今回の実例は、Twitterから。
と、本題に入る前に、今日1月4日まで、Amazonの初売りで開拓社の電子書籍の一部が半額になっているので、そのご紹介。
開拓社は、ちょっとでもまじめに英語やってる人は知らない人はいない出版社だから、そう聞いて「これは耳より情報」と思った方はすぐさまこちらのリンクからKindleストアに飛んでいって目録を確認していただければと思う。セール対象の「開拓社 言語・文化選書」の検索結果を、価格が安い順にソートしてある。選書のすべてがセールになっているわけではないが、定価2000円前後の本が1000円前後になっている。例えば:
ここでは「英語もの」だけを扱うが、同選書には言語学や日本語学、認知言語学の本もあるので、ことばに関心がある方はチェックしてみてほしい。試読のマークはついていないが、Amazonにログインして閲覧すれば「無料サンプルを送信」のボタンから手元のPCやスマホ、タブレットのKindleアプリ、またはKindle端末に相当数のページを見本としてダウンロードして読むことができる(実際、この無料サンプルだけでもかなり勉強になるくらいの量がある)。いくつか読んでみて、「これは」と思ったものは買っておくと、あとあと役に立つだろう。もちろん、本気で勉強するなら電子書籍よりも紙の本を買ったほうがやりやすいのだが(電子書籍に切り替えて随分たつが、やはり、書き込みも、「ページをパラパラめくる」ことも、紙が圧倒的に優位である)、電子書籍なら検索が可能なので、一度読んで終わりにするのではなく手元に置いて参照可能な資料としておくには、電子書籍があったほうが何かと便利だ。
さて、というところで本題に入ろう。
米国で、ドナルド・トランプが異常行動をとっている証拠が出てきたことは、日本語の報道でも一応扱われている。
米紙ワシントン・ポスト電子版は3日、トランプ大統領が南部ジョージア州で大統領選を管轄したラフェンスパーガー州務長官(共和党)に対し、「再集計」で自身の敗北を覆すよう圧力をかけたと伝えた。事実上、票数の改ざんを求めたと受け止められる恐れがある。同紙は1時間にわたった両氏の電話会談の録音記録を一部公開した。
これはもちろんアメリカではたいへんな大ニュースで、今朝など、私が見るTwitterの画面は、これについてのツイートで埋め尽くされるくらいになっていた。今回、実例としてみるのはそのひとつ。The Daily Beastという媒体の編集長、ノア・シャクトマンの発言である。
I'm 100000% sure Trump asked only Georgia's SOS to commit election fraud. No way did he make similar demands of officials in Michigan or Pennsylvania or Arizona or...
— Noah Shachtman (@NoahShachtman) 2021年1月3日
文中の "SOS" は政治系ニュースでは頻出の略語(頭字語)で、Secretary of Stateのこと。アメリカ合衆国の連邦政府レベルでは「国務長官」だが、州レベルでは「州務長官」である。ウィキペディアから引用すると、「通常それほど大きな権限を有さないが、選挙証明の大半に責任を負うため、しばしば選挙の際に極めて重要な職責を担うことがある。典型的な例として大接戦となった2000年の大統領選挙においてフロリダ州務長官キャサリン・ハリスが同州での選挙結果を確定する際に重要な役割を果たし、大統領選で重要な局面を左右した事例が挙げられる」。
というわけで、ノア・シャクトマンのツイートの第1文、"I'm 100000% sure Trump asked only Georgia's SOS to commit election fraud." は、「トランプはジョージア州の州務長官だけに、選挙違反をおかすように頼んだのだということを、私は100000パーセント確信している」という意味で、これは《皮肉》である。真意としては「そう依頼したのがジョージア州に対してだけだったなんてことはないだろ」ということだ。そう言い切れるのは、全体の流れ(文脈)があるからで、続いて第2文を見てみよう:
No way did he make similar demands of officials in Michigan or Pennsylvania or Arizona or...
下線部で示した "no way" は副詞句で、「絶対に~ない」という強い否定の意味。neverの類義語(類義表現)である。
この否定の副詞句を強調のために文頭に持ってきたあとで、ツイートの筆者は後続の主語と述語を倒置している。それが太字部分。一般動詞の倒置だから、単に「主語+述語」が「述語+主語」の語順になるのではなく、助動詞のdoを過去時制でdidにしたものが用いられている。つまり、"he made" が "did he make" という形になるのだ。
意味としては、「絶対に、彼は同様の要求を、ミシガン州やペンシルヴァニア州やアリゾナ州などなどの高官に対して、行ってはいない」。
さりげなく使われているが、《demand A of B》も重要な表現だ。
これだけなら「強調のために副詞句が文頭に出ると、そのあとの主語と述語は倒置される」という実例としてきれいに終わるのだが、ノアのこのツイートには次のようなリプがついている。
And no way any other republicans, like Lindsey Graham, made any more calls, or anything worse, to any states that we don't already know about. I'm sure their elections are clean.
— Another Powell (@realLexPowell) 2021年1月3日
こちらでは、"no way" が前に出ているにも関わらず、そのあとは倒置されず、普通に「主語 (any other republicans, like Lindsey Graham,) + 述語動詞 (made)」の語順だ。
こういう例に遭遇できるので、Twitterはおもしろい。ノアの文とこのアナザー・パウエル氏の文を続けてみると、まるで台本のような様式美である。
A: No way did he make similar demands of officials in Michigan or Pennsylvania or Arizona or...
B: And no way any other republicans, like Lindsey Graham, made any more calls, or anything worse, to any states that we don't already know about.
英語という言語での、この流れの作り方。日本語でも似たような現象はたぶんあると思うが、今回はこんなところで。
※3380字
参考書: