Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

【ボキャビル】「ぬいぐるみ」を英語で何という? (英下院でのPMQs)

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センター試験の前日なので、今日は文法用語とかの出てこない、読んでも読まなくてもいいような軽い読み物という感じで。

今からほぼ1か月前、2019年12月12日に英国では総選挙(下院議員の選挙)が行われ、ボリス・ジョンソン率いる保守党がバカ勝ちした。英国会はその翌週にはクリスマス休暇に入り、年が明けて1月になってから再び審議が行われている。

そこでの審議の内容などはニュースを見ていただくとして、英国下院では慣例として、毎週水曜日の正午からの時間帯に「首相質問 the Prime Minister's Questions」が行われる。The Prime Minister's Questionという言い方では、首相が質問する側にいるように解釈するしかないように思うが、実際、正式には「首相への質問 the Questions to the Prime Minister」と言うのだそうだ。詳細は下記ウィキペディア参照。

en.wikipedia.org

これは英語圏では「各単語の頭文字を取って略語とする」というおなじみの方法で略語化されており、広く一般にPMQsと呼ばれている。Twitterでは毎週、現地で午後の時間帯になると #PMQsというハッシュタグがTrendsの上位に入ってくる。

ここでは質問に答えるのは首相で、質問をするのは議員たちである(日本語では英国のPMQsのことを「党首討論」と呼ぶが、不正確である)。開かれた討論なので、所定の手続きを踏めば平議員でも首相に直接質問をぶつけることができるのだが、最も主要な部分は、英語で the Opposition と位置付けられている政党、つまり「最大野党」の党首と首相との間で行われる質疑応答である。野党党首の質問が終わると、第3党の議会でのリーダー*1が何問かの質問をおこない、そのあとは与野党問わず議員たちの質問と首相の応答がおこなわれる。基本的に一問一答の形式で、話題は多岐にわたり、「私の選挙区ではかくかくしかじかという問題が起きており、全国的に報道もされている。これについて首相はどうお考えか」といったような質疑応答が次々となされる。英国について基本的な知識のある人なら、リスニングの練習に使えるはずだ。

野党党首は、通例6つの質問を用意してこのPMQsに臨む。この質疑応答にはけっこう長い時間がかけられ、そこでは華麗な弁論術がこれでもかこれでもかとばかりに見せつけられるのが常ではあるが、最近はいろいろとひどいので、首相の側がひたすら「うんこー」と繰り返しているに等しいようなこともある*2

現在の最大野党党首である労働党ジェレミー・コービンは、何十年も国会議員をやってきて議論・討論は(オックスフォード仕込みの派手なレトリックは使わないにしても)基本的に手堅く上手い人で、首相を相当なところまで追い込んだこともあったが、12月の選挙の結果があれでは、まあどうしようもない。

……ということを前置きとして、今回の記事。The politics sketchという、英国の新聞によくある「政治・政局・政況点描」といった趣のコラムで、ジョン・クレイスという名物記者が書いた、軽妙な筆致と皮肉なトーンが売り物の文章だ。読解教材としてはやや難度が高いのだが、今回は単語だけ見るということで、これを素材とすることはお許しいただきたい。

www.theguardian.com

 

実例として見るのは、第3パラグラフ。下記のキャプチャ画像で1番目と2番目のパラグラフは、現在の英国政治に興味がある人じゃないとなかなか難しいと思う。「読もうとしても読めない!」と感じても、気にすることはない: 

f:id:nofrills:20200117024931p:plain

2020年1月13日, the Guardian

上記キャプチャ画像の3番目のパラグラフの第3文: 

Then it was an almost equal contest between two normally docile cockapoos half-heartedly growling at one another over a cuddly toy.

今回は文意を先に書いておくと、「そしてここで、普段はおとなしいコッカプー犬2匹が、だるいけど一応やることになってるからやっとくか的な風情で、1つのぬいぐるみをめぐってうなり声をあげて威嚇しあっているが、どちらも互角、みたいな状況になった」ということ(かなり意訳しているが)。上で説明したPMQsの場で、保守党のジョンソンも労働党のコービンもあまりやる気なさげに、一応形式として討論しておくかみたいな態度であったことを、このように評しているのだ。まったく、言語というものの可能性ときたら、はかりしれない。

この部分の単語を見ていくと、冒頭の10語は大学受験生なら引っかからずに読めるような平易な単語だが、その次の "docile" がいきなり見慣れない。辞書を見てみると「英検1級以上」とされているので、大学受験生は知らなくても気にしなくてよい。この単語はよく馬やロバについて用いられて「(動物が)よく言うことを聞く、素直な、御しやすい」という意味を表す。

その次の "cockapoos" も一般的には見慣れない単語だろう。私も今回初めて見たのだが、日本語しか使わなくても犬の品種や繁殖に詳しい人なら知っていそうな単語だ。調べてみると、これは「コカプー」という犬の種類のこと。"cocka" は「コッカースパニエル」で、"poo" は「プードル」で両者を掛け合わせたのが「コカプー」。Google画像検索すると、何とも愛くるしい犬の写真がいっぱい出てくる。

その次の次、"growl" は「犬などが怒ってうーうーとうなる」という意味。転じて「人が不平を言う」。

そして文の最後の "a cuddly toy". cuddlyは動詞cuddleの形容詞形で、cuddleは「(子供や恋人、かわいいペットを)愛情をこめてぎゅっと抱きしめる」という意味。この単語は学校では習わないが、英語を使って生活したり、いろいろ実用的な文章を読んだりするようになると頻繁に見聞きするようになる。詳細は下記のブログさんによくまとまっている。

kiwi-english.net

 

cuddlyという形容詞は、「cuddleしたくなるような」みたいな意味で、「思わずぎゅっと抱きしめたくなるような」。

これがtoy「おもちゃ」という名詞を修飾している。

つまり、a cuddly toyは「おもわずぎゅっとしたくなるようなおもちゃ」で、ということは積み木みたいなものではないし、ミニカーのようなものでもないし、おままごとセットのようなものでもなく、サイズの小さなお人形のようなものでもない、ということはすぐに想像できるだろう。

では何なのか、ということを調べるときに、現代ではGoogleの画像検索を使うと手っ取り早い。下記のような検索結果画面になるはずだ(ただしここでは「ライセンス」で「再利用が許可された画像」のみに絞り込んである)。

f:id:nofrills:20200117031817p:plain

 

確かに、こういうものは「ぎゅっとするおもちゃ」だ。

これらは通常、日本語では「ぬいぐるみ」と言う。

そして「ぬいぐるみ」は英語では "a stuffed animal" と呼ぶ、と習っている/覚えている人が多いだろう。直訳すれば「詰め物をした動物」だが、「布の中に詰め物を入れて動物の形にしたもの」の意味だ。

では、"a stuffed animal" と "a cuddly toy" とは何かが違うのだろうか、と見てみると、何と、英語版ウィキペディアには次のように書かれている。

A stuffed toy is a toy with an outer fabric sewn from a textile and stuffed with flexible material. They are known by many names, such as plush toys, stuffed animals, plushies, or stuffies. In Britain and Australia, they may be called soft toys or cuddly toys.

https://en.wikipedia.org/wiki/Stuffed_toy

つまり、"a cuddly toy" は「イギリス英語」なのだ。

それに、どうだろう、"a stuffed animal" と言うより "a stuffed toy" と言ったほうが「ぬいぐるみ」感があるし、さらに "a cuddly toy" と言ったほうが「ふわふわもふもふもちもちしたぬいぐるみ」感が感じられないだろうか。

と見てくると、英語っておもしろいなあ、ことばっておもしろいなあ、という感覚を、改めておぼえる。

中高生に(教科としての)英語を教えているときに、「英語もことばだからね、気持ちを伝えるためにいろいろな言い方があるし、時と場合に応じて使う表現がかわったりするんだよ。日本語でも『かったるい』と言うか『疲れた』と言うか、『疲労を感じる』と言うか、『疲れました』と言うか、いろいろあるでしょ」といった話をすると、それだけで、「英語」という《言語》を身近に感じてもらえるようになったな、と感じることがある。

そう。英語も言葉なんだ。

教科・科目っていうより、ね。

 

昨今の、英語をめぐる文部科学省の迷走は、「英語のできる日本人」云々論に根差しているように思えるのだが、「英語のできる日本人」云々はまず、「英語は(科目ではなく)言葉である」ということを大前提として認識するところから始まると思う。

明日試験がある受験生はそんなことも言っていられないかもしれないが、視野を大きく持ち、「英語が使える」ようになるために必要なことは何かと考えると、やはりそこに行き着くだろう。

センター試験の問題は、近年、なんだかんだ言って、そういった「言語としての英語」が、どの程度(いちいち日本語に訳さなくても)読めるかを問う部分が大きくなってきていた。

センター試験は今回で終わりになるようだが、このような傾向はこの先も続いていくだろう。

それに、英語が「試験のため」にやるものではなくなったときは、ますますそういう傾向が強まっていく。

そういったパースペクティヴを持って、日々、英語に接していっていただければと思う。

 

センター試験を受けるみなさんのご健闘をお祈りしています。 

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参考書:  

議院内閣制―変貌する英国モデル (中公新書)

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猫 ぬいぐるみ ムッシュ カドリー ( Cuddly )

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Cuddly Toy

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  • 発売日: 2017/10/20
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Teletubbies Big Hugs Song #Teletubbies20

唐突に思い出した、これ……。

 

*1:必ずしも党首とは限らない。スコットランドのSNPは、党首がウエストミンスター議席を持っていないので「党首」ではなく「ウエストミンスターの議会のリーダー」が質問に立つ。

*2:日本の国会で自民党の総裁である首相が、立憲民主党の議員に対して「きょーさんとー」とヤジってニヤニヤしていたが、このような「左翼嫌い」が身内で受けるエンタメとして定着、みたいなことは英国でも見られることで、っていうか英国の場合それを身内だけでなく表でやるようになっててひどい。