Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

関係形容詞, 前置詞+関係詞(長崎への原爆投下から75年)

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今回の実例は、75周年という節目の年に長崎の平和祈念式典に「海外」から寄せられたメッセージから。

「75周年」がなぜ節目になるのかは、(週末・休日の再掲分を除いた)前回記事(先週金曜日掲載)に書いた。もしも新型コロナウイルスの脅威がなかったら、今年の広島と長崎の式典には、世界各国から国を代表する立場の人たちが大勢いらしていたことだろう。

一方、当の「唯一の被爆国」では、議会制民主主義のもと国のトップに立っている(にもかかわらず、絶賛憲法違反中の)人物、つまり総理大臣は、「核兵器禁止条約」をシカトするということをやってのけ、「核兵器廃絶」というスローガンを現実に応じた形で唱えることすらやめてしまっている(なぜかブルームバーグのフィードでは話が逆になっているのだが)。自分が「廃絶しないほうがいい」という立場に立っていて、何が「立場の異なる国々の橋渡し」か。

長崎の被爆者団体は、日本政府が核兵器禁止条約に署名・批准するよう繰り返し求めているが、政府は米国の核の傘に依存していることを理由に賛同していない。安倍首相はこの日の平和祈念式典でのあいさつでも核兵器禁止条約については触れず、「(核兵器保有の有無などで)立場の異なる国々の橋渡しに努める」との従来の考えを述べただけだった。

 

mainichi.jp

 

そればかりではない。例によって安倍晋三氏の式典でのスピーチ(あいさつ)は使い回しだ。それを指摘する新聞報道も「長崎市で9日に開かれた長崎原爆犠牲者慰霊平和祈念式典に出席した安倍晋三首相のあいさつが、6日の広島市の平和記念式典でのあいさつとほぼ同じだという指摘がソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)上で相次いでいる。実際に首相官邸のホームページで見比べてみると、確かに酷似している」(毎日新聞)という調子で、新聞記者まで、スピーチを聞いてればわかるようなこと、あるいは仮に式典の中継を見ていなくても発言内容を記したものを見比べれば瞬時にわかることを「SNSでみんなが言ってるので初めて気づきました~!」みたいな調子で書いてるのってあまりに異常なことで、そりゃ「編集権の独立」という概念が日本で通じるはずがないよね、と思っている。

 

 

そんな中でも、9日の長崎の式典には、国際機関や姉妹都市などから多くのメッセージが寄せられ、それを市のサイトがまとめて掲示している。

www.city.nagasaki.lg.jp

そのひとつに、英国の作家で2017年にノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロ氏のメッセージがある。イシグロ氏は長崎市生まれで、幼少時にお父さんの仕事の都合で英国(イングランド)に引っ越し、以降ずっと英国に暮らしてきた。日本は二重国籍を認めておらず、氏は英国籍を取得しているので、「イギリス人の作家」である。

イシグロ氏のメッセージは下記で読める(PDF): 

"Message for the 75th Nagasaki Peace Ceremony"

https://www.city.nagasaki.lg.jp/heiwa/3020000/3020300/p035001_d/fil/1.pdf

PDFのページには、イシグロ氏の英語でのメッセージに添えて、日本語での「参考のための仮翻訳」*1が掲載されているので、メッセージの文意はあえて説明するまでもない。当ブログはあくまで英語を英語として(英文を英文として)読むという観点で紹介する。

 

実例としてみるのは最初の2文: 

This is the anniversary of a terrible event. But this milestone also marks seventy five years during which time there has been no repeat of what was inflicted on the people of Nagasaki that day.

第2文の "this milestone" は、第1文の "the anniversary" のこと。anniversaryは日本語にすると「記念日」だが、より細かく意味を定義してみれば、「ある出来事が起きてから〇年」という「区切り (milestone)」ということになる。

太字にした "during which time" だが、これは《前置詞+関係詞》の構造である。

このwhichは《関係代名詞》というより《関係形容詞》である。関係形容詞などというとまたややこしい文法がでてきたなと思われるかもしれないが、要はwhichという代名詞(「どちらのもの・人」)には形容詞用法(直後に名詞をとって「どちらの~」)があるので、それがそのまま、関係代名詞→関係形容詞となっている、ということである。

  ■代名詞のwhich:

  Apple juice and pineapple juice. Which do you like better? 

  (りんごジュースとパイナップルジュース。どちらをよりお好みですか)

  ■形容詞的用法の(形容詞の)which: 

  Apple and pineapple. Which juice do you like better? 

  (リンゴとパイナップル。どちらのジュースをよりお好みですか)

関係形容詞については、よく参照している江川泰一郎の『英文法解説』には解説らしい解説がなく(ほとんど例文だけといってよい)、この点は懇切丁寧な『ロイヤル英文法』のほうがわかりやすいだろう。660ページに次のように解説されている。

関係代名詞がその直後の名詞を修飾して形容詞と接続詞の働きをすることがある。これを関係形容詞 (Relative Adjective) という。(関係形容詞には)関係代名詞のwhat, whichと複合関係代名詞のwhatever, whicheverとがある。 

そして『ロイヤル英文法』 でも江川の『英文法解説』でも、関係形容詞のwhichは非制限用法として(直前にコンマを伴って)用いられる例だけが紹介されているのだが、今回見ているカズオ・イシグロ氏のメッセージのように、非制限用法でない用法(つまり「制限用法」「限定用法」と呼ばれるもの)でも用いられる。

 

イシグロ氏のメッセージから、この関係形容詞の部分だけを見ると: 

… seventy five years during which time there has been no repeat of what was inflicted on the people of Nagasaki that day.

先行詞は "seventy five years" で、"which time" はそれを修飾(説明)する節。duringがついて「その間は」となる。

下線で示した "what" は《関係代名詞》で、この節は「あの日、長崎の人々にinflictされたもの」という意味になる。inflictという動詞は意味は明確なのだが自然な日本語にしづらくて、私は翻訳の仕事でこれが出てくるとうめき声を上げることが多い。語義は下記、Collins Cobuildでご確認いただきたい。

https://www.collinsdictionary.com/dictionary/english/inflict

この部分を、参考訳ではかなり柔軟に(そして読みやすく)意訳しているが、直訳すれば、「その間、あの日、長崎の人々にinflictされたものは一度たりとも繰り返されなかった75年間」となる(日本語としてこれではわかりづらいので、意訳する必要が出てくる)。

 

イシグロ氏のこのメッセージは、個人的なことにも控え目な形で言及しつつ、本質的なことをストレートに述べるわかりやすい文である。英語として特に難しいわけではないし、「参考訳」もついているので、ぜひ、みなさんに英文で読んでいただきたいと思う。

そして、"let us not forget" の2度の繰り返しと、最後の "let us remember" への流れを、音読して感じてもらいたい。メッセージがすっと入ってくる感覚が味わえるだろう。

 

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https://www.city.nagasaki.lg.jp/heiwa/3020000/3020300/p035001_d/fil/1.pdf

 

 

 

※3790字

 

参考書:  

英文法解説

英文法解説

 
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浮世の画家〔新版〕 *4

 
遠い山なみの光 (ハヤカワepi文庫)

遠い山なみの光 (ハヤカワepi文庫)

 
(カズオ・イシグロ生音声CD1枚つき)The Japan Times News Digest Vol.69

(カズオ・イシグロ生音声CD1枚つき)The Japan Times News Digest Vol.69

 

 

 

 

 

*1:つまり、文章を書く上での技巧等への目配りはされていないかもしれないが、意味を取るには十分なくらいの訳文。

*2:ハヤカワepi文庫

*3:ハヤカワepi文庫

*4:ハヤカワepi文庫