今回の実例は、子供の英語から。
BBC北アイルランドが、5歳から16歳の子供を対象に、「記憶に残る(記憶に残したい)クリスマス」のテーマで、2分で語り終える物語を募集した。
5歳から9歳、10歳から13歳、14歳から16歳の3部門ごとに優秀作品、最優秀作品が選考され、クリスマス前後の数日間で発表された。一番上の年齢層の最優秀作品は、戦場のPTSDをテーマにしており、とても「子供」の書いたものとは思えない質である。私、自分にこのクオリティの英文が書けそうな気がしない。(以下、BBC Northern IrelandのTwitterアカウントがフィードしている映像には、全編英語字幕がついているので、ぜひ映像を再生して見てみていただきたい。)
Congratulations to Grace Donald, whose story ‘Christmas Conflict’ is the winner in this year’s Two Minute Tales competition in the 14 – 16 age category.
— @bbcnireland (@BBCnireland) 2020年12月26日
Listen to all this year’s finalists stories at https://t.co/YJj7CrYCgI pic.twitter.com/Mn4pzyCZw9
真ん中の年齢層は、日本でいうと小学校高学年だが、最優秀作品に選ばれたのは、まだまだ子供らしい想像力がチャーミングな小品である。
Congratulations to Lucy Uprichard, whose story ‘Lunchless in Lapland’ is the winner in this year’s Two Minute Tales competition in the 10 - 13 age category.
— @bbcnireland (@BBCnireland) 2020年12月25日
Listen to all this year’s finalists stories at https://t.co/YJj7CrYCgI pic.twitter.com/WY86OoJij9
そして、展開が早くてうなってしまった、一番下の年齢層――小学校低学年にあたる年齢層――の最優秀作品。
Congratulations to Aaron Smyth, whose story ‘Not a Baaad Christmas’ is the winner in this year’s Two Minute Tales competition in the 5 – 9 age category.
— @bbcnireland (@BBCnireland) 2020年12月24日
Listen to all this year’s finalists stories at https://t.co/YJj7CrH1pa pic.twitter.com/29C04usBhT
タイトルは、 'Not a Bad Christmas' のタイポ(タイプのミス)ではない。これが何のことかは、 英語圏で育った人には説明するまでもないのだろうが、日本語を母語として育ち、英語にはかなり大きくなってから外国語として接しているだけだと、お話を見てみるまでは何のことかわからないかもしれない。見ればわかるが、見たところで、それは日本の環境、日本の文化ではさほどなじみがあるものではない。なんというか、ほとんど無害な形で「文化の差(違い)」を知らしめてくれるというか……。
今回の実例はこの、アーロン・スミス君というお子さんの書いた作品。5歳なのか9歳なのかはわからないが、いずれにしても小さな子供で、その小さな子供がこのくらいの英語を使えるし実際に使うということだけでも、よい「実例」として参照されよう。
物語は、上記ツイートの映像で字幕が出てくるほか、こちらで全文掲載されている。
開始15秒のところ:
It was very cold, dark, and snowing a blizzard.
《天候のit》である。
さらに、「雪が降る」の表現とその進行形の形も、英語学習者は確認しておくべきだろう。snowはrainと同じく動詞として用いられる。(高校3年生の英作文で、「雨が降る」が書けてない答案を山のように見るのだが、習ったことがないのだろうか。)
It snows in December. (12月には雪が降る)
It is snowing now. (今、雪が降っている)
それに加えて、「吹雪いている」という表現もここで学んでおこう。
開始25秒から:
To their surprise they saw their dog Rocco chasing reindeer through the field.
下線で示した部分は《to one's +感情を表す名詞》の形。この表現を「受験英語くさい」とか「実際に会話で使わない」と言う人もいるかもしれないが、こういうふうに物語文で使うということを、5歳かもしれないし9歳かもしれないアーロン君が教えてくれている。
太字で示した "they saw their dog Rocco chasing ..." は、《感覚動詞(知覚動詞)+目的語+現在分詞》の形。「《目的語》が~しているのを見る」という意味だ。ここでは目的語は "their dog Rocco" (「彼らの飼い犬のロッコ」)で、文意は「びっくりしたことに、二人は飼い犬のロッコが、野原を駆けてトナカイを追いかけているのを見ました」。
ストーリーはここで急展開するのだが(笑)、英文はそのあと、38秒のところ:
Jimmy-Joe and Rosie ran outside and spotted Santa standing on the stone ditch with a bite mark on his bottom.
この "spotted Santa standing ..." も、《感覚動詞+目的語+現在分詞》の形である。ただしspotという動詞は、日本の学校英語では「感覚動詞」として教わることはあまりないかもしれない。「サンタが立っているのを見つけた」だ。
"stone ditch" は少々難しい。ditchは道路わきにある「溝」「どぶ」で、石を組んで作ってあるのがstone ditchだが、ここではサンタは石を組んだものの上に立っている。これを日本語でどう表すかを調べるのはこのブログの守備範囲を逸脱するので(「翻訳」の仕事になってしまう)、今回、そこはスルーする。
下線部はwithを使った表現の定番で(これも付帯状況のwithなのだが)、日常生活で非常によく使う。「おしりに噛まれた痕をつけて」。
次、1:06のところ:
Santa was panicking and didn’t know what to do.
解説不要だろう。《疑問詞+to不定詞》である。英語圏では9歳以下の子供も使う表現であることが今回の事例からわかる。
その次、1:13のところ:
She asked Santa if he had any magic reindeer food left.
《ask ~ if ...》の形。名詞節のif節(間接疑問)である。意味は「~かどうか」だ。
そのあと:
Santa had some in his man-bag.
この "man-" という接頭辞は、学校ではたぶん習わないと思うのだが、20世紀後半くらいまでのジェンダー類型で「通例、男性にはない」と考えられていたものを軽く揶揄・自嘲するような意味合いで(つまり「男のくせに」といった意味合いで)使われたもの。中には、この "man-bag"*1 のように、徐々に揶揄・自嘲の意味合いを失ってニュートラルになってきたような表現もある。今は男性もPCやガジェット類を持ち歩くのが日常なのでバッグを持って歩いているが、かつては男性は上着のポケットに入るようなものしか持たず、小物を入れて持ち歩くようなバッグ(ハンドバッグ)は女性のものと決まっていた(その分、女性の衣類にはポケットが少ない。上着の内ポケットなどという便利なものは女性の服にはない)。だから「男なのに持ち歩いているバッグ」があえて man- の接頭辞つきで表されたのだが、今では「男なのに」のニュアンスはなくなって「男性向けの」「男性用の」という意味になっているようだ。ここでは「男の人がよく持っているタイプのバッグ」の意味だろう。
次、1:33くらいのところ:
Rosie woke them up and asked them if they would help Santa deliver toys to save Christmas.
先ほどと同じ、名詞節のif節が出てくる。その節内のwouldは《時制の一致》によるもので、willの過去形。さらに、下線部は《help + O + 動詞の原形》で、「Oが~するのを助ける」。この構文を覚えるのに、この実例の文はまさにぴったりだ。最後の "to save Christmas." は《to不定詞の副詞的用法》で《目的》を表す。「ロージーは羊たちを起こし、クリスマスを救うために、サンタさんがおもちゃを配達するのを手伝ってくれないかと頼んだ」という文意。
その次:
The sheep were very excited and ate all the magic reindeer food.
sheepという名詞は単数形でも複数形でも同じ形なので(単複同形)、羊が1匹だけなら "The sheep was ..." だし、2匹以上いれば "The sheep were ..." となる。
そして最後:
When they got back, they found Rocco and the reindeer sitting in front of the warm fire.
ここでもまた、《感覚動詞+目的語+現在分詞》。この構文は、日本では高校で学習する文法事項だが、現地では9歳の子供が完全に使いこなせるレベルの文法事項である。
しかしこのお話の急展開っぷりときたら……。
※4360字
参考書:
*1:ハイフンなしでmanbagと綴ることもある。