このエントリは、2019年10月にアップしたものの再掲である。このくらいの文は、何の苦もなくさくっと読めるようにしておきたい。
-----------------
今回は、いつもとは趣向を変えて、「英文読解」をしよう。読んでいただく英文は特に難しくない。センター試験の長文問題と同じくらいの難易度だ。
【問題】次のキャプチャ画像の英文を1度だけ読み、下記の問1~2に答えなさい。(記事の2度読み、読み返しはしないように努めてください。)
※PCで画像の表示サイズが小さすぎて読みづらければ、クリックで原寸表示されます。
【問1】今さっき読んだ英文を見ずにこの問いに答えてください。ノーベル物理学賞を受賞したJames Peebles, Michel Mayor, Didier Quelozの国籍は、この記事に書いてありましたか?
【問2】今さっき読んだ英文を見ずにこの問いに答えてください。今年のノーベル物理学賞は、どのような分野・どのような研究について与えられましたか? 簡単に、一読して把握できた範囲でよいので答えてください。
---以上。
この記事をこのブログでとりあげることにしたのは、8日午後7時(日本時間)、今年のノーベル物理学賞受賞者が発表されたすぐあとの日本語と英語の報道の比較をTwitterでした結果、単にTwitterに置いておくのではなくブログに書いたほうがよいだろうなと思ったため。Twitterである程度の反応があったためだ。
8日午後7時すぎ、台風のニュースをチェックしようとウェブでNHKのサイトを見たときにノーベル物理学賞の速報記事が出ていた。それをクリックしたときに私の目に飛び込んできた速報段階の記事は、次のようなものだった。
ことしのノーベル物理学賞に、アメリカとスイスとイギリスの大学の研究者3人が選ばれました。日本の研究者の受賞はなりませんでした。
もちろんこれは速報段階のもので、このあとでどんどん情報は足されていく。
それにしても、第一報の段階で、どの分野での研究だったのかを言う前に、「日本人」云々を言うというのは、いったい何なのだろうか? 特に物理学は、一口に「物理学」といっても研究対象は多岐にわたる。例えば電気抵抗の研究もあれば素粒子の研究もある。細かいことはあとでもいいから、がっさりと、どの研究分野なのかは第一報で知らせるのが当然のことだ。だが、日本の報道ではそういう情報は与えようとしない。ひたすら「日本人」「日本人」である。(同じように「日本人」「日本人」言うのでも、その前に一言、「今年の受賞者は宇宙分野の研究者」ということが書かれていればまだよかった。それすらないからおかしいのだ。)
ノーベル物理学賞にアメリカ スイス イギリスの大学の3人 https://t.co/2WqeIFlV5d 日本の公共放送様、初報のごくごく短い記事でどういう分野の研究とかいうことそっちのけで "日本の研究者の受賞はなりませんでした。" pic.twitter.com/1cL3Zx30su
— nofrills/共訳書『アメリカ侵略全史』作品社 (@nofrills) October 8, 2019
科学分野の研究については、「我が国」云々しないのが正常だと思うんすけど。(ノーベル文学賞は「元々何語で書かれているのか」も注目されるポイントではあるので、他の各賞に比べれば「我が国」性が強いかもしれないけど。)
— nofrills/共訳書『アメリカ侵略全史』作品社 (@nofrills) October 8, 2019
一方、日本以外の報道はというと、たまたま私がその場でチェックできたのがいつものガーディアンとBBCなのだが、それぞれ次のようになっていた。
一方こちら、引き続きBrexitでがっちゃがちゃの日の英ガーディアン。ノーベル賞はlive blogで報道してるけど、「我が国の科学者が~」云々は全然なくて、研究分野を見出しに持ってきてる。Nobel prize in physics awarded for work on cosmology – live! https://t.co/VYTvdPw3gA pic.twitter.com/0F65dTXmMj
— nofrills/共訳書『アメリカ侵略全史』作品社 (@nofrills) October 8, 2019
一方英国の公共放送BBC、発表されて25分以上経過しているというのに、ぱっと見、トップページにノーベル賞のノの字もなくって、困惑します。よ~く見ると、一番下にちょこんとある(このキャプチャ画面だと見出しが入り切っていない)。ただしこれはアジアからの接続だからかも(私は東京にいます)。 pic.twitter.com/T7XeJOKw4r
— nofrills/共訳書『アメリカ侵略全史』作品社 (@nofrills) October 8, 2019
んで、そのBBCの記事: Cosmic discoveries win Nobel prize in physics https://t.co/ESDIYmymdG 見出しがこう。受賞した研究者の国籍の話ではなく、分野の話をしている。「物理学」と一口に言ってもいろいろあるわけで、どの分野かが研究者の国籍より情報として重要なのは当たり前。これが正常でしょ?
— nofrills/共訳書『アメリカ侵略全史』作品社 (@nofrills) October 8, 2019
と、ここでこのBBC記事の中身である。
私がこの記事を見てこう書いたあとで記事がアップデートされて書き換わってしまっているので、私が見た時点の記事をキャプチャ画像で示し、2つの問いを提示した。こういった記事は一度読んだら内容が頭に入るように書かれているものだし、この記事も例外ではないので、「読み返し・見返しをしない」という条件を科したが、設問が平易なので、厳しい条件とは感じられなかったはずだ。実際、現行のセンター試験の長文問題では、このくらいの英文が出題されていて、時間のわりに量が多いので読み返しなどしているヒマなく問題を解いているはずである。
【問1】ノーベル物理学賞を受賞したJames Peebles, Michel Mayor, Didier Quelozの国籍は、この記事に書いてありましたか? →【答え】いいえ
【問2】今年のノーベル物理学賞は、どのような分野・どのような研究について与えられましたか? 簡単に、一読して把握できた範囲でよいので答えてください。→【答え】宇宙についての研究(宇宙の成り立ち・進化についての研究、遠く離れた恒星の発見、などやや詳し目に答えることももちろん可能)
繰り返しになるが、「宇宙についての研究が受賞した」ということよりも「日本人が受賞しなかった」ことを優先する日本の報道は、とてもおかしな報道である。
そもそも科学の研究ではその学者の国籍などよりも、その学者の研究環境(つまり所属機関)のほうがよほど重要だ。
ノーベル物理学賞のBBCの記事、初報段階のものをキャプチャしたのが添付画像。受賞した研究者3人の国籍はどこにも書かれていません。所属機関は、1人は書かれていて、あとの2人(この2人は共同で研究)は書かれておらず(まだそこまで記者が把握できていない段階での速報か)。 pic.twitter.com/LjfCXiUP4T
— nofrills/共訳書『アメリカ侵略全史』作品社 (@nofrills) October 8, 2019
上で見たキャプチャ画像の記事が、少し時間を経たあとで少し更新された段階のものが、Web Archiveにある。関心がある人は、それも合わせてみてみるとよいだろう。
その少し後、加筆されたときに2人の所属機関が書き加えられている(アーカイヴ)→ https://t.co/ijuNpZs3ac 研究当時の所属はスイスのジュネーヴ大学で、現在は1人は同大名誉教授、もう1人は英ケンブリッジ大で仕事、という情報が加わった。
— nofrills/共訳書『アメリカ侵略全史』作品社 (@nofrills) October 8, 2019
最初から所属が書かれている研究者は米プリンストン大所属で、上記の情報が書き加えられた段階で、カナダのウィニペグ生まれであることが新たに記載されているが、3人とも国籍の明示はない。(そのうちに "the American scientist said that..." 的な形での記述が加わるかもしれない)
— nofrills/共訳書『アメリカ侵略全史』作品社 (@nofrills) October 8, 2019
この2段階の記事の読み比べを手軽にしたいという方には、キャプチャ画像での比較がわかりやすいかもしれない。
もっとよく見たい方は:
http://f.hatena.ne.jp/nofrills/20191009053056
http://f.hatena.ne.jp/nofrills/20191009053120
ちなみにガーディアンの、live blogではなくちゃんと1本の記事として書かれた記事はこちら:
※このノーベル賞報道について、「報道はかくあるべき」的なご意見などを投稿したい場合は、報道機関に直接寄せていただくか、私にコメントしたい場合はここのコメント欄にお願いします(私のTwitterのリプライではなく)。
※次回は毎度おなじみ仮定法。
(今ちょっと手元がばたばたしているので、この件は明日の英語実例ブログにて https://t.co/zIJNIc85X8 取り上げることにします。明日は仮定法&もふもふのエントリを準備校としてあるのだけど、予定ずらします。)
— nofrills/共訳書『アメリカ侵略全史』作品社 (@nofrills) October 8, 2019