Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

《同格》のthatの省略、let alone ~ 【再掲】

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このエントリは、3月にアップしたものの再掲である。日本で定番の辞書や文法書では取り上げられていない「《同格》のthatの省略」の実例をたまたま見たので書いたエントリだが、文中にちゃんとした論文へのリンクがあるので、この項目に関心がある方はそちらをご参照いただきたい。

なお、もう1つのトピックのlet alone ~は日本では根拠もなく「そんな堅苦しい表現はネイティブは使わない」的な扱いを受けることがよくあるのだが、全然そんなことはなくて、BBCなどごく一般的な報道記事を毎日読んでいると1週間に1度くらいは遭遇する程度にありふれた表現である(日本語でも「いわずもがな」のようにその形でしか使わない古語や格式張った表現が日常ぽんぽん出てくることを思えば、外国語でもそういうことがあるのは簡単に想像できると思うのだが)。

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今回の実例は、いわゆる「イスラム国(自称)」(以下、「イスイス団」と表記する*1)がシリア国内に有していた支配域を完全に失ったという宣言のあとに続いたニュースから。

シリア内戦は、日本語圏ではかなり雑な説明が横行しているので(その背後には政治的な意図があったりするのだが)、「イスイス団に対して戦っているのは誰か」という基本的な認識もズレてるかもしれないが、ここ数か月の報道*2に出てきていたシリア東部のバグーズ (Baghuz) の方で戦闘をおこなってきたのは、アサド政権(ロシア、イランの支援を受けている)ではなく、元々はシリアでは北東部を拠点としてきたクルド人武装勢力、Syrian Democratic Forces (SDF) である。このSDFにはアメリカの支援がある。

この点、ここで詳細な説明をしているヒマはないが、シリアについては「なんか内戦やってるよねー」程度の認識しかしていない人も、この記事が「クルド人の勢力」の発言をそのまま報じている理由について、上記のような基本的事実をざっくりと把握しておいていただければと思う。

記事はこちら: 

www.bbc.com

 

f:id:nofrills:20190326212752j:plain

2019年3月26日、BBC News

 

《同格》のthatの省略

キャプチャ画像内の2つ目のパラグラフ: 

Speaking to the BBC, the administration's head of foreign affairs, Abdul Karim Omar, said the fact so few nations had repatriated their citizens who joined IS has added to their problems.

下線で示した部分では、《同格》のthatが省略されている。

《同格》のthatとは、以前にも説明したが、「~という…」という意味を表す構造で名詞とthat節がセットになっているもののこと。

  The rumour that the company has gone bankrupt is false. 

  (その会社が経営破綻したという噂は、虚偽である)

このthatが省略されるかどうかなどということは、個人的には考えたことがなかったのだが、実際にニュースの英文などを読んでいるとわりと頻繁に「《同格》のthatが省略されている例」に遭遇する。今回の実例もそのひとつで、the factとso fewの間にthatが省略されている。

the fact that so few nations had repatriated their citizens who joined IS

これで「イスイス団に加わった自国民を国に帰らせている国が実に少ない(ほとんどない)という事実」という意味である。

 

なお、手元にある学習用英和辞典で確認してみたところ、『ジーニアス英和辞典(第5版)』にはこの「《同格》のthatの省略」について言及がある(「このthatは省略しないのがふつう」という記述ではあるが)。同じ『ジーニアス』でも第4版ではそういった言及は見当たらないし、もっと前の版(第2版)でも言及はない。日本語で書かれた文法書でも、手元にあるものには特に説明がない。

ジーニアス英和辞典 第5版

ジーニアス英和辞典 第5版

 

 

この点について、ウェブ検索してみたら、都築郷実先生によるとてもよい論文が見つかったので、関心がある方は読んでみていただきたいと思う。(やはり日本の学習英語ではこの「省略」はほとんど取り上げられていないそうだ。「省略」は、ほかにも、習ったこともなければ文法書にも出てこないようなパターンに遭遇することがよくある。それも特に「口語的でくだけた文体」のものではなく、普通におカタいニュース記事などで。)

 

let alone ~

"let alone ~" という「熟語」は、今はほとんど教えられていないようだが、私が大学受験したとき(「受験戦争」と言われていた時代)は「よく出る熟語」として問題集などで頻繁に見たものだ。

「道具としての英語」云々というコンセプトが流行ったころに「実際にはろくに使われていない表現など教える必要がない」として堅苦しかったり古めかしかったりする英語の表現がやり玉にあげられ、「教える必要のないもの」(それは現場では「教えてはならないもの」と解釈される。算数しか習っていない小学生にとっての方程式みたいなものだ)として駆逐されていったのだが、let alone ~もそのひとつと言えるだろう。

前置きが少々長くなっているが、何が言いたいかというと、そうやって日本では教えなくなってしまった「熟語」だが、let alone ~はニュース記事を読んだりスピーチを聞いたりしているときにはかなり頻繁に遭遇する、ということだ。つまり「使われてなんかいない」というのは嘘。「嘘」という言葉がきつければ、「おそらく狭い範囲しか観測していないがゆえの事実誤認」と言い換えてもよい。

 

"let alone ~" は「~は言うまでもなく」という意味で、基本的に、"A, let alone B" という形で用いられる。

  He couldn't boil water, let alone prepare a dinner for eight.*3

この英文は、「彼はお湯を沸かすこともできなかろう。ましてや8人分の食事の用意など(できるはずがない)」。もっと「意訳」すれば「お湯ひとつ沸かせないような人に、8人分の食事の準備なんかできるわけがないじゃないですか」。

  You couldn't trust her to look after your dog, let alone your child.*4

この英文は、「意訳」すれば、「あの人は、信頼して子供を任せられるような人ではありません。犬でさえ任せられないくらいですよ」という意味になる。

 

ここで今回の実例を見てみよう。

The administration has struggled to cope with even detaining the militants it has captured, let alone putting them on trial, says the BBC's Aleem Maqbool in north-eastern Syria.

イスイス団戦闘員らを拘束しているクルド人組織当局は、「捕らえた戦闘員らを拘束しておくことでさえいっぱいいっぱいになっている状態で、裁判にかけることなど到底無理である、とシリア北東部にいるBBCの アリーム・マクブール記者は述べている」という意味である。

 

この記事は、「そのため、クルド人側は国際社会に国際特別法廷の開催を求めている」ということを伝えるものだ。ただ、この「クルド人」は主権国家の代表ではないわけで、この事態を「主権国家の集まり」を前提としている「国際社会」がどう扱えるのか、私にはわからない。(彼ら「クルド人」と同じような立場にある「国家を持たぬ民たち」、例えばパレスチナ人について「国家ではないから」という理由で認められていない権利があるということは、イスイス団がどうたらこうたらという問題を離れて、国際社会のかたちという点で極めて重要なことである。)

 

 

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*1:ちなみにBBCでは議論と試行錯誤の末、Islamic State groupという表記を採用している。

*2:臨月で難民キャンプに脱出し、出産したが、子供はほんの数日で死んでしまった英国人(正確には、出産前に市民権を剥奪されたので「元英国人」)10代女子の件などが、日本語でもかなり大きく報道されていた。

*3:英文出典: https://en.wiktionary.org/wiki/let_alone

*4:英文出典: https://dictionary.cambridge.org/ja/dictionary/learner-english/let-alone

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