今回の実例は、サセックス公夫妻(ハリー&メーガン)の最後の公務についての報道記事から。
英王室のハリー王子とメーガン妃ことサセックス公夫妻が「王族としての第一線から退いて、北米(カナダ)と英国を行き来しながら生活していく」と表明したのは1月上旬、イランのIRGCのスレイマニが米国によって爆殺されたりして、年明け早々、世界中が「しっちゃかめっちゃかになるのでは」と思っていたさなかのことだった。イタリアが全土をロックダウン下に置き、新型コロナウイルスの感染が「パンデミック」の域に達しているとWHOが述べて、米国でも感染が広がりつつあることが日々伝えられている3月上旬*1から見ると、ずーっと昔のことのようだが、まだたった2か月前のことだ。
そのサセックス公夫妻が、3月9日(月)、ロンドンのウエストミンスター・アベイにて、王族としては少なくとも当面は最後となる公務に出席した。記事はこちら:
映像を見たい方は下記に全部上がっているのでそちらをどうぞ(私は見ていない):
A Service of Celebration for Commonwealth Day LIVE 🔴 - BBC
サセックス公夫妻の最後の公務となった行事は、コモンウェルス・デー*2の礼拝で、行事の詳細や、少々「王室ゴシップ」めいたことも記事には書かれているが、実例として見るのはそこではない。
コモンウェルスは全世界にまたがり54の国から成るが、この日のロンドンでの礼拝にはそれらの国々にルーツのある名士たちも参加している。その中に、ボクシングのヘビー級統一王者であるアンソニー・ジョシュアもいた。ジョシュアはコモンウェルスの一国であるナイジェリア人の両親のもと、ロンドンの北西の端(ワトフォード)で生まれたが、子供時代をナイジェリアで過ごし、11歳くらいのときに英国に戻った。9日の礼拝で彼はそのことについてスピーチを行った。上記映像では26分過ぎから始まる(31分くらいまで)。下記URLで頭出ししてある。TH音がF音になったりT音が欠落したりとかなりこてこてのアクセントだから聞き取りは難しいかもしれない*3。
https://youtu.be/iksBZyRLfu8?t=1588
ジョシュアが自身のことを「コモンウェルスの子供」と語ったことを伝える箇所を、記事から見てみよう。
実例として見るのは、キャプチャ画像の一番下のパラグラフ、ジョシュアのスピーチからの抜粋部分。一読したときに(あるいはざっと聞いたときに)これに気づけるかどうかが理解の鍵となる:
“These days we hear so much about division and difference that some might be tempted to see that as a bad thing.
おなじみの《so ~ that ...》構文である。
The bag was so heavy that I couldn't lift it.
(そのバッグはたいへんに重かったので、私には持ち上げられなかった)
下線で示したsomeは《代名詞》で「何人かの人々」の意味。
《be tempted to do ~》は直訳すれば「~するよう誘惑される」だが、要は「~したくなる」ということ。
だからこの文の意味は、「最近は、分断と差異について実にたくさん耳にするので、それを悪いことであると見たがる人々がいるかもしれません」という意味になる。
次の文:
But, on the contrary, it’s a beautiful thing, a thing to be celebrated and cherish, and a great source of peace and stability.
《on the contrary》 は副詞句で、「それどころか、対照的に、反対に」の意味。ここでは「分断と差異は悪いことと見られがちですが、それどころか……」というふうに論を展開する論理マーカーとしての役割を担っている。
そのあと、" it’s a beautiful thing, a thing to be celebrated..." の部分は《同格》の構文だ。「それは美しいものです、祝われるべきものです」という意味になる。
差異はすばらしいものであり、解消されるべきものではなく大切にされるべきであり、平和と安定の源泉である、というジョシュアのこのスピーチは、ウエストミンスター・アベイに並んで座った多くの「人種」の人々に感銘を与えた。実際、コモンウェルスの元となった大英帝国は、下記の木畑洋一さんの研究書の表紙に使われているポスター(戦争のポスター)にあるように、「多様な人種」から成るひとつのまとまり、というアイデンティティを有していた。その上で白人優越主義があり、苛烈な差別があったのだが……。
その点に関心がある方は、ジョージ・オーウェルの『象を撃つ』を読むとよいだろう。
さて、現在、最も目にする機会が多い記事は新型コロナウイルスに関するものだ。こんなところでまでその話題というのも気が重くなるだけなので、なるべくその話題を避けるようにしているのだが、いよいよ、ウイルスに関連しない記事を見なくなってきた。なるべくそうでない記事を見るようにしたいとは思うが、思い通りにはいかないかもしれない。その点はご容赦いただきたい。
参考書: