Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

if節のない仮定法(ifの省略と倒置)、接続詞のasなど(北アイルランド、武装組織の活動)

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今回の実例は、北アイルランドの報道記事から。

もう終結してから20年以上になるので知らない人も多いと思われるが、英国(イギリス)、つまり「グレート・ブリテンおよび北アイルランド連合王国」の「北アイルランド」では、約30年にわたって武力紛争があった。英語ではThe Troublesと呼ばれるこの紛争の背景となる基本的な構図としては、政治や社会的権力を独占してきた「プロテスタント」と、二級市民として扱われ差別されていた「カトリック」の対立、と説明されうる(ただし、非常にざっくりとした説明である)。

紛争の始まりと位置付けられているのは1968年10月の、「カトリック」側の公民権を求める行進を、「プロテスタント」側の暴徒(警察はこちらに加担していた)が襲撃したことであるが、プロテスタントの側にも武装組織があり、カトリックの側にも武装組織があり、そこに英軍が絡んで非常にややこしいことになって、面積としては長野県くらいの狭い場所で、結局30年くらいずっと武力紛争が続いたわけだ。1990年代に紛争終結・和平への動きが本格化し、最終的には1998年の和平合意(ベルファスト合意、一般には「グッドフライデー合意」)をもって紛争は終結したのだが、それから20年以上が経過した今でも、もろもろ、真相が明らかになっていないことはたくさんあるし、紛争期の暴力にどうカタをつけるかという非常にしんどい部分は先送りされ続けているし、何より、紛争期の武装組織の構成員の中でもとびきりの過激派が分派した組織が今なお、細々と、武装活動を継続している。(「紛争」期にメインで活動していた組織は、どちらの側のも武装を放棄しており、現在では政治的目的を有した武装活動、つまりテロ活動はもう行っていない。現在も活動しているのは分派組織である。)

そういったいわば「残党」の活動はプロテスタントの側にもカトリックの側にもみられるのだが、コミュニティが総体としてそのような暴力を過去のものにしている中で、そういった組織は紛争期に地元に持っていた影響力を維持し行使しようとし、社会全体に対する力の誇示を続けようとしている。それがはっきり表れたのが今年4月にデリーでの暴動を取材中のジャーナリストが、現場での発砲に被弾して落命した事件カトリックの側の武装組織)や、毎年の恒例行事である7月11日夜のボンファイア(焚火)の際に、ベルファストで、組み上げた巨大焚火のやぐらを撤去しようとした行政当局の契約業者の個人名などを街角の壁に書いて暴力を煽った事案(プロテスタントの側の武装組織およびその関連組織)だ。

だから、「紛争」が終わって20年も経っているのに、北アイルランドからは相変わらず恒常的に「武装組織の活動」に関するニュースが流れてくる(往時に比べれば威力はずっと低いかもしれないが)。

今回の実例は、そういったニュースのひとつから。記事はこちら: 

www.belfasttelegraph.co.uk

事件はクレイガヴォンというボーダーに近い町で起きた。警察に、バンという大きな音がしたという通報が複数入り、ベルファストに拠点のある新聞社に「迫撃砲を発射した」という告知電話が入ったので、警官隊が現場に出動したところ、バス停の脇に「発射し終わった迫撃砲の残骸」に見えるものが見つかった。しかし実際にはこれは残骸ではなく、それを動かすと爆発する仕掛けがほどこされた爆発物(「ブービートラップ爆弾」という)で、爆弾犯の標的は、通報を受けて現場に出動した警官であったと考えられている。

f:id:nofrills:20190731053450j:plain

2019年7月28日、The Belfast Telegraph

実例として見るのはキャプチャ画像の第2パラグラフから、警官の言葉: 

Had it detonated, as those responsible for placing it had intended, the result would undoubtedly have been catastrophic for anyone in the immediate vicinity.

下線を補った部分は《挿入》なので、いったん外して考えるとよいだろう。

Had it detonated, the result would undoubtedly have been catastrophic for anyone in the immediate vicinity.

これは、《仮定法(仮定法過去完了)》で、if節のifが省略され、《倒置》が起きている形である。If節のifが省略され、そのあとの主語と述語動詞が倒置された形になっているわけだ。

  If I were you, I would call her to apologise. 

  → Were I you, I would call her to apologise. 

  (もし私があなただったら、彼女に電話して謝罪するだろう)

  If I had been in Japan on that day, I could have watched Kawasaki beat Chelsea. 

  → Had I been in Japan on that day, I could have watched Kawasaki beat Chelsea. 

  (もし私がその日日本にいたら、川崎がチェルシーを破るのを見ることができたのに)

  If we should lose this game, the manager would be gone. 

  → Should we lose this game, the manager would be gone. 

  (万が一にもうちのチームがこの試合に負けたら、監督解任だな)

報道などでは、この "Had I been ..." の形(仮定法過去完了でのif節のifの省略)を非常によく見る。特に今回の実例のように、警察や企業などの公式の声明で使われることがよくある。自分で書けるようにしておく必要性は必ずしもないかもしれないが、出てきたときに戸惑わないようにしておく必要はあるだろう。

また大学受験という文脈でいうと、空所補充や整序英作文で出題されがちな形なので、覚えておく必要がある。if節にすると空所が1つ足りない場合は、たいていはこの倒置の形が作れるかどうかを問う設問だ。

 

なお、少々注意を要するのは、この《if節のifの省略による倒置》が行われるのは、shouldを使った場合や仮定法過去完了の場合か、仮定法過去なら動詞がbe動詞の場合に限られる、ということである。つまり、仮定法過去で動詞が一般動詞のときは、if節は通常そのままで、ifを省略しないことになっている。つまり、If I knew the answer という節を Knew I the answer とすることはない。また、かつては、こういう場合も助動詞を使って Did I know the answer, I would tell you. というように表すこともあったようだが、現代英語では見られなくなっている。 

 

さて、先ほどいったん外して考えた "as those responsible for placing it had intended" の部分。asは《接続詞のas》で、ここでは「SがVするように」の意味。

those responsible for ~は「~に責任のある者たち」という意味だが、responsibleは犯罪行為などについて使われているときは「責任のある」というより「それをやった」と考えないとピンと来ないかもしれない。

had intendedの部分が大過去になっているのは、「意図していた」のが爆発物を設置した時点(過去)の前だからである。

 

つまり、今回実例として見た部分は、「もしもそれが、それを設置した者たちが意図していたように爆発していたら、間違いなく、その結果は、だれであれ、すぐ近くにいた人にとっては破滅的なものになっていただろう」と直訳される。

 

ちなみに今回のこの爆発物は、dissident republicansと呼ばれるリパブリカン武装組織の残党、つまりIRA系の分派組織が背後にいると考えられている。それがこの記事の見出しの意味だ。

なお、それが4月にデリーでジャーナリストを撃ち殺した組織と同じかどうかは、この報道の時点ではわかっていない(IRA系の分派組織には複数ある。ただし今、停戦を宣言しておらず活動しているのは1つだけだったはず)。

 

 

Inside the IRA: Dissident Republicans and the War for Legitimacy

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The Origins and Rise of Dissident Irish Republicanism: The Role and Impact of Organizational Splits (New Directions in Terrorism Studies)

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英文法解説

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徹底例解ロイヤル英文法 改訂新版

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