今回も、前々回、前回に引き続き、新疆ウイグル自治区で人々を強制労働させることで生産されているとしか考えられない綿が、世界中のアパレル企業によって私たちの着る衣類に使われていることについての人権団体の連合体の報告を報じる記事から。
前々回、前回と、「前半で件の報告のまとめ、後半で関係者コメント」という、こういった内容の記事の基本形を説明したが、それに加えて、報告されている事態の背景解説が同じ記事内に書かれることもまた一般的である。たいていは前半部分に織り込まれるようにして書きこまれる。
今回実例として見るのは、この記事のそういった部分から。
記事はこちら:
前回見たところから少し上(前)の部分から、次の個所。
キャプチャ画像内の最初の文:
China is the largest cotton producer in the world, with 84% of its cotton coming from the Xinjiang region.
コンマの前は何のひねりもない《最上級》の形で、「中国は世界最大の綿生産国である」だが、この日本語からこの英文が書けるかというと微妙なところだろう。こういう文例に遭遇したら、「英作文は英借文(えいさくぶんはえいしゃくぶん)」と言われる通り、自分の中で原型(テンプレ)として使えるように暗記してしまうとよい。
例えば「A社は世界で最も早くから白色LEDを生産した企業だ」は、上の文の単語を置き換えて、 "Company A is the oldest white LED producer in the world." とすればよい。
その次、コンマの後で太字にした部分は、おなじみの《付帯状況のwith》である。この部分は、"..., and 84% of its cotton comes from the Xinjiang region" と解釈すればよい。
Xinjiangは漢字で書けば「新疆」(シンチャン、またはシンキョウと読まれる)。「新疆ウイグル自治区」の「新疆」である。ここでは古くから綿の栽培が行なわれており、ここで生産される綿は繊維が長くてしなやかで柔らかく、これを原料とする布は高級綿素材として世界中で好まれてきた――ということは、地理の教科書などに書いてあるはずだ。その「新疆綿」は、2009年のウルムチ暴動で中国政府によるウイグル弾圧が明らかになったあとも、一部の企業によってそれまでとほとんど変わりなく販売されている(さすがに派手な宣伝は見なくなったが)。
かつて「新疆綿」は、「大陸のど真ん中で、ロシアと中国に挟まれて苦難の歴史を歩んできた新疆の人々の『自治』を支える主要な生産物」だった。少なくとも私はそのように学校の社会科で教わった(と記憶してる)し、そのように認識していた。
しかしその認識は「公式の歴史」に基づいたものでしかなく、その裏には「東トルキスタン共和国」があったということは、私はずっとあとまで知らなかった。ちなみに東トルキスタン共和国については、日本語圏では主に「反・中国共産党」な方々(要するに日本の極右系の方々)が注目して騒いでいるが、私がそのことを知ったのは英語経由・人権団体経由だった――などという話は、当ブログの本題ではない。
閑話休題。ガーディアン記事に戻ろう。
第2文と第3文:
Cotton and yarn produced in Xinjiang are used extensively in other key garment-producing countries such as Bangladesh, Cambodia and Vietnam. Xinjiang cotton and yarn are also used in textiles and home furnishings.
これはすらすらと読めるだろう。構造もシンプルだし、単語も難しくない。ポイントとしては太字にした《such as ~》がある。これは自由英作文で使えるようにしておきたい表現だが、添削答案など見てるとまず使えてない。《such as ~》を使うべきところで《for example ~》を使うとかいうケースが大変に多い。何か具体的なものを例示するときにこれほど使いまわしのきく表現もないので、覚えておいて損はない。
文意は「新疆で生産された綿(綿布)や糸は、バングラデシュ、カンボジア、ベトナムなど、中国以外の主要な衣類生産国で広範に使われている。新疆綿・綿糸はまた、テキスタイル(織物)や家財にも用いられている」。
"textiles and home furnishings" は、寝具やラグマット、クッションカバーのような、衣類以外の布製品のことである。
その次の文:
This week the New York Times reported that factories in the region were also supplying face masks and other PPE to countries around the world.
これもつっかえずに読めるだろう。「今週、ニューヨーク・タイムズが、同地区(新疆ウイグル自治区)の工場は、世界各国に、マスクをはじめとするPPE(医療従事者が着る防護服)をも提供していると報じた」。
ニューヨーク・タイムズの報道には、記事中にリンクがはってあるので、関心がある方は読んでみてほしい。
アベノマスクってさ、「単に不要」「ゴミ入りで不衛生」とかいうのももちろん問題なんだけど、材料の調達とか製造過程が全然わからない(おそらく厚労省も把握してない)のが問題だよね。どこかの強制労働の産物かもよ。解体したときの手触りでは、布は綿は綿だった(プラ再生繊維とかではなく)。
— n o f r i l l s /共訳書『アメリカ侵略全史』作品社 (@nofrills) 2020年7月27日
キャプチャ画像内の最後の文:
The coalition has published an extensive list of brands which it claims continue to source from the region, or from factories connected to the forced labour of Uighur people, including Gap, C&A, Adidas, Muji, Tommy Hilfiger and Calvin Klein.
これは朱字で書き加えたwhichが落ちてしまっているようだ。これがないと、下線で示した "continue" の主語がなくなってしまう。校正漏れみたいなことだが、新聞記事ではときどき発生する。
朱字で書き加えたwhichのあとの "it claims" は《挿入》。下記のような例文で教わっているはずだ。
John is a singer. I think he has a great voice.
→ John is a singer who I think has a great voice.
この例でhasの主語が関係代名詞の主格であることをよく確認しておいてほしい。
最後に、太字で示した《including ~》も、上で見た《such as ~》と同様、《例示》の表現。直訳すれば「~を含む」だし、そう訳しても構わないのだが、「~といった」「~などの」という意味であることは理解しておきたい。「GapやC&A、アディダス、無印良品、トミー・ヒルフィガー、カルヴァン・クラインといったブランドのリスト」ということである。
次回もまたこの記事から。
※3430字
参考書: