Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

仮定法過去完了(ロシア介入疑惑、ロバート・マラー特別検察官退任に際する声明)【再掲】

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このエントリは、2019年6月にアップしたものの再掲である。米トランプ政権はこのあと「ウクライナ疑惑」に揺れ、大統領弾劾という事態にまでなった(その先には行かなかった)。そして現在の新型コロナウイルス禍……「ロシア疑惑」は遠い昔のことのように思えるが、ここで特別検察官がはっきりと言葉にしたことは、忘れ去ってはならないことである。

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今回の実例は、米国のロバート・マラー*1特別検察官が退任したときのTwitterでのニュースフィードから。

マラー氏が2016年11月の米大統領選挙におけるロシアからの干渉について調べる特別検察官に任命されたのが2017年5月。その後、調査を進めながら、選挙戦でトランプ陣営で仕事をしていた人たちやロシア人などを次々と起訴、その過程でトランプの弁護士だったマイケル・コーエンから「うひょう」としか反応のしようのない暴露が出たり、銃ロビーのRNAに食い込んでいたロシア人スパイが有罪判決を受けたりしてきたが、最終的に2019年3月22日にマラー特別検察官からウィリアム・バー司法長官に「最終報告書」が提出されて、捜査は終結した。

この「最終報告書」は当初、司法長官がまとめたものしか世間に公表されなかったのだが(特別検察官が司法長官に提出して数日後に「まとめ」が公表された)、その「まとめ」の中身があまりにおかしかったので、いろいろあった末に、提出から約1か月後の4月18日に、報告書全文が一部情報を伏字にした状態で公開された(文章量にして1割強が伏せられている)。そういった経緯は英語版ウィキペディアに詳しく出ているので、関心がある方はそちらを参照されたい。

en.wikipedia.org

そしてこの報告書(ほぼ)全体の公開から1か月強が過ぎた5月29日、司法省において自身の退任と特別検察官事務所の閉鎖を宣言する声明を発表した。マラー特別検察官がしゃべっている映像を見たのは、私はこれが初めてではないかと思う。

特別検察官は「司法省の方針により、在任中の大統領は連邦法での違法行為で訴追することができない」と説明し、「したがって、大統領の起訴という選択肢は、特別検察官事務所にはなかった」と述べた。バー司法長官やトランプ大統領自身が「(ありもしない疑惑なのだから当然のことだが)証拠不十分だ」「ロシアとの結託関係などなかった」と繰り返しているのとは、まったく話が違う。

特別検察官には大統領を起訴する権限はなかったということは、既に公開されていた最終報告書でわかっていたことだが、マラー氏自身の肉声で語られるのは初めてだ。

今回の実例は、そのくだりから、お手本のような仮定法過去完了の実例。

 

 WBZ(CBS系列局)が画像にしている文: 

If we had had confidence that the president clearly did not commit a crime, we would have said so.

このまま教科書に掲載できるレベルの《仮定法過去完了》である。文意は「もしわれわれが、大統領は明らかに犯罪行為を行なっていないと確信していたならば、われわれはそのように述べていただろう」。つまり、「大統領が犯罪行為を行なっていないと確信できなかったので、犯罪行為はなかったとは述べなかった」ということである。

これは4月に最終報告書が公表されたときから普通にニュースでも取り上げられていた。その文面が下記(こちらも仮定法過去完了で書かれている):

 

しかし、米国では「Fox Newsを見る人はFox Newsしか見ない」という状態なので、最終報告書がそのような内容だということを知らずにいた人も大勢いた(いる)。何しろバー司法長官やトランプ大統領自身が「大統領は犯罪行為を行なっていない(ことを特別検察官は認めた)」と断言して回っていたのだから無理もないが。

 

これがドナルド・トランプ流のpost-truthの実態である。日本で「ポスト真実」や「フェイクニュース」というと必ず持ち出される「ネット上のデマ」や「まとめブログ」のレベルではなく、政権の中枢が post-truthのいわば総本山だ。

The Death of Truth: Notes on Falsehood in the Age of Trump

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私は個人的に日本語のニュースをあまり見ていないので、正確なところはわからないのだが、日本語圏のメインストリーム・メディアで「ポスト真実」や「フェイクニュース」の概念が政権・政府のやっていることに適用されているのを見ることはほとんどないと思う(もっとストレートに「虚偽」とか「不正」とか「操作」と表されていると思う)。だが、いわば「本場」では、ことあるごとに「フェイクニュース」という極めて幼稚な表現*2を使って自分に都合の悪い話を否定するトランプの側が「ポスト真実」の元締めという認識は、メインストリーム・メディアでは共有されている。

 

閑話休題。ではトランプのロシア疑惑は今後どうなるかというと、よりによってビル・クリストルなのだが、このような簡明な説明があったので紹介しておこう。

つまり、現職大統領の不正行為については普通の「司法で裁く」ということができないので、「弾劾」という手続きを踏むことになる。「マラー特別検察官の捜査ではトランプが司法妨害をしなかったという結論は導き出せなかった。司法妨害を行なったかどうかを決めるのは、議会の仕事だ」とクリストルは述べている。

というわけで、いわゆる「ロシアゲイト」は、まだ話は終わっていないわけだ。

 

英語の話に戻すと、《仮定法》は今回見た実例のような場面で威力を発揮する。「実際にはAなのでBできないのだが、もしAでなかったらBできるのに」ということを相手に伝えたいときに、「実際にはAなのでBできない」と言うか、「もしAでなかったらBできるのに」と言うかで、伝わり方が異なる。話す立場からいえば、相手に与えることのできる効果が変わってくるわけだ。これを踏まえて、英作文などでも仮定法を適切に使ってみよう。

 

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*1:英語での綴りはRobert Muellerで、日本語の報道などでは「マラー」「モラー」「ムラー」「ミュラー」など激しく表記ゆれしていて、「ムラー」や「モラー」をよく見るのだが、現地では「マラー」と読む。 https://en.wikipedia.org/wiki/Robert_Mueller を参照。

*2:普通の大人ならこういう場面でfalseという単語を使えるはずである。

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