今回の実例は、天安門事件についてここ数日の間に英語圏報道機関で出た数多くの記事のひとつから。
1989年5月。ドイツで「ベルリンの壁」が崩壊する半年ほど前のことだった。中国の首都、北京の天安門広場で学生らが民主化要求の座り込みを行っていた。
このころ、東欧のソ連の衛星国などで民主化要求運動が次々と起きていた。東欧諸国では、それはほどなく革命や「ベルリンの壁」の崩壊という形になっていった。しかしアジアでは民主化要求運動は非常に厳しかった。ビルマ(ミャンマー)の「8888運動」は暴力的に鎮圧された。そして中国では、1989年6月4日に「天安門事件」が起きた。
何があったかについては、過去に書いたものがあるのでそちらを参照されたい。
下記「まとめ」の1ページ目(2013年作成):
下記「まとめ」(2014年作成):
「天安門事件」とは何かということについて、要点だけ言えば、天安門広場に座り込んでいた群衆に、政府は武力を向け、暴力的に鎮圧した。死者数ははっきりしていない。数百人単位とも数千人単位ともされている。確実なのは、非武装のデモ隊に対し軍事力が行使され、大勢が落命したということだ。
現在の中国政府が「天安門」という言葉や「64」という数字、また天安門事件に関する連想を引き起こす数々の言葉に対し規制をかけているということは、日本語圏でも広く報じられ、語られている通りである。
今回の記事は、BBC Newsの北京駐在記者が、そのように「語られてはならないもの」として扱われている天安門事件について、30年前のことを知らない人にも伝わるように、事件犠牲者(大学生)のお母さんを取材するという経験(取材の中身そのものというより)などもまじえて書いた長文記事である。単に分量的にも読むのはしんどいかもしれないが、ご一読をおすすめしたい。
見出しの "forgettance" はremembranceの対義語で、Wiktionaryによるとめったに使われない語だそうだ。「忘れるということ」という意味。
記事の書き出しの部分。中国では天安門事件についてremembranceという形で記念するのではなく、forgettanceという形で忘却の彼方に押しやろうとしている、ということを最初の2つのパラグラフで述べている。
実例として見るのは、キャプチャ画像内の一番下のパラグラフ:
Those deemed to have been too provocative in their attempts to evade the controls can be jailed - with sentences of up to three and a half years recently handed down to a group of men who'd tried to commemorate the anniversary with a product label.
最初の部分のthoseは代名詞で、《those who ~》で「~な人々」の意味を表す用法だが、ここでは「関係代名詞+be動詞」が省略されているのでこういう形になっている。つまり下記のような構造だ(このように「関係代名詞+be動詞」が省略されることは、実用英語では非常によくある)。
Those (who are) deemed to have been...
deemはSVOCの文型をとり、「OがCであるとみなす、判断する」という意味。堅苦しい場面でしか用いられない語だが、政府文書、契約書などにはよく出てくる。下記のQ&Aが非常に役立つだろう。
つまり、Those (who are) deemed ~は「~とみなされる人々」という意味になる。
続いて、"to have been" と《不定詞の完了形》が用いられている。ここでは主節の時制の一つ前というより、現在完了の意味で用いられていると考えられる。
Those deemed to have been too provocative in their attempts to evade the controls
これで「コントロールを逃れようとする試みにおいてあまりに挑発的であるとみなされる人々」の意味。
この文はここまでが主語で、そのあとの "can be jailed" が述語。
主語の最後にある "controls" は、記事内で既に述べられているような、「政府による情報統制」のこと。これをかいくぐって天安門事件に言及しようとした場合、当局によって「あまりに挑発的」とみなされてしまうと、投獄される可能性がある、ということだ。
続いて、ハイフンを挟んで書き足されている部分(このハイフンはコンマでも構わないが、ハイフンのほうがこの場合は読みやすいという判断だろう)。
with sentences of up to three and a half years recently handed down to a group of men who'd tried to commemorate the anniversary with a product label.
このwithは《付帯状況のwith》で、後続のhandedとともに、《付帯状況のwithと過去分詞》の形を作っている。「3年から半年という判決が、最近、製品のラベルで事件から30周年を記念しようとした男性たちのグループに対し、言い渡されており」といった意味になる。
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