Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

claimという英語について(「米大統領選で不正」という「主張」をそのまま報じた日本の大手報道)

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今回は、変則的な形で、時事ブログみたいな書き方をする。

現在、何というか、日本語圏のメディアで目立っている報道内容について、私は大変な不安と心配と懸念を抱かされている。といってもうちにはテレビはないし、新聞もウェブ版を少ししか読んでない(ときどき図書館に行って読むけど)。そもそも英語圏で起きていることについての報道は英語の媒体に直接アクセスすればよいのだから、わざわざ日本語では見ない。だから私が目にする範囲のことは、たまたまサイトやアプリで見たものか、誰かがツイートしていたのが回ってきたものくらいで、見る量としては絶対的に少ない。その限られた範囲内でのことで、「これは本当にまずいんじゃないのか」と感じている。

まずは、「じゃあどうすれば」(というか、むしろ「日本語圏の報道がやばいと思えているのは、どういうものを見ているからなのか」かもしれないが)という話。

今日日本時間で11月6日(金)の15時半ごろ、BBC Newsのトップページを見たらこうなっていた。ちなみにBBCは「中立」を掲げているが、トランプのことはかなり好きなようで、4年前の選挙ではトランプの過激な、注目を集めようとする発言が連日トップニュースになっていて、うんざりするほどだった。

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キャプチャ画像の左下にあるのは、BBC Newsのライヴ・ブログのタイトルで: 

Trump repeats voting fraud claims without evidence

ここに出てくる "claim" は名詞だが、claimという語自体は動詞として用いられることも多い。元はラテン語のclamareという動詞だ

このclaim, 英和辞典を見れば「主張(する)」という "意味" が書いてあるので、そのまま日本語の「主張する」とパラレルだと理解してしまいがちだが、英語のclaimは日本語の「主張する」よりも少々弱い感じがすると思う。「弱い」というのはわかりづらいかもしれないが、claimは「その中身が事実であるかどうかについては全然焦点を当ててない」というニュアンスがある。日本語でも「根拠のない主張」という表現に違和感がないのを見ればわかると思うが、「主張」自体にはその中身が事実であるかどうかは関係がない。ほっぺたに微量のウェットフードをつけた状態で猫が足元に来て「ごはんまだですけど?」と主張することもできるわけだ。そのとき、人間は「さっき食べたでしょ。ほっぺたについているそれは何ですか」と、ほっぺたについているものを証拠として、その主張が虚偽であると証明するだろう。つまり、「主張」だけでは何にもならない。

したがって、このclaimという語が(動詞であれ名詞であれ)見出しに出てきたら、「それだけでは信用できないな」と少々懐疑的になるのがお作法である(だが、別に「嘘だろう」と否定してかからなくてもよい)。

だから、上記キャプチャで "Trump repeats voting fraud claims" と見たら、眉にツバをつけつつ、「トランプは、投票の不正という主張を繰り返した」(これは報道の見出しなので、《過去》のことをrepeatsという《現在形》で表している)と読んで、「はいはい」と流す構えをとるのが、常識ある英語読みの対応である。

しかもこのケースでは、"without evidence" がついている。without ~は「~なしで」、evidenceは「証拠」。つまり「証拠なし」。

証拠なしで主張だけ繰り返しているわけだ。

それは、ほっぺたにごはん付けてごはんを催促しに来る猫ほど間抜けではないかもしれないが、「証拠なしで主張しても何にもならない」ということを知っている大人のふるまいではないわけで(現にドナルド・トランプという人物は、バラク・オバマに対して「アメリカ生まれだという証拠を見せろ」と迫った、いわゆるBirtherの頭目みたいな人物である)、そのことだけでもスルーするのが当然というレベルのお粗末なことだ(ちなみに、claims without evidenceというのはかなり持って回った、相手への遠慮みたいな気持ちが入っていることもある婉曲表現で、一言で言えば lie である。現にガーディアンはそう表現している)。

あまつさえ、この「根拠のない主張」の主は、発言に根拠がないことを理由にTwitterで「要注意」扱いされている人物だ。

www.politico.com

しかしこの「根拠のない主張」が、日本のマスコミではなぜかそのまま(「根拠なし」とも言わずに)拡散されたという。しかもそういう拡散をしたメディアには公共放送NHKが含まれている。

そして一部界隈では、この根拠のない主張が、自分たちが信じていることの証拠であるかのように扱われているらしい。ひとえに、それが大統領という身分にある者の発言であるということだけでそのまま拡散され、信じられ、何かの根拠になるかのように扱われている。この現象に名前を付けた……くはないな。つけるまでもない。「ごまかし」である。

 NHKでの伝え方はこうだったそうだ。

もちろんNHKだけではない。こちらはTBS: 

一方、米国では、トランプの今回の「無根拠な主張」は、放送局の側が「放送拒否」みたいにしている。

 

CNNではこういう字幕を表示していたという(ただし、CNNがトランプにツッコミを入れるような字幕を表示するのは、今に始まったことではない): 

  

MSNBCが打ち切った瞬間の映像: 

これが、芸能人がブログに書いた「このサプリがお肌の不調に効いたよ」みたいなことだったらまだよかった。いや、そういう場合は即座に根拠と背景が疑われ、日本語ではそのものずばりの「ステマ」(ステルスマーケティング)と呼ばれるだろう。しかし、トランプ発言を真に受けている(あるいは真に受けているように見せている)人たちの中では、大統領の発言にはそういうようにして勘ぐるべき「背景」はなく、逆に、それを放送しないことに勘ぐるべき「背景」がある、というストーリーのひな形があるのだろう。

ちなみに、同じことをガーディアンに言わせればこうである。

 

 

 

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