Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

of + 抽象名詞, not only A but (also) Bの構造の少し変則的なパターン, 倒置, コロン, など(マット・ハンコック保健大臣の辞任)

今回の実例は、報道記事から。

日本でも報じられていると思うが、英国政府の*1保健大臣 (Secretary of State for Health and Social Care; the health secretary) のマット・ハンコックが、英国で一番売れている下世話なタブロイドの一面にでかでかと恥ずかしい写真を掲載され、ウェブサイトではその様子をとらえた映像(動画)まで掲載されたあとで、辞任した。辞任の理由はその「恥ずかしい写真」に至った行動そのものではなく、その行動によって自分が人々に出していたソーシャル・ディスタンシングという行動制限(同居していない人との距離・間隔はしっかりあけること、というもの。英国では当初「2メートルの間隔を空けること」とされていたが、2020年7月4日に「マスクなどほかの感染対策がとられていれば1メートル強の間隔でよい」と緩和された*2)を破ったことであった。というか端的に、下世話な言い方をすれば、「既婚者が、浮気の現場を激撮されていた」ことによる。

ハンコックという人は、ボリス・ジョンソンが感染したときに感染して、ジョンソンほどではないがかなりつらい思いをしているのだが、基本的に無為無策の人でイングランドでこの新型コロナウイルスの感染拡大を招いた張本人の一人とみなされているばかりか、個人的なお仲間にパンデミック対策のお仕事を受注させていたりと、保守党を支持しない人々からはずっと強く批判されてきた。そしてハンコックの「恥ずかしい写真」が流れたとき、私の見るTwitter上は、改めて「辞めろ」コールであふれかえった。パンデミックが始まってほどなく、英国(イングランド)政府が最初にソーシャル・ディスタンシングを導入してすぐに、当時それを提言した専門家チームSAGEのメンバーだった学者が、同居していない恋人を自宅に入れていたことが発覚して、SAGEを辞任するということがあったのだが、それを引き合いに出して「ファーガソン教授が辞任したのだからハンコックも辞任すべき」とする声が大量にあり、「70年以上連れ添ってきた伴侶を喪っても、弔いの席に1人座るよりなかった女性がいるというのに」という言葉をそえてエディンバラ公の葬儀の場でのエリザベス女王の写真を掲げる投稿があり、そして「私の大切な祖父が死の床にあったときに、私は行動制限を遵守して会いに行くこともできず、手を握ることも目を見かわすこともできなかったのに」といった個人的な体験を書き表した悲痛な投稿もあった。

そう、問題は「浮気」ではなかった。「同居家族以外とは身体的な接触をするな」というお触れを出した当の本人が、同居家族以外の人を抱きしめてキスしていることが問題だった。だからこの「浮気、不倫、不貞」という個人的な問題は、公益に属する問題となる。

 レイチェル・クラーク博士(医師)のこの連ツイの2番目にある、"of public interest" は、ひとつの定型表現として覚えておくとよいが、文法的には《of + 抽象名詞》の形である。

さて、こんな映像がなぜ撮影されていて、どうしてThe Sunにリークされたのか(通常、防犯カメラなど設置されていない、内部の者しか通らない場所に、被写体を鮮明に撮影することができる画角でカメラがあって、その映像をThe Sunが「スクープ」したんだから、生半可なことではない)という問題はハンコックの進退にカタがついても残されるのだが*3、ともあれ、ハンコックは「陥れられた被害者」の顔をして、《謝罪》の言葉を口にする(英国ではこういう場合、形式的にでも "I regret" や "I'm sorry" の一言を言うのが普通である)こともなく辞任を表明し、ジョンソンはすぐに後任を選んだ。当初、保健大臣のポストの経験者であるジェレミー・ハントの名前が挙がっていたが、最終的に決まったのは、2019年夏に当時ジョンソンの腹心だったドミニク・カミングスと対立して政権を去った当時の政権ナンバー2(財務大臣)のサジド・ジャヴィドだった。これはびっくりした。

というわけで今回の記事はこちら: 

www.theguardian.com

*1:ただし英国は保健行政はウェールズスコットランド北アイルランドの各自治政府が行うことになっているので、実質的には「イングランドの」と言うべきかもしれない。英国は実に、ややこしい。

*2:Source: https://en.wikipedia.org/wiki/Social_distancing#Avoiding_physical_contact 'The United Kingdom first advised 2 m, then on July 4, 2020 reduced this to "one metre plus" where other methods of mitigation such as face masks were in use.'

*3:ジョンソン政権は当初「その件については調査を行う考えはない」という方針だったらしいが、調査は行うことにしたらしい。形式的なものにすぎず、きっと「法的には何の問題もない」という結論はもう決まっているだろうけど。

続きを読む

【再掲】仮定法と直説法, 仮定法過去完了, if節のない仮定法, howeverの論理展開, トピック・センテンスとサポート・センテンス(クルーズ船検疫についての論文)

このエントリは、2020年3月にアップしたものの再掲である。

-----------------

今回の実例は、学術論文から。

元々はいつも通り報道記事についての原稿を予定していたんだけど(急に学校が休みになってしまった高校生が余裕で読めそうな一般向け記事があった)、いろいろあるのを見てしまったので予定を変更しました。今日予定していたのは明日に回します。

今回の実例はこちらから: 

academic.oup.com

 

学術論文は、一般の報道記事とは違って、一般人がちょっと目にしてぱっと読みにくるものとして書かれてはいません。その論文が掲載されている媒体(学術誌、学術雑誌)を読む学者・専門家たちが読むことが前提です。だから、分野が違う人は文字は追えても意味はわからないかもしれない。それはうちら日本語母語話者が日本語の文献を読む場合でも、専門分野じゃないものを読んだら中身がわからないのと同じです。金融政策の専門家は、例えば金本位制の歴史の解説は読んだら書いてある通りに理解できるものですが、宇宙物理学の解説書は理解できるとは限らないわけです。逆に宇宙物理学者は金本位制の歴史の解説は上っ面をなでることくらいしかできないかもしれない。

しかしながら、これが英語で書かれている以上、使われている英文法は普遍的なものです。金融政策の専門家でも宇宙物理の専門家でも、記述に際しては同じ文法 (the same set of rules) を使います。(ここで言ってることがわかりづらければ、日本語でいえば金融政策の専門家が「利害のショウトツ」というときも、宇宙物理学者が「電子ショウトツ」というときも、どちらも「衝突」をいう漢字を使うことをイメージしていただければよいと思います。)

今回みる論文は、 International Society of Travel Medicineという学術団体*1が出している、The Journal of Travel Medicineという学術誌です。発行元は英オックスフォード大学出版部です。この学術誌を読むような専門家が読むものとして書かれた論文ですから、英文法がわかるからといって、この分野の知識がない者(例えば私)には、内容をしっかり理解することはほぼ無理な領域です。理解もできないものを解説はできません。したがって、ここでするのは内容の解説ではなく、記述の基礎に使われている文法の解説です。そのことを前提として、本稿、この先をご覧いただければと思います。

*1:「国際渡航医学会」が日本語での定訳のようです。see https://togetter.com/li/223088 

続きを読む

【再掲】関係代名詞, 仮定法のcould, result in ~, 動名詞の意味上の主語, to不定詞の意味上の主語(米・タリバン和平合意)

このエントリは、2020年3月にアップしたものの再掲である。

-----------------

今回の実例は、アフガニスタンタリバンと米国の和平合意についての報道記事から。

新型コロナウイルスがこれほどまでに世界的関心を集める切迫した事態になっていなかったら、また、米大統領選挙で民主党予備選挙ジョー・バイデンがようやく勝利したというニュースがなかったら、少なくとも英語圏では丸1日はこの話題で持ち切りになっていたであろう。当然、日本語のメディアでも大きく報じられている。

mainichi.jp

ただしこの「和平合意」、確かに画期的な一歩と言えるかもしれないが、中身のほうはどのくらい実現性があるのか、かなり疑問だ。

mainichi.jp

mainichi.jp

こういったことを解説するのは本ブログの目的ではないので、関心がある方は各自報道記事などをご参照いただきたい。重要なのは、アフガニスタンに対し米国が(国連決議を伴って)軍事介入(戦争)を仕掛けたのは2001年10月で、それからもう18年以上が経過しているということである。今、高校生の人たちはこの戦争が始まったときは生まれてさえいない。大学生の人たちも記憶がつく前の出来事だ。

今回参照する記事はこちら: 

www.theguardian.com

 

実例として参照するのは、書き出しの部分。

続きを読む

比較級+than+any other ~, 機械翻訳が誤訳する英文, 譲歩の構文, など(カーナビー・ストリートのシリア難民シェフ-4)

今回もまた、前々々回前々回、および前回の続きで、6月20日「世界難民の日 World Refugee Day」に英国の新聞に出たレストランのレビュー記事から。文脈などの前置きについては、 前々々回のエントリをご参照のほど。

前回までの3回をかけて、第3パラグラフを細かく、詳しく読んでみたが、その内容は「レストラン・レビューの記事」らしからぬというか、社会一般の問題、歴史認識問題を扱うものだった。筆者のジェイ・レイナーが、そこまで広げた風呂敷をどう畳んで、どのように「レストラン・レビュー」を展開していくかというのがこの記事の見どころのひとつなのだが、今回はその展開の部分を見てみよう。

これを読むと、日本の東京の「豊かさ」とは別の文脈にある、英国のロンドンの「豊かさ」(それは、あの都市を訪れた人ならだれもが肌で感じるはずであるが、中には「自分はすごい、自分たちはすごい」という意識があまりに普通になりすぎていて、「自分の国に比べて英国の首都はこんなにみすぼらしい」ということ以外は何も感じない人もいるかもしれないし、「その原因は怠け癖のついた移民にある」などと極論に走ってしまう人もいるかもしれないが)がどういうものかが、少なくとも言葉では見えてくるだろう。実際、大学受験に際しての「英文読解」の勉強では、こういう「英国の豊かさ」の一部である文章を、断片的にではあっても数多く読むことが常道だったのだが。

記事はこちら: 

www.theguardian.com

 

続きを読む

接続詞のas, those who ~, as if ~, など(カーナビー・ストリートのシリア難民シェフ-3)

今回の実例は、前々回前回の続きで、6月20日「世界難民の日 World Refugee Day」に英国の新聞に出たレストランのレビュー記事から。文脈などの前置きについては、前々回のエントリをご参照のほど。

記事はこちら: 

www.theguardian.com

前回はかなり長い文の主要な部分を見ただけで文字数を使い切ってしまったので、今回はその続き、その長い文に含まれている副詞節を見ていこう。

続きを読む

長い文, if節のない仮定法, 辞書に載っていない慣用表現, など(カーナビー・ストリートのシリア難民シェフ-2)

今回の実例は、前回の続きで、6月20日「世界難民の日 World Refugee Day」に英国の新聞に出たレストランのレビュー記事から。文脈などの前置きについては、前回のエントリをご参照のほど。

記事はこちら: 

www.theguardian.com

この記事で紹介されているレストランは、1960年代の「スウィンギング・ロンドン」で有名なカーナビー・ストリートに最近新たにオープンした「イマドのシリアン・キッチン」という店である。店主(オーナーシェフ)のイマド・アラーナブさんがどうやってここで店を開くようになったのかは、英文法の実例として当ブログで見ている部分より前のパラグラフ(というか、記事書き出しのパラグラフ)で説明されているので、まずそこを読んでいただきたい(その部分に文法的に解説すべきことは特にないので、当ブログでは取り上げないが)。

続きを読む

本日休載します。

申し訳ない、本日休載します。Amazon Prime DayでKindle本のセールにはまってしまって……。あと1時間ですが、以下に貼り付けるスレッドもご参考まで。

ル・カレの原著は、英語を読み慣れている人じゃないと歯が立たないかもしれません。翻訳されたものを読んでも、話のペースや伏線、伏線以前の状況説明がすさまじい細密描写なので、ページをめくってもめくっても話が進んでいかない(がその描写がすごい)ということで、本を読み慣れている人でないと楽しめないと言われる作家です。原著はル・カレの文体が濃いので、英語を読む(英語を読む)ことが好きな方なら、この作家の作品を読んだことがない方もはまるんじゃないかと思います。

続きを読む

whether節, 副詞のany, 口語表現の「すごい」, など(カーナビー・ストリートのシリア難民シェフ)

今回の実例は、レストランのレビュー記事から。といってもただのレストラン・レビューではない。

昨日6月20日は、「世界難民の日 World Refugee Day」だった。これは、難民の地位に関する条約(難民条約)が1951年に採択されてから50年となる2001年に始まった国連の国際デーのひとつで、今年は20回目となる。

本来、人が「難民」にならざるを得ない状況が地球上からなくなり、だれもが自分の「ホーム」と呼べる地を持ち、そこを拠点とすることを前提とできるようになるのが望ましいわけで、その意味ではこの国際デーや難民支援活動、難民についての啓発活動がいまだに続いていることは、難民条約を作った人々にとっては、実は不本意なことかもしれない。だが、現実は現実である。「望ましくない」からといって否認することはできない。

世界難民の日」の活動はTwitterなどでも展開されたし(ハッシュタグ #WorldRefugeeDay および #世界難民の日 を参照)、下記のようなオンライン・イベントも実施された。

RAFIQさんがフィードしているこのオンライン・イベントは、YouTubeでアーカイブが公開されている。今後1か月間は視聴できるので、ぜひご覧になっていただきたい。「難民」とは何か、ということについて、聞いているのがつらいかもしれないが、当事者(難民申請者)の言葉も含め、とてもわかりやすく伝えられている*1

各メディアでも関連記事が出た。中には「いかにもな啓発活動」というトーンではなく、ごく自然に語りの一部として「難民」がするっと入っている記事もあった。今回実例として参照するのはそういう記事のひとつだ。

なぜそんなにも「難民」がするっと語りの一部になりうるのかというと、それだけ身近な存在だからだ。「私の父は難民だった」というのは決して珍しくはなく、私自身の知己にも、第二次大戦でポーランドから逃れてきた人の息子がいるし、大家さん自身が第二次大戦前にドイツを脱出した進歩的ユダヤ人だったこともある。著名人にもそういう人は多く、例えば労働党エド・ミリバンド元党首と、その兄のデイヴィッド・ミリバンド元外相の父親はベルギーから英国に脱出したユダヤ人難民だ。その距離感(あるいは距離の近さ)を予備知識として入れておくことは、今回の記事の語り(ナラティヴ)を読んでいくうえで、よい支柱となるだろう。

記事はこちら: 

www.theguardian.com

この記事は、オブザーヴァー紙(ガーディアンの日曜発行分)でレストラン・レビューを担当しているジェイ・レイナーによるもの。ただのグルメガイドではなく、食、というか「食の提供という経済活動」「食事と消費」の現場から社会を見る、といった趣の文章が多い。

今回彼がレビューしているのは、あのカーナビー・ストリートに最近新たにオープンした「イマドのシリアン・キッチン」という店だ。店名を見ればわかるだろうが、この店は2011年以降のシリアの動乱を逃れて脱出してきたシリア人のシェフがやっている*2

レイナーのこの記事は、普通の「レストラン・レビュー」として書き始められているが、読み進めるうちにどんどん違う文脈を取り込んでいき、非常に力強い一文となっている。読みやすさも特筆に値する。ぜひ、全文をご一読いただきたい。スタイルとしては「随筆」と思って読むと、すんなり読めるだろう。

*1:今から15年近く前になるのだが、A国出身の女性が滞在先のB国で難民申請をしたときに、彼女の属性から日本でも「支援ネットワーク」と称する活動が始まって、なぜか私がブリーフィング役で呼び出されたのだが、そのネットワークの人は「難民」についてほとんど何も知らなかった。というか、難民申請をした女性の属性ゆえに「仲間として支援しなければ」的な正義感をかきたてられ、同時にその属性の人々のネットワークを自分たちが中心となって作りたいという野望もあったようだが、「難民支援」を利用して自分たちの組織固めを考えるなど、言語道断である。そもそも難民申請した人の身の安全を何と思っているのかと。下手に「外国人の支援」を盛り上げたりすれば祖国に残る彼女の家族が危険にさらされるとか、そういう基本的なことすら認識されていなくて、唖然と……まあ、過ぎた話ですけどね。

*2:上にYouTubeアーカイブを紹介した「世界難民の日 IN KANSAI」さんのオンライン・イベントの中で安田菜津紀さん⁦⁦が紹介していらしたが、日本にも同じようにシリアから脱出してきた人がいる。ただしそのシリア人男性は日本で難民認定を受けることができていない。政府の迫害を受けるという「客観的な証拠」を示せ、と言われても、示せるような証拠を所持していたら連行されてしまうのがああいう独裁国家なのだから、証拠など持っているはずがない。

続きを読む

【再掲】if節のない仮定法, 英文の構成(パラグラフ・ライティング), force ~ to do ... (南アフリカを変えた少年)

このエントリは、2020年2月にアップしたものの再掲である。

-----------------

今回の実例は、長文多読素材を探している人にはうってつけの記事から。

以前ざっと説明したことがあるのだが、BBCにNewsbeatという青少年向けのコーナーがあるBBC Newsのウェブサイトでは一般のニュースとシームレスになっているが、文章は一般向けのものより読みやすく、トピックは、報道、つまり「そのときそのときの最新ニュース」から一歩引いたところから何かを解説するようなものが多い。

今回見る記事のトピックは、この30年ほどの間に南アフリカがどう変化したか、である。

南アフリカ(南ア)はかつて、厳格な人種差別を国の制度としていた。元からその土地に暮らしていた黒人は数の上では多数だったが、19世紀にやってきた白人が数の上では少数だったにもかかわらず政治を独占し、人種主義の理念に基づいて、黒人を格下の存在として扱い、白人と非白人は居住場所も含め社会の中で隔離されていた。むしろ、隔離しないことは違法、という社会だった。この制度を、南アの白人たちが使うアフリカーンス語オランダ語から派生した言語。南アに入植したのがオランダ東インド会社の人々だったため)で「アパルトヘイト」といった。日本では、その字面から英語の「ヘイト hate」の関連語だと思い込んでいる人も少なくないが、アパルトヘイトはhateとは全然関係ない。アルファベットで書けばapartheidで、「隔離、隔離した状態」の意味だ。

このようなことを聞くと「昔の話だろう」と思われるかもしれないが、さほど昔ではない。アパルトヘイトの撤廃は1990年から着手されたにすぎず、南アフリカで初めて全人種が分け隔てなく参加した選挙が行われたのは1994年で、まだ26年しか経っていない。おおむね今30代半ばから上の南アフリカ人は、アパルトヘイト制度をうっすらと記憶しているだろう。

南アは2019年10月~11月に日本で開催されたラグビーのワールドカップで優勝したし、日本を含む各国の代表に南ア出身のプレイヤーがいたが、ラグビーの南ア代表で黒人がプレイするようになったのは、アパルトヘイトが終わってからである。

アパルトヘイト運動の指導者で、長く投獄されていたネルソン・マンデラが大統領に選出された1994年の選挙のあと、南アは劇的に変化し「近代化」されたが、すべてが良くなったわけではなかった。それが今回見る記事で扱われているトピックである。

記事はこちら: 

www.bbc.com

記事自体の内容や、見出しにある「南アを変えた子供の活動家」については特に解説しない。記事がとても読みやすいので各自お読みいただきたい。

今回の実例として見るのは、記事の下の方。

続きを読む

【再掲】call for ~ to do ..., to不定詞の受動態, 分詞構文, 受動態, やや長い文(ドイツで起きた極右テロ、シーシャバー銃撃事件)

このエントリは、2020年2月にアップしたものの再掲である。(すみません、今日は昨日の代わりに新規でエントリを書く予定で、頭の中では書けているのですが、体調がすぐれないので過去記事再掲とさせてください。)

-----------------

今回の実例は、ドイツで発生した極右テロについての記事から。

新型コロナウイルスの報道に埋もれてしまっているし、そもそも日本語ではろくに報道されてもいないかもしれないが、日本時間で2月20日(木)の朝、ドイツのハーナウ (Hanau) という都市で銃乱射事件 (mass shooting) があった。

ハーナウはドイツの西部ではあるが地理的にはドイツの国土のだいたい真ん中らへんにあり、大都市フランクフルトにほど近く、技術系企業の工場も多くあり、工場労働者が多く、トルコ系住民が多い。歴史ある街で、「メルヘン街道」の起点として観光客の行き来も多い。

テロリストが襲ったのは、そういう都市で、飲酒しないイスラム教徒の人たちをはじめとする市民に憩いの場として親しまれている2軒のシーシャ(水煙草)バーだった。最終的には9人が殺害され(うち1人は翌日に病院で息を引き取った)、容疑者は銃撃後に戻った自宅で母親を撃ち殺し、自身も銃で自殺した。

 容疑者は43歳の男で、両親と同居し、極右過激主義に染まっていた。自分で運営するウェブサイトに「マニフェスト」(文書)を掲げ、ビデオをアップしては、外国人排斥の考えや優生学を説き、ドナルド・トランプを支持するなどしていたという。精神的に問題があって女性と親密な関係になったことがないとか、頭の中で始終声がしているとかいったことも述べていたそうだ。 特に中東・中央アジア北アフリカにルーツのある人々を嫌悪し、集団的殺害を呼び掛けていたという。

事件を起こす3か月前の2019年11月に、検察長官に宛てて、「世界を支配する闇の勢力がいる」といったことを書き綴った手紙を書いていたが、当局は反応しなかったそうだ(そりゃそうだろう。そういう人は一定数いるもので、当局はいちいち対応はしないものだ)。テロ(政治的暴力)実行犯ではあるが、特定の極右の団体とのかかわりは特になく、いわゆる「ローンウルフ」型で、銃の入手方法の詳細などはこれから明らかにされるという段階である(ドイツは銃規制は厳しいのだが、どうやってこういう人が銃を手にすることができたのだろう)。詳細は英語版でもウィキペディアにまとまっている(当然のことながらドイツ語版の方が詳しい)。

en.wikipedia.org

 

トルコの人々が標的とされ、実際に何人も殺されるという卑劣な事件を受け、英ガーディアンが、ドイツとイスタンブールに記者を送って事件の背景を調べて出した記事が、今回参照する記事である。記事はこちら: 

www.theguardian.com

見出しにある AfD は、 Alternative für Deutschlandのこと。おそらく解説は不要だろうと思うが、「それって何のこと?」と思った方は下記ウィキペディアの「概要」のところと「2019年」のところだけでも見ておいていただきたい。

ja.wikipedia.org

続きを読む

【再掲】関係代名詞の二重限定、訃報の伝え方(NASAの黒人女性数学者、キャサリン・ジョンソンさんの訃報)

このエントリは、2020年2月にアップしたものの再掲である。本当は今日(2021年6月18日)は北アイルランドのニュースで予定していたのだが、記事を見るたびに笑ってしまうのでブログが書けない。予定稿を明日土曜日に回し、今日は明日土曜日に自動投稿する予定だった過去記事ということでご了解いただきたい。

-----------------

今回の実例は、Twitterから。

2月25日早朝、NASA(アメリカ航空宇宙局)のアカウントから、残念なニュースが流れてきた。

 1行目のように、文の構造を取らず《人名 (何か年号-別の年号)》とだけ書かれているのは、誰かが亡くなったことを告知するときの型である。2つの年号は生年と没年だ。つまり、"Katherine Johnson (1918-2020)" は「キャサリン・ジョンソン氏 (1918年生、2020年没)」という意味である。

報道記事の場合、日本語では訃報の見出しは「〇〇氏死去」とか「△△さん 35歳で急逝」と書くが、英語では "〇〇 Dies" とか "△△ Dead at 35" などとする。

これとは別に、故人の属していた団体や家族などが直接公に告知をするなど場合に、上述の《人名 (生年-没年)》の型がとられる。もっと詳しく、生年月日と没年月日が書かれることもある。例えば、先日亡くなったテリー・ジョーンズについては、所属のモンティ・パイソンのサイトに次のように掲示されている。

f:id:nofrills:20200226054559p:plain

www.montypython.com

先日急逝したDJ・音楽プロデューサーのアンドルー(アンディ)・ウェザオールについては、彼のプロデュースでスターダムにのし上がったスコットランドのバンド、プライマル・スクリームが次のようにツイートしている。

これ(人名と数字)だけで、誰かが亡くなったという事実を伝えることができるわけだ。

 

さて、NASAが亡くなったことを伝えているキャサリン・ジョンソンさんとは誰か。

彼女はNASAに所属していた数学者。1960年代に彼女がNASAで行った計算は、アメリカの宇宙開発において不可欠なものだった(軌道計算)。しかし彼女は男性ではなく白人でもなく、「数学エリート」として悠々と歩んできたわけではなかった。そのような立場に否応なく置かれた黒人女性数学者・科学者は彼女だけではない。そのことは、2016年の映画Hidden Figures(日本では『ドリーム』というジェネリックでふわっとした邦題をつけられてしまった)で描かれている。Hidden Figuresは「物理現象の背後に隠されている数字」の意味であり、同時に「歴史の陰に隠された人物たち」の意味でもある。 

 

映画の原作となり、映画公開の3か月前に出版された同名のノンフィクション本は、ティーンエイジャーでもすいすい読めるように編集された版も出ているので、そちらを飼って読んでみるのもよいだろう。 

Hidden Figures Young Readers' Edition

Hidden Figures Young Readers' Edition

  • 作者:Margot Lee Shetterly
  • 出版社/メーカー: HarperCollins
  • 発売日: 2016/11/29
  • メディア: ハードカバー
 

 

さて、前置きが長くなってしまったが、ここからが今日の本題である。

続きを読む

自動詞と他動詞と受動態、そして《行為主》の明示・非明示(燃えた/燃やされたミャンマーの村)

今回の実例は、報道記事から。

「自動詞」と「他動詞」を区別すると、もろもろ効率よくなる、ということを、私はずいぶん遅くなってから初めて知った。中学や高校の英語の授業で「他動詞」なんて単語を学校で聞いたこともなく(私立校で英語に力を入れているところなどでは事情が違うかもしれない)、ましてや、「国語」という枠組みの中でごくわずかだけ習った日本語の文法でも、そんな概念は用いられていなかった。だが「自動詞」「他動詞」の概念を知ったとき、「こんな便利なものがあったのか」と感動すると同時に驚き、「そういうものがあるのならもっと早くから教えておいてほしかった」と嘆いたくらい、それは便利なものと感じられた。今でもそう感じているし、この便利さをわかってもらいたいと思っている(のだが、「学校で教えないこと」を教えると、邪教の宣教師というか麻薬の売人のように扱われることもあるのが現実だ)。

「自動詞」(intransitive verb: vi) は目的語を取らない動詞、「他動詞」 (transitive verb: vt) は目的語を取る動詞のことだ。

と説明すると「目的語って何ですか」という疑問が出るのが当然だし、そこを説明するのも当然なのだろうが、ここはただの個人ブログなのでそこは端折る。

「自動詞」は「自ら動く」場合、「他動詞」は「他を動かす」場合に使う。例えば:

  私は起き上がった。=自動詞

  私は倒れた人形を起こした。=他動詞

別の言い方をすれば、自分でするだけで、他のものに何かをするわけではないのが自動詞、他のものに何かをするのが他動詞である。「猫はぴょんと飛んだ (The cat jumped.)」は自動詞だが、「猫は地面を蹴った (The cat kicked the ground.)」は他動詞である。

そして、《受動態》が可能なのは他動詞だけである。「猫が地面を蹴った」は、立場を変えれば「地面は猫によって蹴られた (The ground was kicked by the cat.)」と言えるが、「猫が飛んだ」は立場の変えようがない。これを認識しておくだけでも、英語はずいぶん楽になるはずだ。

さて、以上が「自動詞」と「他動詞」の違いの基本的なところだ。

怪談で「そのとき、ドアがひとりでに開いたのです」というのは自動詞、「私がおそるおそるドアを開けると、中にいたのは……」は他動詞だ。

要点だけ言えば、「開く」は自動詞、「(~を)開ける」は他動詞である。

同様に「(お湯が)沸く」は自動詞、「(お湯を)沸かす」は他動詞だし、「(明かりが)灯る」は自動詞、「(明かりを)灯す」は他動詞である。

と見てくれば、「燃える」と「燃やす」も自動詞と他動詞だということが(何となくではなく)明確にわかるだろう。「炎が燃える」と「紙を燃やす」の違いだ。

このように、日本語では自動詞と他動詞とでは別な語になるが(「燃える」と「燃やす」は同じ語ではない)、英語では基本的に、語自体は同じである。「ドアが(ひとりでに)開いた」は The door opened. だし、「私がドアを開けた」は I opened the door. である。(話がここまでくると、わかりづらくなってくるかもしれない。)

……ということの実例になっているのが、今日見る報道記事だ。こちら: 

www.bbc.com

続きを読む

国旗が振られ、極右人種主義・排外主義的なスローガンが叫ばれた行進と、風船爆弾と、大手国際報道について(エルサレムでの「旗行進」)

今回もまた、少々変則的に。

パレスチナ情勢については「ガザ衝突[sic]」の事態にならないと記事にしないという暗黙のルールがあるとしか思えない大手国際報道で、またしても、「ガザからイスラエルに攻撃があり、イスラエルが反撃を加えた」ということがニュースになっている。例えば英BBCは "Israel strikes in Gaza after fire balloons launched" という見出しで報じている

www.bbc.com

だがこの記事を読んでも、「なぜガザからイスラエルに対する攻撃(それがたとえ竹槍感あふれる風船爆弾であっても攻撃は攻撃である)が行われたのか」ということは、忍耐強く読まないとわからないだろう。まあこんなんでも「ハマス」といえば「イスラム原理主義組織」という枕詞をつけずにはいられない日本語圏の大手報道よりはましなのだが……。

前回の「ガザ衝突[sic]」を引き起こしたガザ地区からイスラエルに対するハマス武装部門などによる攻撃は、イスラエルが占領下に置いている東エルサレムでの、イスラエル当局が黙認する中で行われているイスラエル人過激派のめちゃくちゃな行動への、日本のマスコミ用語でいうところの「反発」のあらわれと言えるものだったのだが、それは軍事解説筋が色めき立つようなレベルの、高度で洗練された武器を用いての攻撃だった。

だが今回は違う。風船爆弾だ。それも本当に商店街のお祭りや学校の運動会の飾りつけに使うようなゴム風船を使っている。風船にヘリウムガスを入れ、発火物などをつけてふわふわと飛ばすというもので、もちろん、標的に命中させるとかそういうことは考えられていない。

この攻撃の目的は標的の破壊ではなく、火を放つことであるようで……と聞けばある程度情勢をウォッチしている人ならば否応なく思い出されるのが、当ブログで先月何度かにわたって書いたような、ヨルダン川西岸地区からも何度も報告されている、イスラエル人違法入植者たちによるパレスチナ人の農地などへの放火攻撃のことだろう。しかしながら「ガザから風船爆弾が飛んできて、イスラエルが爆撃で応じた」という非対称の軍事衝突(「衝突」にもならないレベルで非対称だが)について報じるBBCの記事には、「イスラエル人がパレスチナ人の土地を焼いている」ということは触れられてもおらず、ただ下記のように「ガザ地区のミリタントがー」(それでも「イスラム原理主義組織ハマスがー」よりはましである)と念仏のように繰り返されるナラティヴが見られるばかりである。

In recent years, militants have frequently sent helium balloons and kites carrying containers of burning fuel and explosive devices over the Gaza border.

The devices have caused hundreds of fires in Israel, burning thousands of hectares of forest and farmland.

https://www.bbc.com/news/world-middle-east-57492745

あまりの事態に、エドワード・サイードがあの世から戻ってきて一筆したためてくれたらいいんだけど。 

ともあれ、ハマスが今回風船爆弾を飛ばしたのは、「通常運転」のようなことではないし、ただの「気まぐれ」のようなことでもない。イスラエルでのパレスチナの主権の否定のような具体的な行為があったためだ。それも、「一部の過激派が勝手に暴走した」みたいなことではなく、行政的な手続きを取り、一応政治的な合意を取り付けたうえで。

Hamas said they were a response to a march by Israeli nationalists in occupied East Jerusalem.

...

A Hamas spokesman said on Twitter that Palestinians would continue to pursue their "brave resistance and defend their rights and sacred sites" in Jerusalem.

https://www.bbc.com/news/world-middle-east-57492745

 "a march by Israeli nationalists in occupied East Jerusalem" (「占領下にある東エルサレムにおける、イスラエルナショナリストたちによる行進」)とは何かというと、これのことである。

続きを読む

前置詞+動名詞の使いどころ(「古代マヤ人がレーザーを使い」と読めてしまう文を修正する)

今回の実例は、Twitterで回っていたついついくすりと笑ってしまうような例。

日本語で、修飾関係が少し複雑になると、文意が1つに確定できなくなることがある。先日Twitterで見て「すばらしい」と思ったのが、「頭が赤い魚を食べる猫」がどのように解釈されうるのかについての、下記の中村明裕さんの図解だ。

「頭が赤い魚」を「食べる猫」なのか、「頭が赤い猫」が「魚を食べる」なのか、というところまでは「ふむふむ、なるほど」なのだが、 「頭が魚を食べる」だとか「頭が猫」だとかいうところに来ると現実離れしてしまう。

その「現実離れ」をあえて作って遊ぶ、ということもできるし、そういう遊びは楽しいのだが、ある情報を端的に言葉で表現し、正確に人々に伝えることを仕事とするプロの書き手にとっては、そのような「現実離れ」のスキを作らない文を書くことが日々の業務で必須となる(さらにいえば、「頭が赤い魚」を「食べる猫」なのか、「頭が赤い猫」が「魚を食べる」なのかというところでも読者が迷わないように文を書くことも必要なのだが)。

英語でもこれは同じで、記者やライターは文意が曖昧・不明確にならないように書かねばならないし、メディアは、記者やライターによって書かれた文が意味不明確でないかどうかを確認してから*1公にする必要がある。

日本語は語順がかなり自由である一方で、英語は語順がかなりきっちり決まっているから、英語の文が「どうにでも解釈できる文」になることは、私が読んでいるものに関する限り、日本語よりは全然少ないのだが、それでも、英文を読むだけなら迷わないのに、日本語に訳そうとすると迷ってしまうという程度に意味が確定できないケースにはわりとよく遭遇する。訳そうとすると「はて」となってしまうということは、ただ読んでいるだけでは不明確さに気が付かずに通り過ぎていることもあるだろう。

……ということに改めて気づかされたのが、今日、Twitterの画面を見ているときのことだった。私がフォローしている米国のジャーナリストが、下記のツイートをリツイートしていたのだ。

"trigger" は名詞で「銃の引き金」の意味だが、ここでは動詞(他動詞)として用いられている。意味は、「《主語》 がきっかけとなって《目的語》が起こる」という意味であることが多く、例えば現在のコロンビア情勢についてのBBC Newsの解説記事には、"Here's a look at what triggered the protests and how they have grown." (「この記事は、何が抗議行動を引き起こしたのか、また抗議行動はどのようにして拡大してきたのかについての概観をまとめたものである」)という一節がある。

ただしここでの動詞triggerの用法はより口語的な場面でよく見聞きするもので、「~を動作開始させる」というような意味だ。よりこなれた表現にすれば「~のスイッチを入れる」だろう。つまり、 "trigger editors" は「編集者のスイッチを入れる」。ツイート全文は「このツイートは、編集者のスイッチを入れることを意図したものだ」と直訳されるが、要は「こんな文面見たら編集者がわらわらと起き出して仕事し始めるじゃないか」みたいな感じだ。

ここでツイート主のNoah Rothmanさん(彼自身、編集者として仕事をしている)が見ているのが下記のツイート: 

 私、最初これ読んだとき、「この文面のどこに、編集者がアップを始めるようなツッコミどころがあるのだろう」と思った。最後のusing lasersはresearchersがa massive ceremonial structureをdiscoverしたときの手段を表しているということは一読してわかるからだ。それ以外に解釈できない。

だが、次のリプライを見て、思わずふきだしてしまった。

*1:その作業がproof-readingである。

続きを読む

cannot + 比較級, 助動詞could, to不定詞の否定形, など(EURO 2020, 試合中にピッチで突然倒れたフットボーラーと、チームメイトたち)

今回の実例は、報道記事から。

日本でも大きく伝えられているが、サッカーの試合中に、プレイに関係しない原因によって、プレイヤーがピッチでいきなり倒れるというショッキングな出来事があった。倒れたのは、現在はイタリアのインテルミランに所属するクリスティアン・エリクセンで、デンマーク代表の背番号10というスター・プレイヤーだった。サッカーの欧州選手権EURO 2020での出来事である。

EURO 2020は、新型コロナウイルスによる1年延期を経て、この6月11日から開催されている。エリクセン選手が倒れたのは、デンマークの首都コペンハーゲンで行われていた開幕戦でのことだった。

EUROは、いつもはどこか1つの国に開催地を決めて行われるのだが(2か国共催の例もある)、2020年の大会については、2012年の時点で既に、開催国を決めず12の都市で分散開催されることが決定していた。開催都市は2014年9月に決定・発表され、新型コロナウイルスによるパンデミックという予期せぬ事態の出来にあたっても、いくつかの例外*1を除いて、基本的にそのまま分散開催で行われることになった。

こうして西はセビージャ(スペイン)から東はバクー(アゼルバイジャン)までという広域で開催されることになったEURO 2020だが、観客は入ることは入るものの大幅に人数が減らされているという形で(詳しくは英語版ウィキペディアの "Spectator limits" の項を参照。日本語圏ではここまでの詳しい情報はないみたい。一般的に、英語で書かれている情報量と、日本語でのそれとの間にものすごい量的な差がある以上、こういう調べものは必要になってくるし、こういう調べものは、どんなに機械翻訳が発展しようとも、ある程度は英語を使える人でないと、使い物になるような速度と精度をもってはできないだろう)、「大勢のサポーターが大挙してよその国に出かけていく」という、サッカーの国際試合での名物的なことは、今回はかなり縮小された状態になるだろう。それでも、準決勝と決勝は、デルタ株の感染がちょっとやばい感じになってきているイングランドのロンドン(ウェンブリー・アリーナ)で行われるわけで、サッカー観戦のために今のイングランドに人が行くのか……と、かなり微妙な気持ちでニュースを見ているのだが。

閑話休題。11日の試合で倒れたクリスティアン・エリクセン選手は、心停止を起こしていたということが、13日にチーム・ドクターによって語られている。

www.bbc.com

エリクセン選手は、ボールのないところを歩いていて、突然前のめりにぱったりと倒れこんでしまったのだが、試合中だったチームメイトや相手チーム(フィンランド)のメンバーが迅速かつ的確に行動し、チームのメディカル・スタッフもすぐさま対処できたことで、一命をとりとめた状態と言ってよいようだ*2エリクセン選手がピッチから担架で運ばれていったあと、スタジアムではそれぞれのチームのサポーターたちが「クリスティアン」と「エリクセン」の名を交互にチャントして、スタジアム全体が彼の健康を祈っていることを表現していた。

そのような状況で、試合はそのまま中断となり、後日仕切り直しになるのかとも思われていたが、最終的にはエリクセン選手の生命に別条はないことが確認されたあとで再開され(2時間ほど中断されていた)、フィンランドが1-0でデンマークに勝つという形で終わった。今回の実例は、その試合後に行われた監督のインタビューについて伝える記事から。こちら: 

www.bbc.com

*1:アイルランドのダブリンは、感染状況がよくならないので開催地から外された。スペインではバスクビルバオの試合がセビージャに移されることになった。

*2:デンマークの選手たちは、倒れたエリクセンの治療に当たるメディカル・スタッフの回りに円陣を組むようにして立ち、スタジアムの観客の目と中継・報道のカメラの目を遮り、治療に専念できる環境を作った。またピッチサイドに下りてきて立ち尽くすよりなかったエリクセンの配偶者を勇気づけた選手もいた。

続きを読む
当ブログはAmazon.co.jpのアソシエイト・プログラムに参加しています。筆者が参照している参考書・辞書を例示する際、また記事の関連書籍などをご紹介する際、Amazon.co.jpのリンクを利用しています。