以下は2月上旬のエントリの再掲である。《助動詞+完了形》について基礎から説明してあるので、この点確認しておきたい方にはぜひご一読いただきたいと思う。
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今日の実例も、イギリスのEU離脱に際し、イギリスのテリーザ・メイ首相がEUとの間で交渉して取り付けた合意案についてイギリスの国会下院で1月15日(現地の日付)に行なわれた採決に関する報道から。
日本時間で日付が16日に変わってすぐの時点で、イギリスの新聞The Guardianのアプリを立ち上げたときの画面が下記*1。今日の実例は、一番上の(一番大きな扱いの)記事の見出しである。
ちなみに記事は(時間が経過して、見出しが変更されているが):
Amendment that might have limited PM's losses is rejected
この中に文法ポイントは2つある。
関係代名詞
まず、Amendment (ここでは、法案などに対する「修正案」の意味) の直後にあるthat(下線部)は《関係代名詞の主格》。これは文法としては特に解説はしなくてもよいだろうが、例文だけ見ておこう。
Young people who want to study abroad will be interested in this book.
(海外で学びたがっている若い人々が、この本に興味を持つだろう)
この例文も、今回の実例として参照する見出しも、文の主語に関係代名詞thatの節がついているので主語が長くなり、文の述語動詞がかなり離れたところにあるため、少々読みづらくなっていることには注意が必要だ。それぞれ、関係代名詞の節をカッコに入れて青字で示すと、次のようになる。その節の直後にあるのが、文の述語動詞である。
例文: Young people (who want to study abroad) will be interested in this book.
実例: Amendment (that might have limited PM's losses) is rejected
助動詞+完了形(助動詞 + have + 過去分詞)
続いて2つ目の文法項目は、《助動詞+完了形》(つまり《助動詞 + have + 過去分詞》)。これは、助動詞の表す時と、その助動詞に連なる動詞の動作などが起きた時がずれている場合に用いられる――と抽象的に説明をすると、必要以上に難しくなってしまうので、例文で見てみよう。
通常、助動詞は直後に動詞の原形を置く。次の例文は単に「~できるだろう」と述べるときの《助動詞+動詞の原形》の形。
1. Covering your mouth could prevent the spread of infection to others.
(口を覆うことで、他人への感染症の感染を防ぐことができるだろう)
一方で「過去において~できていただろう(のに)」と言いたいときは、《助動詞+完了形》にする。
2. Covering your mouth could have prevented the spread of infection to others.
(口を覆うことで、他人への感染症の感染を防ぐことができていただろうのに)
この2つの例文を比較すると、1の例文(助動詞+原形)は単に一般論として、あるいはこれからの方針として、「マスクをしていれば感染源にならない」ということを言っているのだが、2の例文(助動詞+完了形)は、実際には「マスクをしていなかった人が感染源になってしまった」という事実があり、それについて「マスクをしていれば感染源にならなかっただろうに(実際には、マスクしてなかったからなってしまった)」ということを言っている。
わかりづらければ、もっとシンプルな例文で見てみよう。
3. You should practice more.
4. You should have practiced more.
3の例文は単に一般論として「あなたはもっと練習すべきだ」と言っているが、4の例文は何か悪い結果が出た後で「あなたはもっと練習すべきだった(が、そうしなかったので、悪い結果になった)」と言っている。
では、「雪山で何かとても大きな人影を複数目撃」というシチュエーションを想像してみよう。
6. They might have been giants.
5の例文は、実際に今視界にとても大きな人影が……という場合にリアルタイムで口にする言葉だ。「あれは巨人かもしれないな」
6の例文は、目撃後にテントに引き返したあとで、ひょっとしてあれは……と回想して口にする言葉。「あれは巨人だったかもしれないな」
というわけで今日の実例。PMはprime ministerの略で「首相」。limit ~は「~を制限する」という意味でもよく使われるが、ここでは「~を限定的なものにする」、つまり「被害、ダメージを少なく押さえる」の意味。
Amendment that might have limited PM's losses is rejected
「首相の負けを限定的なものにしていた可能性のある修正案が、否決された」という文意である。
助動詞のmight
mightはmayの過去形で、《時制の一致》で使われる場合もあるが:
He says he may quit the team. *現在
(彼はチームをやめるかもしれないと言う)
He said he might quit the team. *過去
(彼はチームをやめるかもしれないと言った)
むしろmightという助動詞は「過去」ではなく「現在」について用いられ、mayよりさらに少し遠い(薄い)可能性を表すことがとても多い。その場合、意味的にはmayとさほど変わらなくなる。
I may be late.
I might be late.
※どちらも「遅れるかもしれない」の意味。
余談
上で例文にしたThey Might Be Giantsというのは、アメリカのロックバンドの名称だ。「巨人かもしれない」なんて、かなりふざけたバンド名だが、真面目なことをユーモラスにやってて、21世紀に入って宗教勢力が伸張し科学軽視の傾向が強まっていたアメリカで「科学は現実」と楽しく歌いあげていたりする。このバンドに興味がある方は、2009年に町山智浩さんが書いたコラムがとても親切でわかりやすいのでぜひ。
They Might Be Giants - Science is Real (official TMBG video)
この「サイエンス・イズ・リアル」は10年も前(!)の曲だが、バンドは現在も活発に活動している。下記は2018年の作品。
They Might Be Giants - I Left My Body (Official Audio)
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