今回の実例もソーシャルメディアでたくさん流れてきた標語・メッセージから。
先週、「集団免疫」論を捨てて以来、英国で(アイルランドも同じなのだが)人々に対し家にいるように呼び掛ける標語が繰り返し流されていることは既に書いた通り。
hoarding-examples.hatenablog.jp
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そのようなメッセージが政府から発され、医療現場(病院)が患者の激増(「オーバーシュート」なる珍妙な日本語が使われているが、あれはおかしい)に備えているときに、現場からは「負担をかけるな!」「病院に押し寄せるな!」というヒステリックな否定命令文ではなく、下記のような、とてもポジティヴで人間らしいメッセージが発された。
これだから、私は英語が好きなのだ。
North Manchester General Hospital Infectious Diseases ward team is here for you. Please stay home for us! @NorthMcrCO_NHS #Covid_19 #StaySafeStayHome #lovenhs #SocialDistancing #coronavirus #teamnhs pic.twitter.com/rXWNIotUza
— Sarah Lawrence (@sarahdigresses) 2020年3月20日
We stay here for you. Please stay home for us. pic.twitter.com/dpmIOzAHy7
— Cardiothoracic ICU (@CTICU_NYP) 2020年3月21日
上のツイートは英マンチェスター、下のは米ニューヨークの病院の医療従事者からのメッセージだ。"We stay here for you. Please stay home for us." 「私たちは、あなたがたのために、ここ(病院)にいます。あなたは私たちのために、家にいてください」
つまり、感染が拡大して患者が増え、病院がキャパシティを超えないように、一般の人々は自分が感染しないことと他人を感染させないことを第一に考えて、家にいてほしい(外出しないでほしい)というメッセージである。
日本でダイヤモンド・プリンセス号が注目されていたころから日本語圏では医療関係者やその方面の専門家が同じ内容のメッセージを発していたのだが、同じことを日本語で言わせると「病院に来るな」「病院に来る者を増やすだけだから検査なんかするな」という言い方になるのだから、いかにこの日本語圏というものが基礎に組み込まれているレベルで抑圧的なのかがいやでも感じられる。
さて、英語でのこのメッセージにはいくつかのバリエーションがあるが、 "We stay at work for you. You stay home for us." という対句の修辞法を使った表現が力強い。下記は英リヴァプールの病院から。リヴァプールといえばLiverpool FCで(エバトニアンのみなさん、すまんね)、リヴァプールの人々にまっすぐに届くものといえばLFCの応援歌となっている You'll Never Walk Alone ということで、そのへんにあるA4紙にマジックで1語ずつ、この標語を書いたものを医療従事者が持って、この歌を歌っているビデオである。
🎶 "You'll never walk alone..." 🎶
— ITV Granada Reports (@GranadaReports) 2020年3月24日
We love this! ❤️
Strong message from frontline NHS staff at Royal Liverpool Hospital, "we stay at work for you, you stay at home for us."#StayHomeSaveLives pic.twitter.com/94onWkRcvt
下記はジョージア(かつて「グルジア」と呼ばれていた国)の医師が掲げるジョージア語のメッセージを英語にして紹介するツイート。
Georgian doctors’ message to public:
— Ekaterine (@EkaCox) 2020年3月18日
“We stay at work for you! Please stay home for us! STOPCOVID-19” pic.twitter.com/zmOqRxCQf9
下記はインドネシアの医師のツイート。"at" を英単語でなく記号の @ にしているが、同じメッセージである。
We stay @ work for you,
— Dr Afida Sohana (@AfidaSohana) 2020年3月18日
You stay @ home for us!
Lets flatten the curve!#stayhome #fightcovid19 #covıd19 #MedTweetMY #KitaJagaKita #PerintahKawalanPergerakan pic.twitter.com/6qYo4HGHXW
下記はアイルランド、ダブリンの救急隊のもの。
#Frontline workers are at work for you…. So you stay home for us.
— Dublin Fire Brigade (@DubFireBrigade) 2020年3月21日
Maintain #socialdistancing and only use 999 or 112 in an Emergency. We CAN NOT provide advice on #COVID19 or arrange tests.
Going to hospital is not a fast track for a test. Call 1850 241850.#COVI19Ireland pic.twitter.com/KAUicyJVzh
下記はカシミール、スリナガルのお医者さんたち。
#COVID19
— Ehmad Bilal (@EhmadBilal3) 2020年3月24日
🛑👉Now That We Have 4 Positive Cases, Here Is a heartfelt Request From Resident Doctors of GMC Srinagar Working On the ground.
We are there for you, you stay home for us.👨⚕👩⚕ pic.twitter.com/d9wk8jhYRA
We have 8 positive cases of Covid now. Doctors & other health workers are being quarantined. Please break the chain & stay home Kashmir. Here is again a request from our resident doctors to halt this global disaster. Request. #StayHomeStaySafe #BreakTheChain #CoronaVirusUpdate pic.twitter.com/s19SkD1wXi
— Mohsin Bin Mushtaq (@zikrejaana) 2020年3月25日
下記はケニアのキジャベという町の病院から。
We stay here for you, stay home for us. #COVID19KE pic.twitter.com/SYjZWqfrGd
— AIC Kijabe Hospital (@KijabeHospital) 2020年3月23日
下記は香港。
“I stay at work for you, You stay home for us.”
— Leung Lab | JHU (@LeungLab) 2020年3月22日
Nice slogan (and call) from frontline health workers in Hong Kong. We should do the same here! pic.twitter.com/xSScdAxC5R
’We are at work for you - stay home for us.’ Corona greetings from the surgery department of the Helsinki University Hospital. pic.twitter.com/ySUDOLnkus
— Ilmo Keskimäki (@Keskimaki) 2020年3月20日
下記は米国のサンディエゴ。
"We stay here for you. ❤ You stay home for us," with love from our amazing team in Hillcrest.
— UC San Diego Health (@UCSDHealth) 2020年3月21日
We appreciate the compassionate care our nurses, physicians and staff throughout the system are providing to the San Diego community.
Thank you!#FlattenTheCurve #StayHomeStaySafe pic.twitter.com/DDKNqniHIo
TwitterやFacebook, TikTokなどいろいろなサービス(アプリ)に乗って発されている医療現場からのこのメッセージを、カタールの報道機関、アルジャジーラ(英語版)が1本の映像にまとめたのが下記である。
"We stay at work for you. You stay at home for us".#StayAtHome during the #CoronavirusPandemic and protect our #healthcare workers.#Covid_19 #COVID19 #COVIDー19 pic.twitter.com/phJwAuaCuT
— Kevin Chang 🌏⚖️ (@KevinCChang) 2020年3月21日
イタリア、マレーシア、インド、韓国……と次々と現れる、紙に書かれたメッセージを持った医師や看護師たち。
私は東京でパソコンの画面の中でこれを見て、今これをここにまとめているのだが、 その過程で一度も、日本の医療関係者からこのメッセージが発されるのを見ていない。私の見る限り、日本だけは、この輪の外に位置している。
英語圏ツイート見てると医療従事者が顔出して「家にいてください」といったことを訴えている一方で、日本語圏から漏れ伝わってくるツイートでは医療従事者の顔出しはなさげ。
— nofrills/共訳書『アメリカ侵略全史』作品社 (@nofrills) March 22, 2020
ちょっと考えた結果、元々顔出しの文化がないこと以上に、きっと顔出しなんかしたら、ご本人どころか家族までも「ケガレ」として村八分にされ差別されるという事情があるんだろうなと思った。的外れかもしれないけどね。
— nofrills/共訳書『アメリカ侵略全史』作品社 (@nofrills) March 22, 2020
今回見たものは、個別のツイートの中に出てくる単語が難しいとかいうことはあるかもしれないが、英語としてはいずれも「中学英語」レベルである。読んで意味が取れない文が1つでもあった場合、基礎力に問題があるので、「やり直し英語」系の本か、あるいは文英堂や受験研究社、学研のようなところが出している高校受験前の総復習の問題集をやってみてほしい。
参考書:
本稿は、はてなブログのお題キャンペーンに応募することにした。多くの日本語話者・英語学習者にこの言葉と、この言葉が語られているという事実を伝えたいからだ。
否定文ではなく肯定文で、こういうメッセージが出てくる英語圏のnormを、私はとても好ましく思う。
同じことを言うのでも日本語だと否定文のほうがしっくりくるというのは、本当に何でだろう。"Remember that you are not alone." も「あなたはひとりではないということを覚えていて」より「あなたはひとりではないということを忘れないで」のほうがしっくりくるよね。
Stay at homeの標語は、日本語訳するとしたら「家にいろ」じゃなくて「家から出るな」か、コピーライティングとして。日本語だと否定命令文がしっくりくるっていうのは、ほんとになぜなんだぜ。
— nofrills/共訳書『アメリカ侵略全史』作品社 (@nofrills) 2020年3月24日
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