今回の実例は、Twitterに投稿されている映像から。
米国に、The Dodoというオンライン・メディアがある。名称はもちろんあの絶滅してしまった飛べない鳥にちなんでいる。動物と人間、動物と動物が快適に楽しくともに暮らしていくことを追求するメディアで、「日本のテレビの動物ものの番組(から、何というか「テレビ番組臭さ」を抜いたもの)のような作り」と説明するのが、たぶん一番わかりやすいだろう。自サイトのほか、TwitterやFacebookなどのソーシャルメディアで数分の映像をアップするという形で活動している。沿革はウィキペディア英語版に詳しいが、コロンビア大学で動物の倫理と人間との関係について学んだ/研究したイジー・ラーラーさんによって2014年に設立されており、内容的にもただ単に「かわいい動物に癒されましょう」という方向性ではなく、見た人に、動物と人間のかかわりについて考えさせるような内容のものが多い。
とはいえ、どの映像もかわいい動物満載で見れば笑顔になれるし、内容が内容だから子供でも安心して楽しめるし、ツイート本文などに使われている英語は日本では高校2年生レベルの知識があれば十分に読める程度で平易なので、Twitterなどやっている動物好きの方はフォローしてみるとよいのではないかと思う。映像についている音声は、出てくる動物の飼い主さんなどの普通のしゃべりで、聞き取りはかなり難しい場合も少なくないが、幸い、英語字幕を付けてくれているので、聞き取りの練習にもなるだろう(大学受験で必要とされるリスニングのレベルをはるかに超えているが、逆に言えばとても実用的な教材である)。
さて、今回見るのはこちら:
Watch a blind pittie puppy show a heartbroken cat how to be happy 💗 pic.twitter.com/9Ej9ciWAVB
— The Dodo (@dodo) 2020年11月23日
"pittie" はPitbull (Pit Bull) をかわいく呼んだもので、「ピットブルちゃん」みたいな感じ。この文は短いけれども、文法的には注目ポイントが多い。
Watch a blind pittie puppy show a heartbroken cat how to be happy
まず、《感覚動詞(知覚動詞)+目的語+原形不定詞(動詞の原形)》の形に注目しよう。
Watch a blind pittie puppy show a heartbroken cat how to be happy
感覚動詞 目的語 原形
この文は《命令文》で、「目の見えないピットブルの子犬が、~に示すのを、見なさい」というのが文の骨格である。
続いての注目点は、《show + O + O》。二重目的語をとる動詞のshowの構文で、直接目的語が "a heartbroken cat", 間接目的語が "how to be happy" だ。
... show a heartbroken cat how to be happy
直接目的語 間接目的語
"a heartbroken cat" は「意気消沈しているねこ」、"how to be happy" は《疑問詞+to不定詞》の形で「いかにして幸せな気分になるか」の意味。
ここまで、まとめると、「目の見えないピットブルの子犬が、意気消沈している猫に、いかにして幸せな気分になるかを示すのを、ごらんください」という意味になる。
というところで映像を再生してみよう。落ち着いた女の人の声で、"We were absolutely astounded how well he navigated the house." と始まる。astoundedのように意味が分からない単語が出てきたら、その都度一時停止して辞書で単語の意味を確認してみてもよいが、それよりはざーっと流して映像を見ながら言葉を聞いて(字幕を読んで)意味を推測しておき、あとから辞書で確認するほうがよいだろう。
映像の中のピットブルの子犬は、目が見えないとは信じられないような動きを見せている。私もastoundedだ。ただ、自分の体の何倍もあるような大きな犬に普通にじゃれついていったりしているのは、目が見えないからこそかもしれない。
さらにこの子犬(ジュードという名前だそうだ)、やはり自分より大きな(そしてかなり強い)山羊を追いかけまわし、山羊たちはあまりに元気な子犬にちょっとわけがわからなくなっている様子。
そのくだりに、下記のような表現が出てくる。
He is very much larger than life.
"very much" は形容詞を強める意味(「とても~」)"larger than life" は慣用表現で、「人目を引くような」が原義といえば原義。これを日本語にするときは、文脈に応じて「目立つ」「派手な」「豪快な」などとしなければならないのだが、ここではこの体の小さな子犬のことはどういうふうに言えばよいだろう。
私は少し考えて、「とにかくはちきれんばかりに元気で」とか「元気の塊のような」といった日本語を当ててみたが、「元気」から離れて考えてみる必要もあるかもしれない。
そしてそのすぐ後に:
and very much in your face.
"in your face" も慣用表現。これはそのまま意味をとると「あなたの顔の正面に」で、要は「あなたの目の前に」ということだが、そこから転じて「押しの強い」という意味になる。とにかく前に前にと出てくる感じで、文脈によっては「挑戦的な」「喧嘩腰の」「大胆な」といった訳語がふさわしい場合もある。
この子犬については、「押しの強い」がよいだろうと私は思う。楽しそうにとびかかっているだけで攻撃しているわけではないから。工夫するとすれば「遠慮というものを知らない」といったようにしてみてもよいかもしれない。
映像はここまでで1分程度。残り2分ほどは、この子犬のジュードが来る前にここにいた犬(デクスター)のこと、子犬を引き取った経緯、そしてデクスターととても仲が良かった猫のオスカーのこと、オスカーとジュードの関係が説明され、目が見えないことなど何の障害にもなっていない "larger than life" で "in your face" なジュードがどういう存在なのかが語られている。ぜひ全編を見ていただきたいと思う。
この映像の主で、ジュードやオスカーや山羊たちの飼い主は、ミネソタ州にある「レノンズ・レガシー・サンクチュアリー」という動物保護施設である。"Sanctuary for animals with special needs" とサイトにある通り、特別なニーズ(つまり、冷たい用語でいうと「障害」)を持った動物たちのための施設で、名称の「レノン」は2018年にインドからここにやってきた目と耳を使わない(使えない)保護犬の名前だそうだ。残念ながらレノンは引き取られたときにはもう健康状態が悪かったようで、数か月で他界してしまったが、運営者さんはその名前を施設名として、傷害のある動物に安全で暖かな居場所を提供し、終の棲家(里親)を見つける活動を続けている。サイトは下記:
参考書: