今回の実例は、ついさっき来た速報ニュースから。
「速報」は英語ではBreaking Newsと表す(Just Inという言い方もある)。短くすれば "Breaking" となる。各媒体、第一報はそれをつけて流す。Twitterで英語圏主要国際メディアのアカウントをフォローしておけば、下記のような目立つフィードが飛んでくることが多い(このような派手な画像をつけず、Tweet本文でBreakingと書くだけの報道機関もあるが)。
今回はこのBBC記事を見てみよう。今日のこのブログのエントリがアップロードされるころには記事が同じURLでアップデート(上書き更新)されて文面が変わっていると思うが、記事はこちら:
まず見出し:
China passes controversial Hong Kong security law
"passes" と現在形なのは、報道機関記事の見出しのルールによるもので、実際には「既に起きたこと」、つまり普通の文では "passed" または "have[has] passed" と表されるべきことである。
それが記事の書き出しの文で確認できる。ここでは起きたばかりのことを速報で伝えているので、記事本文では "has passed" と《現在完了》が用いられている。この現在完了は、学校の文法で習う3用法でいえば《完了》の用法(「~してしまった」「~したところだ」)である。
China has passed a controversial security law giving it new powers over Hong Kong, deepening fears for the city's freedoms, the BBC has learned.
ここで中国の例の香港国家安全維持法について、"a controversial security law" と表されていることに注目しよう。conroversialという語については先日説明した通りだ。その説明を再掲しておこう。
controversialは、英和辞典を引くと「論争の」「論争上の」といった語義が筆頭に挙げられていることもあるのだが(例えば小学館のプログレッシブ英和中辞典がそうなっている)、その意味で使われているのを私は見たことがない。日常的に見るのは、同じくプログレッシブの語義を引けば、「異論のある[多い],容易に認められない」の意味。と説明しても「異論」という日本語の意味を知らない人も少なくない。「異論」とは端的に言えば「反対意見、否定的意見」のことだ。「賛否両論」の「否」のほう。そして、ある物事や人物がcontroversialであるという場合、その物事や人物について否定的な意見も多い、ということになる。
注意しなければならないのは、完全に否定的な評価しか受けないようなものは、「賛否両論」の「賛」もないということで、controversialと呼ばれるようなものにはならない、ということだ。例えば、ホテルオークラ東京の本館建て替えは、積極的に賛成するまで行かなくても「必要があって行われるのだ」ということで納得していた人が多くいた中で、「建築物としての価値から取り壊しに反対する」という異論が多く出されたので、建て替え案はcontroversial planと呼ばれた。一方でこれが誰も賛成しないようなもの(例えば「都庁を取り壊して木造建築に建て替えろ」とか)だったならば、単に「荒唐無稽」「奇矯」などと位置付けられ、controversialと扱われることもなかろう。つまりcontroversialとは「(否もあるが)賛もある」ということを言うわけで、読み方には注意が必要な語である。
今回の香港に関する中国政府の方針・政策についての英語圏での報道は、 controversial という語がどういうときにどういうふうに用いられるかという点で、非常にわかりやすい事例となっている。
さて、もう一度この書き出しの文を見てみよう。-ing形が2つ、矢継ぎ早に出てくるが、これの用法の区別がつくだろうか。
China has passed a controversial security law giving it new powers over Hong Kong, deepening fears for the city's freedoms, the BBC has learned.
太字で示した "giving" は《現在分詞》で、ここでは直前の "a controversial security law" を後ろから修飾している(後置修飾)。「中国に、香港に対する新たな権限・権力を与える香港国家安全維持法」ということだ。
一方、青字で示した "deepening" は《現在分詞》ではあるのだが、《分詞構文》だ。ここを別の表現にすると、 "... and it deepens fears for the city's freedoms" となる。「それは(そのことは)香港の自由に関する危惧を深めている」ということだ。
文末の "the BBC has learned" は、「中国当局が正式に発表したのではなく、BBCが調べてわかった」ということを言うときの報道用語。記事の内容把握に際しては気にしなくてもよい。
以下、上記キャプチャ画像に入っている範囲の英文は、高校2年生なら既習事項だけで読めるのではないかと思う(教科書にもよるし、今年は学校の進度にもよるのだが)。内容は日本語でも広く報道されている通りなので、必要に応じて日本語の記事を参照して内容を把握するなどしてから、英語をざくざく読めるようにするための練習素材として活用するとよいと思う。
そして、香港に何が起きたのか、考えてみてほしい。日本語圏にいるとどうしても「反中国政府」の立場をとる政治的動機のある人々(およびその動機だけで、他には何もない人々……ウイグルとウルグアイの区別もつけられないような人々)の発言ばかりが目に付くかもしれないが、これは「反中国政府」とかそういう問題では、実際のところ、ない。市民、つまり一般の人々の自由の問題である。
※2830字
参考書: