今回の実例は、今年の春分の日はスーパームーンが重なるという非常に珍しいめぐりあわせで、日本時間では3月21日の夕方から上る月がスーパームーンで大きく見えるということについての解説記事から。
「スーパームーン」は、ごく最近になって騒がれるようになってきたが、月と地球の距離が近いために普段より大きく見える満月のことを言う。用語としては天文学由来ではなく占星術由来だそうだし、日本の国立天文台のサイトにはあまり積極的にこの概念を広めたくなさそうな解説ページがあったりするので、「ちょっとした世間話のきっかけ」とか「夜空を見上げるきっかけ」くらいにとらえておくのがよいかもしれない。
だが、新聞にとってはよいネタにはなるわけだ。
まずは地の文の部分:
Kerss said it is a rare event for a supermoon to coincide with the equinox.
最初のKerssは人名である。
この文は、まるでお手本のような《形式主語》と《to不定詞の意味上の主語》の文になっている。つまり、itは《形式主語》で、真の主語はto coincide... で、その《意味上の主語》がfor a supermoonという構造だ。
今この実例の文を見て、この構造を取るのに苦労したという人は、中学英語を復習したほうがよいだろう。
文意は、「Kerss氏はスーパームーンが春分と同時に起きるのは珍しい出来事だと述べた」。
続いて引用符内の最初の文:
We have been looking at the records for the occurrence of what we call supermoons today.
《have been + -ing》は《現在完了進行形》である。「私たちは記録をずっと見てきた」という意味になる。
下線を施したforは「~を求めて、~を探して」の意味。この意味のforというと、look for ~という熟語(「~を探す」)を思い出す人も多いだろう。
My grandfather is looking for his glasses.
(祖父はめがねを探している)
今回の実例では「~を探して…を見る」という形になっている。つまり、(便宜上、文法を少し簡略化した形に書き直すと)"We are looking at the records for the occurrence of supermoons." で「私たちは、スーパームーンの発生事例を探して、記録を見ている」という意味だ。
そして、supermoonsという語についているのが、what we callというフレーズ。これは「いわゆる」という熟語として覚えている人が多いかもしれないが、whatは関係代名詞で、直訳すれば「私たちがスーパームーンと呼ぶ(呼んでいる)もの」となる。文末のtodayはここにつながっていて、「こんにち、私たちがスーパームーンと呼んでいるもの」という意味。
さて、この記事にあるように、前回春分とスーパームーンが重なったのは100年以上前の1905年のことで、次回見られるのは今から125年もあとの2144年だそうだ。
現在、世界最高齢とされているのが1903年生まれで116歳の日本人女性だが、1905年だとまだ2歳だから、仮に前回の春分の晩のスーパームーンを目にしていても、記憶にはないだろう。そもそもその当時はスーパームーンが特別な現象という扱いはされていなかったはずだし、特に注目もされていなかっただろう。
今、地球に生きている人間はみなこの女性より若いのだから、前回の春分+スーパームーンを見たと言える人は、おそらく地球上に誰もいない。
そして、今回のを見て記憶して、125年後の次回のを見ることができる人も、おそらく地球上にはいないだろう。あるいはこれから医学が進歩するなどして、2019年の今も2144年の今もしっかり夜空の大きな満月を見ることができる人が大勢出たりするだろうか。
いずれにせよ、今晩は天気がよければ空を見上げてみたいところだ。
ちなみに、今日参照したガーディアン記事によると、この時期のスーパームーンは "worm supermoon" と呼ばれるそうだ。「虫が活動し始める時期」という意味で、2月にスーパームーンがあれば "snow supermoon" と言うなど、北米のネイティヴ・アメリカンの間での名づけがあって、それに由来しているという。
同じ北半球の日本の二十四節気でも、この時期(3月5日・6日から春分の前日まで)は「啓蟄」で、冬の間は活動を止めていた虫たちが動き出すことを季節の節目ととらえている。
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