Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

《否定》の意味合いの同等比較 (as ~ as ...) (英国の国民健康保険は危険にさらされている)【再掲】

このエントリは、2019年12月にアップしたものの再掲である。教える事項が多い学校では素通りしてしまうかもしれないが、こういう英語表現が正確に読めるようになるかどうかは極めて重要なので、重点的に見ておく必要がある。

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今回の実例は、TV番組での元政治家の発言から。

中曽根康弘元首相が101歳で他界した。この人といえば国鉄民営化とか労組つぶしとかいろいろあるのだが、私にとって最も鮮明に記憶に残っているのは「ロン・ヤス外交」とプラザ合意だ。それぞれの説明はここではしない。

日本から見ると「ロン・ヤス外交」史観になってしまい、そういうナラティヴ(語り口)は避けられないのだが、世界的に見ればあの時代は「ロン」こと米国のロナルド・レーガン大統領と、「マギー」として知られる英国のマーガレット・サッチャー首相の時代で、この人たちは現在に至る新自由主義の時代と社会と世界を作った人たちだ。

新自由主義(ネオ・リベラリズム)」*1についてもここでは説明はしないが(そんなことをしていたら書き終わらないからだ)、かなり雑に要点だけいえば「改革」の美名のもと、「効率」などの美点を賞揚しながら国有財産を私有化し、人々の暮らしと生命の基盤となる社会的なインフラ(特に交通、水)をも、少数の誰かにとっての(巨額な)利潤を生みだすものに変えていこうという思想。つまり、現代の当たり前の思想だ。

それが「善」をもたらさないとは言わないが、それは「善」ばかりをもたらすわけではないわけで、いろんな人が「ちょっと待て」と声を上げている(ということは日本語圏ではほとんど知られてないかもしれない)。

15年くらい前まではここで「ちょっと待て」と言っているのは、英国では、たいがい左派だったのだが(極右の反ネオリベという人たちもいなかったわけではないが)、2010年代、特にこの数年は様相が変わってきた。

その変化を引き起こしたのは、2010年に単独過半数が取れなかったくせにリベラル・デモクラッツ (LD) *2と連立することで何とか政権を取ったデイヴィッド・キャメロンが推進した「市場開放」型の政策の数々である。キャメロンのネオリベ政策は非常に苛烈で、「マギーでもここまではやらなかった」というくらいのことをやっているのだが(それが「緊縮財政 austerity」という婉曲な表現で呼ばれている)、キャメロンがEU離脱という非常に複雑な問題の可否を非常に雑なレファレンダムにかけるという愚行のために退陣しなければならなくなったあとを受けたテリーザ・メイも、キャメロンの苛烈な政策を継承していた。メイは退陣する少し前に「緊縮財政はもう終わり」と宣言したが、メイのあとを受けたボリス・ジョンソンも、2010年以降の苛烈な政策で生じた数々の問題は放置する感じである。

これに際し、かつてマーガレット・サッチャーを支持し、「サッチャリズム」と個人名を冠して呼ばれた苛烈なネオリベ政策を推進し、サッチャー退陣後はその政策を継承していた保守党のベテラン政治家たちが、現在の保守党について、公然と異議を唱えるようになってきた。

彼ら保守党の重鎮たちの発言は、Brexitに関して行われるものが多いのだが、それに限らない。特に今は、12月12日投票の下院選挙(総選挙)の選挙運動中だから、Brexit云々は別として、ストレートに現在の保守党、つまりボリス・ジョンソンの保守党に対して批判的な発言となっている。

今回実例として見るのはそのひとつ。とっくの昔に政治の世界から完全に身を引いたが、公的な発言をやめたわけではないジョン・メイジャー元首相の発言だ。

メイジャーはサッチャー政権の閣僚として「小さな政府」への政策を次々と手がけたのち、党内でいろいろあったあとに外相、続いて財務相という超重要なポストに任用され、サッチャー退陣に伴って行われた保守党の党首選挙で党首となった。彼は若く(40代だった)、出世のスピードはとても速かったし、何より、基本的に上流階級のエリートが支配的である保守党においては異色の人物であり*3、たぶん党内では「期待の新星」「階級にこだわらない、新しい時代のニューリーダー」という見方をされていたのではないかと思うが、世間では「greyでdull」と呼ばれ続けていた。それでも一度は総選挙で過半数を取っているのだが(1992年)。

こんなことを書いてると書き終わらない。

そういうバックグラウンドを有するジョン・メイジャーが、現在、ボリス・ジョンソンの保守党がやろうとしていることについて、保守党のマニフェストがローンチされたときに、TVで次のようにコメントした。

 

*1:「ネオなんとか」と呼ばれる思想は、元々の「なんとか」に比べて変質しきっていることが多いが、ネオ・リベラリズムも同様で、元の「リベラリズム」とは別物である。

*2:日本語にすれば「自由民主党」だが、英国のこの党は、内容的に、日本のアレとは全然別なので、同じ呼称で呼ぶことは避けている。

*3:ジョン・メイジャーの出身は下層階級の中の下層階級(親は旅芸人)で、本人もエリートコースとは全然離れたところを歩んできた人である。大学がオックスブリッジではない、というレベルの話ではなく、大学には行ってすらいない。

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call for ~ to do ..., it's time to do ~, 分割不定詞, call + O + C(「表現の自由」をデマ拡散の言い訳にさせないために)【再掲】

このエントリは、2019年11月にアップしたものの再掲である。

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今回の実例は、前回のと同じ、ADLのイベントで英コメディ俳優のサシャ・バロン・コーエンが行ったスピーチについての記事から。背景情報などは前回書いたので、そちらをご参照いただきたい。

記事はこちら: 

www.theguardian.com

 

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「英紙タイムズ」の報道について確認する方法(※執筆中)

※本記事は2021年1月22日に書きかけのまま仮アップロードしてありましたが、26日に改めて仕切り直してアップロードしたので、こちらのエントリは削除します。下記、26日のエントリをご確認ください。

hoarding-examples.hatenablog.jp

 

付帯状況のwith (ジョー・バイデン就任式典、ネットで話題となったのは……)

米国のジョー・バイデン大統領とカマラ・ハリス副大統領の就任式典は、日本時間で今日21日の午前1時台から2時台にかけて、リアルタイムで見ていて、見ている最中はもろもろ「おお、これは」と思うような英文法の実例に気づいたのだが、自分の許容量を超えた「アメリカ」がどかどかと流れ込んでくるのに身を任せているうちに、「まあいいか」みたいになってしまった。就任式典での重要なスピーチは私じゃなくほかの人たちが英語の実例として解説記事を書くだろうし、実際にもう書かれているし、あえてやらなくていいかな、と。

 

それより、私は、なんだかんだで「アメリカ」の摂取量が限度を超えて頭がおかしくなってしまった。レディガガが国歌を見事に独唱し、ジェニファー・ロペスが熱唱の合間にスペイン語で「自由と正義をすべての人に」と叫び、ガース・ブルックスAmazing Graceを美しく歌い上げ……といったきらびやかな式典に横溢していたのは、過剰なまでの「アメリカ」の強調で、大統領の就任式典なのだからそれは当然なのだが、「あんなこと」があったあとだからより一層、美しく完璧なものとしてイメージされ提示される「アメリカ」に、ほっとする人、安心する人、喜びを覚える人がものすごく大勢いることを知りながら、また自分もその感情を少しは共有しながら、甘いものを食べすぎたときのような胸やけを覚えてしまっている。「想像されるアメリカ、想像として共有されるアメリカ」は、ひたすらにかっこいいものだ。 レディガガのドレスの胸元には、オリーヴの枝を加えた鳩の飾りがついていた。彼女たち「リベラル」を、悪魔の手先のように扱った連中に対し、和解を呼びかけるシンボル。それは、直接相手に呼びかけるものであると同時に、「私たちはこのような姿勢を示すことができる」と外部に見せつけるためでもあり、「このような姿勢を示さねばならない」と自分たちに言い聞かせるためでもある。「私たちにはこれができる」と言葉にすることで、「できない」ということを否定するというあり方。

その「彼らの疑いのなさ」が、スニッカーズの中に入ってるのみたいにねっとり、べったりと、のどの奥につかえているような感覚をおぼえ、日本時間で夜中の式典と、お昼ごろの音楽イベントの中継を見たあと、それが自分の中に消化されない何かとして蓄積されている。それを消化して心の養分とすることができる人が大勢いることは知っている。しかし私はこれ、食っても消化できないのだ。彼ら・彼女らとて本当に「疑いのなさ」を自身の状態としているわけではないのかもしれない。それを自分に言い聞かせるようにしているのかもしれない。しかし……

……というのが現況なのだが、そんな中にも一服の清涼剤が流れ込んでくるのがTwitterだ。そして私にとっての清涼剤とは……

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不定冠詞の少し変わった用法, 繰り返しを避ける代名詞のthat (ドナルド・トランプ大統領最後の日に)

今回は英文法の実例の話に戻る。ジョー・バイデン新大統領就任の日だから。

フロリダ州パークランドの高校で、2018年のバレンタインデーに起きた銃撃事件をご記憶だろうか。富裕層の多いエリアにあるマージョリー・ストーンマン・ダグラス高校というその高校を襲ったのは、19歳の元同校生徒だった。生徒・教職員合わせて17人が殺害され、17人が負傷した。銃撃を行った元生徒は、いろいろと問題があり、事件の前年に放校処分となっていたのだが、犯行に用いたアソルトライフルは合法的に入手していた。事件後に警察が明らかにしたところによると、容疑者はネットで拳銃やショットガン、ナイフなど武器を見せびらかし、黒人やイスラム教徒への反感をあからさまにしており、警察と「アンティファ」への敵意を示し、1960年代に起きた大学での銃撃事件を再現してやると息巻いていた。同じ学校の生徒からは、ナチズムに傾倒していたことを示す証言もなされている。この容疑者は起訴され、2020年1月から裁判が開始される予定だったが、弁護団が延期を申請したため、6月に繰り延べられ、さらにそこに新型コロナウイルス禍が到来したため延期されて、現在に至る。裁判がいつ始まるのかはまだわからない。

この事件で攻撃された高校の生徒たちの中から、銃規制を求める組織的な運動が起こった。その運動のコア・メンバーの1人が、銃撃が行われている最中に自分の携帯電話で周囲の様子を撮影し、生徒たちに話を聞いて記録していたデイヴィッド・ホッグさんだ。私が最初に彼のことを知ったのは、事件直後の英BBC記事によってだった。

www.bbc.com

このように、非常に目立つ存在となり、銃規制を訴えるようになった彼は、銃規制反対の活動家や、銃乱射事件とみれば「銃規制派の陰謀」だの「実は誰も死んでいない。全部役者のお芝居」だのと言いがかりをつけてはわめきたてる極右陰謀論者の標的となった。それでも彼は黙らなかったし、Twitterでの発言も続けている。

ドナルド・トランプ大統領の任期が終わり、ジョー・バイデンが就任する1月20日を前に、彼は次のようにツイートしている。

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英語圏で起きていることが英語圏から日本語圏に入ってくるまでの時間差について、および入ってくる情報の質について、6日のワシントンDC暴動を例に

今回も、引き続き英文法の解説はお休みして、ネット上の英語での情報について。

18日付でナショナルジオグラフィック日本版の下記のフィードを見た。17日付で日本版に掲載されている英語からの翻訳記事の紹介である。

私が見たのがたまたま18日付のツイートで、実は同じ内容でその前にも何度かツイートされているのかもしれないということで、当該投稿に含まれるハッシュタグを使い、Twitter上を「#シンボル from:NatGeoMagJP」で検索してみたが、これしか出てこないので、これが初出だろう。

ここで日本語訳されているNational Geographicの記事は、14日付の当ブログでも言及しているが、12日付のものである。

つまり、12日付の英語記事が、掲載媒体の日本版で読めるようになるまで、5日ほどかかっているということになる。

これは、翻訳というプロセスにかかる時間を考えれば特に長いわけではない。報道機関が「現地メディアは~ということを伝えた」という形式で大雑把な内容を伝えるときはこんなに時間がかからないのだが、元記事をそのまま翻訳する場合、つまりある英語媒体の日本版として運営されている日本語媒体が英語記事を日本語に翻訳する場合は、翻訳する記事の選定に始まり、翻訳された記事のアップロードに終わる一連のプロセスは、このくらい時間がかかるのが当然だ。もちろん、これは逆の方向(日本語→英語の翻訳)でも同じことが言える。

だから、このように「翻訳記事を待っていると遅くなってしまう」こと自体は当然のことだし、だれかを責めるべき問題でもない。むしろ、それを「問題」と感じるのなら、個々の情報の受け手で解決していくよりないという性質の「問題」であり、英語記事の場合その解決はさほど難しいことではない。自分でアンテナを張って捕捉した記事を、自分で読めばいいのだ*1

*1:日本においては事実上、英語は高校までみんな習っているんだから読もうと思えば読めるはずなわけで、したがって、さほど難しいことではないと言える。

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「英語力があればでたらめを信じることはない」などということはありえない。だが「英語で情報を入れることができるのは必要最低限」である。

今回も、英文法の実例解説はお休み。

前回のエントリに「 『ANTIFAの成りすまし』と主張した人信じた人は英語圏で生まれ育った米国人。ギャップを生んでいるのは英語力では無い。それは英語力が無くても分かること。そして英語力があっても分からないこと」というブコメをいただいた。この記述自体はおっしゃる通りと思うし、実際に賛成するのだが(というか、「英語力があればでたらめを信じることはない」などということは、私は言っていない。「英語で情報を入れることができるのは最低限必要なことだ」ということを言っている。結局のところ、「信者」が何かを信じてしまうことはどうしようもないと思う)、こちらにはこちらの文脈があるので、そこを外さずに読んでいただければと思う。「こちらの文脈」というのは、例えば下記のように明示してあるのだが: 

にもかかわらず、ブコメでは、「実際のところ、極端に多様な典型的なおもしろアメリカ人のひとり、でしかないんじゃないの」とか、「どっちかというと、『ぶっちゃけノリで来たんで』か『このビッグウェーブに』程度の意識の人じゃないの?w」といった発言も見られる。

hoarding-examples.hatenablog.jp

1月6日のワシントンDCでの暴動について、少しでもまじめに英語で情報を入れていたら、こんな言葉が出てくるはずがない。リアルタイムでどういう情報が流れてきていたかは、当日(日本時間では7日早朝)の私のログをご参照のほど(流れてくるツイートで意味がありそうなものはかたっぱしからリツイートしているような状態なので件数がとても多いが)。

真剣に信じている「信者」というより、軽いノリで「そーゆーのもありなんじゃないの、自分は関係ないけど」と、多くの場合おもしろがって傍観している人が、「事実」と「ガセネタ」を同列で示されたときに、「どっちもありうるでしょ。自分にはよくわからんけど」という態度で「ガセネタ」を否定しない/肯定してしまうこと*1が問題だと思っていて、その対処法のひとつとして、日ごろから接する情報量を増やしておくことが有効だ、ということを私は言いたい。そして、アメリカなど英語圏で起きていることに関する情報量を増やすには、日本語になっているものだけを読むのではなく、英語でも情報を入れることが重要だ、というのが私の主張である。極端な言説という原液を、大量の情報という水で薄める、というイメージ。

*1:「信者」でもないのに、あの強烈な陰謀論を否定できない理由はない。

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仮定法過去・過去完了、報道記事の見出し、letとallow、「~年代」の表し方、even ifなど(もしもあの時代にFacebookがあったなら――コメディ俳優が真面目になるとき)【再掲】

このエントリは、2019年11月にアップしたものの再掲である。

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今回の実例は、基本的に「キャラ」としてしか発言しないあるコメディー俳優が、素でおこなったスピーチについての報道記事から。

サシャ(サーシャ)・バロン・コーエンという名前は、日本でも少しは知られているかもしれない。ロンドン出身のコメディー俳優だが、彼の笑いは「悪趣味」とか「露悪」といった方向性の強烈なもので、見ている人が笑いながら「これを笑っている自分って……?」と考え出すような性質の笑いだ。

彼の「キャラ」には、彼をスターダムに押し上げた「アリ・G」(ブラックカルチャーにかぶれたいい家の子が、西ロンドンのギャングの喋り方や服装を真似て自分もその一員だと思い込んでいる、という設定で、そのキャラのまま、ばかげた偏狭な偏見なども隠そうともせず、各界の名士にインタビューする)、「ブルーノ」(オーストリアのファッション・ジャーナリストでゲイ、という設定で、「ゲイ」のステレオタイプを踏まえたうえでの「お騒がせ」を次々と起こす)、「ボラット」(カザフスタンの記者、という設定で、あちこちで人の神経を逆なでして回る姿が「ドキュメンタリーのモック」、つまり「モッキュメンタリー」の形式で綴られる)といったものがある。詳しくはウィキペディアの彼の項からそれぞれの作品(映画)にリンクがはられているので、そこからご参照されたい。 

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どのキャラも「悪趣味」としか言いようがなく、私も最初に「アリ・G」を知ったときは「ついていけない」と思ったし(何本かクリップを見ているうちに笑えるようになったが)、「ボラット」や「ブルーノ」も特に好きではない。

 

サシャ・バロン・コーエンは、どのキャラでも共通して、「信じがたいような偏見を恥ずかしげもなくさらけ出してみせ、それによる相手の反応をみる」という手法を取っている。その偏見の内容には女性差別やLGBTQ差別もあるが、最も強烈なのはユダヤ人差別(反ユダヤ主義)だろう。彼自身、名前を見ればわかると思うが(「コーエン」はユダヤ人の間で非常に一般的な苗字ユダヤ人で、ホロコースト(ショア)を生き延びた人を祖父に持つ。その彼が反ユダヤ主義をそのようにネタにすることは、相手の本音を引き出すための手段であるという。

"Borat essentially works as a tool. By himself being anti-Semitic, he lets people lower their guard and expose their own prejudice", Baron Cohen explains.

https://en.wikipedia.org/wiki/Sacha_Baron_Cohen#Controversies_and_criticism

また、ホロコーストを「語られない何か」にしてしまうことは人々の無関心を呼び、その無関心は将来においてまた同じようなことを引き起こすだろうという危機感を彼は強く抱いている(第二次世界大戦でのホロコーストを可能にしたのは、元々はドイツ国民が人種主義を熱烈に支持したからではなく、「人種主義云々はどうでもいい、とにかく景気をよくしてくれ」みたいな態度だったから、と彼は考えている)。

 

と、そのように中身は至極真面目なのだが、いかんせんコメディー俳優で、常に何かの「キャラ」をかぶって発言している人だ。そういう人が、素で何かを語ることには、本人的には非常に困難を伴う(と、メディアによるプライバシー侵害に関する重要な国会での調査で証言したスティーヴ・クーガンも言っていた)。今回、実例としてみる記事が取り上げているスピーチも、導入部でバロン・コーエンはそう前置きしてから、非常にヘヴィーな話を始めている。

スピーチは11月21日、米ニューヨークのADL (the Anti Defamation League) のイベントで行われた。このスピーチは、現在のデマやヘイトの流布をFacebookTwitter, Google (YouTube) といった巨大プラットフォームが促進しているとはっきり指摘している点で日本語圏でも多少は注目されているが(大手新聞などが取り上げているかどうかは知らない)、それ以上の内容がある。関心がある方は下記にフルの映像とスクリプトがある。25分くらいなので、時間を取って聞いてみてもよいだろう(この人の英語は、多少ロンドン訛りが強く出るところもあるし、ときどき「キャラ」の喋り方をしているところもあるが、基本的に非常に聞き取りやすいので、リスニングの練習にもなる)。

www.youtube.com

スクリプトはこちら: 

https://www.theguardian.com/technology/2019/nov/22/sacha-baron-cohen-facebook-propaganda

 

せっかくのスピーチだし、音声で聞いてみたいが、全部で25分近くあるので全部を聞くのはハードルが高いと思う人もいるかもしれない。その場合、特に注目される部分を切り出して3分半ほどに編集したガーディアンのビデオがあるので、そちらを見ていただければと思う。今回実例として見ている部分は、2分45秒くらいのところから始まっている。

www.youtube.com

 

というわけで、前置きが長くなったが、今回実例として見る記事はこちら(上記スピーチについて紹介する報道記事): 

※記事アップ時、ここに入れてあった参照先記事へのリンクがうまく表示されないようなので、ガーディアンによるTwitterフィードに差し替えました。(27日19時ごろ) 

 

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同格, the + 比較級, 【ボキャビル】credit A with B, 多義語の意味の確定の仕方, 分数の表し方, など(国際男性デーに)【再掲】

このエントリは、2019年11月にアップしたものの再掲である。

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今回の実例は、前回のとゆるく関連したトピックから。

毎年3月8日は「国際女性デー」である。この日*1英語圏Twitterでは、「女は感情的で理性的な思考はできない」という19世紀の誤った、非科学的な迷信にすぎないような価値観を打ち砕くために発言し行動してきた女性たちや、立派な業績があるにもかかわらず女性であるがゆえに正当な評価を得ることができずにきた女性たちを讃える投稿があちこちから相次いでなされる。例えばこういう投稿だ(映像はノーベル賞を受賞した女性たちのスライドショー)。

それと同時に、次のような情けない、嘆かわしい投稿もたくさんなされる。 

「女性たちの功績を讃えよう」という日に、わざわざこういうことを言う人は「女性女性と女ばかり厚遇されているな!」という世界観の持ち主で、普通に知っていて当然のことを知らなかったり、普通に疑問に思ったらちょっと調べればわかるようなことも調べていなかったりすることがよくあるのだが、実際、「国際男性デー」というのもちゃんとある。11月19日だ。

といっても「男性たちの功績を讃えよう」という声は少ない。「男性たち」はいちいち「男性たち」呼ばわりはされず、単に「科学者」だったり「芸術家」だったり「政治家」だったりするのがデフォだからだ。「ウィンストン・チャーチルは英国で最も偉大な政治家のひとりとみなされている」のであり、「ウィンストン・チャーチルは英国で最も偉大な男性政治家のひとりとみなされている」とは言わないし、ましてや「ウィンストン・チャーチルは英国で最も偉大な男性のひとりとみなされている」なんて言ったら「は?」と返されるだろう。逆に、例えばマリー・キュリーについては「最も偉大な科学者」ではなく「最も偉大な女性」という取り上げられ方をしていても違和感は少ないだろう。この非対称性こそが問題だという認識を共有するだけのシンプルなことが、なぜかすさまじい心理的抵抗を引き起こしているのが現状だが。

 

ともあれ、今年私が見かけた11月19日の投稿には「男らしさ」の神話をもっともっと疑問視していくべきだという主旨のものが多かった。「男らしさ」は男性たちを追い込み、追い詰めているというのは、少なくとも25年前には言われていたことなのだが、現状、まだ「男らしさ」という押し付けには問題がある、という認識を共有していく段階のようである。

一方で、上で見たような、3月8日の「国際女性デー」に際してわざわざ「男性デーはないのか」的なことを言わなければ気が済まない人に「今日ですよ」とご親切にも指摘してあげるツイートもある。

これに対して「男性をバカにしてマウントを取っている」とかいうリプがついている地獄のような世界が現実なのだが(誰が誰を「バカにしている」んだろうね? 「国際女性デー」にわざわざ「女はいいな」と卑屈な態度に出てみせるのは「バカにしている」ことにはならないのだろうか?)、それが世間というものならば、今日ここで英語の実例として見る発言はそういうもののひとつというふうに解釈されるかもしれない。なぜそう解釈するのかは私には理解が及ばないことだが。

 

というわけで今回の実例: 

ツイート主のサラ・シェリダンさんはスコットランドの作家。このツイートで取り上げられているチャールズ・レニー・マッキントッシュは19世紀末から20世紀初めにかけて特にグラスゴーで多くの仕事をしたスコットランドの建築家でインテリアデザイナーだ。 

世界現代住宅全集11 チャールズ・レニー・マッキントッシュ ヒル・ハウス

世界現代住宅全集11 チャールズ・レニー・マッキントッシュ ヒル・ハウス

 

*1:日本では時差があるので9日付で流れてくるものが多い。

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(特に英語圏で起きていることについて)英語で情報が入ってくるかどうかがもたらす、泣きたくなるようなギャップについて

今回も英文法はお休みで、前々回前回の関連で書く。(「英文法お休み」と言いつつ、書いてる間に何か出てきたら突然文法解説始めるかもしれないけど、そうなってたら「あらあらうふふ」とほほ笑んで見守ってください。)

前々回のは300件以上のブクマを集め、今日になってもブクマしてくれるユーザーさんがおられるのだが(どうやら大手サイトからリンクしていただいたようだ。ありがとうございます)、「続き」であることを明示してある前回のはブクマ件数もビュー数も物の数にも入らない程度(つまり当ブログ通常運転)である。だが、扱っている内容としては、前回の後半で書いたことのほうがよほど深刻で重要である。

前々回のは、「あのタトゥーを見ても、『あれはANTIFAの成りすまし』とかいう戯言を信じてしまえる人がいるということが信じがたい」ということから書いたものだった。これは日本語圏に限らず、英語圏、というか米国でも、おそらく「成りすまし」説を唱えたのがその界隈の大物であったことに起因しているのだが(宗教の言い方を援用して言えば、「教祖様が白いものを黒と言えば、信者は白いものを黒と信じる」のである)、かなり早い段階で毛皮かぶりもの男本人が「僕はANTIFAなんかじゃありません」というコメントを出しているあたり、苦いコメディのようだ。

そして、当ブログでは、前々回のエントリにおいて、そのことを次のように、出典つき(リンクつき)で明示してある。

ウッド弁護士らにそういわれてしまった毛皮かぶりもの男本人はかなり心外だったようで「僕は正真正銘のQ支持者で、アンティファなんかじゃないですけど。むしろアンティファやBLMに反対してデモしてましたけど」とかいう反応をしているそうで、……

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にもかかわらず、ブコメでは、「実際のところ、極端に多様な典型的なおもしろアメリカ人のひとり、でしかないんじゃないの」とか、「どっちかというと、『ぶっちゃけノリで来たんで』か『このビッグウェーブに』程度の意識の人じゃないの?w」といった発言も見られる。

そういった発言の件数が多いわけではない(むしろ、しっかり読んでいただいているコメントが多いので、とても感謝している)のだが、このpost-truthの環境下では、問題は、「数が多いかどうか」、つまり「多くの人に "支持" されているかどうか」ではなく、「ごくごく一部の極端な思想(を表した言葉)が、最初はごくごく少数の間でしか行きかっていなくても、やがて事態を動かしうる程度の多数(絶対多数ではない)に浸透し、実際に事態を動かす」ということである。そのことを思い知らされてきたのが、2016年以降の4年間ではなかったか?*1

*1:加えて、2010年代、特に2014年以降のイスイス団の思想の西洋諸国での広まりとあの集団の動員力についても、最近よく考えるのだが。

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極右勢力が使っているシンボルについて、さらにわかりやすい資料集&ユダヤ人とトランプ ※今日も英文法はお休み

今回も、いつもの英文法解説は基本的にお休みして、英語で情報を得ているとどんなことが見えるかということの具体例を示しておきたい。

前回のエントリは、当ブログにしては多数のブックマークをいただいている。日本語圏の情報がほんとにめちゃくちゃな中でたくさんの方に読んでいただけて、とてもうれしい。ありがとうございます。

f:id:nofrills:20210114053843p:plain

一件、とても気になるブコメがあるのでそれにお返事しよう。 「実際のところ、極端に多様な典型的なおもしろアメリカ人のひとり、でしかないんじゃないの」というブコメをいただいたのだが、悪いことは言わない、全体、いや、「全体」は無理だからもう少し広い範囲(例えば隣に立ってる黄色いスウェットの男とか)を見て、2秒くらいは頭の底のほうまで神経を動員して考えるということをしてから、発言しような。あと、発言する前に、リンク先読もうな。以上。

追加。「能力主義社会で虐げられた貧しい凡庸な白人達が、ルーツの文化を掲げて抗議するのをバカにするな」書いてないことを勝手に読み取ったうえで公開の場で言いがかりつけるの、楽しいっすか。「貧しく凡庸」などと決めつけてるのはあ・な・た。私はそんなことは書いてない。むしろオーガニック・フードしか食わないお金持ちなんじゃないっすかね。そもそも、極右は金持ちとエリート層が多いんっすよ。あと、どこに北欧がルーツだなどという話が出てたんでしょう。

閑話休題。 

北欧神話のシンボルが極右に盗用されていることはとても微妙な話なのだが、私もそんなに詳しいわけではないから、前回のエントリの中にURLを貼りこんだキム・ケリーさんがCJRに寄せた記事などを読んでいただければと思う(英語としてはかなり読むのが大変な部類に入ると思うが)。

北欧神話のような欧州の土着宗教(paganism)に、ナチス・ドイツを含めて極右が関心を寄せるのは、それが「よそ者」つまり「移民」*1が入ってくる以前の「ピュアなヨーロッパ」のものとみなされるためである。もちろん、バイキングだって自分たちだけで閉じた「ピュア」な状態にあったわけではなく、実際のところはそんなに単純な話ではないのだが、今の状態を「悪しきもの」として否定し、自分たちを "疎外" している「よそ者」がいなかった時代、つまり「回帰すべき過去」を夢見る思想においては、過去が実際にどうだったかなどということはどうでもよくて、ただ勝手に理想化された「過去」があるのみである。そのシンボルとして、北欧神話のモチーフが勝手に使われているのだ。

そういったことについては書籍でリサーチするのが最も手堅いのだが、ネット上でもある程度は確認を取ることができる。例えばここで「北欧神話 極右」、つまり「Norse mythology far-right」をキーワードにして普通にウェブ検索してみると、カナダのアルバータ大学という非常に信頼度が高そうなサイトのURLで下記の記事が見つかる。タイトルはずばり「白人優越主義者たちは、北欧神話を不正な形で使っている、と専門家はいう」。

www.ualberta.ca

この記事は、同大学で北欧研究の講義を担当しているNatalie Van Deusen教授に、大学サイトが話を聞いてまとめたものである。日付は July 30, 2020 となっている。

教授は、2021年1月6日のワシントンDCでの暴動(議事堂乱入)後にも「思えばあのときが決定的な分水嶺だった」的に言及されている2017年のシャーロッツヴィルでのUnite the Rightの集会や、2019年3月のニュージーランドクライストチャーチでのモスク襲撃テロで北欧神話のモチーフが白人優越主義者によって持ち出されていたこと、カナダでも活動しているフィンランドの白人優越主義集団が、北欧の神「オーディン」の名前を冠していることなどに触れ、ナチス・ドイツにさかのぼって、欧州系人種主義者が北欧神話を利用してきたことを解説し、記事の後半ではそのような理解は誤ったものであるということを具体的に指摘している。単語は簡単ではないし、分量も多めだが、カナダで一般的な大学生がサクサクと読めるものとして書かれている文章だから、読みやすいと思う。このトピックに関心がある方には、ぜひ読んでいただきたいと思う。

さて、このほかに、前回のエントリの補足として、さらに資料集的なものをいくつか挙げておきたい。

*1:ナチス・ドイツを含む反ユダヤ主義の思想にとっては、ユダヤ人も有色人種と同じくヨーロッパから排斥されるべき「よそ者」であることに留意。ありもしない「純粋」を求めて、「よそ者」を「悪」とするために仕立て上げられたのが、陰謀論である。

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極右勢力が使っている北欧神話のシンボルについて(議事堂乱入男のタトゥーを読み解く)※今日は英文法はお休み

【追記】本稿には続きがあります。そちらも併せてお読みください。

hoarding-examples.hatenablog.jp

本稿を書いたことで、改めて、英語で情報を入れている人とそうでない人の基本的な了解事項の格差(ギャップ)を知らされました。少しでも埋めたいので、当ブログはしばらくこの話題でこんな感じで続けます。受験シーズンに英文法から離れてしまって申し訳ないです。英文法の実例・解説が必要という方は、過去記事をあさってみてください。【追記ここまで】

 

今回は、英文法の実例とはちょっと方向性の違う内容で。

現地時間1月6日の米国会議事堂乱入についての報道で、やたらと目立っていた人物がいる。角のついた毛皮の帽子をかぶり、槍にくくりつけた星条旗を持って、顔にも星条旗の模様をペイントした男だ。とても目立つので取材陣のカメラにもよく写っていて、この日のために現地に入っていたというフリージャーナリストの横田増生さんの記事(『フォーサイト』掲載)にも、議事堂の外で拡声器で何かを呼びかけている最中と思われる写真が入っている。夏ならまだしも、この寒い時期に、ほかの人々がみなダウンジャケットなどの防寒着に身を固めている中で上半身裸に腰パンでうろうろしているのは、上半身をいろどるタトゥー(刺青)を見せつけるためだろう。そしてそのタトゥーは、ある程度の知識があれば「あ、そちらの方ですか」とわかるようなものである。下記は、当エントリの下のほうでより詳しく言及するローリング・ストーンの記事からの引用だが: 

But there may be an even more blatant sign that Angeli is no friend to antifascists: his much-photographed bare torso is covered in symbols that have long been used by the white supremacist movement.

https://www.rollingstone.com/culture/culture-features/qanon-shaman-maga-capitol-riot-rune-pagan-imagery-tattoo-1111344/

(英文としては、コロンの使い方に注目してほしい。) 

この男――私はTwitterで「毛皮かぶりもの男」と表記しているので*1、こちらでもそうさせていただく――は、実は陰謀論者集団「QAnon」関連の有名人だということが、議事堂の中で騒乱が続いていたときにはもうTwitterで指摘されていたと記憶している。しかしながら、「バイデン勝利」の選挙結果が出た後にドナルド・トランプを再度当選させるべく頑張っているトランプ側の弁護士(のひとり)であるリン・ウッド弁護士が、「あの男はトランプ支持者ではない。アンティファが雇った役者だ(アンティファが成りすましているのだ)」とかいうことをTwitterで発言したという*2。しかも、それがかなりの範囲で信じられてしまっているとかいうことで、陰謀論慣れしているはずの私も泡を食ってしまった。

ウッド弁護士らにそういわれてしまった毛皮かぶりもの男本人はかなり心外だったようで「僕は正真正銘のQ支持者で、アンティファなんかじゃないですけど。むしろアンティファやBLMに反対してデモしてましたけど」とかいう反応をしているそうで、何というか、何もかもがシアトリカルで見世物のようなのだが、何よりも見世物のように思えたのは、この毛皮かぶりもの男の衣装や化粧以上に、この歯である。

数々のニュース記事に添付されたこの写真、どこにも自然なところがないうえに、このきれいすぎる歯並び。「アメリカ人は歯並びをとても気にする」 というステレオタイプがあるが、仮にそうだとしたって芸能人でもない一般人でここまできれいに整えるのはすごいなとある意味感心していたのだが、逮捕後に母親が出てきて「うちの子、食べるものはオーガニック・フードでないと体調を崩してしまうので、金曜日以降何も食べていないんですよ」と語ったとかいうおもしろすぎる話などを報じている英デイリー・テレグラフの記事に入っている写真キャプションによると、俳優で声優なのだそうだ。俳優としての仕事をしているかどうかはさておき、心得はあるのだろう。カメラの前にどう立つのがいいか、よくわかってる感じがする。見せ方がうまい。(ほめているわけではない。)

The hardcore Trump supporter from Arizona is an actor and voice-over artist who is the unofficial "shaman" for QAnon - Agneli with Rudi Guiliani

https://news.yahoo.com/qanon-shaman-jake-angeli-not-101108668.html

ここで引用文の英文法を見ておこう。不定冠詞の重要な用法が入っている。"an actor and voice-over artist" はひとりの人間がactorでもありvoice-over artistでもあるということを述べるときの書き方。これが、「ひとりのactorと、ひとりのvoice-over artist」を述べる場合は、"an actor and a voice-over artist" となる。たった一文字の違いだが、意味が全然変わってくるので、特に冠詞というものを使い慣れていない私たち日本語母語話者にとっては意識的に注意しておくことが必要なところである。

で、この毛皮かぶりもの男が見せびらかしていた上半身のタトゥーだが、当然、それについても英語圏ではかなりいろいろと書かれている。

*1:「イスイス団」の例にならって、なるべく情けない感じで呼ぶことにした。

*2:私はその発言を直接確認していないので伝聞体で書いておく。ウッド弁護士のTwitterアカウントは凍結されているので、発言の確認が直接は取れない状態にある。ウッド弁護士の暴力煽動は度を越していて、さすがにドナルド・トランプのやり方に従えなくなったマイク・ペンスについて非常に危険な煽動をTwitterなどで行っている。

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to不定詞の意味上の主語, if節のない仮定法, 分詞の後置修飾, など(ドナルド・トランプは混乱収束のために何もしていない)

今回の実例はTwitterから。

現地先週水曜日(1月6日)のワシントンDCでの騒乱(議事堂乱入)を受けた事態は、まだ全然終わっていない。トランプ政権から、残る任期はほんのごくわずかという段階になってから、次々と閣僚が離脱している現状は、政権の「終わり」のように見えるかもしれないが、ワシントンDCの政治の中枢の外に目を向ければむしろあれは「始まり」であろう。6日の乱入時のように「ボスからの指令」を待っている武装した人々が、全米各地で組織化した形で存在していることは、FBIが明らかにしている通りだ。だから(日本語の中に閉じた世界ではどうか知らないが)「全世界の目がアメリカに注がれている」状態になっていて、BBC Newsのサイトは今、次のようになっている。

f:id:nofrills:20210112181042p:plain

TwitterFacebookドナルド・トランプのアカウントを停止・削除したり更新禁止にしたり、また、今回の議事堂乱入関係者が広く使っていたSNSサービス「パーラー Parler」(ここは「言論の自由」を標榜しつつユーザーに社会保障番号を登録させるなどしていたのだが)が、Apple (iPhone) やGoogle (Android) から追放され、Amazon Web Serviceからも切られたりしているのは、そのような「ボスからの指令」の経路を断つためで、形式上は「私企業の判断」ではあるが、おそらくそれ以上の背景があってのことだろう。

とにかくドナルド・トランプはおとなしく「終わり」にするつもりなどないということをかねがね公に発言してきたわけで、これから1月20日の新大統領就任式までの期間で、また就任式当日に何が起きるかはまだわからない。

そういう状況下だが、6日に何があったのか、この数日で細部が次々と明らかになってきてはいるが、米国の政治の中枢があのような形で襲われた(それも手製の爆発物まで持ち込まれていた)というのに、国としてのまとまった声明はいまだに出ていない。トランプ自身も、Twitterが最初に「12時間のアカウント凍結」という措置をとったのが解除されてすぐに投稿したビデオで、なんかそれまでと全然違うことを言い出してはいたが、それをフォローするようなことは何もしていない。

そういう問題を指摘しているのが、英インディペンデント紙のリチャード・ホール記者の次の発言である。ホール記者は11月にフォー・シーズンズ・トータル・ランドスケーピングでの奇妙な記者会見の現場から実況していたが、1月6日の議事堂にも行っていた(最終的には報道機関の人々が機材を奪われ暴徒に襲われているのを目撃していたが)。

というわけで今回の実例はこちらから: 

 

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《結果》を表すto不定詞, 接続詞のyet, despite -ing, in one's own right (芸術家ドラ・マール。「ピカソの愛人」扱いはもう終わり)【再掲】

このエントリは、2019年11月にアップしたものの再掲である。

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今回の実例は、ロンドンのテイト・モダーンで開催される美術展に関連して、ある芸術家の生涯と業績をざっと振り返っている記事から。

ピカソという画家は、美術に興味のない人でも「偉大な画家」として(あるいは「わけのわからない絵を描いているのになぜか巨匠とされている理解しがたい画家」として)知っているくらいに有名な画家だ。美術に少し関心がある人なら、彼が生涯で何度かがらりと作風を変えたことも知っているだろうし、かなり長生きしたことや、いわゆる「女性関係」が現代では顰蹙を買うようなものだったことも、評伝などを読んで知っている人もいるだろう。

 個人的には、精神的に疲れたときなんかにピカソがささっとサインペンか何かで描いたようなシンプルな素描を見ると気が休まるのだが、漠然と「女性の扱い」について腹が立っているようなときには絵の向こうにあれこれ問題が見えてきてしまい、「どのツラ下げて鳩とか!」などと思えてくるので逆効果。いろいろと難しい。

 というわけで、ピカソのことはよく語られるし、ピカソと深くかかわった女性たちのことも、「天才画家の生涯を彩った女性たち」的なナラティヴで、わりとよく語られる。

「彩った」だなんて、サンドイッチに添えられるパセリか、刺身に乗せられる菊*1みたいな扱い方をされてしまっているが、彼女たちはピカソの添え物である以前にひとりの人間だった。

 

ドラ・マールは、1930年代後半から45年までピカソの「愛人」だったこととか、『泣く女』のモデルになった女性であることとか、『ゲルニカ』の制作光景の記録者となったことで知られているが、彼女自身アーティストであり、ピカソと知り合う前から、パリのシュルレアリスムの芸術家たちの一員として活躍していた。 

Dora Maar

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ゲルニカ―ピカソ、故国への愛

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そのドラ・マールの作品展が、パリのポンピドーセンターからロンドンのテイト・モダーンに巡回してくる(来年はロサンゼルスにも行く)とのことで、彼女についてまとめた記事がBBCに出ているわけだ。

記事はこちら: 

www.bbc.com

*1:あれはたんぽぽではない。

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やや長い文, provide A with B, a chance to do ~, have one's sayなど(内戦を超え、独立を問うレファレンダムを実施する島)【再掲】

このエントリは、2019年11月にアップしたものの再掲である。

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今回の実例は、南太平洋の小さな島のニュースから。

地図帳が手元にある人はそれを開いてみていただきたい(地図は、世界史年表についているのでも何でもいい)。日本の本州から太平洋をずっと南に進んでいって赤道を超えたところにあるかなり大きな島がニューギニア島。ここは東西真っ二つになるように国境線が引かれていて*1、西側はインドネシア領、東側はパプアニューギニア(頭文字を取ってPNGと表記される)という独立国のメインランドになっている。

PNGという国は、そのメインランドのほか、周辺にある島々を集めてひとつの国を構成している。その島々のひとつがブーガンヴィル島 (ブーゲンヴィル島: Bougainville Island) である。この名前からは、花の「ブーゲンビリア」が容易に連想されるが、この島とその花とは直接関係はない。ただしどちらも、18世紀から19世紀初頭にかけて世界を巡ったフランスの航海者、ド・ブーガンヴィルに名前の由来がある。

この島は、19世紀の帝国主義の時代はドイツ領とされ、20世紀は第二次世界大戦(太平洋戦争)の戦場とされる時期もはさみつつ*2、オーストラリアの統治下とされたあと、1975年のPNGの独立の際にPNGの一部となった。しかし1988年には島のPNGからの独立運動が起きる。20世紀後半、西洋諸国から独立した国で、さらに分離独立運動が起きることが頻発したが、多くの場合、その背景には豊富な地下資源をめぐる思惑があった*3。ブーガンヴィル島の独立運動も例外ではなく、この島には世界最大級の銅山があった。独立運動を戦った軍事組織、「ブーゲンビル革命軍 (BRA)」についてのウィキペディア記事から: 

ブーゲンビル革命軍(英語: Bougainville Revolutionary Army, BRA)は、パプアニューギニアからの独立を求めるブーゲンビル島の先住民たちによって、1988年に結成された軍事組織。

BRAの指導者たちは、ブーゲンビルは民族的にはソロモン諸島の一部であると論じ、島内で展開されていた大規模な鉱業は地元に利益をもたらしていないと主張した。1989年、BRAの指導者たちはパプアニューギニアからのブーゲンビルの独立を宣言し、ブーゲンビル暫定政府を樹立した。この結果、BRAと、オーストラリアの支援を受けたパプアニューギニア政府軍との間で、戦闘が激化していった。

1991年1月、ホニアラ宣言(で停戦が合意された)。しかし、停戦は程なくして破れ、戦闘は継続した。1997年、国民会議党のビル・スケートがパプアニューギニアの首相に選出され、ブーゲンビル紛争の平和的解決を最優先の課題とすることを公約した。

こういった取り組みの結果、the Bougainville Peace Agreement (BPA) という停戦協定(和平協定)で1988年12月から1998年4月まで続いた内戦は終わり、2005年にはブーガンヴィル島に自治政府が発足した。 

この協定には、「2020年6月までにブーガンヴィルの独立を問うレファレンダム(住民投票)を実施すること」と明記されていた。そのレファレンダムが、紆余曲折はあったものの、今週末、2019年11月23日から12月7日の日程で実施されるということで、そのレファレンダム実施委員会の委員長を務めるバーティ・アハーンがガーディアンに寄稿している。今回はその記事を見よう。記事はこちら: 

www.theguardian.com

バーティ・アハーンは1997年から2008年までアイルランド共和国の首相を務めた政治家である。日本で多少でも知られているとしたら「アイルランド経済を『ケルトの虎』と呼ばれるまでの好調に導いた政治家」としてかもしれないが、国際社会で彼が今なお一定のステータスを持っているのは、2008年のリーマン・ショックであっけなくポシャった「ケルトの虎」(「ケルトの猫になった」と言われた)の功績のためではなく、前任者の仕事を引き継いで、1998年4月のベルファスト合意(グッドフライデー合意)を実現に持ち込み、誰も終わらせることができないと思われていた北アイルランド紛争を終わらせたという功績による。グッドフライデー合意は実に交渉のたまもので、つまり当事者すべてから一定の「妥協」を引き出したことでようやく成立したのだが、今回のブーガンヴィル島独立レファレンダムについての文章でもそういったことが語られている。

 

*1:この国境線は、19世紀の帝国主義の時代に西洋列強がこの島を植民地化し、オランダとドイツとイギリスの間で勝手に分割したことによる。西側はオランダ領とされ、そこからいろいろあって(いろいろありすぎるのだが)今日のインドネシアになった。東側の北半分はドイツ領、南半分はイギリス領とされた。イギリス領の部分はその後オーストラリアに継承された。第一次世界大戦でドイツが敗北すると、島の東半分はオーストラリアの統治下におかれた。第二次世界大戦でめちゃくちゃなことになったあと、戦後は引き続きオーストラリアが統治したが、1975年に「パプアニューギニア」という独立国家となった。そのあたりのことはウィキペディア日本語版でも確認できる。

*2:日本語圏でこの島の名前でウェブ検索すると、第二次大戦で日本軍が大量死したことやその関連の記述ばかりが上に来るようだ。現在のことというよりも。

*3:それに加えて、東西冷戦の構図、つまり「防共」という名目もあることが多かった。これについてはインドネシアの例を参照するとわかりやすいだろう。衝撃的なドキュメンタリー映画『アクト・オブ・キリング』を参照。

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