Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

関係代名詞の非制限用法, let + O + 原形, 時制(10年前、エジプトのカイロで: その1)

今回の実例は、Twitterから。

10年前の今ごろ、世界の目はエジプトの首都カイロに注がれていた。2011年1月25日、近隣のチュニジアでの革命に刺激を受けた人々が、自国の独裁者ホスニ・ムバラク(彼は形だけの選挙を行って、自分の息子に後を継がせるつもりでいたという)に退陣を求める平和的抗議行動を組織化して開始した。エジプトでは1月25日は「警察の日」で、「革命」派は、前年6月にハリド・サイードさんという青年が警察に捕らえられて拷問死したことに抗議するためにこの日を選んで、いくつかの都市で大規模なデモを組織した。首都カイロ市の中心部にある「タハリール広場」(「タハリール Tahrir」は「解放」の意味で、20世紀はじめの対英独立運動にルーツのある名称である)は、初日から「革命」派が座り込みを行い、人々が集う中心地となった。世界のメディアもそこに集まった。

革命派の人々がテントを張るようになった広場内には、携帯電話・スマートフォンとソーシャルネットが必要不可欠の存在だったあの「革命」を支える電源供給所のようなものから床屋まで揃っていた。

私も連日、ネットでだれでも登録などなしで自由に見られるアルジャジーラ・イングリッシュの24時間ニュースをつけっぱなしにして、現地から送られている英語でのツイート(エジプトのあの「革命」の中心となっていたのは大学生などインテリで、エジプトに限らずアラブのインテリは、英語は自由に使える人が多い)を日本語にしてリツイートするなどしていた。緊迫した状況だった。広場にいつ戦車が突入してもおかしくなかった(1989年6月4日の北京の天安門広場のように)。モニターの向こうからこの状況を注視している人たちは、「世界の目が注がれている」という状況を作ることで、現地の人々を守れると考えていた。そしてこのときは実際にそうだった。この時期までは、「惨事はメディアを排除して密室化したところで行われる」というのが基本的なことだったのだ。ほんの2年後、2013年の夏に同じエジプトのカイロで世界のメディアの目の前ですさまじい虐殺が行われて、そんな基本的な約束事は過去のものになったのだが、少なくとも2011年2月初めの時点では、「密室化させてはいけない」という思いで、世界中の人々が、タハリール広場を見つめていた。そのことがタハリール広場が全エジプトを代弁する存在であるかのような錯覚を生じさせた(そのことはのちに、あのときあの広場の中から様子を英語で実況ツイートしていたアメリカ人のジャーナリストや研究者、アナリストといった人々が反省していたのだが)。

2月1日の広場の映像がある。女性の服装を見るとわかりやすいのだが、イスラム教のルール通りに髪の毛や肌を覆っている人たちもいれば、普通に西洋的な服装で首やデコルテ、腕を出したTシャツ姿にまとめ髪という人たちもいる。年齢もさまざまで、子供連れの人たちもいる。プラカードは「海外」に見せるための英語も多いが、マジックで手書きしたようなものが多く、組織が配っているような雰囲気ではない。

www.youtube.com

こういった中から状況を伝えていたアメリカのジャーナリストのひとり、ニューヨーク・タイムズのリーアム・スタックさんが、10年前のことを振り返って連続ツイートをしている。

文法的には《関係代名詞の非制限用法》と《使役動詞let + O + 原形不定詞》が出てくるのが注目ポイント。《remind + 人 + that ...》の構文もあるが、前から順番に読んでいけば意味を取りそこなうことはないだろう。

続きを読む

仮定法過去(もしも保守党が本気でNHSに金をかけたいと思っているのなら……)【再掲】

このエントリは、2019年12月にアップしたものの再掲である。

-----------------

今回の実例はTwitterから。

英国では今週の木曜日、12月12日が総選挙の投開票日である。12日の朝から夜まで投票が行われ、即日開票となり、だいたいの議席が確定するのは翌13日(金)の見込みである。

今回、なぜこんな変な時期*1に総選挙になっているのかということは、書くならこのブログではなく本家のブログに書く話だから、そこは割愛する。

その選挙の投票日を前に、いろんな言葉が報道機関のサイトやTwitterなどを飛び交っているのだが、英国の今の保守党(現在の政権党)の嘘つきっぷりと卑怯者っぷりは日本の現在の政権与党もビックリのレベルで*2、保守党批判の論理的で鋭い発言が多い。

今回の実例はそういった発言から。

 

*1:通例、英国ではこの時期は基本的にクリスマス・ムード一色だ。ちなみに「クリスマス」といっても宗教色はもはやさほど濃くなくて、全体的には年に一度、人にカードを送ったり、プレゼントを用意したり、家族・親族が集まる機会、という感じ。日本でのお盆のほうがまだ宗教っぽいというケースも少なくないだろう。

*2:それでも、英国のほうが締めるべきところは締めているから、まだ日本よりましだと思うけど……とかいうことを書いてると突撃されそうだから書くのやめとく。

続きを読む

仮定法過去完了(ifの省略と倒置)(引退を賭けた試合に勝利したボクサー)【再掲】

このエントリは、2019年12月にアップしたものの再掲である。

-----------------

今回の実例はTwitterから。

現地時間で2019年12月7日(土)の夜、サウジアラビアでボクシングのWBAスーパー・IBFWBO世界ヘビー級タイトルマッチが行われ、アントニー(アンソニー)・ジョシュアが勝利した。

www.afpbb.com

私は詳しくないのだが、この試合は「因縁の一戦」として注目されていて(6月に試合が行われてルイスが勝利し、今回ジョシュアが王座奪還をかけて再試合を行ったという次第)、試合中も試合後もUKのTwitterではずっと関連のハッシュタグがTrendsに入っていた。ジョシュアは英国生まれで子供時代を両親のルーツのあるナイジェリアで過ごし、11歳からずっと英国に暮らしてきたという背景があり、英国のみならずナイジェリアでも大きな注目を集めていた。

というわけで今回の実例: 

 

続きを読む

分詞構文, やや長い文, 倒置, those + 形容詞, among(中村哲さんと5人のアフガニスタン人の殺害)【再掲】

 このエントリは、2019年12月にアップしたものの再掲である。

-----------------

今回の実例も前回と同じトピックで、ただし個人のツイートではなく報道記事から。

アフガニスタン中村哲さんの車が何者かに銃撃されて、車の中の人たちが殺されてしまったことは、世界中で報じられた。そのことはすでに日本語でも「世界が悼む」調で報じられているが、英語圏のトーンは「中村さんが殺された」ことを強調しつつ、そこだけに話を持っていっていない。「全部で6人が殺された」ことを見出しで大きく取り上げているものが多い。「1人の日本人と、5人のアフガニスタン人」という語り方だ。

それは単に英語圏のメディアが日本でもアフガニスタンでもないからで、殺害されたのが、例えば1人の英国人と5人のアフガニスタン人だった場合は英国のメディアはその「1人の英国人」を中心に据えるだろう。

だから今回、日本のメディアが「中村哲さんが殺された」ことにスポットライトを当てて「ほかに5人が死んだ」ということは、今のところほとんど書き添えるような形でしか言及していないとしても、それ自体は特に例外的なことではない。

その上であえて書くが、私はこの悲報にショックを受けているときに英語圏の報道記事の見出しを見て、何というか、距離を取ることができたように感じている。

というわけで今回の実例は、そういった英語圏の報道記事のひとつから。

記事はこちら: 

www.theguardian.com

リード文がこの内容というのはこの際どうでもいいことで(こういうときに、当該国の政治トップの発言をメディアが大きく取り上げるのは、形式的なことだからね)、まずは見どころは見出しだ。直訳すれば、「日本の支援組織の長が、アフガニスタンでの攻撃で死亡した6人の中にいる」。

記事自体は淡々と事実を述べるもので、報道記事としては平易な英語で書かれており、高校の英語教科書で中村さんの活動について書いてあった章とあまり変わらない程度の難易度なので(単語は少し難しいかもしれないので辞書は必須)、ぜひ、ご自身で全文をお読みいただきたいと思う。

 

続きを読む

have + O + 過去分詞, やや長い文, 挿入, など(世界に広まる森発言)

今回の実例は、Twitterから。

東京オリンピックパラリンピック大会組織委員会森喜朗会長の発言が大炎上している。英語圏でまで炎上している。っていうかフランス語圏でも炎上している。五輪種目に「墓穴掘り」があったら、難易度の高い「炎上」も完璧にこなして満点だ。

発言は、「女性蔑視」と伝えられているが、具体的にどういうものであるかは各自でご確認を。日刊スポーツが全文を文字起こししているので、そこから。文中「山下さん」はJOC会長の山下泰裕氏のこと(山下氏は1980年代に活躍した柔道の名選手でもある):

実を言うと昨日、組織委、JOC、東京都みなさん、国、関係者集まり、自民党本部で関係各位の会議がございました。その最後に山下さんがあいさつした。びっくりした。これが山下さんなんだなと。柔道以上にけれんみがあった。本来、山下さんがあれだけ立派な演説をするとは。みんなそう言っていた。しゃべり方だけではなく、理路整然と1つ1つしっかりした話をされてました。この原稿は籾井さんが作ったのかなと。いろいろ考えましたが、いずれにしてもみんな力を合わせて山下会長を守っているのだと安心しました。……

これはテレビがあるからやりにくいんだが、女性理事を4割というのは、女性がたくさん入っている理事会、理事会は時間がかかります。これもうちの恥を言います。ラグビー協会は倍の時間がかかる。女性がいま5人か。女性は競争意識が強い。誰か1人が手を挙げると、自分もやらなきゃいけないと思うんでしょうね、それでみんな発言されるんです。結局、女性はそういう、あまり私が言うと、これはまた悪口を言ったと書かれるが、必ずしも数で増やす場合は、時間も規制しないとなかなか終わらないと困る。そんなこともあります。

私どもの組織委にも、女性は何人いますか。7人くらいおられるが、みんなわきまえておられる。みんな競技団体のご出身で、国際的に大きな場所を踏んでおられる方ばかり、ですからお話もきちんとした的を射た、そういうご発言されていたばかりです。……

www.nikkansports.com

何というか、この人の場合、とにかく他人をバカにするのが「話術」と思っている、という感じで、森氏の政治家としての現役時代を強く思い出させる。「世の中には2種類の人間がいる。私がバカにする人と、私がバカにしない人だ」という感じ。一体何様のつもりなのだろうと呆れるよりない。

山下氏に関しては感心してみせているが、実際のところは「ろくにスピーチなどできないだろうとバカにしていたが、非常に立派なスピーチをされた」という話で、そもそも失礼だろという発言である。しかもたぶん本人もそう思っているのだろう、「みんなそう言っていた」という予防線を張っていて、実にこざかしい。なぜ単に「これまで聞いた中で一番のスピーチだった」という感じで語らないのか。

ともあれ、これが日本語圏の外でも炎上したのは、「女性を会議のメンバーに加えると議事進行が滞る」というバカげたことを堂々と述べていたからだ。*1

日本のメディアはこういうバカげた発言を「持論を展開した」とか「〇〇節は健在」と描写し、その人の個性であるかのように扱うのが常だが、公的な立場にある人物の公的な場での発言について「持論」扱いしてくれる優しさ*2は、日本で開かれることになっている五輪について伝えようとする日本国外のメディアにはあまりない。

というところで今回の実例: 

 当ブログは英文法のブログなので、以下は英文法の解説だけ。

*1:森氏は、政治家として現役だったころもこういうふうな発言をいろいろぶちかましていたわけだが、そのおかげであっという間に(1年ほどで)首相の座から滑り落ちた。そのあとに来たのが「自民党をぶっ壊す」と歯切れよく叫んで登場した小泉純一郎氏である。それから20年、「壊された」自民党のダメなところは復元力が強く、さらに昔は最低限の節度は保たれていたのにそれすらなくなって、公的文書のめちゃくちゃな破棄や改竄とかまでやるようになってしまっている。

*2:「忖度」とも「印象操作」とも言う。

続きを読む

仮定法過去完了と仮定法過去が同居した文(ワシントンDC暴動で亡くなった警官)

今回の実例はTwitterから。

前置きなしでいきなり行こう。ツイート本文中の "Sicknick" は人名(姓)で、1月6日のワシントンDCでの暴動(議事堂襲撃)の際に暴徒に消火器で頭を殴られ、翌日息を引き取った警官、ブライアン・シクニックさんのことである。12日に故郷で葬儀が執り行われたこの殉職警官の遺灰が議事堂に迎えられて安置され、彼を国家としてたたえる行事が現地2月2日(大まかに、日本では3日)から始まった。そのタイミングでのツイートである。

@stuartpstevensさんのこのツイートは、シクニックさんの遺灰を迎える準備が整った議事堂の様子を伝える地元TV局記者の映像ツイートに対するリプライというか補足のような引用リツイートである。

見ただけでわかると思うが、《仮定法》である。

続きを読む

付帯状況のwith, 形容詞+of+人(大雪とニューヨーカー)

今回の実例は、Twitterから。

北米の中部から東海岸にかけての広いエリアで、冬の嵐が猛威をふるっている。Twitterで北米の報道機関やジャーナリスト、市民のフィードを見ていると、雪には慣れているはずの地域の人たちが本当に外出できないレベルの雪に見舞われているということがわかる。新型コロナウイルスのワクチン接種も、荒天の間はひとまず中断で、この期間に予約を取っていた人たちは繰り延べか予約の取り直し(リスケジュール)ということになったそうだ。この嵐についての2月2日付ワシントン・ポスト記事

www.washingtonpost.com

さて、今回の実例は、この荒天のなか、ニューヨークから送信されてきたツイートより。2件の連続ツイートだ。堅苦しくなく、なおかつ崩れすぎていないごく普通の、会話体の英語の文面である。

 

続きを読む

英語の文章をざくざくと読むということ/やや長い文(文が長くなる仕組み), 挿入, 分詞構文など(ミャンマーのクーデター)

今回の実例は報道記事から。

日本時間で今朝2月1日の朝8時ごろ、Twitter英語圏のジャーナリストたちが次々と、ミャンマービルマ)で軍がアウンサンスーチー国家顧問(事実上の国家指導者)を拘束したいうことを伝えた。つまりクーデターだ(その時点ではまだ「クーデターと思われる」という留保付きだったが)。ジャーナリストたちのソースはロイターの報道で、その報道はアウンサンスーチー国家顧問の所属する政党NLDのスポークスパーソンの発言(発表)に基づくものだった。日本とミャンマーの時差は2時間半で、日本時間で8時はミャンマーでは5時半だ。要人の拘束が行われたのはそのさらに前、つまり夜中だが、日付が変わった後のことではあったようだ。

アウンサンスーチー」はラテン文字(アルファベット)で書くと Aung San Suu Kyi で、Twitterのような場では(Twitterだけではないが)これを省略してASSKと表記することも多い。よってTwitter検索するときは2通りの検索語を使うと漏れがない。

"Aung San Suu Kyi" - Twitter Search

News about ASSK on Twitter

ロイターの上記の報道は即座に日本語圏にも入ってきたし、日本の報道機関の記者の人たちも即座に反応し始めていたので、今回は英語圏の報道と日本語圏でのそれとの間にはほとんど時差はなかった。そもそもミャンマーの場合は、英語圏にだって現地から何らかの形で翻訳情報が入らないと話が伝わらないのだが、企業の拠点など現地との経済上の結びつきは、現在、英語圏諸国より日本のほうがよほど強くなっていると思われるし、時差だって米州や欧州に比べて日本のほうがずっと小さい(日本で月曜日の朝、人々が活動を始める時間帯に入ってきたこのニュースは、欧州では日曜の夜、人々が寝るころのニュースだったし、ワシントンDCなど米国の東海岸の時間では日曜の夕方のニュースだった*1)。

ともあれ、最初にロイターが速報してから1時間もしないうちに、日本語圏でも英語圏でも各メディアが記事を出しており、ネットにつながっていさえいれば私たち一般人も、ミャンマーで何が起きているのかをほとんどリアルタイムで知ることができる、という状況になっていた。

こういう状況は、報道されることの中身や「現地の人々が心配だ」といったこととは別に、英語学習という点ではよい機会となる。日本語での報道を読んで、何が起きているかを知った上で同じトピックについての英語記事を読むことで、英語ではこういうことをどう表現するのかといったこともわかるし、リアルタイムでフォローしていれば、どういう緊張感、どういうスピード感があるのかも(疑似的にではあるかもしれないが)体験できる。

というわけで、ここで英語の記事を見てみよう。例えばガーディアン

www.theguardian.com

*1:つまり欧州でも米州でも多くの人々がリアルタイムで反応できる状態にあり、「アウンサンスーチー拘束」を伝える報道機関やジャーナリストのツイートには、ロヒンギャ迫害を正当化したことでかつての「人権と自由のアイコン」が失ったことをはっきりと示すリプライがたくさんついていた。ジャーナリストやアナリストのような人たちは別だが、一般の人々の間では、アウンサンスーチーは、彼女がやったわけではない迫害の責任者のように冷たく扱われていた。(言うまでもないことだが、ロヒンギャ迫害をやったのは軍で、ASSKはその非人道行為を追及するどころか、軍の側に立った。

続きを読む

祈願文, can not do ~ enough, thank〈人〉for 〈物事〉(「中村さん、ごめんなさい」――アフガニスタンに命の水をもたらした人)【再掲】

このエントリは、2019年12月にアップしたものの再掲である。

-----------------

今回の実例は……といつもの書き出しで書き始めるのもつらい。中村哲さんが殺されてしまった。

中村哲さんについては私がここで説明するまでもないだろう。今20代以下の人の多くは「英語の教科書で、アフガニスタンでの井戸掘りや用水路づくりの仕事が紹介されていた、日本の偉人」として認識しているだろう。 

アフガンに命の水を

アフガンに命の水を

 
天、共に在り アフガニスタン三十年の闘い

天、共に在り アフガニスタン三十年の闘い

  • 作者:中村 哲
  • 出版社/メーカー: NHK出版
  • 発売日: 2013/10/24
  • メディア: 単行本
 

 

中村さんは医師。1980年代からパキスタンで医療活動に従事したあと、90年代にアフガニスタンでの活動を始めた。「人が生きていくこと」の根本を追求した中村さんの活動は医療にとどまらず、「水」をめぐる途方もないプロジェクトの実行へとつながっていった。ウィキペディアでも概略はつかめるので、教科書で中村さんの活動について読んだわけでもなく、名前だけぼんやりと知っているとか、軍事的親米の人たちが声高に批判してみせているので認識しているとかいう方は、一通り目を通していただければと思う。

ja.wikipedia.org

 

中村さんは、長年の活動により、ほんの2か月前にアフガニスタンの「名誉国民」になったばかりだった。「名誉国民」なのでもう外国人として滞在許可を得たり滞在ビザを延長したりする必要なく、いつでも好きなときに行けるようになった、その矢先の卑劣な暴力だ。

中村さんの殺害を受けて、Twitterではアフガニスタンの人々からたくさんの言葉が捧げられている。ごく一部だが、拾えるものは拾って記録した。

matome.naver.jp

すべてが中村さんを賞賛する内容だが、意図的に編集してこういうふうにしたわけではなく、本当に批判することばはほとんどなかった――「ほとんどなかった」というのは、1件だけ見たからだが、その1件は明らかにその筋*1なので無視するのが当然と思われた。

 

今回の実例は、こういった言葉の中から。ツイート主はアフガニスタンの外交官である。

 

*1:それがどの筋なのかを書くことは、私は避けねばならない事情があるので(脅迫を受けている。詳細は本家ブログを掘ってね)、曖昧な記述になることはご容赦いただきたい。

続きを読む

過去分詞単独での後置修飾(精神疾患と凶悪犯罪)【再掲】

このエントリは、2019年12月にアップしたものの再掲である。

-----------------

今回の実例は、いつもの「大学受験生向け」という枠を取っ払って、ちょっと例外的な実例のメモとして。

数日前まで日本語版電子書籍がセールで安くなっていたサイモン・ウィンチェスターの『博士と狂人』は、19世紀末から20世紀はじめの英国での一大事業であったThe Oxford English Dictionary (OED) を作った重要人物である言語学者(博士)と、OEDの編集方針に応じて内容を作り上げる作業に協力した精神病院入院患者にして博学なボランティア(狂人)の実話を核に、辞書を作ること、英語とはどのような言語であるかということを、辞書好きのジャーナリストが史料を集め読み解いて丹念に解き、わかりやすく綴った一冊である。メル・ギブソンショーン・ペンで映画化されているが、ブログに書いたように、日本で見られるようになるのかどうかはわからない。それどころか、アラブや欧州の一部地域ではすでにロードショーが行われているものの、米国では限定公開の状態だし、物語の舞台である英国でもまだ公開されていない(権利周りでもめたせいだろう)。 

 

この驚くべき実話の「狂人」とは、おそらく戦争体験が引き金のひとつとなって精神病を発症し、療養のために赴いたロンドンで妄想のために殺人を犯して、生涯を精神病院で過ごすことになったアメリカ人である。

彼、ウィリアム・チェスター・マイナーは19世紀という時代にスリランカに赴いていた米国の福音主義者の夫婦の間に生まれ、長じて米国に戻り、勉強を重ねて医師となったあと、南北戦争を戦っていた北軍に入り、軍医として悲惨な戦場を経験した。彼は医師として本来すべきではないことを上官の命令に従って実行した。そして精神的に崩壊して除隊となり、以後は元軍人として自身の病を癒しながら暮らしていくはずだった。しかし、彼は戦場でやらされたことが原因で大変な妄想を抱くようになっており(この部分、「ネタバレ防止」のためにぼやかして書いているけど、19世紀の歴史に興味がある人にはとても興味深いと思う)、その妄想ゆえに、ロンドンのテムズ川南岸のランベス地区(当時はロンドンに組み込まれていなかった)で、単なる通りすがりの労働者を殺めてしまった。そして殺人罪で裁かれることになったのだが、裁判では最終的に「精神疾患のため罪には問えない(無罪)」と判断され、その後生涯を、当時新築の精神病院の閉鎖病棟の中で、厳重な管理と監視のもとに置かれて、過ごすことになった。

マイナーは元々非常なインテリで、妄想が起きなければ、非常に頼りになる知識人だった。そのため、OEDをつくるという途方もない仕事をしていた言語学者のジェイムズ・マレー博士に協力していくことになる――という『博士と狂人』は、サクサクと読み進めておもしろく、深く読み込んでまた面白い本である。原著の出版が今から20年ほど前で、当時はインターネットも言語学におけるコンピューターの活用もまだまだささやかなものだったのだが、そのような技術とその利用が今のようになると想定されていたら、もっと違う切り口もあったかもしれないと思ったりもするが、ことばを使う誰もが一度は読む価値がある本だと思う。

 

という次第で、セールの機会に電子書籍版を購入して読み直しているのだが(紙よりも細かい読みができる……というか、紙だと読み飛ばしてしまうところが多い本だと思う)、つい昨日、この「狂人」を思い起こさずにはいられない記事を読んだ。

www.theguardian.com

 

イングランド、デヴォン州のアレクサンダー・ルイス=ランウェルは、パブリック・スクールで教育を受けたような人物だが、今年2月8日の朝、農場の動物たちを勝手に外に出しているところを現行犯逮捕された。このとき本人が精神鑑定を拒否し、自分は自傷も他傷もしないと主張していたのだが、母親は警察に電話をして、他に行くところのない人間なので拘置しておいてほしいと告げた。

彼は拘置施設内で暴れ、施設の房を破壊した。農場からの動物の強奪と警察施設破壊で起訴され、その後、9日の早朝に保釈となった。

その7時間後、彼は鋸で83歳の男性を襲い、また逮捕された。このとき彼の留置を調べた警官は「釈放されれば公衆にとって深刻な危険を及ぼす可能性がある」としており、被害者の83歳男性も外に出さないようにしてほしいと述べていた。2度にわたる警察での拘束中に、5人の医療専門家(医師)が彼を診たが、即座に何かしなければならないほど状態が悪いとは結論されず、正式な精神鑑定は実施されなかった。検察も、この襲撃事件で起訴に足るほど十分な証拠がないと結論し、2月10日の朝9時半ごろに保釈となった。

同日昼の12時半には、アレクサンダー・ルイス=ランウェルはデヴォンからエクセターに移動していた。彼は、ある家の前で足を止めた。家の玄関ドアには、この家の住民が80歳であることがわかるようなメモがあり、ここで妄想が炸裂し、どういうわけか、この家の住民である老人は25年前に女の子を誘拐して、地下室に監禁していると思い込んだ。ルイス=ランウェルはこの家に乱入し、住民をとんかちで撲殺した。

それから3時間もしないうちに、エクセターの別の地域で84歳の双子の兄弟が暮らす家に来たルイス=ランウェルは、納屋から鋤を持ち出して家に入り、2人の住民を撲殺した。この高齢の兄弟が児童虐待と拷問をしていると信じ込んでいたためだった。

この日の夜はルイス=ランウェルは野宿し、翌朝の5時、今度はあるホテルのナイトポーターを襲った。この襲撃では相手は死なず、警察が呼ばれ、その結果、ルイス=ランウェルは逮捕された。彼自身は妄想の中で、自分の行動は警察に許可されており(なぜならこの数日前に警察から保釈されているので)、警察は自分の応援にかけつけたと信じていたようだ。

この3人の殺害について、今回、法廷は「精神疾患(妄想型統合失調症)のため無罪」と判断したが、警備の厳重な精神病院への入院が命じられた。

 

続きを読む

patient/patienceは「辛抱」か? ということについて。

今回は、英文法の実例とは違う話。といってもこの件、すでに多くの指摘がなされているし、ジャーナリストの森田浩之さんによるがっつりした検証と論考も出ているので、それらをリンクして終わりにしてしまってもよいくらいだ。

news.yahoo.co.jp

何の話かというと、IOCのバッハ会長が述べた言葉のうち "We just have to ask for patience and understanding" という定型表現(紋切型、常套句)が、英和辞典を参照したうえで「文字通りに翻訳」され、そればかりか原文で言っていないことを言うように編集されて記事見出しとして配信され、Twitterなどでその見出しが独り歩きするような形で出回って、いわゆる「炎上」の状態になった、ということである。

具体的なことは、上記の森田さんによる文章に丁寧に書かれているので、そちらをご参照されたい。

ここでは語義関連に絞って少しだけ書いておきたい。

というより、私ごときが何かを書くまでもなく、はてなid:tmrowingさんこと松井孝志さんが的確な指摘を素早くツイートされていたので、まずはそれを拝借したい。

当ブログがときどき扱っている「英語で情報(日本語化される前の情報)を探すこと」とかかわっているが、この場合はIOCの会長の発言なので、IOCのサイトをチェックすることで、日本語化される前の情報(英語での原文)が簡単に見つかる*1

英語学習者としての自分の体験を振り返ると、英語圏で日常話されている英語に接して、英英辞典など参照しなくても英和辞典だけで《意味》がわかっていると思っていた基本語が、日常生活の中で使われているときにはその《意味》とは違っているんじゃないか、という衝撃を覚えたことが何度かある。例えば "Are you satisfied?" が「満足していますか」ではなく「納得しましたか」だったり、"Are you happy?" が「幸せですか」ではなく「疑問点はないですね」だったり、"If interested, call 000-000-0000" が「興味があれば」というより「買う気があれば」だったり*2。patience/patientもそういう語のひとつである。

*1:私はこういうときのチェック先としてまずAFPで探すクセがついているので、AFPで見たのだが。

*2:例えば、自分の車を売りたい人が "For sale" という見出しのもとに細かいことを書いて、最後に "If interested," 云々と書いたビラを貼っていたりした。

続きを読む

接触節(関係代名詞の目的格の省略)(ホロコーストと英国の元有名政治家)

今回の実例は、Twitterから。

昨年書いたことの繰り返しになるが、日本では語られもしないので知られていない(私自身も長いこと知らなかった)が、1月27日はアウシュヴィッツ収容所がソ連軍によって解放された日(1945年)で、世界的に「ホロコースト記念日」となっている。この日、Twitterでは「ホロコースト記念日」を表す#HolocaustRemembranceDayや#HolocaustMemorialDayのハッシュタグ*1や、#NeverAgain, #NeverForgetという標語のハッシュタグがTrendsに入るのが毎年の光景だ。

現地では例年、記念式典が行われている。75周年という節目の年(西洋では100の4分の1、つまりquarterがひとつの区切りとされる)にあたった昨年は、ひときわ大きな規模となり、現在は博物館(資料館)として保存されている収容所跡地の入り口前に仮設の屋根が張られ、収容所から生還した人々や、世界各国の王族、政治指導者、宗教指導者らが集まった。

www.youtube.com

昨年の今ごろはまだ、中国で流行っている新型コロナウイルスは、中国の限定的な地域を除いては、人々の行動制限を引き起こしてはいなかった。世界規模のイベントとしては、これが「コロナ前」の最後のものではないかと思う。今年はもちろん、このような直接人を集めてのイベントは行われていない。その代わりに、今ではすっかり定着して当たり前になってしまっているインターネット上でのヴァーチャルなイベントが開催された。英国でのイベントについては下記: 

このツイートにあるLight the Darknessというハッシュタグが今年の英国での記念イベントのハッシュタグで、人々はキャンドルの灯をともし、時を追うごとに少なくなっていく体験者たち*2の声を聞こうという姿勢を示した。

そうやって人々の目が《歴史》に注がれている一方で、現在ウイグルパレスチナやシリアなどで起きていることについては「ジェノサイドである」という指摘や「ジェノサイドといえるかどうか」といった議論が話題になっても、そこで起きていることについては何もなされていないのだから、空虚だよな、とも感じなくはないのだが、だからといって、《歴史》を振り返りそれを踏まえることが無意味だなどというニヒリズム虚無主義)やシニシズムに陥るようなことはしてはならない。

無意味であろうはずがないのである。

International Rescue Committee (IRC)というNGOがある。国家による弾圧と迫害に見舞われた人を支援することを目的として、1931年にドイツで左翼政党によって設立された団体だが、1933年にナチス政権が成立するとパリに移り、戦争と国際政治の中でいろいろな役割を果たしつつ、本部を米ニューヨークに置くようになり、現在に至る。この、元々ナチスの迫害を逃れたユダヤ人難民を支援していた団体のトップを2013年秋以降務めているのが、デイヴィッド・ミリバンドである。彼は2010年までは英労働党の有力な政治家で、ブレア政権、ブラウン政権で環境大臣外務大臣など要職を歴任したが、2013年に政界を引退した。弟はエド・ミリバンドで、2010年の労働党党首選では兄弟で党首の座を争い、弟が制したのだが、この兄弟の父親のラルフ・ミリバンドが、第二次大戦で欧州大陸から逃れて英国に渡ったユダヤ人である(母親は1950年代にポーランドから逃れて英国に渡ったユダヤ人で、両親の結婚は1961年のことだった)。

そのデイヴィッド・ミリバンドが、国際ホロコースト・メモリアル・デーに、次のようなツイートをしていた。

 

*1:英国では後者を名称としたトラスト(基金)があり、ハッシュタグに絵文字が添えられるようになっている。

*2:昨年5月の終わりに、米国の新型コロナウイルスでの死者が10万人ということになったときにニューヨーク・タイムズが行った「死者をただの数字として扱わない」という取り組みでも、「ホロコーストの生き残り Holocaust survivor」という記述はいくつも見られた。

続きを読む

「英紙タイムズ」の報道について確認する方法(2)

今回は、前回の続きで、有料購読していないと全文の閲覧ができない英国の新聞The Timesで報道された内容を、The Timesを購読せずに、少しでも把握することについて。

有料購読していないと記事全文が読めない媒体の報道内容を知りたい場合、最速で最適な解はもちろん、購読することであるが*1、たった1本の記事のためにそれをやろうという人も、それができるという人も、そんなに多くはないだろう、という前提で、このあと解説していきたい。購読したいと思った人や購読する余裕がある人は、ぜひそうしていただきたい。現時点でのプランは、登録して初月は無料で翌月から1か月10ポンドとなっている。

www.thetimes.co.uk

さて、前回見たように、英タイムズが1月21日付で大きなスクープ記事を出し、これが日本語圏、というより日本でも大きな反応を引き起こした。冒頭の2パラグラフだけは誰にでも読める形でサイトにアップされているので、最低限、それだけは確認しておこう。

www.thetimes.co.uk

今回はこの記事について、内容の是非などはおいておいて、どのようなことが書かれているのかを、The Times以外の報道機関を通じて確認できる範囲で確認してみよう。上述したように、本当に確認したければ、あるいは確認する必要があるならば、The Timesを購読すべきである。

*1:「知りたい」を超えて「知らなければならない」場合、つまり仕事で使うとか、何らかの論評のベースにするとかいった場合は、もちろん、購読する以外の方法はない。

続きを読む

「英紙タイムズ」の報道について確認する方法(1)

今回は、日本語圏で話題になっている英語報道をどう見つけ、どう追うかということについて。

先週金曜日(1月22日)、日本語圏で大きな話題となっていた「英紙タイムズ」の報道がある。

「英紙タイムズ」は、見ての通り英国の「タイムズ (the Times)」という新聞のことである。この新聞についてはいろいろあるが、国際報道(英国外のことについての報道)については、がっさりと「英国を代表する新聞」ということをふまえておけば、詳細を知らなくてもとりあえずは構わないだろう*1

ja.wikipedia.org

なお、Timesという名称は新聞の名称として一般的なもので、the New York Times, the Los Angeles Times, the Japan Timesなど《the + 地名 + Times》という形式の新聞名(固有名詞)はたくさんあり、それら「なんとかタイムズ」が自紙を指して "the Times" と言うこともあるので注意が必要なのだが*2、通常、地名などなしで "the Times" といえば、英国のロンドンを拠点とするこの新聞のことである。

上述したような英国外の "the Times" を自称するメディアとの混同を避けるため、この媒体については "the Times of London" と言うこともあるが、それは正式名称ではなく、したがってこの媒体のことを "the London Times" と呼ぶことはない(それでもたまにそういう記述を見かけるのだが)。

さて、今回のように日本語圏で「英紙タイムズ」の報道が話題になったときに、どういうふうにして元記事を確認するなどするかといったことを、以下に書いておきたいと思う。

*1:英国のニュースに関しては、事はさほど単純ではないが。

*2:例えば https://twitter.com/nytimes/status/1353412259775717377 はニューヨーク・タイムズがTimesを自称している例。 https://twitter.com/latimes/status/1353157705591119874 はロサンジェルス・タイムズがTimesを自称している例。 https://twitter.com/steel_elk/status/1353154466233470976 は読者がニューヨーク・タイムズを指してTimesと述べている例。

続きを読む

「史上最多〇度目」の表し方, 報道記事の見出し(2019年のバロンドール)【再掲】

このエントリは、2019年12月にアップしたものの再掲である。

-----------------

今回の実例は、サッカーのバロンドールのニュースから。

バロンドール」はサッカーの最優秀選手に与えられる賞で、サッカーを専門とするジャーナリストたちの投票で決定される。フランスのサッカー専門誌が創設した賞で、名称はフランス語のBallon d'Or(「黄金のボール」の意味)である。

その賞の受賞者が、日本時間で今朝がた、発表された。すでに日本語でも報道が出ている。

www.soccerdigestweb.com

www.soccer-king.jp

こういった報道でよく使われる「史上最多〇度目」の英語での表し方を、今回は見てみよう。記事はこちら: 

www.bbc.com

 

続きを読む