今回の実例は報道の見出しから。
下記キャプチャ画像(BBC News)の、特に下から2番目をご覧いただきたい。
"Ronaldinho arrested ..." や "Woody Allen book pulpled ..." の下線部の動詞は過去分詞で、「ロナウジーニョが逮捕された」、「ウディ・アレンの本が没になった」*1の《受け身》の意味。
一番下の "Top Afghan officials escape ..." の現在形は、「新聞記事の見出しの現在形は過去の事実を表す」という鉄則の通り、アフガニスタンで集会が銃撃されて何人もが殺されたが、要職者は難を逃れた、という報道記事だ。ちなみにこの攻撃はイスイス団が犯行声明を出している。
そして、今回メインの下から2番目、"US to deport former Nazi camp guard to Germany" は、見出しのルールとして、《未来》のことを表すto不定詞が用いられている。これは、以前も解説した通り、《be + to不定詞》のbe動詞が省略されたものだ。
ではこの記事の中身はどうなっているか。BBC Newsのこの画面から、この見出しをタップ/クリックすると次の記事が出てくる。
というわけで、BBC Newsのトップページに出ていた見出し("US to deport former Nazi camp guard to Germany")では漠然としかわからなかったことが、記事ではっきりとわかる。米国の裁判所がナチス・ドイツ政権下で強制収容所(キャンプ)の看守をしていた人物に、国外退去(つまりドイツへの送還)を命じたのである。
ナチス・ドイツ時代の強制収容所で働いたドイツ人が、戦後、ナチスの敵だったはずの米国に渡った(迎えられた)ケースは非常にたくさんある。詳細は下記の本などを参照されたい。
今回、ドイツへの送還が決まったFriedrich Karl Berger(フレデリック・カール・バーガー; フリードリヒ・カール・ベルガー)という人が渡米した経緯はわからないが、1959年からずっと米国に暮らしてきて、そして60年も経過した今になって、(戦争犯罪人として)ドイツに送還されることについて、94歳になった本人は「バカげている (ridiculous)」と述べている。
時効というものがないためだろう、ドイツについてはたびたび、戦争が終わって70年以上が経過してもなお「戦犯の身柄送致」のニュースがある。
が、多くの場合はユダヤ人の絶滅計画に関する囚人で、今回のケースはそうではない。バーガー氏が看守としてかかわっていたノイエガンメ収容所は、もちろん非人道的な捕虜収容所ではあったが、ユダヤ人絶滅計画のための収容所ではなかった。
ザクセンハウゼンから独立した直後の囚人数は約1000人。1940年末の時点で3500人。1942年末に1万3000人。その後も1945年まで囚人数は増加の一途をたどった。総計で10万人以上の人がノイエンガンメへ連れてこられたとみられている。ノイエンガンメにはドイツとオランダの国境付近(ハンブルク・ブレーメン・ミンデン・ハノーファーなど)を中心に最終的に75箇所もの労働キャンプ(労働分隊)が存在した。囚人たちは軍需産業や海軍基地などに労働力を提供させられていた。様々な国から囚人が移送されてきており、特にポーランド人とロシア人が多かった。彼らはヴィシー政府の存在からフランス人囚人を「対独協力者」と決めつけて迫害することが多かったという。
ノイエンガンメは絶滅収容所ではないが、処刑センターとしても機能していた。絞首刑がほとんどであったが、ガス殺も行われていたことが戦後にイギリスが看守の親衛隊員たちに対して行った裁判で明らかにされた。1942年9月に193人、11月に251人のソ連人捕虜がガス処刑を受けたという。
なお、記事キャプチャ画像の3段落目に "the Washington Post newspapers" とあるが、"newspaper" がなぜ複数形になっているのかは調べてもわからなかった。"the Washington Post newspapers" でGoogleフレーズ検索すると、用例があるにはあるが、すべて「印刷された紙の状態の新聞」のこと(それも複数の部数のこと)を言っている。例えば下記(「にせもののWaPo号外が配布された」というニュース)のような例だ。
なので、"newspapers" と複数形になっているのは、おそらくミスだろうと思う。「ワシントン・ポスト紙でこのような報道があった」などというときは、単に "the Washington Post" とすることが大半だ。 例えば下記の記事でそれが確認できよう。
実例だからこそ、このようなイレギュラーなものも出てくるわけだが、こういう例外はあまり気にしなくてもよい。「気にしなくてもよい」ということがわかるまで、真面目な人はいくらか大変な思いをするかもしれないが、大変な思いをしている人は、大変な思いをしないと納得できないのが自分の性分だと思っていただければと思う(そういう点、英語は、例外を許容できないタイプの真面目な人より、性格的にちょっといいかげんな人のほうが相性がいいみたい)。
参考書:
[音声DL付]ENGLISH JOURNAL (イングリッシュジャーナル) 2020年2月号 ~英語学習・英語リスニングのための月刊誌 [雑誌]
- 作者:アルク ENGLISH JOURNAL 編集部
- 発売日: 2020/01/06
- メディア: Kindle版