Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

長い文、thousandを含む数字の表し方、「デモ」の表し方、関係代名詞、挿入、allow ~ to do ..., 同じ語句の繰り返しを防ぐための言い換え表現(香港、大規模デモ)【再掲】

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このエントリは、2019年6月にアップしたものの再掲である。表題に「長い文」とあるが、このくらいの長さの文は特に長いわけではなく、むしろ非常によく遭遇する。

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今回の実例は香港での大規模デモについての報道記事から。

香港は、現在は「中国の一部」と認識されているかもしれないが、22年前の1997年までは英国(イギリス)の統治下にあった。世界史で必ず習うと思うが、19世紀の西欧列強の帝国主義の時代、中国は大変なことになった。このとき香港は英国の植民地となり、19世紀末に99年の期限で租借という形になった。20世紀の激動の中、香港は第二次世界大戦時は日本の占領下におかれたが、日本の敗戦に終わったあとは再度英国の統治下に戻り、「アジアにありながらそこだけは英国」という場所になった。20世紀の香港の映画スターの多くが西洋風の名前をしていること(ブルース・リー、ジャッキー・チェンなど)には、このような事情がある。

1997年に租借権が期限を迎え、香港は英国から中国(中華人民共和国)に返還された。中国本土は社会主義で、香港は資本主義(自由貿易主義)とまったく違ったシステムだったため、中国は「一国二制度」を導入し、香港は「特別行政区」として高度な自治を有する中国の一部となった。つまり香港は中国本土とはずいぶん違った制度を有し、中国本土ではできないようなこと(例えば政党の結成)も香港では普通にできる、というようなことになっていた。そのような背景から、香港では「自由」についての意識が高い。米国の監視システムに関する極秘情報を手にしたエドワード・スノーデンが最初の脱出先に香港を選んだのにはそういった文脈もあった。

一方で、返還から20年以上が経過し、香港を中国本土とは「特別」なものにしている要素が、少しずつ変わり始めている。もう5年も前になるが、2014年の「雨傘運動」は、中国政府が香港をいわば手なずけようとする動きに対する学生たちを中心とした抵抗運動だった。

そして今回、2019年6月に、その「雨傘運動」の規模が引き合いに出されるような大規模デモが起きている。きっかけは、香港から中国本土への容疑者引き渡しを可能にする法的制度づくりで、これについてはロイターの記事などでしっかりした解説を読める。

jp.reuters.com

 

というわけで今回の記事はこちら。ただし、私が最初に読んだあとに記事が更新され、見出しが書き換わり、内容もかなり変わってしまっている:

www.theguardian.com

 

f:id:nofrills:20190611041920j:plain

2019年6月9日、the Guardian

Hundreds of thousands of people have taken to the streets of Hong Kong in a vast protest against a proposed extradition law that critics say will allow mainland China to pursue its political opponents in the city, which has traditionally been a safe haven from the Communist Party. 

かなり息の長い文である。私は高校生のとき、こういう文が出てくると涙目になりながら時間をかけて構造を取り、読んで訳していた。今は数秒で読めるし意味もとれるが、当時はおそらくこの程度の長さの文に30分くらいかかっていただろう。そういうのを嫌がっていたら、英語なんか読めるようにならないしましてや書けるようにはならない。

 

というわけでひとつひとつ見ていこう。まずは全体の文の構造を取る。太字&水色で示した部分が主語、太字&ピンクで示した部分が述語で、文の主要な部分はグレーで示した部分を除いたもの。

Hundreds of thousands of people have taken to the streets of Hong Kong in a vast protest against a proposed extradition law that critics say will allow mainland China to pursue its political opponents in the city, which has traditionally been a safe haven from the Communist Party. 

このようにはっきり目に見える形にすると、長い文でも読みやすくなるだろう。教科書や問題集、プリントなど紙に印刷されたものを扱うときは、蛍光マーカーなどを活用してほしい。自分でわかりやすいようにいつも使う色を決めておくとよい(主語はブルー、述語はピンク、など)。

"Hundreds of thousands" は「数十万の」という意味。日本語では、千の次は万で、その次は十万、百万、千万、億……という単位を使うが、英語ではthousandの次はmillion (百万) で、その間にある「万」はten thousand, 「十万」はhundred thousandを使って表す。例えば「2万」はtwenty thousand, 「20万」はtwo hundred thousand, 「25万」はtwo hundred and fifty thousandとする。

こういうふうになっているため、日本語で「数千人が集まった」というところでも、「数万人が集まった」というところでも、英語ではどちらもthousands of peopleと表される。「アリアナ・グランデのコンサートをthousands of young peopleが楽しんだ」という原文があったとして、これを日本語で「数千人の」とするか「数万人の」とするかでは大違いだ。だから、英語→日本語の翻訳の作業ではある程度具体的な数値の確認が必須となり、これが案外めんどくさい。出てくるたびに意味されている数値が異なるわけだから、用例ベースの機械翻訳だのAIだのディープラーニングだののテクノロジーではまず解決不能で、おそらくずっとめんどくさいままだろう。

閑話休題

ここでは "Hundreds of thousands of people" とあるので、そのまま「数十万人」と考えてよいだろうが、場合によっては「百万人近くの人々」とするのが適切かもしれないので、真面目に翻訳をする場合はやはり数値の確認はしたほうがよいのだが、ただ読み流す場合は「数十万人」としておけば十分だ。

 

その次。述語動詞にあたる "have taken to the streets" のtake to the streetsは「街に出てデモをやる」という意味の成句。「デモ」というと異様で特別なもののように扱われる日本語圏の感覚ではちょっと考えられないくらいカジュアルな表現かもしれない。また、「デモ」をdemonstrationと表すことは英語ではあまりなく、だいたいprotest, march, rallyといった語が用いられる。

 

さて、先に行こう。上でグレーの文字で示した部分だ。

in a vast protest against a proposed extradition law that critics say will allow mainland China to pursue its political opponents in the city, which has traditionally been a safe haven from the Communist Party. 

関係詞や不定詞などが続いていて、なかなか読みづらいのではないかと思う。最後まで読まないうちに息切れしてしまう人も多いのではないか。順番に見ていこう。

in a vast protest against a proposed extradition law that critics say will allow mainland China to pursue its political opponents in the city, which has traditionally been a safe haven from the Communist Party. 

太字で示した2語が《関係代名詞》だ。

まず、最初の関係代名詞のthatだが、これの先行詞は直前の "a proposed extradition law" (「提案されている、容疑者引き渡しの法律・条例」)で、主格。この関係代名詞に対する述語動詞が、下線で示した "will allow" である。

ではその間に入っている "critics say" は何かというと、これは一種の《挿入》である。これは大学入試の文法問題などでも頻出だが、ここで《関係代名詞の主格+挿入されているS+Vのペア+関係代名詞の主格に対する述語動詞》という基本的な構造を把握することが重要である。うっかりしていると、最初の関係代名詞を「挿入されているS+Vのペア」に対する「目的格の関係代名詞」(省略可能)と把握してしまいかねない。もちろん、この関係代名詞は主格だから省略はできない。

  Here is a book which I think is useful for you. 

  (あなたに有用だと私が考える本がここにある)

  He is a man who Theresa says can't be relied upon. 

  (あの人は、テリーザが言うに、あてにすることができない人物だ)

 

続いて、上記引用で斜体で表した部分:

... that critics say will allow mainland China to pursue its political opponents in the city

《allow ~ to do ...》 は「~が…することを許す」、つまり「(~が望む通り)~に…させる」の意味。これは、意外かもしれないが、"please allow me to do ..." の形でビジネスの場面でよく使う。

  Please allow me to remind you that our discussion today contains forward-looking statements. *1

  Allow me to interrupt you for a moment, but I’dwant to make a point here *2

 

つまりこの部分は、「批判者たちいわく、中国本土がその都市にいるその政治的な敵対者を追求することを許すような、提案されている、容疑者引き渡しの法律・条例」と直訳される。もちろんこのままでは日本語としてとても読みづらいので、訳す場合は読んだだけでわかるように日本語として形を整えることは必要になるが、いちいち訳さずに意味を取るだけなら、これでOKだ。

 

最後の部分: 

in the city, which has traditionally been a safe haven from the Communist Party. 

この "in the city" のthe cityはHong Kongのこと。英語では同じ語句の繰り返しはとにかく避けるという鉄則があり、Hong Kongを何度も繰り返して使うことはせず、頻繁に言い換えていく。

この言い換えも正確に把握できないと、まとまった英文はまともには読めないし、これもまた「意味」がわかっていないと正確な把握ができない上に、出てくるたびに「意味」が変わり、実例の量を集めても統計的に処理できないことだから、機械的に処理するのはまず無理だろう。

太字で示したwhichは関係代名詞で、ここではコンマを置いて《非制限用法》で用いられ、先行詞に補足的に情報を付け加えている。「伝統的に、共産党の手が届かない安全な避難所であった」という意味。

havenは「避難所」や「(船舶の)停泊所」の意味。よく見るのはtax haven(「租税回避地タックス・ヘイヴン」)だが、日本語圏ではこれを「タックス・ヘヴン」と勘違いしている例も散見される。heavenとhavenは別の単語なので注意されたい。

 

 

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