a Brexit deal" と "even worse" の間に《関係代名詞+be動詞》が省略されていると考えると、文意が取りやすい。つまり: 

  a Brexit deal that is even worse than Theresa May's

このような《関係代名詞+be動詞の省略》は、下記のような分詞の後置修飾の形を思い浮かべると納得しやすいだろう。

  I know the boy who is riding a bike over there. 

  = I know the boy riding a bike over there. 

  (あそこで自転車に乗っている男の子を私は知っています)

 

この文の最後、"Theresa May's"  の後ろには、Brexit dealが省略されている。

 

というわけで、デイヴさんのツイート全体の意味は、「ジョンソンはほめたたえて然るべきだろう。だれもそんなことが可能だとは考えていなかったが、彼は見事にやり遂げたのだ、テリーザ・メイの取り付けた合意よりもさらにひどい合意を交渉するという偉業を」といった感じになる。

f:id:nofrills:20191018112913p:plain

Brexit賛成であれ反対であれ、「何だよこの合意内容は、ひどいな」という感想が人々の間でわっと出たときに「いや、これってすごくないか」と言えば「え?」と注目される。そうやって注目させておいて、「だれがこのようなことを成し遂げられようか、こんなひどいことを」というオチをつける、という形の、いわば形としてはベタベタのジョークなのだが、Twitterの短い文できれいにまとまっていて、秀逸だと思う。

イギリス人はこういうことを真顔で言うので、いろいろとわかりづらいのだが。

 

 

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イギリス人のユーモア―日本人には思いつかない

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イギリス人に学べ! 英語のジョーク

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ジョークで楽しむ英文法再入門

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自動詞のcount, 他動詞のcount ("Every vote counts, count every vote" というスローガン)

土曜日なのでいつもは過去記事の再掲だけど、今週は新規で。

米大統領選で現職の反応がめちゃくちゃなことになっていることは既報の通り(日本語圏でこれが「めちゃくちゃ」であることが十分にわかりやすく報じられているかどうかは、英語でしか情報を得ていない私は知らない)。

特に、遅れて開票が進められた郵便投票の結果が出始めて、当初優位だったのが*1揺るぎ始めたとたんに「開票をやめろ!」と、仮にも米国の大統領の座にある者が、Twitterでわめいたことは、アメリカのデモクラシーを少しでも信じている人々をドン引きさせ、嘲笑の渦に叩き込んだ。

Twitter上の日本語圏では、まっとうな知識のある方々が、米国の事情にうとい日本語話者のために、日本語で解説をしてくださっている。実にありがたいことだ。

 

さて、この「開票をやめろ!」に対して「開票しろ!」という声が上がることは想像に難くないと思うが、実際に出てきたそのスローガンが、全英語教師の目をキラっと輝かせるに相違ないものだったので、今回取り上げてみることにする。

こちら: 

f:id:nofrills:20201107180145j:plain

Count every vote march, NYC (Photo by doug turetsky on flickr, CC BY-NC-ND 2.0)

Every vote counts

Count every vote

同じ単語で構成された2つの別のスローガン。端的に言っておしゃれ、という印象だが、要はシャレだ(言ってることの意味がわからない? 私にもよくわからない)。

簡単なようだが、英語の文法にしっかり従って読まないと、正確な読解ができない。それぞれのcountの意味の違いも重要だ。

*1:このパンデミックの中、「密」になる投票所に投票日当日に足を運んだ人々が「ウイルスなんか怖くない」系の人だったことは、2秒くらい考えればわかるだろう。加えて、トランプ支持のミリシアなどが反トランプ層を投票所から遠ざけようとしてアソルトライフルなどを持って「戦闘態勢万全な俺たち」をアピールするなどしていたわけで。

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※本項、金曜日の夜に、書きかけのままタイマー送信されてしまいました。土曜日に形を整え、見出しを書きます。しばらくお見苦しいままさらしておきますが、よろしくお願いします。

 

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今回は、変則的な形で、時事ブログみたいな書き方をする。

現在、何というか、日本語圏のメディアで目立っている報道内容について、私は大変な不安と心配と懸念を抱かされている。といってもうちにはテレビはないし、新聞もウェブ版を少ししか読んでない(ときどき図書館に行って読むけど)。そもそも英語圏で起きていることについての報道は英語の媒体に直接アクセスすればよいのだから、わざわざ日本語では見ない。だから私が目にする範囲のことは、たまたまサイトやアプリで見たものか、誰かがツイートしていたのが回ってきたものくらいで、見る量としては絶対的に少ない。その限られた範囲内でのことで、「これは本当にまずいんじゃないのか」と感じている。

まずは、「じゃあどうすれば」(というか、むしろ「日本語圏の報道がやばいと思えているのは、どういうものを見ているからなのか」かもしれないが)という話。

今日日本時間で11月6日(金)の15時半ごろ、BBC Newsのトップページを見たらこうなっていた。ちなみにBBCは「中立」を掲げているが、トランプのことはかなり好きなようで、4年前の選挙ではトランプの過激な、注目を集めようとする発言が連日トップニュースになっていて、うんざりするほどだった。

f:id:nofrills:20201106170450p:plain

キャプチャ画像の左下にあるのは、BBC Newsのライヴ・ブログのタイトルで: 

Trump repeats voting fraud claims without evidence

ここに出てくる "claim" は名詞だが、claimという語自体は動詞として用いられることも多い。元はラテン語のclamareという動詞だ

このclaim, 英和辞典を見れば「主張(する)」という "意味" が書いてあるので、そのまま日本語の「主張する」とパラレルだと理解してしまいがちだが、英語のclaimは日本語の「主張する」よりも少々弱い感じがすると思う。「弱い」というのはわかりづらいかもしれないが、claimは「その中身が事実であるかどうかについては全然焦点を当ててない」というニュアンスがある。日本語でも「根拠のない主張」という表現に違和感がないのを見ればわかると思うが、「主張」自体にはその中身が事実であるかどうかは関係がない。ほっぺたに微量のウェットフードをつけた状態で猫が足元に来て「ごはんまだですけど?」と主張することもできるわけだ。そのとき、人間は「さっき食べたでしょ。ほっぺたについているそれは何ですか」と、ほっぺたについているものを証拠として、その主張が虚偽であると証明するだろう。つまり、「主張」だけでは何にもならない。

したがって、このclaimという語が(動詞であれ名詞であれ)見出しに出てきたら、「それだけでは信用できないな」と少々懐疑的になるのがお作法である(だが、別に「嘘だろう」と否定してかからなくてもよい)。

だから、上記キャプチャで "Trump repeats voting fraud claims" と見たら、眉にツバをつけつつ、「トランプは、投票の不正という主張を繰り返した」(これは報道の見出しなので、《過去》のことをrepeatsという《現在形》で表している)と読んで、「はいはい」と流す構えをとるのが、常識ある英語読みの対応である。

しかもこのケースでは、"without evidence" がついている。without ~は「~なしで」、evidenceは「証拠」。つまり「証拠なし」。

証拠なしで主張だけ繰り返しているわけだ。

それは、ほっぺたにごはん付けてごはんを催促しに来る猫ほど間抜けではないかもしれないが、「証拠なしで主張しても何にもならない」ということを知っている大人のふるまいではないわけで(現にドナルド・トランプという人物は、バラク・オバマに対して「アメリカ生まれだという証拠を見せろ」と迫った、いわゆるBirtherの頭目みたいな人物である)、そのことだけでもスルーするのが当然というレベルのお粗末なことだ(ちなみに、claims without evidenceというのはかなり持って回った、相手への遠慮みたいな気持ちが入っていることもある婉曲表現で、一言で言えば lie である。現にガーディアンはそう表現している)。

あまつさえ、この「根拠のない主張」の主は、発言に根拠がないことを理由にTwitterで「要注意」扱いされている人物だ。

www.politico.com

しかしこの「根拠のない主張」が、日本のマスコミではなぜかそのまま(「根拠なし」とも言わずに)拡散されたという。しかもそういう拡散をしたメディアには公共放送NHKが含まれている。

そして一部界隈では、この根拠のない主張が、自分たちが信じていることの証拠であるかのように扱われているらしい。ひとえに、それが大統領という身分にある者の発言であるということだけでそのまま拡散され、信じられ、何かの根拠になるかのように扱われている。この現象に名前を付けた……くはないな。つけるまでもない。「ごまかし」である。

 

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引用符の使い方, as ~ as ...の同等比較, those who ~, 省略, など(ジョー・バイデンのスピーチ)

今回の実例は、Twitterにフィードされてきたジョー・バイデン氏のスピーチから。

米大統領選挙は、日本では11月4日の夜のTVニュースでは「トランプ旋風再び」とかいう話になっていたらしいが、日本の報道機関は大丈夫なのだろうか。かつて英語圏のジャーナリストから「日本の報道機関の、現場の人は優秀だ」というコメントを聞いたことがあるのだが、それは額面通りに受け取るべきではなく、「現場」(つまり取材に出る人たち)は優秀でも、上で仕切る人たち(話の切り口や全体の方向性を決める立場にある人たち)はどうだろうねというわかりづらい酷評だったのだろうか。

そもそもトランプは、前回(2016年)も「旋風」なんか起こしてない。「旋風」を起こした候補がいるとしたら、それはヒラリー・クリントンのほうだ。有権者の票数の獲得数で優っていたのはクリントンのほうで、トランプは、前回少し触れた米国独自の選挙人という制度をうまく攻略して、少ない票数で多くの選挙人を獲得して当選したのだから。

ともあれ、日本時間11月5日の朝、トランプが勝手に勝利宣言したり、バイデンの票が伸びてきたと知ると「不正だ」とわめき立てたり、Twitterから「この発言、根拠あやしいです」というフラグを立てられたりetc etcといったことがあったあとで、バイデンがウィスコンシン州ミシガン州を制したという結果が出て、当選に必要な選挙人270人を獲得するのはバイデンだろうという予測が固まってきたころに、バイデンがスピーチをおこなった。

まだ結果が出たわけではないので「勝利宣言」ではないが、トランプが「勝手に勝利宣言」をしたり「不正」をわめき立てたりしているので、もう結果はだいたい決まったと示すために「プレ勝利宣言」をおこなったnかもしれない。

ともあれ、このスピーチは非常に評判がよく: 

 私も「普通の、というかこの4年間以外はずっとそうだったアメリカ」が戻ってくるのだということが実感できている。アメリカのきれいごと、アメリカの建前、アメリカの原理原則はこういうものだ、という内容だった。

今回の実例はそのスピーチを紹介するBBCのフィードから。こちら: 

 以下、文法解説は文字で書かれているところから行うが、ここまで読んでこられた方はどうかスピーチ自体を聞いてみていただきたい。リズム、ペース、緩急のつけ方、語彙に構文、文章全体の構造など、これが(大統領を含む)「アメリカのエスタブリッシュメント」の話し方である。味方からも敵からも、とりあえずは信頼されることが仕事である人たちの話し方である。

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コロン (:) の使い方, 仮定法過去, 直説法なら現在完了で表すものを仮定法で表した場合(アメリカの選挙制度)

今回の実例はTwitterから。

米国の選挙(大統領選がメインだが、議会選挙も同時に行われているし、各州の住民投票も行われている)の投票が現地3日に行われた。米国は国内で時差(複数のタイムゾーン)があるし、細かく見るのは大変だが、時差を見ながら情勢を追いたい場合は先日書いたエントリを役立てていただきたい。 

hoarding-examples.hatenablog.jp

さて、というわけで日本時間では4日の午前中からずっと開票速報が続いているが、今回の実例はそういった「速報」のツイートの中にあった「速報」でないものから。こちら: 

ツイート主は英国の経済紙フィナンシャル・タイムズのアソシエイト・エディターで、元ワシントンDC支局長のエドワード・ルースさん。拠点は米国である。

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【ボキャビル】the be all and end all, 冠詞を手掛かりにわけのわからない文を読む, 強意の助動詞 (異国で嵐の中に家族を残してキャンプ地に移動したイングランド代表)【再掲】

このエントリは、2019年10月にアップしたものの再掲である。文法を押さえてはじめて正確な読解ができる(単語だけ拾って適当に意味を組み立ててはならない)ということを改めて確認していただきたいと思う。

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今回の実例も引き続きラグビーW杯関連の記事から。

前回のエントリでも少し書いたが、イングランドは12日(土)に予定されていたプールステージ(プールC)最終戦(対フランス、横浜)が台風19号のために中止となった。次の試合は19日(土)、大分で行われるオーストラリアの試合である(ここでのソースはウィキペディア)。

12日のイングランドとフランスの試合が中止されることは10日(木)には決定されており、イングランド代表はその日のうちに九州に移動、以降はトーナメントに向けて宮崎のキャンプ地で練習の日々だそうだが、実は12日の横浜での試合のために、あるいは大会期間中ずっと、家族・親族が来日していた選手たちがいたという。家族らは宮崎には同行せず、つまり選手たちはどえらい規模の台風がやってくるという関東地方に大切な人たちを置いていくことになった。

今回の記事は、そういう事情で、父親(元トンガ代表のラグビープレイヤー)や親戚を、何がどうなるかわからない状況に残して、チームメイトたちと一緒に宮崎に行ったビリー・ヴニポラ選手*1の話を記事にしたものである。

www.theguardian.com

*1:名前のカタカナ表記は https://teamrugby.jp/worldcup/japan2019/feature/players-22 を参照した。

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悲報の際の定型表現, 感情の原因を表すto不定詞, 《国》を受ける代名詞のshe, など(サー・ショーン・コネリー死去)

今回の実例はTwitterに連続投稿された、かなりフォーマルな文面から。

日本でも大きく報じられている通り、10月の終わりに俳優のショーン・コネリーが90歳で亡くなったことが公表された。この人について、日本では「イギリスの俳優」と言われることが多いが、彼は自分が「スコットランド人」であると強固に意識し、公的な言動でもそれをはっきり伝えてきた。

彼の生涯については、ウィキペディアが詳しい。また、BBCのオビチュアリーが読みやすく、通り一遍でなくて味わい深い。

en.wikipedia.org

www.bbc.com

エディンバラの労働者階級の地域で、19世紀にアイルランドからスコットランドに移り住んだカトリックの家の出である工場勤務の父親と、プロテスタントで家政婦(掃除係)の仕事をしていた母親の間に1930年に生まれたコネリーは、劣悪な住環境で育ち、小学校を出てすぐに働き始めた。牛乳配達や現場仕事といったいろいろな仕事をする中で、劇場での作業を通じて演劇と接したという。エディンバラ美術学校(美大)で絵のモデルのバイトもしていて、サッカーではかのマット・バズビーに「うち(マンチェスター・ユナイテッド)でプレイしないか」と誘われたほどだったというが、サッカー選手になってもプレイできるのはほんの短い間だからということでその道には進まず、ボディビルの大会で耳にしたミュージカル劇のオーディションを契機に芸能界入りした。1950年代前半のことである。

まだ芸能界に入る前の16歳のとき、コネリーは海軍に入隊し、そのときに腕にタトゥーを入れた。"Mum and Dad" というタトゥーと、"Scotland Forever" というタトゥーの2つで、後に、スコットランドの英国(連合王国)からの独立を目指す政党、Scottish National Party (SNP)*1の党員となり、1990年代に住居をカリブ海バハマに移したあともSNPに金銭的寄付を続けていた(2001年に英国の法律で国外からの政治団体への寄付が禁止されるまで続けられていたという)。この件では、10年以上前に日本語圏ではかなり劣悪な誤情報が流されていたのでちょっと書いたものがある*2、それについてのコネリーの発言は、今年8月に90歳の誕生日を迎えたときのスコットランドの新聞『ナショナル』の記事にまとめられているものが、文脈があって読みやすいだろう。

長くなったが、前置きはここまでにして、以下本題。

今回の訃報に、コネリーがずっとサポートしてきたSNPの政治家たちも哀悼の意を表している。個人的にも親交のあった前党首アレックス・サモンドもステートメントを出しているが、ここでは現在のスコットランド自治政府のトップ(首相)であるニコラ・スタージョン現SNP党首のツイートを見てみよう。彼女は6件のツイートを連続投稿してコネリーをしのんでいる。

*1:日本語にするなら「スコットランド国民党」とすべきだが、「国民」という日本語をここで持ち出すのは事態をわかりづらくしてしまうので、本ブログでは一貫して「SNP」を用いる。なお、日本語圏で見かける「スコットランド*民族*党」は誤訳といってよいようなひどい訳である。SNPは「民族主義」を掲げているわけではない。

*2:スコットランド独立」のための政治運動と、「アイルランド独立」と誤解された「統一アイルランド達成」のための武装闘争をごっちゃにした非常に質の低い誤情報だが、なんと、プロの書き手がやらかしていた。

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仮定法過去完了, ifの省略と倒置, it's ~ for ... to do --とthere is/are ~の構文(ラグビーW杯、スコットランドの言い分)【再掲】

このエントリは、2019年10月にアップしたものの再掲である。ここで取り上げた「仮定法と倒置」は実際の英語(いわゆる「生きた英語」)では1日に1度は遭遇するくらいに頻出だが、なぜか日本では「受験英語であり、『ネイティブ』はそんな言い方はしない」と思い込まれていることが珍しくない。そういうことを言われたら、その人は実は「生きた英語」にさほど接していないのではないかと疑ってもよいだろう。そのくらい、普通に日常的な表現である。

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まず、台風19号で被害をこうむられた方々にお見舞い申し上げます。あまりに巨大な台風で、滞在時間も長く、翌日の台風一過の青空のもとでもまだまだ被害が次々と伝えられていて、自分の近隣には被害はなかったのですが、自然の猛威に震撼としています。「自然の猛威」というより、「地球温暖化の猛威」と言うべきかもしれませんが。

さて、というところで今日の実例。

ラグビーのワールドカップは、台風19号(Typhoon Hagibis)の直撃のため、12日(土)に横浜で行われる予定だったイングランド対フランスの試合と、豊田で予定されていたニュージーランド対イタリアの試合の中止を11日には決定、台風が去った後の13日(日)の試合も、実施するかどうかは台風被害の様子を見てから判断すると発表していました。

これにすさまじい反発を示したのがスコットランド(のラグビー協会。スコットランド自体が反発したわけではありません)。13日、グループステージ……って言わないんだっけ、ラグビーは……プールステージ最終戦となる日本との試合が流れたら、確実にトーナメント進出ができなくなるので、試合ができなくなることはスコットランドにとっては非常に深刻な問題。一方で、12日に試合中止となったイタリアは勝てばまだ上に行けたかもしれず不満があったそうですがイングランド、フランス、ニュージーランドは既にトーナメント進出が決まっていて、スコットランドのような反発は出ませんでした。そもそも理由が台風だし。

そして「英国のメディア」は、実質、「イングランドのメディア」で、普段からスコットランドの扱いは、まあ、何というか、その……。テニスのアンディ・マレーも常に勝てる系のプレイヤーになるまでは「試合に勝てばBritishとしてほめられ、負ければScottishとして相手にもされない」という目にあわされ、「あれはいやだった」とインタビューで語っていたことがあるのですが*1イングランドのメディアは、元から、スコットランド人の不品行が大好物です。「あいつらにはことの道理がわからない」という謎の上から目線でスコットランドを見下すのは、いわば「イングランドしぐさ」です。そして、イングランドは非常に声が大きい。

だからスコットランドのあれは非常に目立った。

私はラグビーは知らないし、今回のワールドカップも特に見てないのですが(テレビがないし……ただしアイルランドはいろいろあるのでTwitterでサポーターのフォローくらいまではしてます)、日々チェックしている英国のメディアでは、スコットランドの反発がスポーツ面のトップニュースの扱いになってはいました(一般ニュースとは別枠で)。

今回、実例として見るのは、そういうときに出ていた英ガーディアンの記事。ただし、見出しの段階から、「スコットランドの言うことにも一理くらいある」というトーンです。そしてそれ自体は、私も「そうですよねー」と思わずにはいられません。

www.theguardian.com

台風シーズンに行う大会で、予定の試合会場が使えなくなった場合の代替の会場が、わずか14マイル(23キロくらい)しか離れていないというのは、確かに、意味わかんないと思います。同じ台風でほぼ同時にやられることはわかりきってる。今回の台風19号はあまりに巨大すぎて基準にならないのですが、横浜が台風にやられて使えなくなった場合の代替会場とするなら、例えば大阪とか新潟くらい離れてないと意味をなさない。

「訴えてやる」云々のスコットランドラグビー協会の反発自体は「お前、それ、言う?」っていう感じの内容だとは思いますが、「14マイルしか離れてないんじゃ代替にならないだろ。大会主催者はなぜそんな案を通せるんだ」というのは、まあ、ごもっともだと思います。

ともあれ、本題へ。

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【ボキャビル】earlier this year, ~ times the size (台風19号の接近)【再掲】

このエントリは、2019年10月にアップしたものの再掲である。単純なように見えて意外と間違えやすい表現なので、しっかり押さえておきたい。

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今回の実例はTwitterより。

今週末、東海・関東を直撃すると見られている台風19号は、国際的にはHagibis(ハギビス)という名称で知られているが*1、これが日本だけでなく英語圏でも注目されている。それはなぜかというと、「地球史上最大のなんちゃら」だからではなく、日本ではラグビーのワールドカップやF1(鈴鹿)といった国際的スポーツ大会が行われているからだ。下記は英国の気象庁のツイートで:

これに次のようなリプライがついている。

 

f:id:nofrills:20191011054811p:plainラグビーのワールドカップについて言うと、この台風のおかげで、週末に予定されているグループステージ(って言わないんだっけ、ラグビーの場合)の最後の試合が実施されるかどうかが危ぶまれていて*2、ことと次第によっては決勝トーナメントの様相が変わってくるし、それに応援・観戦のため世界各国から日本を訪れている人々にとってはかなり深刻な話にもなりうる。さらに、グループステージ最終戦を見るために来日する人たちにとっては、日本に到着できるのかどうか、羽田なり関空なりに到着したあとで目的地まで移動できるのかどうかといったことがあるから、自然、関心を集める。というわけで、ラグビーW杯にイングランドウェールズスコットランドアイルランドの4つの代表を出している英国(北アイルランドラグビーでは「アイルランド」として島全体で1つの代表チームを作る)のメディアでは、水曜日以降、この台風についてかなり大きな取り上げ方をしている。木曜日にはついに英国でTwitterのTrendsに "typhoon" というワードが入ったほどだ*3

 

今回の実例は、このように台風19号(ハギビス)を話題としている 英語圏での投稿のひとつ。

ツイート主のポール・グレイソンさんは、元イングランド代表のプレイヤーで、現在は指導者。ワールドカップに際して来日し、BBCで解説などをしている。

そのグレイソンさんが、現在接近中の台風19号(ハギビス)と、約1か月前に千葉県南部にすさまじい爪痕を残していった台風15号(ファクサイ)を比較し、身の安全の確保が第一であると注意を呼び掛けているのがこのツイートだ。

*1:台風の名称については https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/typhoon/1-5.html を参照。

*2:この台風に関心が集まったあとで、12日(土)のイングランド対フランス(横浜)と、ニュージーランド対イタリア(豊田)の試合中止が正式に決定した。

*3:typhoonは「台風」由来で、アジア太平洋地域でしか用いられない言葉なので、欧州で話題になるとしたら甚大な被害を残したあとのことで、今回のように被害がまだ出ていないときにTrendsに入るのはとても珍しい。

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長い文の構造を正確に読む, 現在分詞の後置修飾, 関係代名詞の非制限用法のイレギュラーなケース(「バイデンの息子」のネタ元は偽情報会社)

今回の実例は、報道機関による大きな報道の際のTwitter連続投稿(スレッド)から。

10月に入って以降、Twitterでの私の視野も、体感で半分以上が米大統領選に関する発言で埋め尽くされているのだが、その中に先日少し取り上げたジョー・バイデンの息子、ハンター・バイデンに関する、誰がどう見ても客観的に出所が怪しい話についての発言もちょこちょこと入っている。中にはあれを真に受けている日本の言論人*1の発言が、批判的にリツイートされてくるものもあるし、ごくまれに、真に受けている言論人の見解を真に受けているらしい人の発言がそのままで流れてくるのだが(実に危なっかしいが、特に知り合いというわけでもないし、別に進言したりはしない)、あれはウォールストリート・ジャーナルという立派な新聞が食いつかなかったネタを、ニューヨーク・ポストというゴシップ紙が拾ったのであり、一昔前の日本のネット言論人なら「スルー力が試される」という表現を使っていただろう。

私もスルー力を発揮していて、そのネタが流れてきてもほとんど見てもいないし、そうである以上はその内容については何も言えないのだが、先ほど、英語の文面の形式上、非常によい例(例文)が、このトピックに関して、NBCのアカウントから流れてきていたので、今回はそれを実例としてとりあげたい。文法解説というより、一緒に読んでいく感じで。

NBCのツイートは8件の連続ツイート(連ツイ、スレッド)だ。英語では、最初に言いたいこと(報道の場合、報告する中身)をコンパクトにまとめ、そのあとでそれについて具体的に述べていく、という「トピック・センテンスの後にサポート・センテンス」の構造が一般的なのだが(そのように書かれていない文章は「読みにくい」と受け取られる)、Twitterのスレッドでも、特に報道機関が大型報道について連投する場合にはそのスタイルが用いられる。というわけで、まず、情報がぎゅっと凝縮されて詰まっているスレッド先頭のツイート。

かなり息の長い文だが、文の構造(どれが主語でどれが述語動詞か )は取れただろうか。いわゆる「返り読み」をせずに意味が取れるだろうか。

 

*1:「知識人」と言えるかどうかは疑問。

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前置詞のgiven, 関係代名詞what, 「どうしても~しなければならない」のhave to do ~(トランプ政権のひどさについて「匿名」で告発していた人が名乗り出た)

今回の実例は、報道記事から。

2018年9月、米トランプ政権の実情を知る何者かが、匿名で、「現場では、静かな抵抗が起きている」とする記事を、ニューヨーク・タイムズに寄稿した。

www.nytimes.com

この「匿名」氏はその後、「匿名」名義で『ある警告』と題する本も出した。(ただし、私自身は米国の政治にそこまで関心はないので、この本の中身は見ていない。) 

A Warning (English Edition)

A Warning (English Edition)

 

まるで冷戦期の東側(ソ連の衛星国)の地下活動みたいだが、あのアメリカで21世紀に、名前・身分を隠さないと、政府によって何が行われているのかを明らかにすることができない(それも、「機密文書のリーク」などではないのに)と、当の本人が感じているということ自体が、人々に対して語るものは大きかった。アメリカの多くの人々にとって、こういうことは、どこか外国、それも「独裁」とか「専制」とかいった言葉で語られる国で起きるようなこと、自分たちの国では起こらないはずのことだったのではないだろうか。「匿名」氏の語ったことの内容とは別に、そのことによるショックというのもかなりあったのではないかと思う。

その「匿名」氏が誰なのかが明らかになった、という記事が、今回読む記事である。こちら: 

www.theguardian.com

自分のブログにステートメントをアップすることで名乗り出た「匿名」氏は、米国土安全保障省 (Department of Homeland Security: DHS) の首席補佐官 (chief of staff) だったマイルズ・テイラー氏。ガーディアンの記事は、氏のステートメントの抜粋を交えながら何があったかを端的に説明するもので、全部で350語程度と短いものだ。報道記事に不慣れな人にとってもかなり読みやすいと思う。引用符に気を付けて読みさえすれば、内容を正確に把握できるだろう。ぜひ読んでみていただきたい。

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