このエントリは、2019年9月にアップしたものの再掲である。ここで見ているような造語は、当然、辞書には載っていない。そういう語の意味を取るにあたっては、基本的な語彙力が重要になる。大学受験の問題でも造語が入った文が出されることがあるかもしれないが、たいていは、文脈から意味がわかるからパニクることはない。重要なのは基本的な語彙力である。
※PCの不調などのため新規エントリが書けない状況です。しばらく過去記事の再掲とさせていただきます。ご了承ください。
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今回の実例は、華やかなファッション業界とBrexitの関係をわかりやすく伝える記事から。
というか今回見る「実例」は見出しだけ。
毎年9月半ばになると、「ロンドン・ファッション・ウィーク」が始まり、有名ブランドの多くがファッションショーで新作や新たなコンセプトを披露する。デザイナーもモデルもファッション関係の報道機関も、ヘア・メイク・アーティストや照明デザイナーといったショーを支える人たちも、大勢がロンドンに集まる。普段ならばそういったイベントのアフターパーティーなどは華やかな社交の場となるのだが、今は、そういった場でもBrexitが話題の中心だという。
ファッション産業は、とことん「モノ」の産業だ。どんなに情報化が進んでも布や糸は情報にはならない。物体として存在しない限り、役目を果たせない。だからぱっと見のイメージ以上に深く、国際情勢や世界経済と関連している。世界史などでも「生糸の高騰でこのような影響が」とか「綿花の不作でこのような影響が」といった話が出てくると思うが、21世紀の現在においても、布(織物)が主役のファッション産業では、モノが動かせなくなったらガッツリ影響が出る。
記事は、そのようなことを前提としておけば、あとは取材に応じたデザイナーなどファッション業界の人たちの具体的な意見の説明なので、わりと簡単に読めるだろう(ただし単語力はかなり要求される)。
というわけで記事はこちら:
記事の見出しに "Brexiety" とある。これは、見ればわかるだろうが、Brexit と anxiety をつなげて作った《造語》である。
こういう造語は、多くの場合、有力なメディアで誰か書き手が使ったのが世間にウケて広まり定着することが多いのだが(こういう場合、So-and-so first coined the expression などといったように、最初にその表現を使ったのは誰かわかる形で、用語集や百科事典で解説されていることがほとんどだ)、SNS時代の今は、最初に言い出したのが誰かはかなり把握しづらいケースも多いだろう。
今回のこの造語も、私のリソースでは「発端」にたどり着くこともできなかったのだが、この単語でGoogle検索すると用例はたくさんヒットするし(ただし私が見たときは、総件数の表示がされなくなっていた)、それなりに使われていることは確認できる――BBCの記事見出しに使われているのだから、そんなことは当たり前かもしれないが。
そういった用例の中でも古いのが、2018年のインディペンデントによる「Brexit関連用語集」で、2018年2月に出ている新聞記事だ。
この記事の見出しが "Brexicon" (Brexit + lexicon) だし、記事の中を見ても "Brexchosis" などの造語の例がいくつもある。
一方で、無理やり造語を作っても使われず、そっこうで忘れられたと思われる例もある。下記のようなものだ。
Brexthrough: Reflects sudden progress in UK-EU talks. Only one known use, in the Sun newspaper.
「突然の進展」など現実には存在していないのだから、それを表す言葉も不要だ。
ことばは社会の中で使われるものだから、社会情勢が変化して新しいことばの必要性が出てくれば、新たなことばが生まれる。「生まれる」というか「作られる」(あるいは、既存の言葉が新たな意味を獲得していくこともある。スマホの操作の「スワイプ」は、「気に入らない候補を流す」という意味も持つようになっているという)。
そういうことに興味をおぼえたら、Googleの検索窓に Brexiety と打ち込んでEnterキーを押して、表示された検索結果をどんどん読んでみることは、とてもおもしろいだろう。連休中に英語に触れる機会を継続して持ち続けたいという方にも、簡単にできることなので、おすすめしたいと思う。
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