Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

関係代名詞, 関係代名詞の省略, 関係代名詞の二重限定, 引用符の使い方, ボキャビル(ジョコヴィッチのCOVID-19感染)

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今回の実例はTwitterから。

テニスで現在世界ナンバーワンの座にあるノヴァク・ジョコヴィッチ選手が、新型コロナウイルスに感染した。世界的にテニスの大きな試合が一時停止を余儀なくされているときに、彼自身が主催して、セルビアクロアチアボスニアヘルツェゴヴィナの各地*1を会場とする形で開催したチャリティ大会の「アドリア・ツアー」のさなかのことだ。ジョコヴィッチの感染が明らかになる前にすでに選手2人とコーチなど2人の計4人の感染が判明していてツアーは中止ということになっていたが、この大会、西欧各国などの厳戒ムードとはかけ離れた空気感の中で行われていたという。

 (試合の)結果以上に印象的だったのは、この大会の雰囲気だ。世界がパンデミックに対して警戒態勢を取る中、大会は約4000人の観客を迎えた。観客たちは人と人との間に距離をとることもマスクを着用することもなく、パンデミック前と同じ様に肩を並べてスタジアムを埋め尽くした。

 ボールボーイも審判もおり、試合後に選手たちは握手と抱擁を交わした。感染者が総じて1万2000人強で死者252人と欧州の中で比較的被害が少なかったセルビアは、先ごろCOVID-19対策の規制を取り払っていた。

 それゆえいっそう、新型コロナウイルスによって麻痺させられたスポーツの再スタートとして、このコートでの日常の復活は象徴的であるように見えた。もちろん状況は国によって違い、すべての国が同じようにできる訳ではない。

 「各国がこの手の大会を許可するにあたり、違ったアプローチを採用している。幸いにもセルビアは、このコロナ問題から比較的うまく抜け出した。多くの方が亡くなられ、非常に悲しいことだ。しかし生活は続いていく。我々アスリートは、ふたたびプレーするのが待ち遠しくて仕方がない」

 開会式でこう話していたジョコビッチは……(以下略)

tennismagazine.jp

テニスコートでの様子がまるで新型コロナウイルス禍などなかったかのようなものだったばかりでなく、試合が終わったあとのナイトライフも、まるでウイルス禍などなかったかのようなありさまだった。大会に参加したテニスプレイヤーたちがナイトクラブできゃっきゃと遊びに興じる映像がネットで拡散されている。ウイルス禍されなければ、とても楽しそうで何よりという無害そうな映像なのだが……。

ともあれ、その映像は物議をかもしていて、コートでの振る舞いがあまり上品でないことなどからテニス界で「悪童」と呼ばれているニック・キリオスもTwitterで発言している。

今回の実例はそのツイート: 

 

第一文: 

Prayers up to all the players that have contracted Covid - 19.

これは感染が明らかになったプレイヤーたちへの(多分に形式的な)お見舞いの言葉だ。"Prayers" は「祈り」で(こういう「お見舞い」のような場面では決まって複数形で使う)、"players" とは全然別の単語なので注意。

太字で示した "that" は《関係代名詞》の主格で(今度の都立高校入試ではこれが除外されるというが*2、2021年に高校1年生になる人たちはこういうのに不安を抱えたまま高校の勉強に進むとかなり大変だと思う)、「COVID-19に感染した選手たち全員にお見舞い申し上げます」というメッセージだ。

最初に感染した人たちにお見舞いの言葉を述べておいて、そしていきなり厳しい口調(と言ってよいのかな)になるのは、キリオスらしいところなのかもしれない。第二文: 

Don’t @ me for anything I’ve done that has been ‘irresponsible’ or classified as ‘stupidity’ - this takes the cake.

"@" はTwitterで「@を使って誰かにメッセージを送る(メンションする)」ことで、声に出して読むなら "Don't @ me" は "Don't mention me" となるんじゃないかと思う。「俺にメンション飛ばすなよ」ということだ。

その次のセクション。これは《省略》があるのでそれを青字で補うと: 

for anything that I’ve done that has been ‘irresponsible’ or classified as ‘stupidity’

青字の "that" は《関係代名詞》で目的格。先行詞は "anything" で、"anything that I've done" で「俺のやったこと(のどんなものでも)」。

次に太字で示した "that" も《関係代名詞》で、これも "anything" が先行詞だから、《二重限定》だ。

さらにここでキリオスは引用符を使って "‘irresponsible’" とか "‘stupidity’" と書いているが、これはそれが他人の言葉であるということ(誰かの言葉をキリオスが引用しているということ)を示している。

つまり、「悪童」キリオスはいろいろ批判されてきたわけで、その批判の言葉をキリオス自身がここで引用しているのだ。

文意は、「俺がこれまでしてきたことで、『無責任』なこと、あるいは『愚行』と位置付けられたことのどんなものについても、俺にメンション飛ばすなよ」ということになる。

もっと読みやすい日本語にすれば、「お前はああいう『無責任』なことをしたじゃないかとか、あるいは『愚行』と切って捨てられてきたこれまでの行動を持ち出して、俺にいちいち言いがかりつけてくんなよ」ということである。

最後にハイフンで付け足されている部分: 

this takes the cake.

《take the cake》は英語の成句(イディオム)で、「一等賞である」という意味。takeとcakeで韻を踏んでいて語呂がよいことには誰もが気づくだろうが(音読してみてほしい。音が心地よいから)、意味的にはこのcakeは「すばらしくよいもの」ということで、「すばらしくよいものを(賞品として)持っていく」というところから「一等賞である」という意味になることは納得できると思う。

 

つまりキリオスは「俺もこれまでさんざん『無責任』だの『愚行』だのと非難されてきたが、今回のこれにはかなわない」と言っている。

それも第一文のお見舞いの言葉に続けて、butみたいな接続詞も使わずに。

かなり手厳しいが、実際のところ、お偉方が眉をしかめ、スポーツメディアがおもしろおかしく書き立てるようなキリオスの「愚行」は、感染症を広めるというようなレベルの話ではないわけで、こういう書き方をしてしまう気持ちはわからなくはない。

 

と、このように批判されているジョコヴィッチのステートメントは下記。次回はこれを読んでみるか。

 

※3340文字 

 

f:id:nofrills:20200629114041p:plain

https://twitter.com/NickKyrgios/status/1275408778087657473

 

 参考書: 

英文法解説

英文法解説

 

 

 

*1:要するに旧ユーゴスラヴィアの半分。ジョコヴィッチは1987年生まれなので、物心ついたころにはまだあの「ユーゴスラヴィア」が存在していたはずだ。

*2:「関係代名詞のうち主格のthat、which、who および目的格のthat、whichの制限的用法 ※同様の働きを持つ接触節も」が除外される。実際の英語で一番出てくる頻度が少ないwhoseしか残らないじゃん。非制限的用法は高校の範囲だよね?

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