Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

女性について "hero" と言う場合(メアリ・ウルストンクラフトを讃える)【再掲】

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このエントリは、2019年10月にアップしたものの再掲である。actressの代わりにactorという語が用いられる例が多くみられるように、性別をあえて強調するようにして示す必要がないときは、名詞の女性形は使わないことが多いというのが、英語の流れではある(保守的な方針の人たちはそうしないかもしれないが)。

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今回の実例は、英労働党党首ジェレミー・コービンのツイートから。といってもど真ん中の政治の話題ではない。

メアリ・ウルストンクラフトという名にピンとくる人は、日本語圏にはさほど多くないかもしれない。18世紀の英国の社会思想家で、人権についてまとまった著作を残した人物であり、特に現代のフェミニズムの先駆的な思想家として知られる。ちなみに、夫はウィリアム・ゴドウィンで、彼もまた英国の思想史をかじるなどすれば必ず出てくる重要人物である。2人の間の娘には、長じて小説『フランケンシュタイン』を書いたメアリ・シェリーがいる。メアリー・シェリーの夫は詩人のパーシー・シェリーで、この2人のロマンスもまた波乱万丈であるが、そのへんのことはウィキペディア日本語版でもだいたい把握できるので、興味があれば各自お読みいただければと思う。

メアリ・ウルストンクラフトの主著は『女性の権利の擁護 (A Vindication of the Rights of Woman)』である。それについての解説を、ウィキペディアから引用しておこう。

1792年に『女性の権利の擁護』が完成するが、それは部分的には、『エミール 』(1762年)において、少女に対する教育は、少年のそれとは別であり、少女を従属的で従順な者へと馴致する教育が望ましいとしたジャン・ジャック・ルソーに対する反論でもあった。彼女は、『人間の権利』で論じた機会の平等が、無条件で女性に対しても適用されることを主張した。

メアリ・ウルストンクラフトは、ユダヤキリスト教的文化伝統に於ける、独立道徳主体を持たない女性、従順に夫に依存する女性の像に疑問を投げかけた。彼女は、人間における「不可譲の権利」(inalienable rights))が、当然ながら、女性に対しても与えられるべきであることを主張し、男性による、社会的・政治的な女性価値判断における二重規準を断罪した。

 

---メアリ・ウルストンクラフト (wikipedia)

なお、1792年といえば、フランス革命で国王ルイ16世がとらえられ、裁判にかけられていた年である。

その彼女を記念する舞台劇が、ロンドンのリリックシアターで上演され、また彼女の銅像が作られることが決まった。

労働党ジェレミー・コービン党首は、この舞台をドーン・バトラー議員とともに見に行っており、そのことについて次のようにツイートした。

 

ツイート本文の次のところに注目しよう。

Mary Wollstonecraft, one of my political heroes

メアリ・ウルストンクラフトは女性だが、その彼女について "hero" という「男性」の名詞が用いられている。

これは現代英語では普通のことで、誰かについてその勇気や行動を讃えるときに「英雄だ」と言うには、性別かかわりなく "hero" と言う。女性だからといって女性形の "heroine" を使うことはしない。

このことについては、以前本家のブログで詳しく実例を見ながら書いているので、そちらもご参照いただきたい。

nofrills.seesaa.net

なお、heroという単語は-oで終わっており、複数形にするときは-esをつける。このような単語はいくつかある。

  hero - heroes

  tomato*1 - tomatoes

  potato*2 - potatoes 

ただし、-oで終わる名詞は必ず-esをつけて複数形にするかというとそんなことはなく、原則は「-sをつける」ということなので要注意。

さらに「ただし」と続けるが、ただし、sでも-esでもどちらでも構わないという例もあれば、-sでなければならない場合もある(元が省略形の場合。例えばphotograph → photo - photos)。ぶっちゃけ、個別対応(暗記)するしかないのだが、いちいち暗記していなくてもパソコンなどでスペルチェック機能を使えば自動でチェックされるだろう(チェックが過剰になって、-sでも-esでもどちらでもよい場合も一方を「誤り」と判定してくるかもしれないが)。

この-o語尾の複数形については、下記のブログが一覧性が高くよくまとめられていた。ご参照のほど。

jishowoyomu.hatenablog.com

 

メアリ・ウルストンクラフトは、『女性の権利の擁護』を著す2年前に、『人間の権利の擁護』という書籍を書いている。原題は "A Vindication of the Rights of Men" で、この時代(18世紀)――それどころか、20世紀も後半に入るころまではずっと――「人間」はman/menで表されることが一般的だった。今は「人間一般」をいう場合はpeopleやhuman beingsを使うのが一般的だし(文脈によってはnationなどの表現もある)、men and womenという言い方もよくなされる。

  Remembrance Day: In Memory of the Men and Women Who Have Served *3

  (戦没者記念日: 国に仕えた人々を追悼して)

 

現代において「勇気ある女性」をほめたたえるときに heroine ではなく hero を使うというのも、将来的には変わっていくかもしれない。本稿は、「現時点での語法」についてのものとしてお読みいただければと思う。

 

f:id:nofrills:20191002124052p:plain

2019年10月1日、Twitter @jeremycorbyn

 

*1:ちなみにこの単語の発音は、アメリカ式では「トゥメイトゥ」、イギリス式では「トマート」である。アメリカ英語しか知らない日本人の前で「トマート」と発音したらバカにされたことがあるが、ロンドンの屋台ではいかにも観光客のオーラを出した日本人が「トマート」と言うと「日本人はみんなアメリカン・アクセントなのに、どうして君は俺らのアクセントでしゃべるの? どこで習ったの?」とおもしろがってもらえる。

*2:tomatoと同じく、アメリカでは「ポゥテイトゥ」、イギリスでは「ポタート」。これはイギリス式発音だと日本人相手には通じないかもしれない。

*3:英文出典: https://curio.ca/en/collection/remembrance-day-in-memory-of-the-men-and-women-who-have-served-2189/

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