今回の実例は、アイルランドが打ち出した環境危機に際するプランについての報道記事より。
アイルランドは「エメラルド色の島」とも呼ばれ、漠然としたイメージとしても、よく見る風景写真にしても、緑が多いというイメージはあるのだが、実際のところあれは大部分が草で、アジアや南米のような豊かな森林があるというわけではないので*1、「二酸化炭素を取り込んで酸素にする広大な緑」とはちょっと違う。むしろ、アイルランドで盛んな畜産は、地球温暖化ガスを大量に発生させてしまう。再生可能エネの導入もまだ進んでおらず、あの「緑の島」は意外と環境負荷が高いという。
そのアイルランドで、今回、環境保護のための新たなプランが打ち出された。
「プラン」というか、目標とする数値を掲げた「基本方針」「グランド・デザイン」のようなもので、それ自体には実効性は薄い。具体的に実効性のある形にしていくのは、これからの作業である。
ともあれ、そうやって示された「基本方針」についてのレオ・ヴァラッカー(ヴァラドカー)首相の(おそらく文書での)発言の引用部分を見てみよう。
The taoiseach, Leo Varadkar, said: “We are going to change how electricity is produced and consumed, how our homes and workplaces are heated; the way we travel; the types of vehicles we purchase, and how food is produced. Above all, we are going to decouple emissions growth from economic growth … This plan represents the sum of our hopes for the future.”
今回は、セミコロン (;) の使い方に注目したい。文法事項というよりパンクチュエーション(句読法)の話になる。
日本の英語教育において、パンクチュエーションは、コンマとピリオドと引用符は中学までにかなりしっかり教わるが、コロンやセミコロンについては、まれに教科書の文章のなかに出てきていてもちゃんと習う機会もなく、曖昧なまま「何となく句読点みたいなもので、だいたいこういうふうに使う」ということを経験的に知っていく、ということになっている人が多いと思う*2。
まず、セミコロンには次のような3つの用法がある。
ひとつめは、等位の文をつなぐという用法。
My girlfriend would like Netflix; I would prefer Hulu.
(うちの彼女はNetflixがいいというだろうが、私はHuluのほうがよい)
それから、howeverやbesides, of courseなどの接続副詞(句)を使って、2つの(等位の)文をつなぐという用法。
It was clearly a case of terrible human error; however, nobody knew who was responsible.
(それは明らかに、ひどい人為的ミスの事案だった。しかしながら、誰の責任なのかを知る者はいなかった)
そして、具体的な事項を列挙するときに、事項の区切りにちょんちょんと置いていくという用法(こういうとき、日本語では単に「、」を使うだろう)。(以下、例文の出典はウィキペディア)
Several fast food restaurants can be found within the following cities: London, England; Paris, France; Dublin, Ireland; Madrid, Spain.
The people present were Jamie, a man from New Zealand; John, the milkman's son; and George, a gaunt kind of man with no friends.
今回の実例ではこの3つ目の用法、つまり「列挙」のために用いられている。文意は、「私たちは電力がいかに生産されいかに消費されるか、いかに私たちの家やオフィスが暖房されるか、私たちがどのようにして旅行するか、私たちが購入する車のタイプ、食料品がいかに生産されるかを変えていきます」
上述したように、日本の学校教育ではコンマとピリオドしかちゃんと習う機会がないと思うが、コロンやセミコロンは、自分で書く英文で正確に使うのは難しめであるにせよ、英文を読むときは極めて重要なものになる。実際、セミコロンのところで誤訳している事例はわりと多い(誤訳しているということは、文構造が正しく解釈されていないということである)。
だがGoogle検索などではセミコロンのような記号(いわゆる「約物」)は探し出せない。だから実例を見たときに「なるほど、こういうふうに使うのか」ということを押さえていくようにしたい。
なお、学術論文やビジネス・プレゼンテーションの資料を英語で書く上では、コロンやセミコロンの用法を押さえておくことは必須といえる。The Chicago Manual of Styleなどを適宜参照されたい。
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