今回の実例は、先日大阪で開催されたG20サミットの直前、ロシアのプーチン大統領が英国の経済新聞フィナンシャル・タイムズのインタビューに応じて述べた一言が引き起こした波紋についての論説記事から。
件の発言については、インタビューそのものを見ていただくのがよいだろう。日本語になっていることだし。今回実例として参照する論説記事を見る上では、インタビューの文面を読む必要すらなく、下記の見出しだけ見ておけばよいくらい。
ここで日本語で「自由主義」と訳されているのは、英語ではliberalismで、現代社会では主流となっているように見えるが、20世紀前半はなかなかの苦難の中に置かれていた。日本でも第二次大戦直前の非常にやばい局面ではこの「自由主義」が目の敵にされていて、新聞・雑誌の読者投書欄などには非常に過激な「反自由主義」の言説があふれていた。しかし戦後、20世紀後半には冷戦期西側世界の主流のイデオロギーとなり、冷戦の終結でますます盤石になったかのように見えたのだが、21世紀の現代、liberalismを取り巻く状況は、いろいろとやばい感じになっている。
今回のプーチン発言はそういう中で、挑発的ともいえる流儀でなされたものであり、案の定、自由主義世界ではかなりの騒ぎとなっていた。
その状況に対し、フランス人ジャーナリストのNatalie Nougayrède(元ル・モンド編集長、現ガーディアン論説記者)が「プーチンを相手にするな」と主張しているのが、今回の記事である。
実例として参照するのは、記事の下の方から。
キャプチャ画像内の第二文:
Think about this: at the end of this year, Russia – whether in its Soviet or post-Soviet incarnations – will have been at war almost continuously for four decades.
まず注目したいのが、《コロン (:)》の使い方だ。英語版ウィキペディアには次のような説明がある。ここに挙げられているのは4つの用法だが、このほか、話者名と発言の間に置く (Putin: Liberalism is out of date) などといった用法もある。
https://en.wikipedia.org/wiki/Colon_(punctuation)
- Colon used before list (何かを列挙する前に置く)
Williams was so hungry he ate everything in the house: chips, cold pizza, pretzels and dip, hot dogs, peanut butter, and candy.
- Colon used before a description (コロンに続けて、より詳しく述べる)
Jane is so desperate that she'll date anyone, even Tom: he's uglier than a squashed toad on the highway, and that's on his good days.
- Colon before definition (コロンに続けて、何かの定義を述べる)
For years while I was reading Shakespeare's Othello and criticism on it, I had to constantly look up the word "egregious" since the villain uses that word: outstandingly bad or shocking.
- Colon before explanation (コロンに続けて、具体的なことを述べる)
I had a rough weekend: I had chest pain and spent all Saturday and Sunday in the emergency room.
ここに挙げられた4つの用法のうち、2番目と4番目は区別が難しいが、ここにこだわってしまうようなら、むしろ区別の必要はないだろう。全体として共通しているのは「コロンは《要点・主張: 各論・具体論》みたいな構造を作る」ということだ。
そして今回の実例の文:
Think about this: at the end of this year, Russia ...
これは、「このことについて考えてほしい」と《主張》を述べ、コロンに続けてthis(このこと)の内容を具体的に記述する、という形になっている。
このコロンはコンマやピリオドでは代用できず、こうとしか書きようがないというもので、自分で書く英語で使いこなすのはなかなか難しいかもしれないが、少なくとも、書かれた英語を読むときには構造を把握する際に間違えない程度に読めるようにしておく必要がある。
なお、コロンによく似たセミコロンについては、先日書いているので、そちらを参照されたい。
hoarding-examples.hatenablog.jp
そしてこの実例のthisは《後方照のthis》と呼ばれるもので、thisの指している内容がその前ではなく後ろにある、というパターンだ。この場合thisはthe followingの意味となり、つまり「このこと」は「これから述べること」という意味になる。
したがって、この部分は「以下のことについて考えてほしい」という意味になる。
その「以下のこと」がコロンに続いて述べられている。
Think about this: at the end of this year, Russia – whether in its Soviet or post-Soviet incarnations – will have been at war almost continuously for four decades.
ここでまず目を引くのが、ハイフンで挟んだ《挿入》だ。 「目を引く」というか、これがあるから主語のRussiaと動詞のwill have beenが離れてしまっている。文構造を取る際は、この挿入された部分は取り外して考えて構わない。
そしてこの挿入された部分にある《whether A or B》は「AであろうとBであろうと」の意味の定型表現(熟語)。ここは「ソヴィエト時代の形においてであろうと、ソ連崩壊後の形においてであろうと」の意味となる。
文の動詞のwill have beenは《未来完了形》。未来のある時点での完了・継続・経験を表す言い方で、ここではこの「未来のある時点」は "at the end of this year" だ。文意は「今年の年末には、ロシアは、ソヴィエト時代の形においてであろうと、ソ連崩壊後の形においてであろうと、ほぼ絶え間なく40年間ずっと、戦争状態にあることになる」。
さらにキャプチャ画像を少し下に見ていくと、もう1か所、コロンが出てくるところがある。
See the list of Russian wars: Transnistria (1992), Abkhazia (1992-93), Chechnya (1994-1996 and 1999-2009), Georgia (2008), Ukraine (since 2014), Syria (since 2015).
これはもう単純に、何かを列挙するときに用いられるコロンで、何も難しいところはないだろう。日本語にはコロンはないので(とはいえ最近は横書きの学術論文などでは英語と同じように使われることがあるのだが)、「ロシアの戦争を列挙すると次のようになる。すなわち、……」というように言葉を使って文意を表すのが基本となる。
文意は「すなわち、沿ドニエストル共和国の紛争(1992年)、アブハジア紛争(1992~93年)、チェチェン紛争(1994~96年、および1999年~2009年)、グルジア*1紛争(2008年)、ウクライナの紛争(2014年~)、シリア内戦*2(2015年~)」。
コロン、セミコロンなど、学校ではちゃんと習う機会がない記号(約物)については、『ロイヤル英文法』の巻末に「付録」としてまとまっているものが、最もアクセスしやすい。まとめて確認しておきたい方はご参照されたい。
- 作者: 綿貫陽,須貝猛敏,宮川幸久,高松尚弘
- 出版社/メーカー: 旺文社
- 発売日: 2000/11/11
- メディア: 単行本
- 購入: 13人 クリック: 85回
- この商品を含むブログ (62件) を見る
- 作者: ロデリックライン,渡邊幸治,ストローブ・タルボット,Roderic Lyne,Strobe Talbott,長縄忠
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞社
- 発売日: 2006/11
- メディア: 単行本
- クリック: 15回
- この商品を含むブログ (8件) を見る
- 作者: アンナ・ポリトコフスカヤ,鍛原多惠子
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 2005/06/25
- メディア: 単行本
- 購入: 2人 クリック: 24回
- この商品を含むブログ (34件) を見る
- 作者: アンナ・ポリトコフスカヤ,三浦みどり
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 2004/08/25
- メディア: 単行本
- 購入: 4人 クリック: 29回
- この商品を含むブログ (46件) を見る