今回の実例は報道記事から。
今、アメリカが抗議行動で揺れている。歌手のアリアナ・グランデが "Black Lives Matter" とマジックペンで書いた段ボールを持って街頭に出(さすがに彼女はすごいしっかりしてそうなマスクを着けている)、ビヨンセが署名を呼び掛けている。ニューヨークもワシントンもロサンゼルスも、あるいはほかの各都市も、マスクをした多くの人々が街頭に出て抗議のメッセージを掲げている。英語圏の報道機関では、新型コロナウイルスにかえてこの件をトップニュースとして扱うようになっている。
英ガーディアン(ウェブ版)のUK版でも、画面の一番上にあった新型コロナウイルスの特設コーナーが2番目になり、米国でのこの黒人殺しのニュースがトップになっている。一番大きい部分は写真のスライドショーで、これが圧倒される内容。 https://t.co/yCNRenv16X #BlackLivesMatter #GeorgeFloyd pic.twitter.com/97Y90mTRve
— n o f r i l l s /共訳書『アメリカ侵略全史』作品社 (@nofrills) May 30, 2020
新型コロナウイルス感染拡大阻止が重視されているなか、人々のこの行動を引き起こしたのは、1週間前の黒人殺しだ。いや、たとえ警察による非道な暴力事件があったとしても、それだけなら全米各地でこんな騒ぎにはなっていなかったかもしれないが、今、アメリカを率いているのは危機にあって国民をまとめていこうとする普通の大統領ではなく、分断と対立を煽り、自分にとっての利益を最大化しようと努める人物である。「ほっといたら暴動になる」というときに、それを押さえようとする人ではなく、暴動を起こさせて、世間を嫌な気持ちにさせることが自分の利益につながると考えるような人物である。早速「Antifaはテロ組織」などとブチ上げて悦に入っている(そもそもAntifaは「組織」ではない)。
President Trump said the U.S. would designate antifa as a terrorist organization. But the laws that permit such an action are limited to foreign groups — and antifa is a vaguely defined movement of left-wing and anti-fascist activists, not an organization.https://t.co/UxkrLPe65T
— The New York Times (@nytimes) 2020年5月31日
何があったか――米ミネソタ州ミネアポリスで、1週間前の5月25日(月)、1人の男性が警察官によって首の上にのしかかられ、「息ができない」という言葉を最後に、亡くなった。
警官はすぐに職を解かれ、「元警官」となり、人を殺した容疑で逮捕され、第二級殺人で起訴された。
亡くなった(殺された)のはジョージ・フロイドさん。46歳の黒人男性だ。彼がどういう人か、この日、最後の30分間に何があったのかを、現場にいあわせた人たちが記録した映像*1や証言から、BBCがまとめている。発端は、フロイドさんがなじみの店で使った20ドル札がニセ札っぽいと店員が思ったということで、銃も薬物も何も絡んでいない。それが、なぜこんなことになってしまったのか、私にはとても理解ができない。いや、「私には」というか、誰にとっても理解はできないだろう。彼にのしかかり、文字通りに息の根を止めた警官は、44歳の白人だ。
事件の背後にあるのが人種主義(人種差別)であることは明らかだ。だがここでは、残念ながら、それについて詳しく扱う余裕はない。その代わり、なぜミネアポリスでの事件後の抗議行動がこんなに激しい「暴動」の状態になってしまったのか、BBCが解説している記事を読んでみよう。これは決して一朝一夕に生じた問題ではないということがよくわかる。
記事はこちら:
ミネアポリスというと、2016年4月に急逝したプリンスの出身地で、自宅兼スタジオ(ペイズリー・パーク)を構え、音楽制作の拠点としていた町としても知られている。プリンスが亡くなったあとは、「黒人も白人も同じように偉大なミュージシャンの急な死を悼み、悲しみ、故人を讃えている」といった光景が伝えられてきた。が、それはこの都市の一面にすぎない。この記事を読むとそれがよくわかる。
実例として見るのは、記事を少し読み進めていったところから。
The following afternoon, a Friday, saw the arrest of Chauvin by Minnesota's Bureau of Criminal Apprehension.
seeという動詞は、英語を習った人なら知らない人はいないというくらい基本的な単語だが、その用法となると、いわゆる「学校英語」「受験英語」では十分には扱われないことがある*2。
この実例の中のseeは、『ジーニアス英和辞典』(第5版)ではseeの項で7番目に掲載されている。手帳型の電子辞書ではなかなか探しづらいかもしれない。
(7) 〈人が〉〈事・時代〉を経験する; 〈時代・場所が〉〈事〉を目撃する
---『ジーニアス英和辞典』第5版, p. 1880
『ジーニアス』では主語について「〈時代が〉」という書き方をしているが、「時代」ほど大きくない時間の区切りでも、この用法のseeはけっこうよく見る。「2011年」とか「2011年3月」とか「2011年3月の第2週」とかいった長さの時間が主語になっていたり、この例文のように「ある日の午後」が主語になっていたりすることはよくある。
つまりこの文は、「翌日の午後は、金曜日だったが、ミネソタ州のBureau of Criminal ApprehensionによるChauvin(フロイドさんを殺した警官)の逮捕を目撃した」と直訳される。意味を取るだけなら「翌日、金曜日の午後にChauvinは逮捕された」と把握できればよいだろう。
このseeの用法は知らないと戸惑ってしまうので、知っておきたい。
と解説したところで、この記事にはもう1か所、同じ用法のseeがある。どこだかわかるだろうか。
今見たところより少し上の部分になるがここだ:
The previous night, tensions ignited, and for the first time the city saw looting, arson and violence.
ここでは主語が〈場所〉になっている。文意は「その前の晩に緊張状態は着火し、そして初めて、この都市は略奪・放火・暴力を経験した」である。
人種主義(人種差別)との長いかかわりがあるこのミネアポリスという都市で、今回なぜこのような事態となったのか、ぜひ記事全文を読んで把握していただければと思う。
なお、ミネアポリスからは次のような光景も伝えられてきている。
Minneapolis citizens out here cleaning up the streets. You won't see this on the news. pic.twitter.com/TmLqoe3tr4
— Joe Karlsson (@JoeKarlsson1) 2020年5月29日