Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

force ... to do ~, 無生物主語, 同格のthat, やや長い文, 関係代名詞の主格とbe動詞の省略, so ~ that ...構文, as though + 仮定法, 分詞構文, など(数字の向こう側を見せるNYTの取り組み)

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今回も前回の続きで、先週末、ニューヨーク・タイムズ(NYT)がCOVID-19での死者が10万人に迫らんとする中で示した「数字」ではない、人間たちとしてのひとりひとりの死者についての印象的な取り組みから。

本題に入る前に最新のニュース。2020年5月27日、米国での新型コロナウイルスによる死者が10万人を突破し、各報道機関が大きく報じている。下記はロイターのフィードだが、TVの報道・時事番組などもこれをトップで扱っていることがTwiterからわかる。

本題の記事はこちら: 

www.nytimes.com

誰かが病院や高齢者施設で最期を迎えるとき、通常ならば家族や親しい人たちがベッドの脇にいて、声をかけ、手を握る。だがこの感染症に際しては、前回見た部分にあったように、そういったことができない。入院した母親の側には息子も娘もいない。感染が発生したケアホームは部外者立ち入り禁止になっている(少なくとも米国では多くの場合そうなっている)。そして、誰かが死んだとき、残された家族・親族や友人たちは、集まって故人を偲び、宗教的な儀式をする場合にはともに祈りの言葉を唱えるということができない。これは2003年のSARSアウトブレイクのときに既に中国などから伝えられていたことだが、今回、それが地球規模で起きている。

今回見る部分は、その残酷な現実について述べた部分だ。

 

 

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https://www.nytimes.com/interactive/2020/05/24/us/us-coronavirus-deaths-100000.html

This highly contagious virus has forced us to supress our nature as social creatures, for fear that we might infect or be infected. Among the many indignities, it has denied us the grace of being present for a loved one's last moments. Age-old customs that lend meaning to existence have been upended, including the sacred rituals of how we mourn.

 今回は、特に文法ポイントがあるところだけを解説していくことにする。

This highly contagious virus has forced us to supress our nature as social creatures, for fear that we might infect or be infected.

太字で示したのは《force ... to do ~》の構造。「…に強いて~させる」だ。ここでは《無生物主語》の構文でもあるが、「この感染力の高いウイルスは、私たちに社会的動物としての私たちの性質を抑圧することを余儀なくさせた」と直訳される。

下線で示した "for fear that ..." は熟語として覚えている人も多いかもしれない。thatは《同格》のthatで、「…というおそれのために」の意味。「私たちが(だれかを)感染させるか、あるいは感染させられるかもしれないというおそれのために」。

つまり、人が集まれば感染が広がるというおそれがあるために、人が集まることができない、ということを述べている。

その後の部分は、看取りができないこと、弔いの儀式ができないことについて、かなり文学的な表現で述べている。じっくり読んでほしい英文である。

 

さらにスクロールダウンすると、ここで述べられている抽象的なことが、具体的に語り直されている。前回も見たが、これが英語の文章の書き方(書かれ方)の基本で、最初に概論を述べ、そのあとに具体論を続ける。

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https://www.nytimes.com/interactive/2020/05/24/us/us-coronavirus-deaths-100000.html

Before, we came together in halls and bars and places of worship to remember and honor the dead. We recited prayers or raised glasses or retold familier stories so funny they left us nodding and crying through our laughter.
In these vital moments of communion, it could feel as though the departed were with us one last time, briefly resurrected by the sheer power of our collective love, to share that closing prayer, that parting glass, that final hug.

前半は、「以前は~した」として、これまで通常だった弔いのあり方について述べている。後半はそれについてさらに言葉を尽くして語り直している。

前半部の最後の文はいくつか省略がなされているのだが、それを補ってみてみよう。青字が省略を補った部分: 

We recited prayers or raised glasses or retold familier stories that are so funny that they left us nodding and crying through our laughter.

 「祈りを唱えたり、杯を挙げたり、なじみ深い話をしたり」して故人を弔う、というところで、その「なじみ深い話」について修飾する語句が文全体を長くしている。

そしてその修飾する語句を導いている《関係代名詞》が、その後のbe動詞とともに省略されている(青字で補った that are)。そのため節の先頭が形容詞の "funny" とそれにつく副詞の "so" ということになっているので、こういう構造を見たことがないとさっぱりわからないのではないかと思う。

この(省略されているので見えない)関係代名詞の節の中は、《so ~ that ...構文》だ。thatの直後のtheyは "familier stories" を受けていて、下線で示した《leave ~ -ing》は《SVOC》の構造で、「~をーさせっぱなしにしておく」。よってこの部分の意味は、「あまりに可笑しいので、私たちを笑いの中でうなずきっぱなし、泣きっぱなしにしてしまうようななじみ深い話」。

 

後半部分: 

In these vital moments of communion, it could feel as though the departed were with us one last time, briefly resurrected by the sheer power of our collective love, to share that closing prayer, that parting glass, that final hug.

これもやや長い文なので読みづらいかもしれないが、"one last time" のあとで一回区切ってしまおう。そのあとは、下線で示した "resurrected" という過去分詞に導かれる《分詞構文》だ。それに続く青字で示した "to share" は《to不定詞の副詞的用法》で「~するために」と《目的》を表し、「その最後の祈りを、その別れの盃を、その最後の抱擁を分かち合うために、私たちの集合的な愛の力だけによって短い間だけ復活して*1」。

 

"one last time" のあとの部分を先に解説してしまったが、その前の部分は、《as though + 仮定法》が使われている。"the departed" が単数なのに、be動詞が "were" と複数形に対応するものになっているのは、これが《仮定法過去》だからである。

as thoughは「あたかも~のように」の意味だが、原則として仮定法を伴うことになっている。

  It sounds as though he knew nothing about the rules. 

  (まるで彼は決まりについて何も知らないかのように聞こえる)

  It sounds as though he had known nothing about the rules. 

  (まるで彼は決まりについて何も知らなかったかのように聞こえる)

だから "it could feel as though the departed were with us one last time" は、「故人が最後にもう一度だけ私たちとともにあるかのように感じられるだろう」といった意味。couldは仮定法由来の《婉曲》のcouldだ。

 

さらにスクロールダウンしていこう。

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https://www.nytimes.com/interactive/2020/05/24/us/us-coronavirus-deaths-100000.html

 「ニューヨークとHamburgのオペラ劇団でソプラノのパートをつとめていた」という89歳の女性。このHamburgはドイツのハンブルクではなくアメリカに同名の都市があるのかもしれない(ドイツの都市だとしたら Hamburg, Germany と記載するだろうから)、翻訳するとしたらそこから調べる必要があるな、とか、100歳で亡くなった第二次大戦の退役軍人、フィリップ・カーンさんは1世紀前のスペイン風邪で双子の兄弟を亡くしているということは、亡くなったお兄さんか弟さんは新生児で罹患してしまったのか、といったことを思いながら、次の地の文が現れてくるのを見る。

 

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https://www.nytimes.com/interactive/2020/05/24/us/us-coronavirus-deaths-100000.html

Even in the horrible times of wars and hurricanes and terrorist attacks that seemed to crumble the ground beneath our feet, we at least had time-tested ways of grieving that helped us take that first hesitent step forward.
Not now.

太字で示したthatは《関係代名詞》の主格。「私たちの足の下にある地面を砕いてしまうような、戦争やハリケーン、テロ攻撃の恐ろしいときにあってさえ、私たちは少なくとも、時間の試練に耐えてきた(近しい人々の死を)嘆き悲しむ方法を持っていた。その嘆きの方法によって、私たちは次の一歩をためらいながらでも歩み出せていたのだ。しかし、今はそうではない」

この病気では、看取りと弔いができないことで、死を受け入れることが難しくなっているということは、日本でも、新型コロナウイルスで亡くなった芸能人のご家族が述べていらした通りだ。NYTのこの記事は、その事実、近しい人の死を受け入れることが難しくなってしまっているという事実を、どこか遠くの知らない誰かの死をいわば羅列するようにして示しながら、語っている。

 

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https://www.nytimes.com/interactive/2020/05/24/us/us-coronavirus-deaths-100000.html

Radio Free Europe(ヨーロッパ自由ラジオ。今も報道機関として活動しているが、東西冷戦の最前線に立っていた報道機関だ)で働いていた95歳の女性。Covid-19の患者の治療に名乗り出た67歳の医師。…… 

 

コロナの時代の僕ら

コロナの時代の僕ら

 

詩人ジョン・ダンの瞑想録に由来する「誰もひとつの島ではない」という使い古された文句がるが、感染症においてはその言葉が、これまでにない、暗い意味を獲得する。

--- パオロ・ジョルダーノ(飯田亮介訳)『コロナの時代の僕ら』

ジョン・ダン (John Donne) は16世紀から17世紀にかけて、つまりウィリアム・シェイクスピアとほぼ同じ時代の詩人で、「誰もひとつの島ではない」は "No one is an island". これは英語圏では知らない人はいないくらい有名なことばである。

https://en.wikiquote.org/wiki/John_Donne

 

英文法解説

英文法解説

 
ロイヤル英文法―徹底例解
 

 

*1:=復活させられて。resurrectは「~を復活させる」の意味の他動詞である。

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