Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

英語の文章は書き出しは抽象的で情報過多で読みづらいという話(ボリス・ジョンソンの黒歴史)

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表題の件、ボリス・ジョンソンに黒くない歴史があるのかどうかというのは措いておいて……。

 

今回の実例は、報道記事の文頭で情報がぎゅっと凝縮されててちょっと読みづらいかもしれない文。

英語の文章は、最初に「結論」に相当するものを短くまとめて書くのがルールで、学術論文でも最初はAbstract(アブストラクト)と呼ばれる要旨が掲載されている。Abstractは、その呼び名の通りかなり抽象的で、それだけ単体で読むのは、特にその分野に通じていない人にとってはなかなか大変な場合もあるが、わかりづらいところは本文を読めば具体的に説明されているはずなので問題ない。

報道記事の場合は、最初にその記事の主要な内容をまとめて述べ、後続部分で具体的な話を展開するのがお約束で、最初の文は、具体性が欠落してるにもかかわらず情報が詰め込まれていて読みづらくなっていることが少なくない。その場合でも、後続の部分で具体的な記述を読んで内容を理解すればよいので、これも問題ない。

問題は、まず最初にそういう詰め込み型の文を読んで、正確に意味が取れなかったり、誤読してしまったりしたときに、それが思い込みとなって、後続部分を正確に読むことが阻害されることもないわけではない、ということだ。

英語の文章のこういう特徴を知っていれば、最初はざっくりと読み流して、そのあと具体論に入ってから細かく読んでいくというやり方をとることができるのだが、それがわかっていないうちは、「冒頭の読みづらい抽象的な文を苦労して時間をかけて読んだ上に、微妙な誤読もしてしまっていて、先入観でその後の読解がゆがめられてしまう」という残念なことになりがちである(私も何度となくそういう道をたどったのだが)。

今回はそういう文の一例である。記事はこちら: 

www.theguardian.com

 以下のキャプチャ画像は、記事の書き出しの部分である。読者は "Reporter who Boris Johnson conspired to have beaten up demands apology" という見出しを読んでからすぐにこの文を読む、という設計になっている。

そもそもこの見出しも、「ボリス・ジョンソンが傷めつけてやろうと(別の誰かと)共謀した記者が、謝罪を求めている」とあるが、十分に情報量が多い上に抽象的でわけがわからないのだが、書き出しの文も、見出しの "conspired to have beaten up" が少し具体的に表されている程度で、読みながら頭の上に「?????」が浮かんでしまいそうな文である。

が、とりあえずは普通に、英文としての構造を取るという作業を淡々と進めよう。

f:id:nofrills:20190719061629j:plain

2019年7月14日、The Guardian

書き出しの1文は、少し読みづらいタイプの、だらだらと長い文だ。まずは何が主語で何が述語かを押さえ、文構造を解析する必要がある。内容の把握はそのあとだ。

A journalist (who Boris Johnson secretly discussed helping a friend to have beaten up) has demanded an apology from the Conservative leadership candidate as he stands on the brink of Downing Street.

主語と述語動詞を太字で表すと、上のようになる。カッコに入れた部分は関係代名詞節で、先行の "A journalist" を修飾している。このように、関係代名詞の節を使って情報を詰め込むというやり方は、英語でこなれた文を書くときのテクニックのひとつ。日本語での書き方と比べると情報の入れ方が全然違っているので、こういうのをそのまま訳すと、どんなにこなれた訳をしていても、文の構造が原因で「翻訳調で読みづらい日本語」になってしまう(が、大学受験での英文和訳などではそこまで気にしなくてもよいだろう)。

上記で下線で示した "the Conservative leadership candidate" は、英語を書くときは必須のテクニックとなる同じ単語の繰り返しを避けるための言い換えで、Boris Johnsonのこと。

繰り返しを避けるためだけなら、普通ならここはhimとシンプルな代名詞を使ってもよいのだが、ここではこのあとのasの節への話の流れを作るために、このような言い換えがなされていると考えられる。

その次の "as" は、毎度おなじみ《時》(同時性)を表す《接続詞のas》で、そのあとはとりあえず文構造を把握するときには外しておいて構わない。(ちなみに、意味は「彼がダウニング・ストリート(=首相官邸)のほんのちょっぴり手前に立っているときに」という感じ)

 

というわけで、この文を構造が見えるように書き改めると次のようになっている。

  A journalist   has demanded an apology from him

   ┗━ who Boris Johnson secretly discussed helping a friend to have beaten up

 

ここで、主部 "A journalist who Boris Johnson secretly discussed helping a friend to have beaten up" を読解してみよう。この関係代名詞のwhoは目的格で、この部分は次のような構造になっている。

  A journalist 

    Boris Johnson secretly discussed helping a friend to have him beaten up 

太字で示したhimが関係代名詞になって、前に出ているわけだ。この構造を見抜くには、 "helping a friend to have beaten up" でかなり頭を悩ませる必要があるかもしれない。「あれ、to have beatenって何で完了不定詞なんだろ?」という方向で考えたあと、完了不定詞では意味が通らないということに気づけるかどうかがまず最初のステップで、次に先行する関係代名詞のwhoを目的格として考えられるかどうかだ。

 

ここで使われているのが《help + O + to do ~》*1と《have + O + 過去分詞》の合わせ技で、特に後者を思いつくかどうかは、すぐ上で述べた関係代名詞のwhoが目的格だという読解と連動していて、なかなかハード。ああ、読みづらい。

 

そして、なぜこんなふうに読みづらいのかというと、普通ありえなさそうな話が少ない単語数で抽象的な形で述べられているからである。"Boris Johnson secretly discussed helping a friend to have him (= the journalist) beaten up" は、そのまま日本語にすれば、「ボリス・ジョンソンは、ある友人が彼(=そのジャーナリスト)を傷めつけてもらうのを支援することを、秘密裏に議論した」となる。

正直、私もこの文をここまでこのように読んだときに、自分が正確に読めているのかどうか確信が持てなかった。あまりに常軌を逸した話だからだ。

だって、誰か友達が「人を手配して、あの記者をボコってもらいたいんすけど、どーっすか」と相談してきたのに乗った、っていうことでしょ。およそ政治家のやることではない。悪徳警官とかそういうジャンルならわかるけど。

 

だが、この記事のこの先の部分を読み進めると、このどうにも確信できない読みが正しかったのだということが確認できる。

確認したい方は、ご自身で記事を読んでいただきたい。この先は、今回見た文のような読みづらさを感じさせる記述はないと思うので……内容はちょっととんでもないけどね。

 

ちなみに、この記事に出てくるジョンソンの友人のDarius Guppyという人は、ウィキペディア(英語版)にエントリーがあるのだが、単に「ビジネスマン」とあるだけで何をしてる人なのか判然としない。通常、大まかなジャンル(「不動産」とか「アパレル」とか「貿易」とか「プライベート・エクイティ」とか)が経歴のどこかに書かれているものだが、この人にはそれがない。わかるのは、オックスフォード大学時代に人脈を築いたエリート層だということくらいだ。

en.wikipedia.org

このウィキペディアにある固有名詞を、リンクをたどって掘っていくと、例の「デイヴィッド・キャメロンと豚の頭」の話に行き着く。キャメロンとジョンソンは大学時代に同じお坊ちゃま専用サークルでハメを外しまくった友人同士だったので、何も驚くべきことではないのだが、要は、次の英国首相になることが確実視されている人物は、そういう世界、超エリートたちの秘密の世界の住人だということである。(妄想とこじつけの上に構築された妙な陰謀論みたいなのとは違い、これは実際に英国で起きていること、起きてきたことである。)

 

 

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英文法解説

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*1:《help + O + do ~》と、原形不定詞を使うこともあるが、ここではto不定詞が用いられている

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