Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

【ボキャビル・英英辞典】in full swing, 分詞の後置修飾, whatsoever(Brexitにおける英国の「俺様」っぷり)【再掲】

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このエントリは、2019年7月にアップしたものの再掲である。英語をいちいち日本語に訳さずに内容を正確に把握しながら読むためには、わからない単語はすっ飛ばすのではなく、英英辞典を使って調べて読むのがよい。というか、適当にすっ飛ばして読んだところで、まともに読めることにはならない。文法問題は8割くらいできるのに、センター試験で200点中120点くらいしか取れていないという受験生は多くの場合ボキャブラリーに問題があるので、一度、英英辞典を使ってみてほしい。頭の中で上滑りしている状態にある単語力が、しっかりと自分のものになるので。

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今回の実例も、前回のと同じ、欧州議会Brexit担当代表を務めるヒー・フェルホフスタット氏(元ベルギー首相)が、英紙ガーディアンに寄せたオピニオン記事から。

記事の背景などは前回のエントリを参照されたい。

www.theguardian.com

 今回見るのは、前回見た文の次: 

f:id:nofrills:20190629121029j:plain

2019年6月27日、the Guardian

And now a Conservative party leadership election to replace the outgoing prime minister, Theresa May, is in full swing

《in full swing》は、英和辞典をひくと「たけなわである」といったこなれた表現が出てくると思うが、この事例ではそれを適用すると「選挙もたけなわである」とかいう、日本語としてどうよ、という結果になる(最近はこういう日本語としてコロケーションがおかしいだろうというものも、どんどん許容されてきているが……まがりなりにも言葉について意識が高い人々が書く言葉だけが文字として定着したものになっていた「活字」の時代と違い、インターネットによって一般の人の言葉がどんどん「疑似的な活字」になってくる過程で、微妙な日本語が実際に用いられているのを見る機会が増えた)。

そういう場合は、英語で書かれた英語辞典(日本語圏では「英英辞典」と呼ぶことになっているのでここでもそうする)を参照するのがよいだろう。辞書で探すのは「日本語での訳語」ではなく「意味」であると意識し、それに適する日本語(訳語)は自分で探したり考えたりする、という作業を行うことになるわけだが、日本語としてアウトプットしなくてもよい場合(自分が読んで理解すればよい場合)は「意味」を正確に把握してしまえばそれでよい。

英英辞典にも、完全にネイティヴ話者向けのもの、言葉の研究者向けのものなどいくつかのレベルがあるが、最初は、外国語として英語を学んでいる人向けのものを使うのがよいだろう。たいていのブランドで、Learner's Dictionaryとして編纂されている辞書があるはずだ。

例えばケンブリッジのこの手の辞書では "If an event is in full swing, everything has started and there is a lot of activity" と説明されている。英和辞典で「たけなわである」などと言われるよりよほどわかりやすいだろう。

dictionary.cambridge.org

 

この "in full swing" の例文を検索で探してみたら、下記の英会話指南サイトの解説が見つかった。実際の会話の中でどう使う表現なのかが、とてもわかりやすい。各自参照されたい。

www.bizmates.jp

 

この次の文: 

To those of us watching from the outside, the debate between the candidates confirms that they have learned nothing whatsoever from the past two years of negotiations with the EU.

太字にした "watching" は《現在分詞による後置修飾》で、先行する "those of us" を修飾している。「(英国の)外から見守っている私たちにとっては」の意味。

文の主語は下線を補った "the debate" で、動詞は "confirms"。間に入った "between the candidates" は先行する "the debate" を修飾している。

 

続いて太字にした "whatsoever" は、whateverを強調した形で、学校では習わないかもしれないが、実際には非常によく遭遇する表現である。特に否定文で用いられ、「全然まったくそんなことはない」ということを強調して表す。

  I don't have any knowledge of the deal whatsoever. 

  (その取引のことは一切何も知らないですよ)

  They gave me no advice. None whatsoever. 

  (彼らからは何のアドバイスもありませんでした。一切、何も)

 

法律文書について解説している下記ページでは「米語で盛んに使われるが、英語(イギリス英語)では廃れてきている」とある。イギリス英語でも口頭でのコミュニケーションや日常的な表現ではよく見る気がするが、正式な文書では「無駄な強調」として嫌われているのかもしれない(イギリス英語にはそういう傾向がある)。

https://www.lawprose.org/garners-usage-tip-of-the-day-whatever-whatsoever/

法的な文書での用例は、下記を参照(英文契約書)。

http://www.bridgelink.jp/column/contract/088.html 

 

 

ここで(少々分量のあるオピニオン記事の冒頭部分で)ヒー・フェルホフスタット氏が "they have learned nothing whatsoever from the past two years of negotiations with the EU" (「EUとの2年に渡る交渉から一切何も学んでいないのだ」)と強調した形を使っているのは、「筆者のいら立ち」を効果的に表している。読む側はこの先に何が書かれているかをここで予測し、嘆息したりうなずいたりして読み進めるか、首を横に振ったりFワードをつぶやいたりして読むのをやめてしまうかのどちらかになるのがほとんどだろう。

 

フェルホフスタット氏はこのあとのパラグラフで、英保守党党首選で勝利が確実視されているボリス・ジョンソンについて、"a man who continues to dissemble, exaggerate and disinform the public" と述べているが、これは「いわれのない非難」などではなく「広く知られている事実」である。日本ではどうせ知られちゃいないのだろうが、例えば下記の本に具体的に記されている。 

Post-Truth: How Bullshit Conquered the World

Post-Truth: How Bullshit Conquered the World

 

 

 フェルホフスタット氏はベルギーの政治家である。ベルギーは面積は狭いかもしれないが、ワロニアとフランデレンという言語も文化・伝統も異なる2つの地域で構成された国で、相互の対立は深く、「誇張や誤情報」が政治的に用いられるということはどこかよそで起きていることではない。フェルホフスタット氏自身はフランデレンの政治家で、フランデレンには過激な分離主義勢力があり、彼らもまた「反EU」の波に乗って(あるいは乗ろうとして)いる。

EUはいろいろ問題があることは確かだが、少なくとも、そういった「分断」を乗り越えようという取り組みであることは事実だ。だからこそノーベル平和賞を受けたわけで、そういったことを考えたとき、20世紀前半の分断と戦争の時代を過去にしようとしているEUが、英国のEU離脱主義者がとなえている過激な言説を、リアルな警戒感をもって見ている、ということは、誰にでも十分に納得できることだろうと思う。

 

ちなみに、EUBrexitに関して記者会見をやるような立場にある政治家たちはみな、外国語としての英語を「ネイティブ並み」に使う。フランスのマクロン大統領のように元々エリートで英語はできて当たり前という人もいるが、欧州理事会議長ドナルド・トゥスク氏(ポーランドの元首相)のようにEUで仕事をする際に学習して身に着けた人もいる。

そういえばおもしろいデータがあった。EU規模での学生・若者の教育交流機関である「エラスムス」のツイートだ。

 

 

ちなみに学習者向け英英辞典だが、私の時代は日本で普通に書店で買えるのは開拓社が日本で印刷していたOxford Advanced Learner's Dictionaryだけで、私はこれを高校の時に使っていたが、今は原書がそのまま(日本の出版社を介さずに)買えるようになっているので、ウェブ版でいくつか試してみたあとで、自分に使いやすそうなブランドのものを選ぶのがよいと思う。 

COBUILD Advanced Learner’s Dictionary (Collins Cobuild) (English Edition)

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Cambridge Advanced Learner's Dictionary with CD-ROM

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徹底例解ロイヤル英文法 改訂新版

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英文法解説

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