今回の実例は、文法項目としてはほんの3日前に取り上げたものとカブる。
もう笑い転げてしまって、トピックの背景解説どころではないので、記事はこちら:
……とはいえ、多少は解説を書いておかないと何のことかわからない方々も多くいらっしゃるだろう。
ジョージ・ベストは往年の名フットボーラー。北アイルランドのベルファスト出身で、身体が細くて弱々しく見えるタイプで、「あんな子がプロの世界でやっていけるはずがない」的に扱われていたが*1、実際には、「ミュンヘンの悲劇」で多くのプレイヤーを亡くしたマンチェスター・ユナイテッド (MUFC) でスター・プレイヤーとなり、MUFCを欧州の強豪の地位に引き上げた立役者となった。詳しくは、川端康雄先生の新書をお勧めしたい。
ベストはフットボーラーとしても抜きんでた存在だったが、とにかくルックスと派手なライフスタイルで注目された。ハンサムとしか言いようのない顔立ちをして、髪を長めにしたりしていて、まるでザ・ビートルズのメンバーのようなスターだということで「5人目のビートル」との異名をとった。ベストはキャリアを終えるころには酒などで身を持ち崩していて、私はマンチェスターのMUFCのサポの人から「悲しくなるから彼の名前は口にしないでくれ」と言われたこともあるのだが、最終的には酒で肝臓を悪くして、2005年に59歳の若さで他界した。
そのジョージ・ベストは、出身地のベルファストでは「スポーツ界のヒーロー」としてプロテスタントとカトリックの区別なく敬愛される存在で*2、近距離便が利用するベルファストのシティ空港は2006年に「ベルファスト・ジョージ・ベスト・シティ空港」と改称したし、記念紙幣も作られたし、MUFCのホーム・スタジアムの外周部にはベストを含む3人の同時代の名選手の銅像が建てられた。下の写真の一番左がベストである。
By Paul Hermans - 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 3.0, Link
このジョージ・ベストの新たな銅像が、今回、ベストもプレイしていた北アイルランド代表のホームであるベルファストのウィンザー・パーク・スタジアムの近くに建てられ、除幕式が行われた、というのが2019年5月23日のニュースだった。
そしてその銅像が……端的に言えば「誰っすか、これ」というクオリティで、英メディアが笑いをこらえながら(あるいは爆笑しながら)記事にしているわけだ。
今回の実例はそれらの記事のひとつから。
Some compared it to the “White Walkers” from Game of Thrones, while others said it resembled fellow Manchester United star Paul Scholes “with a 70s haircut”.
この部分で、つい3日前に取り上げたものとカブるが、《some ~, (while) others ...》の構文が用いられている。文意は「ドラマGame of Thronesのホワイト・ウォーカーに似ているという人もいれば、ベストと同じくMUFCのスター選手だったポール・スコールズが『70年代風の髪型』をしているように見えるという人もいる」。
さらに、今回は3日前のとは違って、そのあとにanotherが来ている。
Another critic said it resembled the legendary Spurs, Arsenal and Northern Ireland goalkeeper Pat Jennings, who helped unveil it.
anotherは、分解すれば 〈an + other〉で、「また別のひとり」という意味になる。つまり文意は「また別の批判者は、この銅像はスパーズやアーセナルで活躍し北アイルランド代表でも名を残した名ゴールキーパーのパット・ジェニングスに似ていると言っている。ジェニングスはこの銅像の除幕式に参加している」。
で、除幕式にはジェニングス師匠のほか、ジェリー・アームストロング先輩も参加しているのだが、アームストロング先輩が「この銅像、顔が似てないですよね」という批判に対して
“No! The body is great and it’s always difficult to get the features exactly right, which is nearly impossible in a bronze statue. I personally think it’s very good and it’s an action shot of George which he would have loved”
……とおっしゃっているそうで、私は笑い転げたまま多摩川に転がり込んでしまいそうだ。「身体はよくできているじゃないですか。顔をそっくりにするのは大変なんですよ、銅像ではほぼ無理じゃないですか。個人的には、とてもよくできた銅像だと思います。まさに躍動している瞬間をとらえていて、ジョージが生きていたら喜んだのではないかと」。(下線をつけた部分で仮定法が使われていることにも注目)
確かに、ジョージ・ベストの線の細さや腕の長さはよく再現されているとは思う。しかしそれは例のクリスチアーノ・ロナウドの銅像で「首の太さはよく再現されている」というのが褒めことばとしては微妙だったのと、あまり変わらないように思う。
何しろ、オールド・トラフォードにあるトリニティの銅像のベストの顔は、誰が見てもジョージ・ベストだと思えるクオリティなのだから。
George Best statue unveiled in Belfast via @irish_news https://t.co/TowrZEqEf0 また誰だかわからない風貌にされた名フットボーラーの銅像が…… Did George Best really look like this?
— nofrills/共訳書『アメリカ侵略全史』作品社 (@nofrills) May 23, 2019
https://t.co/RZbY6wrQ3B 記事の最後でちゃんと例の写真がwww そういえば同じ「MUFCの7番」だ。
— nofrills/共訳書『アメリカ侵略全史』作品社 (@nofrills) May 23, 2019
'Despite unfavourable online comments, Tony Currie, from Downpatrick-based Lecale Bronze, said Best was "instantly recognisable".'
— nofrills/共訳書『アメリカ侵略全史』作品社 (@nofrills) May 23, 2019
あかん (・_・)
引用符にやられた。
この銅像、ジョージ・ベストよりも、除幕しているパット・ジェニングスのほうに似てるのがまたじわじわくる。
— nofrills/共訳書『アメリカ侵略全史』作品社 (@nofrills) May 23, 2019
The Wedding Present - Everyone Thinks He Looks Daft https://t.co/eygQuEB9ee 'I think someone's here, look at the window, I can't make out who' って歌ってる。あかん (・_・)
— nofrills/共訳書『アメリカ侵略全史』作品社 (@nofrills) May 23, 2019
- アーティスト: WEDDING PRESENT
- 出版社/メーカー: COOKI
- 発売日: 1997/10/03
- メディア: CD
- 購入: 1人 クリック: 2回
- この商品を含むブログ (5件) を見る