Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

仮定法、仮定法過去、if節のない仮定法(Brexit: バルニエEU首席交渉官の発言)

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今回の実例は、いよいよ息もつかせぬ展開になってきた(はずの)Brexit関連のニュースから。

Brexitについては英国政府からはEU離脱担当大臣、EUからは首席交渉官が出て、頻繁に話し合いを行っている。英国側の大臣は、EU離脱を決めた2016年6月のレファレンダム以降、現在のバークレー氏で3人目だが、EU側はミシェル・バルニエ氏がずっと継続して首席交渉官の任に当たっている。

1951年生まれのバルニエ氏はフランスの政治家で、フランス国内でも何度か閣僚を務めてきたが、EUでの仕事も多い。EUで仕事をしている政治家の多くと同様英語はぺらぺらなので記者会見やインタビューは英語で応じていることが多い。例えば今年3月のEuronewsのインタビュー番組のクリップが下記。


EU needs to 'learn from Brexit', chief negotiator Michel Barnier tells Euronews

単語単位でときどきフランス語になるし(EUが「イー・ユー」ではなくフランス語の深い「ウー」の音だったり、responsibilityが「レスポンサビリテ」という感じだったり)、決して「ネイティヴっぽい発音」とは言えないかもしれないが、これがEUという国際機関での実務の英語である。

 

さて、今日参照する記事は、10月31日というBrexitの期限まで3週間あまりとなった10月6日の英オブザーヴァー紙(ガーディアンの日曜)に出た記事である。

文脈としては、英ボリス・ジョンソン首相が本気で通すつもりがあるんだかないんだかわからないような案を提示して、「EUの反応待ち」という態度を公にするというパフォーマンスの最中で、誰もかれもが「このままでは合意なんか成立するわけがない」と判断している(が、英国会では「合意なしでの離脱」に歯止めをかける法律、いわゆる「ベン法*1」があるので、Under the so-called Benn Act, if by October 19 the government has not won parliamentary approval for a divorce deal with Brussels or for leaving the EU without a deal, Johnson must request a delay until January 31, 2020. ということになっている)。どちらの側も「合意なしでの離脱」が実際に起きた場合のことを口にしだしており、どちらの側も他方を責めるストーリーを組み立てている。

この記事は、EUの交渉担当者であるバルニエ氏がそれを明言したことを報じる記事で、下記リンクから記事を見ていただければわかるが、「If祭」としか言いようのない "If" 連発の文面になっている。仮定法満載だ。仮定法好きにはたまらない。

www.theguardian.com

この "If" (仮定法)をひとつひとつ、すべて見ていくのは、英語学習の観点から有益なのではないかとは思うが、私もそこまでヒマではないので、1か所、非常に目立っているところだけを見てみようと思う。

 

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2019年10月6日、the Observer

キャプチャ画像の2番目のパラグラフから: 

But he added: “I want to be extremely clear. No deal will never be Europe’s choice. It would be – and note the conditional tense, because I hope still to find a deal – it would always be the UK’s choice, not ours. We’re ready for it, we’ve taken measures to protect our citizens and our businesses. But we do not want it.” 

まずは下線を補った部分。"the conditional tense" は、より一般的には "the conditional mood" と言うのだが、 日本語で言えば「条件法」という文法用語である。「条件法」はフランス語ではそのまま文法用語として教科書に出てくるが、英語の場合は、ざっくりと、「仮定法」という用語のことと考えてよい*2。この発言はフランス国内でフランスの新聞『ルモンド』のイベントにおいてなされたものだそうなので、元発言はフランス語と思われるので、ここでは「条件法」という訳語にしておこう。

下線部分で、バルニエ氏は、「条件法に留意してくださいね」と述べている。「条件法(仮定法)」は、基本的に、「事実ではないこと、現実になっていないこと」を述べるために使う。ここでは「もし合意なしでのEU離脱ということになったら、それは英国の選択ということになるでしょう。EUの側の選択ではなく」ということを述べるために、その「条件法」が用いられている(「もし合意なしでのEU離脱ということになったら、」という言葉はここには見当たらないが、文脈上その意味が含まれていることは明らかである)。

ここで「条件法」を用いている理由について、バルニエ氏は「なぜなら私はまだ合意を成立させられると願っているからです」と語っている。「事実ではないこと、現実になっていないこと」を述べているのだとはっきり示しているわけだ。

そのように念を押してバルニエ氏が「条件法」で語っているのは、"it would always be the UK’s choice, not ours" で、ここでは助動詞の過去形のwouldがその「条件法」の部分だ。文意は上に書いた通り。

 

このパラグラフのバルニエ氏発言部分は、このwould以外は全て《直説法》である。

But he added: “I want to be extremely clear. No deal will never be Europe’s choice. It would be – and note the conditional tense, because I hope still to find a deal – it would always be the UK’s choice, not ours. We’re ready for it, we’ve taken measures to protect our citizens and our businesses. But we do not want it.” 

 この《直説法》(「現に~している」ことを表す)と、《仮定法(条件法)》(「仮に~ということになれば…だろう」ということを表す)の対比をよく見ておこう。少々大げさな言い方になるが、この文は現実と仮定のはざまを行ったり来たりしながら、ひとつの説得力ある主張を行う文としてはお手本・テンプレとして使えそうな文である。

 

 

参考書(このEnglish Journalの仮定法特集はおすすめ。電子書籍あります):  

英語仮定法を洗い直す (開拓社言語・文化選書)

英語仮定法を洗い直す (開拓社言語・文化選書)

 
英語の仮定法: 仮定法現在を中心にして (開拓社叢書)

英語の仮定法: 仮定法現在を中心にして (開拓社叢書)

 

 

*1:「ベン」は法案提出者であるヒラリー・ベン下院議員の名にちなむ。

*2:厳密にはもっと細かく考えるのだが、学習者はそこは多少大雑把でよい。