Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

同等比較 (as ~ as ...), 省略, help+動詞の原形, 【ボキャビル】one's love for[of] ~, as long as ~ can rememberなど(フランクフルトの名物サポーターはホロコーストの生き残り)

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今回の実例はTwitterから。ただしやや変則的に、ツイート本文と、映像についている英語字幕を見る。

ドイツに、「ドイチェ・ヴェレ (Deutche Welle)」という国際放送局がある。ドイツ国内でドイツ語で語られることを、ドイツ国外に、英語やフランス語、スペイン語などでも伝えている報道機関で、英BBCの「BBC World」のようなものだ。「DW」の略称をシンプルにデザインしたロゴは見たことがあるという人が案外多いのではないかと思うが、Twitterではドイツ語のアカウントが@DeutcheWelle, 英語のアカウントが@dwnewsなどとなっている。後者は、欧州情勢に興味がある人はフォロー必須のアカウントのひとつだ。

twitter.com

この媒体の関連アカウントのひとつが、スポーツニュース専門の@dw_sportsだ。ドイツ語ではなく英語で運用されており、サッカーの代表のニュースやブンデスリーガのニュースはここをチェックするといろいろと話が早いという感じ。

今回の実例は、1月27日の「ホロコースト記念日」のこのアカウントのツイートから。

ツイート本文の下に映像が入っている。音声はドイツ語だが、英語字幕がつけられているので、それを見てほしい。

まずはツイート本文から: 

There aren't many Eintracht Frankfurt fans as well known as Helmut Sonneberg

これは、もっと正しい表記では下記のようになるのだが(あるいは "wellknown" と一語で綴る): 

There aren't many Eintracht Frankfurt fans as well-known as Helmut Sonneberg

そんな細部はおいておくとして、太字部分。これはas ~ as ...の《同等比較》(「…と同じくらい~」)の最もベーシックな形だ。

  Containing the spread of panic is as important as stopping the coronavirus itself*1

  (パニックの拡散を抑制することは、コロナウイルスそのものを止めることと同じくらい重要だ)

また、上記の実例では、"fans" と "as" の間に《関係代名詞+be動詞》が省略されている。それを補うと: 

There aren't many Eintracht Frankfurt fans who is as well-known as Helmut Sonneberg

文意は「ヘルムート・ゾンネバーグほどよく知られているアイントラハト・フランクフルトのファンは、多くはいない」である。

 

Eintracht Frankfurt(アイントラハト・フランクフルト)はサッカー・クラブの名称。日本人の長谷部誠選手、鎌田大地選手が所属しているので日本語圏のサッカーニュースでもよく名前が出てくるクラブだが、日本では単に「フランクフルト」と呼ばれる(英語でも単にFrankfurtだが)。ウィキペディア英語版によると、「アイントラハト」は「調和」の意味だそうだ。DWのツイート第3文に入っているハッシュタグの #SGE は、このクラブの略称。同じくウィキペディア英語版によると、Sportgemeinde Eintrachtという具合に頭文字をとったものだそうで、意味としては「調和スポーツ団」みたいな感じだろう。国際的には、そのチーム名よりも、拠点とする都市名で広く知られているわけだが。

 

その第3文: 

his love for football and his favorite club #SGE helped rebuild his life.

《help+動詞の原形》は、《help+to不定詞》でもいいのだが、「~するのを手伝う」の意味。ただしここでは「手伝う」という日本語はおかしいので、もしこういう文が試験で下線部和訳で出題されていたら、自然な日本語を工夫しなければならない。helpのあとに目的語が入って《help+O(+to)+動詞の原形》の形になることもあるが、その場合は「Oが~するのを手伝う」という意味になる。

また、下線を施した前置詞のforだが、「ofではないのか」と思った人もいるかもしれない。「~への愛」「~が好きだという気持ち」という意味を表すためにloveという名詞のあとに置く前置詞は、ofでもforでもどちらでもよい。こういうのは、入試問題などで穴埋めとして出題するときは、選択肢の中にofかforのどちらかしか入れないのが作問のルールなので、「文法問題で選択肢に両方入ってたらどうしよう」と過剰に心配する必要はない。むしろ、love of ~だけ知っててlove for ~を知らないという状態がマズい。

  She was consumed by her love of money. 

  (彼女は金銭欲にすっかり取りつかれている)

  He confessed his love for money. 

  (彼は自分の金銭欲について告白した)

 

さて、ここでツイートに添付されている映像を見てみよう。上述したように音声はドイツ語だが、英語の字幕がついている。字幕の英語は平易なので、流れてくるスピードそのままで話は追えるだろうと思うが、切り替わりが速すぎる(読み切れない)と感じるようなら、一時停止しながら追ってもよい。

 

最初のところで、ゾンネバーグさんは次のように自己紹介を切り出す。

f:id:nofrills:20200129035445p:plain

2020年1月27日、Twitter @dw_sports

《as long as ~ can remember》は成句で「~が記憶している限り」。

このように「記憶にある限り、ずっとフランクフルトのサポーターをしてきました」と話を切り出しているゾンネバーグさんは、この次の文で、壮絶な体験を語り始める。だけどそういう「壮絶な体験をしてきた人」である以前に、彼は「フランクフルトのサポ」なのだ。

f:id:nofrills:20200129035935p:plain

2020年1月27日、Twitter @dw_sports

英語字幕を読むうえで必要と思われる語注をつけておくと、英語で "Hitler Youth" と言われているのは日本語では「ヒトラー・ユーゲント」とドイツ語から直接カタカナにした言い方をするのが普通。意味を訳すと「ナチス青少年団」という感じになる。

"Theresienstadt" は「テレージエンシュタット」。現在のチェコ北部の都市「テレジーン」がナチス・ドイツ支配下にあったときにこう呼ばれていた。ここがどういう場所であったかは日本語ウィキペディアで把握できるだろう。

ja.wikipedia.org

 

ゾンネバーグさんは子供の頃、ヒトラー政権下でドイツ本国から離れたチェコ北部に強制的に連れていかれ、あまりに過酷な収容所を生き延びた。そして戦後戻ったドイツでフランクフルトというサッカーチームの華麗なプレイに魅了され、熱烈なサポーターとなった。

戦争での過酷な体験を語るときと、サッカーについて語るときの表情も身振りも目の輝きも、まるで違う。

この人は、「ユダヤ人でホロコーストを生き延びた人物」である以前に、「フランクフルトのサポ」なのだ。

この先もずっとお元気で、愛してやまないフランクフルトの試合を見ていてほしいと思う。

 

ゾンネバーグさんについてもっと詳しいことが知りたい方は、下記記事を読まれたい(英語)。

 

フランクフルトというクラブについては、元のツイートへのリプライで、ドイツの人同士が英語で話をしている。英語が若干イレギュラーなところがあるが、読めばわかるだろう(「文法が完璧でなくても読めば内容はわかる英語」というのはこのレベルの英語のことを言う。日本人がよくやるような単語の羅列ではない)。

 

f:id:nofrills:20200130091246p:plain

2020年1月27日, Twitter @dw_sports

 

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