Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

動名詞の意味上の主語, 同格, 時制の一致, など(著名俳優のツイートでフォースとともに蘇る10年前の伝説)

今回の実例は、Twitterから。というか、「あら、こんなところに受験英文法♪」の白眉的な実例。

先ほど、Twitterの画面をぱっと見たときに目に入ったサイドバーがこうなっていた。

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Girls Aloudという、2000年代の英国の芸能界を席捲したテレビのオーディション番組出身の女性ヴォーカルグループ(ガールバンド)のメンバーだったサラ・ハーディングさんが、39歳の若さで乳がんのため亡くなったという残念なニュースが大きく取り上げられているが(ちなみに彼女たちのグループ名のaloudは、同音のallowedを連想させる語で、彼女たちもまた、後続のLittle Mixなどと同様に「女の子/女性が堂々としていること」を核に据えたマーケティングが成功したグループだった)、その上の欄に、受験英語を見つけたので、悲しいニュースではなくそれを書き留めておくことにする。

Actor Mark Hamill Tweets out ‘Mark Hamill’ after someone said that him doing so would result in ‘thousands of likes’

https://twitter.com/search?q=%22Mark%20Hamill%22&src=trend_click&pt=1434606369332736014&vertical=trends

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【再掲】be used to -ing, 現在完了進行形, such ~ that ...の構文, など(人種差別の暴言にさらされる記者)

このエントリは、2020年5月にアップしたものの再掲である。

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今回の実例は、イギリスで起きていることについての報道記事から。

英語では「人種差別的な暴言を吐かれる」ことを、日常的には、 be racially abused と表す(「ヘイトスピーチ」という法律文書に出てくるみたいな抽象的な用語はこういう場面ではあまり使われない)。

abuseはuseにab-という接頭辞がついた語で、「~を正しくないやり方で使う」が原義、つまり「~を乱用する」で、これはケンブリッジ英語辞典では "to use something for the wrong purpose in a way that is harmful or morally wrong" と定義している。そこから転じて、「~を残忍なやり方で扱う、~を虐待する」の意味、また、「~に対して普通はありえないような失礼で侮辱的な言葉を使う」の意味になる。

「人種差別的な暴言を吐かれる」be racially abused は、この3番目の意味のabuseの受動態の表現だ。それが今回見る記事の見出しに入っている。

記事はこちら: 

www.theguardian.com

報道記事の見出しだから、-edは動詞の過去形ではなく過去分詞で、be動詞が省略された受動態である。この省略されているbe動詞を補って書くと次のようになる。

BBC reporter was racially abused while reporting on Covid-19 in Leicester

つまり、「BBC記者が、レスターでCovid-19について報じているときに、人種差別の暴言を吐かれた」という記事だ。

この "racially abuse" は、見出しの下に示されているリード文(見出しに補足する形で、記事の要点を短く述べた文)で "a man shouting 'terrible things' at her" と言い換えられている。"terrible things" に引用符がついているのは、それが警察が使った表現そのものだからである(この引用符の使い方のルールについては、つい先日もまた説明したばかりなので、そちらをご参照いただきたい)。

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if節のない仮定法, 仮定法過去完了, など(亡くなったパット・ヒュームさんを悼む言葉)

今回は、前回の続きで、逝去したパット・ヒュームさん(北アイルランド和平で最も大きな役割を果たし、ノーベル平和賞を受賞した故ジョン・ヒュームSDLP党首の配偶者)に捧げられた言葉から。コンテクストなどは前回のエントリをご参照いただきたい。

hoarding-examples.hatenablog.jp

パット・ヒュームさんは政治家ではなかったから、表に立って何かを発言するということは、夫が病気になってから夫のことを語るような場合をおいてはほとんどなかったが、北アイルランドの人々には広く知られ、敬愛を集めた人だった。それが北アイルランド独自の「宗派による分断(セクタリアニズム)」も超えていたことは、前回のエントリで見た元UUP所属で、現在はDUPの党首となっているジェフリー・ドナルドソンの言葉で明らかにされていた通りである。

前回は本当はドナルドソンの言葉を前置きに、現在のSDLP党首であるコルム・イーストウッドの言葉を取り上げようと思っていたのだが、途中で力尽きてしまったので、今回はそこから。

コルム・イーストウッドは1983年生まれと、北アイルランド紛争終結したときにまだティーンエイジャーだった世代の政治家で、1940年より前に生まれているジョン・ヒュームの世代(60年代公民権運動の時代に指導的立場にあった世代)とは親子以上に離れているが、……ええと、ここまで打鍵して、ちょっとお茶入れに立ったら何を書こうとしていたのかを忘れてしまったので先に行く。

イーストウッドがここでツイートしているのは、ツイート内のリンク先にあるSDLPのサイトに掲示されている、党首として公式のステートメントの書き出しの一節である。

www.sdlp.ie

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without -ing, 関係代名詞, など(訃報: 北アイルランド和平の筋道をつけた政治家の妻、パット・ヒュームさん)

今回の実例は、ある訃報を受けたステートメントやツイートから。

1年と1カ月ほど前、2020年8月に、1990年代の北アイルランド和平を実現させた最大の功労者のひとり、ジョン・ヒューム元SDLP党首が亡くなった。生涯の最後の何年かは、認知症とともに生きていた。

hoarding-examples.hatenablog.jp

そのヒュームが、和平への取り組みを主導するようになる30年以上前、デリーという街で教職につき、やがて公民権運動の指導者のひとりになろうとしていたころから、彼のパートナーとして常に側にいたのが、パット(パトリシア)・ヒュームさんである。

そのパット・ヒュームさんが、夫の死後1年と少しで、逝ってしまった。

www.bbc.com

ジョン・ヒュームは英語版ウィキペディアで項目化されているが、パット・ヒュームさんは項目化などされておらず、夫のウィキペディアのページで少し言及されているだけである。

まさに "unsung hero" であるばかりでなく、きっとこの人は日本語では「内助の功」という言葉で語られてしまうタイプだろうなと思わずにはいられないほどに*1、公の世界、つまりニュースとか本をはじめとする文献類では、パット・ヒュームというひとりの重要な人間については言及が少ないのだが(実際、Twitterにあふれた追悼の言葉の中にも、「パットさんは夫をよくsupportした」というものも見られた)、北アイルランドの現場を知る人々からは、ものすごく多くの、そしてものすごく密度の高い言葉が、彼女の死に際して発され、そのほとんどすべてが、彼女を、一般人の投票で「現代アイルランド一番の偉人」に選出された彼女の夫のパートナーとしてだけでなく、彼女自身として讃え、悼むものだった。

SDLPのジョン・ヒュームとUUPのデイヴィッド・トリンブルが主導して進めた1998年の和平合意(ベルファスト合意、またはグッドフライデー合意)に反対してUUPを、文字通り本当に(物理的に)飛び出して、当時合意に強硬に反対していたDUPに入り、2021年のあのすったもんだの末に現在はそのDUPの党首となっているジェフリー・ドナルドソンは、パットさんの訃報に次のように反応している。

*1:実際、北アイルランドは、「プロテスタント」側も「カトリック」側も、一部を除いてはびっくりするほど保守的なので、21世紀の今も「内助の功」的な価値観はみっちりと現役である。

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duckは「カモ」なの、「アヒル」なの問題について。

今回の実例は、Twitterから。またもや「実例」というより「小ネタ」です。

英語で一般的にduckと呼ばれる鳥は、日本語では、大別して「カモ」と「アヒル」と呼び分けられる*1。さらに言えば、日本語では「カモ」も「マガモ」「カルガモ」などと、わりと細かく呼び分けられるのだが、英語では全部 "duck" だ。だから、下記のようなことが起きる。

実際、英語版ウィキペディアを参照すると、次のようにある(太字強調は引用者による)。

Duck is the common name for numerous species of waterfowl in the family Anatidae. Ducks are generally smaller and shorter-necked than swans and geese, which are also members of the same family. Divided among several subfamilies, they are a form taxon; they do not represent a monophyletic group (the group of all descendants of a single common ancestral species), since swans and geese are not considered ducks.

en.wikipedia.org

つまり、「duckは、いくつかの種の鳥を指す総称である」ということで、他の例で言えば、イエネコもトラもヒョウもライオンも全部ひっくるめて "cat" と呼んでいる(実際、英語では大型のネコ科の動物は "big cat" という)ようなものだろう。

日本語では、このduckにぴったりくる語が(少なくとも一般的な語彙としては)なく、それゆえ、英語から日本語にするときに、写真や絵などの手がかりがないときは、非常に困ることになる。すなわち「duckは『カモ』なの、『アヒル』なの」問題である。

ここで「野鳥」が使えればよいのだが、アヒルは野鳥ではないのでそれもできない。それでも、文脈によって「水鳥」や「平凡な水鳥」「水辺でよく見かける鳥」のように処理することもできるのだが、それにしても、duckが平凡な語であるだけにぴたっと対応する語が日本語にないというのは、「不便」と実感されるような性質のことだ。当の鳥たちにとってはどうでもいいだろうし、もっと言えば英語話者にもどうでもいいところだろうが……。

他方、日本語から英語にするときに、「カモ」も「アヒル」も同じ語でいいというのは、何かちょっと違和感があるというか、「はいそうですか、じゃあそうします」というふうにはしがたい何かがあるのだが、実際にそうしちゃってかまわない――というのが今回の実例である。

*1:ついでに言えば「オシドリ」もduckである。

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【再掲】やや長い文,「~もまた」の意味のeither, to one's 感情の名詞(のバリエーション), andによる接続(カメルーンでの武力紛争とウイルス禍)

このエントリは、2020年5月にアップしたものの再掲である。

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今回の実例は、英国も米国も大変なことになっているこのコロナ禍の中で、英語圏主要メディアであまり大きく伝えられることがないアフリカ大陸からのニュース。というより、私が見ている範囲が狭いだけかもしれないが、コロナ禍以前からもあまり目立った扱いはされていなくて、私は2017年以降カメルーンがこうなっているとはこの記事を読むまで知らなかった。

記事はかなり平易な英語で書かれているので、大学受験生ならわからない単語を辞書で引きながら、独力で読み進めることができるだろう。記事はこちら: 

www.bbc.com

世界史で習っていると思うが、アフリカ大陸は19世紀から20世紀にかけて、いわゆる西欧列強によってめちゃくちゃな境界線が引かれ、支配者の言語を押し付けられた。現在カメルーンとなっている地域は最初はドイツに支配され、第一次世界大戦中の1916年にドイツが支配権をフランスとイギリスに奪われた。このときにフランス語圏(8割)と英語圏(2割)に分かれたのだが、第二次世界大戦後の1960年にフランス語圏がフランスから「カメルーン」として独立。英語圏住民投票の結果、南はカメルーンに入り、北は隣接するナイジェリア(英語圏)と合流した。ここにカメルーン国内でのフランス語圏と英語圏の対立の歴史が始まった……ということはこのBBC記事内の箇条書きの解説に書いてある。こういう問題が、西欧列強のアフリカ分割にあったこともしっかり明示してあるのがBBCクオリティである。

カメルーンはフランス語も英語も公用語と位置付けているが、少数派の英語話者はフランス語話者のもとで差別されていると訴え、英語圏でも法廷や学校でフランス語が使われることが多くなったため抗議行動が起きており、それが2017年以降は暴力化した、と記事は説明している。その暴力で既に3000人ほどが命を落としているとも。

 

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「マイナス記号」が「ダッシュ」「ハイフン」と混同されている実例(Google検索の便利なやり方)

今回の実例は、Twitterから。

暑くて疲弊しているので、「実例」というより「小ネタ」です。

昨日、英語圏で話題になっていたこちらのスレッド(連続ツイート): 

何となく思いついてツイートしてみたら予想外にバズってしまったようで、中身はランダムすぎるし、タイポ(タイプミス)が散見されるのが残念だが、スレッドの「まとめ」も作られている: 

threadreaderapp.com

Googleを使う上での「基本のき」のようなtips集で、その昔、「Googleっていう便利な検索エンジンができたんですよ、もう使ってみました?」というのがあいさつ代わりだった時代をリアルで経験していて、しかも英語畑・翻訳畑でたぶん世間一般での使い方以上のことはしてきたという人にとっては、このスレッドで取り上げられているtips自体は特に目新しいものではないだろう。何しろ、「ググる」(英語ではgoogle)という動詞もなかったころに、下記のような本がヒットした業界である。 

この業界、今だってこうだ:  

ともあれ、 今回@chrishladさんがまとめてくれた「8つの便利な使い方」は、日本語圏と英語圏とでは微妙に異なるニーズがあるのかなということを感じさせるという点でも興味深いので、ざっと見てみるとおもしろいだろう。

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仮定法過去(アフガニスタンについて、元英軍人の言葉)

今回の実例は、Twitterから。

この半月というもの、アフガニスタンから聞こえてくるニュースは、どれもこれもつらく、深い怒りをかきたてるようなものばかりだ。こうなる前からずっとそうだったとおっしゃる方もいらっしゃるだろうが、この半月は、本当に、限度を超えてひどい話ばかりである。中でも最もひどいのが、「反政府勢力」が迫る中、「政権」が国民を打ち捨ててとっとと逃げ出したことなのだが、その前にあったのは、その「政権」の(事実上の)お目付け役であったはずの米軍が、アフガニスタン国軍にも告げずに夜逃げ同然にして拠点から撤退するという事態であった(7月上旬)。米軍が残していったものを楽々と手に入れた「反政府勢力」を前に、国軍は国境を超えて隣国に逃げるなど、戦わずして持ち場を明け渡し、政治家たちも逃げ出し、首都カブールを「反政府勢力」、すなわちタリバンが掌握することになったのだが、この流れは、元はといえば、米国のドナルド・トランプ政権下で進められた「タリバンとの和平協議」にあった、ということが、ここ数日、英語圏で語られているのが、私の見るTwitterの画面にさかんに流れてくる。

そういう中、英国からは、ボリス・ジョンソン政権のスタンス*1は別として、英軍上層部からも一般の軍人・元軍人からも、「もっとやりようがあっただろう」という声が上がっているのは、先日(カブール陥落直後)見た通りである

そういった声は、アフガニスタンからの民間人の引き上げが急ピッチで進められる中も英メディア(の一部)では途切れることなく伝えられていたが、いよいよ引き上げの期限(8月末)が目前に迫り、英国への出国を希望する英軍協力者など避難民(難民)の移送が終了し、最後まで空港に残ってヴィザ発給の仕事をしていた英国大使らも引き上げ、2001年からずっとアフガニスタンに関わってきた英軍もついに完全撤退を完了、という中でも続いている。

北アイルランドベルファストテレグラフは、その局面で、次のような記事をフィードしている。

"UUP" はUlster Unionist Partyの略称で、日本語では「アルスター統一党」と表記されるのが慣例だが、この「統一」は誤訳に近いミスリーディングな訳語*2であるため、北アイルランドについての専門的な文献(学術論文など)ではそのまま「UUP」と記載されることが多い。議会に有する議席数では現状、DUPに続いてユニオニスト側政党で2番手となっているが、100年前に「北アイルランド」が成立して以降、1970年代に英国政府(ウエストミンスター)によって停止される続いていた北アイルランド自治政府ではいわば「万年与党」の座にあった政党で、1998年和平合意を主導したのも、ユニオニスト側ではこの党であった(ちなみに、1998年和平合意には、DUPは強硬に反対していた。今もその反対は継続している)。また、つい最近実施された世論調査では、DUPユニオニスト側第一党の座から滑り落ち、最近まで低迷していたUUPが第一党となっている。

今回のこのBelTelのフィードで名前が出ているRyan McCready氏は、この夏が始まるころ、当時の党首だったアーリーン・フォスターに対するあまりにひどい扱いに愛想をつかしてDUPを離党し、しばらくは無所属でいたが、その後UUPに入った地方議会議員である。

現在35歳と、若い政治家だが、政界入りする前は軍人で、英軍(Royal Irish Regiment)の一員として、イラクアフガニスタンを経験している。

*1:’Middle East Minister James Cleverly told BBC Breakfast the UK was "willing to engage" with the Taliban.’ https://www.bbc.com/news/uk-58380167 (as of 30 August 2021) 

*2:英国政治の文脈でのUnionist, Unionismという語は注意が必要であるが、北アイルランドではそれがさらにややこしい。私もたぶんどっかに書いてる。

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【再掲】関係代名詞の非制限用法, if節のない仮定法, it is ~ for ... to do --, など(南アフリカ反アパルトヘイト闘争の闘士、デニス・ゴールドバーグ死去)

このエントリは、2020年5月にアップしたものの再掲である。

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今回の実例はTwitterから。

かつて、南アフリカでとられていた人種差別政策(アパルトヘイト政策)に反対し、武装抵抗運動の活動家としてネルソン・マンデラらとともに逮捕され、裁判の後に有罪となった唯一の「白人」であるデニス・ゴールドバーグ氏が、87歳で永眠した。

この訃報に、多くの人々が追悼の言葉をTwitterで書いている。

デニス・ゴールドバーグは1933年に南アフリカケープタウンに生まれた。両親はロンドン生まれで、デニスが生まれる前に南アに移住していたが、その親(デニスにとっては祖父母)は19世紀後半にリトアニアから英国に移住したユダヤ人だった……といったことはウィキペディアでわかるので、そちらでご確認いただきたい。

en.wikipedia.org

ゴールドバーグは晩年、芸術や文化を通じて人と人をつなぐための活動に取り組み、House of Hopeという施設を建設しようとしていた。この活動は、故人の遺志をついで続行されることになっており、ゴールドバーグへの弔意をここへの寄付という形で表すこともできる。

さて、今回実例として見るのは、このHouse of Hopeの活動について、2017年11月にオブザーヴァー紙(ガーディアン紙の日曜)でゴールドバーグ本人とインタビューを行ったジャーナリストのツイートである。

 

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【再掲】引用符の使い方, so ~ that ...構文, not A but B, など(コロナ禍とアパレル業界)

このエントリは、2020年4月にアップしたものの再掲である。

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今回の実例は、新型コロナウイルス感染拡大による影響とアパレル業界についての記事から。

日本語圏でも「ステイホーム」というカタカナ語、または「Stay Home」という(若干もやっとする大文字の使い方をした)英語フレーズが見られるようになっているが(一例として下記Yahoo! Japanトップページのキャプチャ画像、ピンク色の枠内参照): 

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https://www.yahoo.co.jp/

世界の多くの国々では、日本よりずっと厳しい行動制限、いわゆる「ロックダウン」策をとっていて、いまだに通勤しているのは医療分野やインフラ分野、小売・流通・物流分野など社会の維持に必要不可欠な分野で働く人々に限られている。つまり「オフィスワーク」に分類されるような職種の人々は自宅から出ずにインターネットを介してリモートワークという形になっている。

そういう具合だから、アパレル業界としては、この時期売れ筋の春夏物の通勤着・オフィスワーカーの仕事着がさっぱり売れない。そもそも、店舗の営業ができない(「不要不急」ではないから)。だから売り上げという点では非常に深刻なことになっている。そんな中で急に需要が増加しているのが、日本語でいう「ルームウエア」(これは和製英語なので注意。英語ではloungewearという)。見た目より着心地・快適さを優先するユルい服装だ。家で仕事をするようになったオフィスワーカーが、仕事に着ていくスーツなどを買う代わりに、そういう服をネット通販で買っている、という。

記事はこちら: 

www.bbc.com

見出しは引用符でくくられているが、これは取材に応じた弁護士のサマンサ・ヒューイットさんの発言をそのまま使っているからである。英語のルールでは、引用符は発言者の発言を一字一句たがえずに引用するときに使う。日本語の報道記事では、誰かのコメントを取ったときに、編集者や記者、ライターが自分で判断して文言を書き換えてカギカッコで記すことが常態化しているが、英語の報道記事ではそういうことは引用符を使っては行わない。引用符はあくまで、他人の発言をそのまま示すときに使う。"jogger" はジョギングで着用するようなウエア、つまり日本語でいえば「スウェット」「ジャージ」「ジョギングパンツ」のようなものだ。

この見出しは、「スーツを返品して、ジョギングウエアに100ポンドを費やしました」というヒューイットさんの言葉をそのまま使っているわけだが、なぜこれが見出しになるかというと、「100ポンド」のインパクトが強いからだろう。日本円に換算してもいいのだが、為替相場は常に変動するので換算はあまり意味はない。代わりに英国でジョギングパンツがいくらくらいで買えるのかを調べてみたほうがよい。例えば下記のサイトでは、セール価格で10ポンド~18ポンド、平価で15~25ポンドだ。一番高いのを買っても、100ポンドだと4本も買える。パンツだけでなくトップスも買ったとして、2~3セット新規で購入したのだろう。

www.boohoo.com

というわけで、一種「特需」的なことが起きている。それが店舗閉鎖などによる損失を埋め合わせる規模であるかどうかは別の話だが、ぱりっとした「きれいめ」の服装を好むはずのオフィスワーカーや専門職がこぞってジャージを買っているというこの奇妙なトレンドは、コロナ禍が始まったころは想定もされていなかっただろう。

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not A but B, A not B (アメリカは、何のためにアフガニスタンに介入したのか)

今回の実例は、Twitterから。

アフガニスタンが大変なことになっている。ぼーっと見ていると気づかないかもしれないが、もともとアフガニスタンは「タリバンか、(こないだカブールから逃げた)ガニ大統領の政府か」の二項対立というか二択ではなく、ガニ大統領の政府がアフガニスタンを捨てて逃げ出してタリバンが政権を掌握したからといって、そして、仮にタリバンのあれやこれやを無視して「タリバン政権」を前提として受け入れるとしても、それでさくっと次の局面に進めるわけではない。簡単に言えば「タリバン以外」の武装勢力軍閥)がいっぱいあるからだ。

そして、8月半ばにタリバンがカブールに入ってからも、それらの「タリバン以外」について、識者筋は、わかっていることに基づいて分析などしてきたわけだが、そういう中でほとんど語られていなかった集団が、日本時間で昨夜遅く、退避を急ぐ人々が密集しているカブールの国際空港で、自爆攻撃を行った。犯行声明を出したのは、イスイス団の系統でアフガニスタンを含むあの地域で組織された武装勢力である。この地域には「ホラサン (Khorasan)」という古い名称があり、この武装勢力は、英語圏などでは、地名の頭文字をとって "ISIS-K", "IS-K" などと呼ばれている(ウェブ検索するときには、現状、前者のほうが都合がよい)。本稿でも「イスイス団K」と書くこととしよう。

f:id:nofrills:20210827201515p:plain

https://www.ecosia.org/search?q=ISIS+K

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https://www.ecosia.org/search?q=IS+K

8月半ばにタリバンがカブールに入ってからというもの、私の見るTwitterの画面では、バイデン大統領によるものすごく極端な米軍撤退の決定に対して、米国内外から批判的な意見が次々と流れてきているのだが(特に英国からの批判は多いが、保守党筋であってもジョンソン政権とは直接関係のないところからしか批判は出ていないようである。このあたり、英国は老獪)、イスイス団Kのような武装組織にこのような攻撃を行わせてしまったあとでは、なんというか、「何とも言えないムード」としか言いようのないものが漂っていて、ワクチン接種後の腕の痛みと倦怠感がまだ残っていて*1、暑さと冷房でぼーっとしている私には処理しきれない。

今回の実例は、そういう中で流れてきた、米国の大物外交官の言葉から。

非常にあけすけな、あるいは冷徹な言葉であるが、この認識を持っているかどうかは極めて重要だと思う。

ツイート主のリチャード・ハース氏は、米外交問題評議会 (Council on Foreign Relations: CFR) の会長を務めるベテランの外交官。ジョージ・W・ブッシュがおっぱじめた「テロとの戦い対テロ戦争)」のしょっぱなから、政策決定権のある人々のいる場所にいた人で、北アイルランド紛争の後処理(ピース・プロセス)にも、北アイルランドに入って長い時間をかけて提言を行うという形でかかわっている(が、北アイルランド北アイルランドなので、非常に優秀な補佐役をつけていたハース氏でも、何ともすることができなかった)。

*1:1週間程度は続くこともあるとのことで、私もそのケース。

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【再掲】too ~ to do ...構文, 報道記事の見出し, 接続詞のasなど(英ボリス・ジョンソン首相、職務復帰)

このエントリは、2020年4月にアップしたものの再掲である。

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今回の実例は報道の見出しから。

昨日4月27日(月)に、新型コロナウイルスに感染して自宅療養を続けていたが容態が悪化したために入院し、一時は集中治療室に入っていた英国のボリス・ジョンソン首相が、職務復帰した。ジョンソン首相は12日(日)に退院したあと、ロンドン郊外の緑豊かな環境の中にある首相のための別邸(別荘)で静養していたが、2週間が経過して、ようやくロンドン中心部のダウニング・ストリートに戻ってきた。

今回見るのは、それを伝えるガーディアンのLive blogの見出し。見出しだから当たり前だが、見れば即座に内容がわかるくらいの例だ。下の方に解説を書いておくが、解説はなくてもいいやという人は「おお、これがtoo ~ to do ...構文の使いどころか」と納得したら、本稿は、あとは読まなくてもよい。

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否定語+最上級, 感覚動詞(知覚動詞)+目的語+動詞の原形, など(チャーリー・ワッツ死去)

今回の実例は、再度予定稿から変更して(すみません)、報道記事についている解説から。

ほぼ60年間、ずっと同じロック・バンドでドラムを叩いてきたミュージシャンが亡くなった。私が、ここ日本で「洋楽」と呼ばれるものを自分から進んでラジオで聞くようになったころにはもうとっくに「ベテラン」扱いされていて、つまり私と同世代の人たちはあえて聞こうとはしなかったザ・ローリング・ストーンズというバンドのドラマーだ。

クソ生意気な子供にとって、リアルタイムでTVの音楽(「洋楽」)番組から流れてくるのを聞く限りでは、このベテランたちの音楽は、あえて自分から探して聞くようなものではない、という印象だった。リアルタイムでなく古い曲でも、Satisfactionなど超有名なのは、自分から探すまでもなく、ラジオや商店の有線放送でよく流れていた。自分から探して聞くようになったのは、やや成長して、自分が生まれる前からまだよちよち歩きだったころの音源を積極的に聞くようになったあとのことで、それも「超有名な曲以外のも知っていないと話にならない」という、謎の「教養」じみた必要性を感じたからだったのだが、そんなのぶっとばすくらいの「なにこれかっこいい」っていう驚きがあって、それからはレンタル屋で借りるなどして一通り聞いた。海外旅行に持って行ったカセットテープにも入ってた。ロンドンではこの人たちの曲に救われたことが何度かある(あの場所で聞くあの音は、特別なものだった)。だから、(語れるような蘊蓄を自分の中にため込んでいるわけではないし、聞くアルバムも限定的だが*1)自分はそれなりにこのバンドの「ファン」であると、ここ30年くらいは思っている。

www.youtube.com

戦争や紛争のニュースに接すると、自動的に頭の中で再生されるのも、このバンドの曲である。

www.youtube.com

これらの楽曲で、屋台骨的な役割を果たしているのが、亡くなったチャーリー・ワッツのドラムである。

というわけで、今回の実例は、チャーリー・ワッツが亡くなったことを伝える報道記事(オビチュアリー、つまりいわゆる「訃報記事」とは別のもの)より、音楽専門記者の解説的な部分より。記事はこちら。

www.bbc.com

記事自体は、見習い記者がウィキペディアを見て、Twitterをしきりにリロードして書いたような、報道記事というよりは「まとめ」記事だが、この記事の中ほどに、"By BBC music reporter Mark Savage" というクレジットがあるセクションがある。そこから: 

*1:80年代以降のこういうメインストリームのバンドの音作りが実は苦手で、曲の良さとは別に、スタジオアルバムが聞けないというのがけっこうある。デジタル・ディレイとかメインストリームのロックバンドが使うシンセが苦手で……だからリアルタイムでそういうのが流行っていたときに、反動みたいにして60年代ものを聞いていたというのはあるかもしれない。

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【再掲】やや長い文, let alone, if節のない仮定法, seem ~, almost, 【ボキャビル】inconceivable, 関係副詞など(新型コロナウイルス封じ込めに成功した韓国)

このエントリは、2020年4月にアップしたものの再掲である。(今日、2021年8月24日は新規で書く予定だったのですが、ワクチン接種後の倦怠感が薄れつつもまだ続いているので、過去記事再掲とさせていただきます。予定していたトピックは、明日!)

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今回の実例も、前回と同じ記事から。

前回はこの記事の中の方から見たが、今回は書き出しの方を見てみよう。この記事、書き出し部分がなかなか文学的で読むのが大変かもしれないが(短い記述に情報量がてんこ盛りになっている)、「わからない」と思ってもそこで立ち止まらずに先に読み進んでみてほしい。先に進んだところで話がふっとわかるようになることも、英語圏の新聞記事にはよくあることだ。

記事はこちら: 

www.theguardian.com

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うなぎ文っぽいもの(私もわからないので、よろしければご意見賜りたく)

今回の実例はTwitterから。

というか超手抜きで、ほぼツイートの貼り付けだけ。しかもしばらく考えてみても結論が出ていない話で、自分用のメモとして書いておく。

まずはこちら。日曜日の夜中(というか日付が月曜日に変わったころ)に見かけたツイート。ツイート主は米メディアThe AtlanticのシニアエディターでCNNでも政治分析の仕事をしている人で、つまりは文・文章を書くことのプロである。

画面に流れてきたこれを見たとき、私は最初「おっ、ウナギ文」と思った。この箇所である。

CBS is bigger drop

ロナルド・ブラウンスタインさんのこのツイートは、アフガニスタンからの米軍完全撤退後のひどい状況を受けたあとでも、NBC世論調査ではジョー・バイデン大統領の支持率 (英語ではapproval rateという。approvalは名詞で、動詞のapproveの派生語だが、「支持」と聞いて多くの人がすぐに想起するsupportとはちょっと違う概念である) は4月の数値から1ポイントしか下がっていない、ということを述べたあとで、「CBSのほうが下落の幅が大きい」という事実を参照し、それに対して「だがCBSはもともとの数値が高かった」と述べ、そこから読み取れること(読み取るべきこと)を指摘して締める、という形になっている。

この「CBSのほうが下落の幅が大きい」が、日本語のいわゆる《ウナギ文》(食堂で注文するときに「僕はうなぎを注文しよう」が「僕はうなぎだ」となることからこう呼ばれる)のスタイルで、 "CBS is (a)*1 bigger drop", 直訳すると「CBSはより大きな下落だ」になっているのでは、というのが第一印象だったのだが、よく見たら、どうやらそうではないように思えてきた。

*1:このツイートでこの "a" がない理由はわからないが、 "a" を入れるのが標準的だと思う。ただこのツイートの文字数はあと2文字しか余裕がなく、ここに "a" を入れると前後のスペース込みで3文字必要になるから、削ったのかもしれない。

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