Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

辞書代わりに機械翻訳を使うべからず: 「退位」の英訳をめぐって/英語がどーたら以前に文字情報として文字を扱う以上、知っておくべき表記ルール【再掲】

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このエントリは、2019年5月の連休中にアップしたものの再掲である。たまたま偶然で、再掲のタイミングもお正月休みの最終日と重なったのだが、いつものような文法解説というより読み物になっている。

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今回は連休中なので省力モード。とりあえず、辞書の代わりに、Google翻訳やその類似のウェブサービスを使うのやめれ、という話。

Google翻訳などは辞書と違って訳語を1つしか示さないから、たくさんの中から選ばなくて済むから便利♪みたいに考えている人が多いらしいが(教育の敗北だ……)、そういう人は、そもそも辞書になぜ訳語がいっぱい並んでるんだと思う? というところからやり直しだ。

それと、Google翻訳のようなものは、「意味」をわかって訳語を提示しているわけではない。コンピューターは「意味」を理解しない。日本語の「熱い」を英語のhotに置き換えることはできても、その「熱い」の意味は理解していない。「そのお茶は淹れたてだから、飲むときは火傷しないように気をつけてね」ということなのか、「このスポーツはだんだん人気が出てきていて注目が集まっている」ということなのか、機械はわかっていない。

そういうものが、文脈なしで単語だけを処理するよう命令されたら、誠意があれば「どう処理してよいかわからない」と返すだろうが、Google翻訳を含む機械翻訳にはそんなものありゃしないので、人間にはどういう理由なのかわからないが何らかの理由で選んだ一語を提示する。それが、例えば「熱い hot」ではなく「高温だ at a high temperature」だった場合、「今、ボルダリングが熱い」と言うべき場面で、「今、ボルダリングが高温だ」と言ってしまうことになる。こうなってしまったときに「少なくとも誤訳ではない」ということを判断できない(あるいは確認できない)のなら、Google翻訳を含む機械翻訳は使うべきではない。機械翻訳は現状そのようなものでしかない。人間が理解するようには機械は言葉を理解しない。

というところで本題。

 

 

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via https://togetter.com/li/1343654

Regressionというのは、「退行」とか「退化」とか「退歩」とか「後退」とか「後戻り」といった意味だ。動詞形はregressで、この対義語がprogress。Progressくらいは、まあ誰でも知ってる英単語といって構わないだろうが、regressとなると日本語圏では知らない人の方が多いだろう。

で、「表示された単語を知らない」「表示された単語の意味がわからない」場合、どうしてそれを確認しないのかは、私の理解の範囲を超えているのだが、どうやらGoogle翻訳に「退位」という言葉を投げて得られた結果をそのまま確認もせずに使っているようだ。私が見る限り、Google翻訳はその下の画面で正しい訳語を示しているのだが、この方の場合はそれが表示されていないか、それを見るということをしていないのだろう。こうして「4月30日、天皇昭仁が退行(退化etc)する」という失礼極まりないポスター風の画像ができたわけだ。

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via https://hoarding-examples.hatenablog.jp/entry/2019/05/02/%E9%95%B7%E3%81%84%E6%96%87%2C_%E3%80%8C%EF%BD%9E%E5%B9%B4%E3%81%B6%E3%82%8A%E3%80%8D%E3%81%AE%E8%A1%A8%E7%8F%BE%2C_%E5%89%8D%E7%BD%AE%E8%A9%9Efollowing%2C_%E6%8C%BF%E5%85%A5%2C_%E9%81%8E

※このabdicationという単語、字面や音がabduction(「拉致」)と紛らわしいので要注意。 

 

 

なお、以上の指摘は元の画像について「さらす」ことを意図しているわけではないので念のため。

 

「2019 4.30」式の気まぐれピリオドのようなものについてだが、実際、仕事してて、ほんとに「えっ、そっから?」っていうところで、「なんで私が編集者にそこまで説明せにゃならんの。日本語文と英語文混植の本作るからには、英語の表記ルール知ってて当然っしょ」と消耗することはこれまで何度もあった。こっちは辟易だが、教わらなければ知らないのが当然なので、デザイン周りの人は「聞くは一時の恥」で、ちゃんと英語屋に聞いてください。

それと、デザイナーであれ何であれ、情報を持つ文字列(文字情報)を扱う以上、デザイン以前に、その文字列が「情報」を正確に伝達するための約束事は押さえる必要があるということを、前提としてください。大事なのはフォント*1や字詰めだけじゃなく、それ以前の、言葉としての約束事があるんです。

 

ところで、天皇譲位・新天皇即位の「熱狂」は、自分は別に感じない環境にいるのだが、自分が感じないからってそれがないと言い張る気は毛頭ない*2。ただその「熱狂」、「令和フィーバー」が、ネットで見る限り、見事に「ネイション」のマスメディアが先導・煽動する「想像の共同体」的な何かなので、教科書通りかよ、と感心している。

定本 想像の共同体―ナショナリズムの起源と流行 (社会科学の冒険 2-4)

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個人的に「平成への変わり目」も全然覚えていないくらいで(その前の「今日の下血」報道や、「お元気ですか」狂騒曲は覚えている)、関心がないというか、自分は元号は使う機会はないので(役所の書類くらい)、「そうですか」以上の感慨がない。

ただし、基本的に「昭和が」云々言われても、長い上に変化に富んだ60余年のことをひとまとめにされてもねえ、としか思わないような自分の感覚*3が一般的なものだとは思わない*4

と、だらだら書いているが、私がここで明らかにしておきたいのは、本エントリで述べたのは、特に関心を持っていなくても見聞きする範囲で目にしたことである、ということだ。私は「令和フィーバー」とやらをウォッチしていたわけではない。新聞もないしテレビもないし、無関心を保てているのだが、おやつ食べながら何となくクリックしてみたリンクで上記のようなものを見たわけだ。何かいちゃもんをつけてやろうと鵜の目鷹の目で見張っていて見つけたわけではない。本当に、たまたま目にしたものの話である。

としつこいくらいに書いておいても、何か言われるかもしれないが……。

 

 

欧文書体―その背景と使い方 (新デザインガイド)

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欧文組版 組版の基礎とマナー (タイポグラフィの基本BOOK)

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*1:今でこそ「欧文フォント」の重要性は浸透しているけれど、以前はモリサワ新ゴの半角英数字で英語の本文組まれてたこともあるくらい、日本語圏での文字への感覚は微妙なものだったので、最近、底上げされてきたことはよいことだと思う。ネットでの情報も多くなってきたし(例えばこちらはとても丁寧な説明がわかりやすくなされている)。以前けっこう普通に使われていたモリサワ新ゴの半角英数字は、日本語の中に少しだけ英文字が入るとき――例えば「本工場はISO9001を取得しています」とか、「映画『ボーダーライン』(原題: Sicario)は日本では2016年に公開された」とか――に使うにはよいのだが、英語として可読性が著しく低くなるフォント。ゲラ出てみたらあのフォントになってたってことがあって「何このフォント見にくいし醜いwww 普通のスピードで読めねぇwww 内容頭に入らねぇwww 校正まともにできねぇwww」ってなったよ。何なのあの「g」の小文字、ほんとに。今でも90年代に出た講談社ブルーバックスの論文英語指南本なんかでは新ゴのひどい英文タイポグラフィが確認できるはず。

*2:広い世界、ときどき、「私が知らないし周りも知らないというんだからない」ということを言い張る人がいたりするのでびっくりする。

*3:ただし「ポスト昭和以前」というような観点からの「昭和」という言葉の用法は、まあわかる。「化石化した昭和の遺産」とか

*4:「昭和が」云々言われるより「80年代が」云々と言われたほうがわかる。80年代のような自分が経験した時代に限らず、例えば「1940年代は」などでも同じだ。