このエントリは、2019年5月にアップしたものの再掲である。「文字通りの訳」が必ずしもいつも正確に文意を表せるわけではないという事例のひとつだ。
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今回の実例は、文法というより単語の話。
日本語圏では英語に関する解説は「学校で習わない」と打ち出すとウケがよくなるので本稿もそういうウケ狙いと思われるかもしれないが、実際にこれは学校では習わないのではないかと思う。だが卑語や下ネタではないし、俗語ですらない。
出典はTwitterから:
Our manager crying on the floor after we scored the winner tonight 🙌 #HesMagicYouKnow #Pochettino pic.twitter.com/CDlYu9H8N1
— Zeus (@superspurs34) May 8, 2019
正直、個人的にはどうでもよいトピックなのだが(←厄除けのお札*1)、これは欧州サッカーのチャンピオンズ・リーグ準決勝で、トッテナム・ホットスパー(以下「鶏」) がPK戦の末、ドイツのフランクフルトをしのいで決勝進出を決めたときの写真&鶏のサポーターの発言である。
ツイート本文には「うちの監督が、floorの上で泣いている」とある。そして、写真を見ればわかるように、このfloorは「床」ではない。
ツイート主が "Our manager crying on the floor" と書いているが、写真の中で監督が突っ伏しているのは「建物の床」ではなく、「フットボール・グラウンドのピッチ」であり、要するに「地面」だ。
日本語圏でfloorというと、ほぼ例外なく「(建物など人工物の)床」の意味にとられるだろう。実際に、floorという英単語は、日本語で「床に猫の足跡が残っている」というときの「床」はもちろん、「国立博物館の受付でフロアマップをもらう」とか「ダンスフロアの人混みをかき分けてバーに向かう」というときの「フロア」について、そのまま、単に単語を置き換えるようにして使うことができる(ただし「フロアマップ」はfloor mapsと複数形にするか、floor planと表す)。
しかし一方で、英語のfloorは、このような、木でできていたり、じゅうたんや畳が敷かれていたり、あるいはタイルが敷き詰められていたりするあの「床」だけでなく、「地面」を意味することがある。それが今回の実例だ。
「床」であれ「地面」であれ「足元に広がっている平らな面」だから、要するに「地べた」的なことを言うときには同じ語が用いられていても違和感はないと思う。
というか、日本語でも室内の床の上のことを「地面」ではないのに「地べた」と言うことがあるわけで(「彼の部屋にはベッドはなく、地べたに直接マットレスを敷いて寝ている」のように)、こういう言葉の流用はどの言語でも起こるものだろう。
ちなみにOxfordの英語辞書の定義は次の通りで、informal(正式な場では使わない、俗語)と位置付けられている:
1.2 informal The ground.
Paperback Oxford English Dictionary 7/E
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*1:当方、North London is red. である。ただし英語・英文法・英単語の話題ではそんなことはまず関係ない。