今回の実例は、Twitterから。
東京オリンピック・パラリンピック大会組織委員会の森喜朗会長の発言が大炎上している。英語圏でまで炎上している。っていうかフランス語圏でも炎上している。五輪種目に「墓穴掘り」があったら、難易度の高い「炎上」も完璧にこなして満点だ。
発言は、「女性蔑視」と伝えられているが、具体的にどういうものであるかは各自でご確認を。日刊スポーツが全文を文字起こししているので、そこから。文中「山下さん」はJOC会長の山下泰裕氏のこと(山下氏は1980年代に活躍した柔道の名選手でもある):
実を言うと昨日、組織委、JOC、東京都みなさん、国、関係者集まり、自民党本部で関係各位の会議がございました。その最後に山下さんがあいさつした。びっくりした。これが山下さんなんだなと。柔道以上にけれんみがあった。本来、山下さんがあれだけ立派な演説をするとは。みんなそう言っていた。しゃべり方だけではなく、理路整然と1つ1つしっかりした話をされてました。この原稿は籾井さんが作ったのかなと。いろいろ考えましたが、いずれにしてもみんな力を合わせて山下会長を守っているのだと安心しました。……
これはテレビがあるからやりにくいんだが、女性理事を4割というのは、女性がたくさん入っている理事会、理事会は時間がかかります。これもうちの恥を言います。ラグビー協会は倍の時間がかかる。女性がいま5人か。女性は競争意識が強い。誰か1人が手を挙げると、自分もやらなきゃいけないと思うんでしょうね、それでみんな発言されるんです。結局、女性はそういう、あまり私が言うと、これはまた悪口を言ったと書かれるが、必ずしも数で増やす場合は、時間も規制しないとなかなか終わらないと困る。そんなこともあります。
私どもの組織委にも、女性は何人いますか。7人くらいおられるが、みんなわきまえておられる。みんな競技団体のご出身で、国際的に大きな場所を踏んでおられる方ばかり、ですからお話もきちんとした的を射た、そういうご発言されていたばかりです。……
何というか、この人の場合、とにかく他人をバカにするのが「話術」と思っている、という感じで、森氏の政治家としての現役時代を強く思い出させる。「世の中には2種類の人間がいる。私がバカにする人と、私がバカにしない人だ」という感じ。一体何様のつもりなのだろうと呆れるよりない。
山下氏に関しては感心してみせているが、実際のところは「ろくにスピーチなどできないだろうとバカにしていたが、非常に立派なスピーチをされた」という話で、そもそも失礼だろという発言である。しかもたぶん本人もそう思っているのだろう、「みんなそう言っていた」という予防線を張っていて、実にこざかしい。なぜ単に「これまで聞いた中で一番のスピーチだった」という感じで語らないのか。
ともあれ、これが日本語圏の外でも炎上したのは、「女性を会議のメンバーに加えると議事進行が滞る」というバカげたことを堂々と述べていたからだ。*1
日本のメディアはこういうバカげた発言を「持論を展開した」とか「〇〇節は健在」と描写し、その人の個性であるかのように扱うのが常だが、公的な立場にある人物の公的な場での発言について「持論」扱いしてくれる優しさ*2は、日本で開かれることになっている五輪について伝えようとする日本国外のメディアにはあまりない。
というところで今回の実例:
Yoshiro Mori, the Tokyo Olympics committee president and a former Japanese prime minister, prompted outrage after he said women talked too much in meetings and should have their speaking time regulated.https://t.co/AhCIgPJgpj
— The New York Times (@nytimes) 2021年2月3日
当ブログは英文法のブログなので、以下は英文法の解説だけ。
ツイート1つ分で1文という少々長めの文だが、一読して主語と述語動詞がどれか、判断できただろうか。
以下にそれを太字にするなどして示すと:
Yoshiro Mori, the Tokyo Olympics committee president and a former Japanese prime minister, prompted outrage / after he said { women / talked too much in meetings ) and ( should have their speaking time regulated. )}
つまり、文の骨格は "Yoshiro Mori prompted outrage" の4語だけである。薄いグレーで示した部分は直前の名詞を説明するための《挿入》の構造で、コンマとコンマで挟まれている。
というわけで主語はやけに長くなっているが、主節は実は4語だけという拍子抜けしてしまうような文である。
ただし報道のフィードとして重要な内容は、この短い主節の後に置かれている副詞節、"after he said ..." の部分に書かれている。
この部分の構造は、上でスラッシュやカッコで示した通りだ。意外と意識されないのが下線で示した《等位接続詞》のandで、これが何と何をつないでいるのかという構造が正確に取れないと、文が読めない。
そしてこの部分の最後のところ:
women ... should have their speaking time regulated.
《have + O + 過去分詞》である。これは「Oが~されるようにしてもらう」とか「Oが~されるようにする」といった意味で、「女性は発言時間を制限されるようにしてもらうべきだ」、つまり「女性は発言時間に制限を設けてもらうようにすべきだ」だが、原文(森氏の発言)では「(女性を)数で増やす場合は、(発言の)時間も規制しないと」に相当する。
逆に、この日本語を見て、"have their speaking time regulated" という英語が出てくるかというと、なかなか難しい。
こういうのが「英語らしい」表現と言えよう。
それにしても、ああ、恥ずかしい。
※2900字
サムネ:
参考書: