※この記事は、2019年1月にこのブログを開設したころにまとめて投稿したいくつかの記事のひとつである。開設時の記事はほとんど閲覧されていないので、重要事項の実例として改めて見ておいていただきたく、ここにコピーして再掲しておこう。
****************
今回の実例は、ロシアとつながっているという疑惑を全力で否定する米トランプ大統領の発言から。否定に躍起になっている例だ。
Not only did I never work for Russia, I think it’s a disgrace that you even asked that question
これは、否定語のNotが強調のために前に出たことにより、文のSとVで《倒置》が起きている形。
《倒置》していなければ、I never worked for Russia という語順になる。
なお、この文は文法が少し壊れていて、《not only ~ but (also) ...》の形を作ろうとしたのに作れていない感じだ。発言者(トランプ大統領)がこんなに慌てていなければ、"I never worked for Russia, and I think it's a disgrace..." と言うか、"Not only did I never work for Russia, but I think..." と言うかしていたのではないかと思う。このくらいの「文法の壊れ」は、英語の実例にはよくあるが、日本で大学入試で要求されるアカデミックな英語ではまず見ない。
余談
私も、高校生のときにこういう「文法が壊れた例」に初めて接したときは戸惑ったが、英語は教科ではなく言語なので、常に厳密に規則どおりに使われるわけではなく、実際の例を見ていればこういうこともある。
ちなみに私が初めて「文法が壊れた例」に接したのは、大学受験前に多読の練習をするために使ったレイモンド・カーヴァーの小説に出てきた登場人物のセリフで、notとnoが同一文に出てきたときだ。"I don't know nothing." というような文。
私はこれを律儀に二重否定と考えて、前後の意味が通らなくなってしまい、先生に「これは文法が壊れている」、「否定したいという気持ちが強いので、二度否定語を使っているが、二重否定ではなく、どちらかというと否定の強調」と教わった。
そういえば、ローリング・ストーンズのとても有名な曲では、I can't get no satisfactionと歌っている。意味は「満足を得ることなんか、できない」であり、「満足のない状態を得ることができない」ではない。こういう「一見すると二重否定だが、実は単なる否定」という例は、ラップなどでも多く見られるのではないかと思う。
The Rolling Stones - (I Can't Get No) Satisfaction (Official Lyric Video)
■記事そのもの:
https://www.theguardian.com/us-news/2019/jan/14/trump-mueller-russia-investigation-william-barr
- 作者: マイケルウォルフ,Michael Wolff,池上彰,関根光宏,藤田美菜子
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2018/02/23
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- この商品を含むブログ (5件) を見る