このエントリは、2019年7月にアップしたものの再掲である。再掲時点の2020年5月上旬、英国は新型コロナウイルスで欧州で最も多くの死者数となっているが、行きすぎた新自由主義国家ゆえ(人権について簡単に「行きすぎた」と言う人々が誰も新自由主義について「行きすぎた」と言わないのが不思議だが)、PPE(防護服)も不足しており、医療現場で働いている人々も次々と感染して亡くなっている。英国のNHSは第二次大戦後に作られたシステムだが、その医療現場の労働力として、「ウィンドラッシュ」に見られるように、英国は旧植民地から看護師や医師を募った。今回、医療の最前線で亡くなっている中で少なからぬ人々が、そういった流れで英国に来た「移民」の医療専門家たちである。今は過去の上にあるということだ。
-----------------
今回も、前回と同じ記事から、前回見た部分の少し先を見てみよう。
記事はこちら:
本題に入る前に、下記キャプチャ画像の最初にある "the shadow women and equalities secretary" について、少し説明しておこう。
非常にざっくり説明すると、英国では、閣議に出席する「大臣」は(ministerではなく)secretaryという。より正確にいうとsecretary of stateで、もっと正確にいうとSecretary of State(大文字を使う)だ。省略するときはSoSとなる。ちなみに英国でministerというと、「大臣」ではなく「閣外大臣」になる。
そして、英国では「最大野党」はthe Official Oppositionと呼ばれ、与党による内閣に対応するように「影の内閣 the Shadow Cabinet」を組織する。日本でも10年ほど前、当時の民主党が「日本にも二大政党制を」と訴えていたときに「影の内閣」が組織されていたのだが、今は「あれは何だったんだろう」という状態だ。他方、英国ではオフィシャル・オポジションもシャドウ・キャビネットも正式に制度の一部となっており、日本のような一時的流行ではない。シャドウ・キャビネットは、選挙で政権交代が実現した場合に内閣がどのような陣容になるかを告げるものでもあり、国民というか有権者もそれなりに高い関心を持ってみているし、当然メディアでも「影の〇〇大臣」という方書きは普通にぽんぽん出てくる。
今回の実例の、"the shadow women and equalities secretary" は、現政権の the women and equalities secretary (女性および均等大臣)に対応する「影の大臣」で、最大与党(労働党)の役職者だ。
この文では、《that節の繰り返し》に注意・注目したい。
The shadow women and equalities secretary, Dawn Butler, said the report was “extremely damning” and that the legislation that established the hostile environment was “deliberately discriminatory and racist towards people that were invited to this country and were British citizens”.
下線を補った部分(が長すぎてわかりづらいかもしれないが)では、saidの目的語であるthat節が、等位接続詞のandでつながれて、繰り返されている。
このような場合、1つ目のthat節のthatは省略することができるが、2つ目以降のthatは省略できない。
He told me (that) the meeting would be over at three and that he would be available after that.
(彼は、会議は3時に終わることになっていて、そのあとは空いていると私に言った)
なお、この文にもうひとつあるthat ("people that were invited" のthat)は関係代名詞(主格)である。「この国に招かれ、英国の市民であった人々」という意味。
次の文:
Her Labour colleague, David Lammy, who has been a vocal campaigner on the issue, demanded that the government scrap the hostile environment policy and said it would be May’s lasting legacy.
文の主語は、同格表現と《関係代名詞の継続用法》で長くなっている。文の動詞であるdemandedに先行する部分全体が主語である。
この動詞のdemandedの目的語であるthat節内に、《仮定法現在》が出現し、that節内の主語であるthe governmentという三人称単数の単語のあとに、scrapという動詞の原形が来ている。
こういうことが起きる仕組みについては、以前書いた解説(下記)でまとめてあるので、そちらをご参照いただきたい。
hoarding-examples.hatenablog.jp
この文の意味は、「労働党所属の彼女の同僚であるデイヴィッド・ラミー議員は、この問題について声を上げて訴えてきた人物であるが、政府は敵対的環境という政策を廃止すべきであると要求し、これこしが(テリーザ・)メイという政治家のあとあとまで残る業績になるだろう、と述べた」。