今回の実例は、米軍がベトナム戦争のときにベトナムの国土の上に使用した枯葉剤(エージェント・オレンジ)に汚染された空港の後始末が、戦争が終わってから40年以上も経ってからようやく始まるという報道記事から。
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書き出しの文を読んでみよう。
The US has launched a multi-million dollar clean-up operation at an air base in Vietnam it used to store the notorious chemical Agent Orange.
この太字にした部分を、迷わずに正確に読めただろうか。
形式だけで判断しようとしてしまうと、これは《used to do ~》の形になっているので、「(主語は)かつて~したものだった」という《過去の習慣》(や、「かつては~だった」という《過去の継続的状態》)を表しているように読めるかもしれない。
しかしそれでは意味が通らない。"used" の主語である "it" は、先行の3人称単数の名詞を受けており、ここでは "the US" を受けているということはすぐに判断できると思うが、ここで「米国は悪名高いエージェント・オレンジを貯蔵していたものだった」と言われtも、「だから?」である。
そこで、"used to store" の部分を解釈し直さねばならない。
ここは、《used to do ~》の熟語ではなく、"an air base in Vietnam it used / to store" と、usedとtoの間で切れている。
"it used" は接触節で、関係代名詞が省略されている。"an air base in Vietnam which it used" ということだ。「アメリカが使っていたベトナム内の空軍拠点」という意味である。
そのあとに続く "to store the notorious chemical Agent Orange" は《to不定詞の副詞的用法》で「悪名高い化学物質のエージェント・オレンジを貯蔵するために」。
両方合わせて、「悪名高い化学物質のエージェント・オレンジを貯蔵するためにアメリカが使っていたベトナム内の空軍拠点」という意味が見えてくるだろう。
このように、《used to do ~》の熟語なのか、《used + to不定詞の副詞的用法》なのかは、形式を見ただけではなかなか判断できない。「これをあてはめれば判断できる」という規則があるわけでもない。読解には、その文が意味が通るように正確に解釈できるだけの能力が必要となる。
英語を読むときは「いちいち訳すな」と言われるかもしれないが、「いちいち訳すな」は「文意をとらえるな」という意味ではない。意味を考えながら読まないと、間違った読みをしてしまうことがあるわけで、常に文意はとらえながら読まねばならない。ただし、その読解をきれいな日本語としてアウトプットすることは、ただ読解するだけなら、考えなくてよい、ということである。
ベトナム戦争については、映画も本もたくさん出ている。本は現在では絶版・品切れのものも多いが(当時のルポルタージュものなどは特に)、複雑な経緯で始まったこの戦争について、かなり明解に説明しているのが、下記の新書である。20世紀後半、冷戦期の国際政治に関心がある方にはご一読をお勧めする。