このエントリは、2019年11月にアップしたものの再掲である。ここで取り上げている単語は、英語の単語の「意味」とは何なのかについて、考えるきっかけになる単語だと思う。
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今回の実例はTwitterから。
11月12日、Twitterの画面を見てみたら、UKで#OddSocksDayというハッシュタグがTrendsに入っていた。
"odd" という単語は、日常で頻出の単語だが意味範囲が広く、なおかつ日本語ではぴったり対応する語がないので、日本語を母語として英語を学んで身に着ける私たちにとっては非常にやりづらい語だ。だがこのハッシュタグでの "Odd socks" という使い方は、具体例としてとてもよい。私もoddという単語を最初に知ったときに、この例で習いたかった……と思うくらいによい例である。
早速実例を見てみよう。 "Odd socks" とはこういう状態のことだ。
Today I will be mostly wearing for #OddSocksDay The scream and Starry night #AntiBullyingWeek pic.twitter.com/dgML8n7xmR
— Joanne Lloyd (@jlloydPM02357) November 12, 2019
My feet are boiling already! #OddSocksDay pic.twitter.com/21oya81fJm
— J.Grocott 🙋♂️ (@deputygrocott) November 12, 2019
It’s #AntiBullyingWeek2019 so let’s call out uncivil behaviour in the workplace and concentrate on providing high quality care! #IWillSpeakUp @Mersey_Care #OddSocks #OddSocksDay #ChangeStartsWithUs #NHS @ABAonline pic.twitter.com/LCf0O2A6oD
— Dr John Austin Crosby (@drjohnacrosby) November 12, 2019
Here at Classroom Secrets, we have worn our odd socks in support of Anti-Bullying Week - even Albie got in on the action! Betty @ Classroom Secrets #OddSocksDay pic.twitter.com/a6WQvlie4L
— Classroom Secrets (@ClassroomSecLtd) November 12, 2019
Sadly, for some students, school is the only happy and safe place they have. It’s not right if they feel scared & anxious at school too.
— PC Russ Massie (@russmassie) November 12, 2019
It’s so important that we challenge #bullying as robustly as we can.
I’m proud to support #AntiBullyingWeek2019 and #OddSocksDay @TVP_Oxford pic.twitter.com/IwR52JTxGD
つまり、 "odd socks" とは「片方ずつ違っている靴下」のこと*1。
これでoddという語は、「対のものが、対になっていない状態」、つまり「片方(ずつ)しかない状態」を言う、ということがおわかりになるだろう。
だがoddという語について、この《意味》だけを覚えていても、受験でも実用英語でも、たぶんほとんど役に立たない。
ここで辞書を見てみよう。
手元にある『ジーニアス英和辞典(第5版)』では、大きく分けて、「奇妙な」「臨時の」「雑多な」「片方の」「奇数の」「余分の」と6つの語義が掲載されている(1461ページ)。
「奇妙な」「臨時の」「雑多な」「片方の」「奇数の」「余分の」……何か全然バラバラなような印象を受けないだろうか。「片方の」と「奇妙な」は、まあ何となくわからなくもない。「片方の」と「奇数の」も、2つ(で1ペア)のものの片方なら奇数だからなあ、と考えれば納得はできるかもしれない。しかし「奇妙な」と「奇数の」が並べられていると「???」となってしまうだろう。そこに「臨時の」が加わればなおさらだ。
そういうときは原義を見ると腑に落ちることがあるが、『ジーニアス』に掲載されている原義は:
原義: 葉の鋭い先端→三角形の頂点→奇数
……何も解決しない! わけがわからない!
こういうときに便利なのが、英単語の語義をイメージ(図像)で解説してくれる辞典だ。手元にある『図解 英単語イメージ辞典』(大修館書店)を見てみよう。英単語のイメージをつかめる図(イラスト)と原義、例文で構成された「読む辞典」だ。
Oddは501ページに掲載されている。これによると、原義は:
原義は〈余り〉である。余り→はみ出し→(偏り、傾き)→勝ち目、勝率
最後の「勝ち目、勝率」は名詞としてのoddで、これは日本語でも賭け事の用語で「オッズ」というカタカナ語になっている(高校生は知らないかもしれないが)。
この「原義」に、球体の一部が出っ張っているような図が添えられている。説明がヘタで申し訳ないが、マンガで描かれるたんこぶのような状態の図だ……「いらすとや」さんでイラストを探してみよう……あった。こういう感じ*2。
この男の子の頭全体から見て、たんこぶ(出っ張った部分)が "odd" というイメージをつかんでいただきたい。
このイラストだけに引っ張られるのもよくないので(「たんこぶはoddである」と言いたいわけではない)別な説明をすると、何か枠内を塗っていてはみ出してしまった部分とか、紙を2つに折ったときにきれいに合わせることができずにはみ出してしまった部分とか……そんな感じのイメージだ。
全体の形がぐにゃんと歪んでしまうのではなく、全体としては整っているのだけど、1か所だけ飛び出してしまっている、という感じ。
これを抽象化すると、「基本の通り、いつも通り」という全体の型からはみ出した「基本通りではない部分、いつも通りではない部分」といった感じ、お約束通りに進まない、お約束通りに対処できない、という感じになる。これを《原義》として頭にいれてしまおう。
これが数学方面にいくと、「きれいに割り切れない部分」、つまり(割り算での)「余り」となり、そこから「2で割れない、1が余ってしまう数」、すなわち「奇数」の意味になる。
一方、「いつも机の上の小物入れに自転車の鍵を入れてあるのに、それが見当たらない」といった場合に「おかしいな、ここに入れてあるはずなのに」という気持ちを表すには、That's odd. と言う。
ここまでの説明についてこられたら、今度は辞書の例文をひとつひとつ読んでいってもらいたい。かなり納得しながら読めるはずだ。
さて、このoddが人間について用いられることもある。行動などが周りと違う人は、an odd personと呼ばれる(こともある)。
そういうoddな人は、学校ではいじめの標的になりやすい。
そこで、#OddSocksDayである。これは、「靴下はodd (片方ずつバラバラ) でも問題ないのだから、誰かがoddでも問題ない」という理屈(というよりダジャレに近いかもしれない)で、みんなで片方ずつバラバラの靴下を履いてきて、そのことを確認しよう、という英国(ひょっとしたらイングランド&ウェールズ)での学校の取り組みだ。
全国の小学校で、児童や教師たちが片方ずつばらばらの靴下を履き、このキャンペーンに賛同する地方議会議員や公務員も片方ずつばらばらの靴下を履いた写真をアップして、意思表示した。
このキャンペーンの先頭に立っているのは、Andy and the Odd Socksというバンドのようだ。彼らはCBBC(BBCの子供向けチャンネル)の番組に出ているバンドで、実際に小学校を回ってライヴをやったりもしているようだ。日本だったら「歌のおにいさん」のような人がやるのだろうが、そこでロックバンド*3が出てくるのは、ロック・ミュージックが産業として確立していて重要な輸出品でもあるイギリスらしいといえばイギリスらしい。
Woop!😀🙌🏻 Love this quote, he’s not the only one we can’t wait for you to see it!👍🏻 #TuesdayThoughts pic.twitter.com/gAJD9l8o3U
— Andy & the Odd Socks (@andyoddsock) August 27, 2019
Make a change, wear your odd socks for Odd Socks Day!😊🙌🏻😊 Check our our brand new song, Change for #AntiBullyingWeek on YouTube https://t.co/JwCjEYDdBp and check out our schools pack for song based activities you can do with your class: https://t.co/eYPAslcHwb #TuesdayThoughts pic.twitter.com/cCfTdQ5s5X
— Andy & the Odd Socks (@andyoddsock) November 5, 2019
Today’s the day we do our bit for #AntiBullying We’re wearing our odd socks to show we accept each other’s differences and that we are all unique! 😊🙌🏻 Change starts with us! Have a brilliant #OddSocksDay 😀👌🏻 @ABAonline pic.twitter.com/aFX1mYqDqF
— Andy & the Odd Socks (@andyoddsock) November 12, 2019
#OddSocksDayに彼らが訪れた小学校での様子のビデオ。それにしてもみなのりのりである。
This is the moment it all went nuts @GreensideW12 Primary yesterday during our #OddSocksDay visit😂This little guy and his buddy are my heroes, they were brave enough to get up and do their thing and it gave all the other kids the courage to do it too!😊🙌🏻#unique #WednesdayWisdom pic.twitter.com/9APN9nVeFo
— Andy & the Odd Socks (@andyoddsock) November 13, 2019
話をoddという単語に戻すが、試験でよくある「次の4つの選択肢のうち、ほかの3つと性質が異なるものを選びなさい」みたいな問題を、(Find) the Odd One Outという。「パイナップル、りんご、ペン、みかん」だったら「ペン」がodd oneだし、「ねこ、いぬ、きつね、パイナップル」だったら「パイナップル」がodd oneだ。
こういうゲームを、英語圏の子供たちは幼稚園くらいのときにたくさんやっている。学習絵本としてまとまった形で見ることができるので、見てみるとけっこう楽しい。
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Find the Odd One Out Game: A Fun Guessing Game for 2-5 Year Olds
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The Odd One Out: A Fun Picture Guessing Game for 2-5 year olds
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追記: oddという単語について
via
このスレッドの最初に「仮にその単語置換の精度が100%になるという不可能が可能になったとしても」と書いたけど、それはこちら→ https://t.co/2W1BUpgXRP のoddのようなものを常に完璧に処理できるようになったら、という話として読んでください。
— nofrills/共訳書『アメリカ侵略全史』作品社 (@nofrills) November 14, 2019
oddは厄介な語で、Yahooなどに出てるニュース記事でも誤訳は珍しくないのですが(単に「規則性のない」という《事実》を述べている記述が、「変な、奇妙な」と誤訳されてしまって《価値判断》の記述になるなどの誤訳がよくある)、それ以前に既存の用例(英語と日本語訳文のペア)の分野的偏りが…。
— nofrills/共訳書『アメリカ侵略全史』作品社 (@nofrills) November 14, 2019
さすがに "odd number" (数学用語で「奇数」)を「奇妙な数」と訳す人は翻訳の看板掲げてる人にはいないと思いますが、過去にJSON fileについてoddと書かれている原文で「奇妙な」系の誤訳があったことがありましてね…… see https://t.co/iFWOjslQkN (誤訳主は大手雑誌)
— nofrills/共訳書『アメリカ侵略全史』作品社 (@nofrills) November 14, 2019
oddという語については、こちらのブログ: https://t.co/fwWtVjUewr がよくまとめられている。
— nofrills/共訳書『アメリカ侵略全史』作品社 (@nofrills) November 14, 2019
で、こういうのも含めて、機械による単語の置き換えが100%(もしくはそれに近い)の精度でできるようになる前に、自分で英語勉強したほうが、早いし、幅も広がって結局効率がいいんですよ。
「効率がいい」という話だけでなく、そうすることでその人はよりrichになれる(このrichも翻訳難しいですよね。日本語なら「豊かな」と機械的に置き換えても表面的には問題ないから普通はそうするけど)。欧州のCEFR(共通参照枠)の理念の背後にある多言語主義の考え方です。
— nofrills/共訳書『アメリカ侵略全史』作品社 (@nofrills) November 14, 2019
*1:日本語でも「片方ずつ違っている」など回りくどく言わずに一言で済ませられる表現もあるのだが、現代の感覚では、残念ながらあまり使いたくないような表現である。
*2:イラスト出典: https://www.irasutoya.com/2015/11/blog-post_519.html これを一部加工
*3:サイトにアップされているビデオなどを見ると、ギタリストはなかなかの技巧派で速弾きを披露したりしているし、メンバーはみな複数の楽器をこなせるようだ。