今回の実例は、2月10日付のイギリスでの報道から。トピックは都市計画というか、都心部の公園の開発というか、新施設を付け加えることについてである。
なお、記事の掲載媒体はガーディアンだが、中身はPress Associationという通信社*1の記事で、ガーディアンの記者が書いたものではない。
最初のパラグラフにいくつか重要な文法項目が入っている。
Proposals for a Holocaust memorial have been dealt a blow after the charity responsible for looking after the central London park in which it is supposed to be built said it was opposed the move.
目次:
現在完了の受動態
まずは書き出しの部分:
Proposals for a Holocaust memorial have been dealt a blow a
dealtはdealの過去分詞で、deal ~ a blowで「~に打撃を与える」。これが受身になって、~ be dealt a blowで「~は打撃を与えられた」の意味。
この受身でbe動詞が現在完了形になっているので、have been dealt a blowという形になっているわけだ。
高校に入って、英語が複雑で面倒なものに感じられてきたという人は、こういった「動詞の形」の整理を10分くらいでやるだけで、劇的にスッキリする場合があるので、試してみてほしい。下記、文意は特に考えなくてもいいので、be動詞の形にだけ注目してほしい。
The match is postponed. ……現在
The match was postponed. ……過去
The match will be postponed. ……未来
The match has been postponed. ……現在完了
The match had been postponed. ……過去完了
The match will have been postponed. ……未来完了
The match is being postponed. ……現在進行形
The match can be postponed. ……助動詞+受動態
to不定詞の受動態
「受動態」つながりで、実例の最後の部分に飛ぼう。(飛ばした部分に入っている文法項目については後述。)
it is supposed to be built
be built 「建設される」のbe動詞の部分がto不定詞になって、to be builtとなっている形だ。動名詞でも同様に考える。これも下記の例を参照。
The club will ask for the match to be postponed. *2
After being postponed twice, the match finally took place last night. *3
前置詞+動名詞
さて、いったん飛ばした部分だが、まず下記の部分に注目だ。
after the charity responsible for looking after the central London park...
for lookingは《前置詞+動名詞》の形。(be) responsible for ~ 「~に責任がある」の "~" の部分が、(名詞ではなく)動名詞になっている形。
look after ~は「~の面倒をみる、~の世話をする」という訳語で覚えている人が大半だと思うが、ここでは「ロンドン中心部のその公園を管理すること」といった訳語で考えるのが日本語としては適切だろう。「ロンドン中心部のその公園の管理の担当となっているチャリティ団体が……したあとで」という意味になる。
なお、英国での「チャリティ団体」は非営利で活動することを旨とし、政府に届け出て認可されている団体のことで、現在の日本の制度でいえば「NPO法人」に近いものと考えるとわかりやすいと思う。一般には「慈善団体」と訳されることが多いが、その訳語に引っ張られると「公園の管理」と結びつかなくて苦労することになるかもしれない。
前置詞+関係代名詞
さて、今回の実例の山場となるのがここだろう。《前置詞+関係代名詞》だ。
after the charity responsible for looking after the central London park in which it is supposed to be built said it was opposed the move.
このafterの節の主語は、the charityだが、述語がどれかわかるだろうか。(afterが2つあってややこしいかもしれないが、最初のafterが接続詞、2番目のはlook after ~という熟語の一部である。)
それを判断するためには、すぐ上で見た構造 (the charity responsible for -ing) をつかんだ上で、関係代名詞の節を確定しなければならない。
after the charity responsible [ for looking after the central London park ( in which it is supposed to be built ) ] said it was opposed the move.
上記で青字で示した部分が関係代名詞の節で、その直後にあるsaidがafterの節の述語である。
この関係代名詞の節が、《前置詞+関係代名詞》で導かれているが、ややこしければ関係代名詞で始めて前置詞を最後に持ってくる形にしてみると、少しわかりやすくなるという人もいるかもしれない。
the central London park in which it is supposed to be built
→ the central London park which it is supposed to be built in
つまり、"it is supposed to be built in the central London park" という構造があるわけだ。
この関係代名詞節内のitは、一見、形式主語のように見えるかもしれないが、ここではそうではなく、前出の単数の名詞、つまりa Holocaust memorialを受けている。したがってこの部分の意味は、「そのホロコースト記念碑が建設されることになっているロンドン中心部の公園」だ。
afterの節全体の意味は、「そのホロコースト記念碑が建設されることになっているロンドン中心部の公園の管理を任されているチャリティ団体が、その動きには反対であると述べたあとで」。最後の方の "it was opposed the move" のitは、the charityを受けている。
補足
例文として取り上げた文は報道記事の冒頭なので、詳細はこのあとの記事で詳しく語られている。この文だけ見ると「ロンドンの公園の管理団体が、ホロコースト記念碑の建設に反対している」ように読めるが、そう考えるのは「事実の半分」でしかないので注意されたい。
ざっくり説明すると、都心部で貴重な開放空間、憩いのスペースであるこの小さな公園に、かなりのスペースを占有し、人々の視界を妨げることになる大きな記念モニュメントを作ることに反対しているということで、そのモニュメントが何のモニュメントであるかは問題ではない、という主張である。また、このモニュメントがなぜこの公園を選んで建てられることになったのかも、記事内に説明がある。少しでも関心がある方には、記事全文をご覧いただきたい。
欧州のいわゆる「反ユダヤ主義 antisemitism」の言説のひとつに、「われわれはユダヤ人にNOと言えない」系のトンデモな主張があるのだが、この記事が伝えている内容はそのトンデモ説への反証として有効だろう。
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