今回の実例は、報道記事から。
ウイルスというものには変異が生じる。この1年間、世界を振り回してきた新型コロナウイルスも例外ではなく、2021年になってから世界的に注目を集めているのは、昨年の終わりに英国というかイングランドで確認された変異株と、それとほぼ同時に南アフリカで確認された変異株と、その少し後にブラジルで確認された変異株である。それぞれ、その変異が起きていなかったころのウイルスより感染力が高いといった特徴があり、確認されたときにはすでに一般の人々への接種が始まっていたワクチンが効くかどうかということも素早く検証されて大きく報道されていた。
このうち、イングランドで確認された変異株は、日本の報道では「英国型変異株」といったように呼ばれ、英国の報道では "the UK[British] variant" のほか、ケント州から発生した/ケント州で見つかったということから "the UK 'Kent' variant" などと呼ばれているが、英語圏でも多少専門的な用語を使うところでは "the B.1.1.7 variant", "lineage B.1.1.7" などと表記されている。ピリオドを省略した "B117" という表記もよくなされる。この名称について詳細は英語版ウィキペディアを参照されたい。また、新型コロナウイルスの変異株のうち特に注意を要するものについても、英語版ウィキペディアにまとまっているので、それを参照されたい(ネット上の英語圏でだれでも自由に入手できる情報の量は、例によって、日本語圏でだれでも自由に入手できる情報の量とは、比較にならないほど大きい)。
B117株は、"Variant of Concern 202012/01*1"、つまり「懸念を生じさせる変異株、2020年12月の第一号」とも呼ばれているが、この Variant of Concern というのはイングランドの保健衛生当局がまとめているものである。変異株はたくさんあって、大半は特に大きな意味を持たないのだが、中には「ちょっとこれは……」となるものもあり、それら、「Concernとまでは行かないがちょっと気になるのでいろいろ調べている」という段階の変異株は "Variant under Investigation" と位置付けられている。
さて、今回新たにB.1.525と呼ばれる変異株が発見され、その変異株もまたちょっと気になる存在である、との報道が、今週各メディアでなされている。今回はBBC Newsでのその記事を見てみよう。記事はこちら:
記事は(BBC Newsにしては)短いもので、大きく2つのセクションから成る。
実例として見るのは、2つ目のセクションから:
最初の文:
One of these changes B.1.525 has is a mutation called E484K - also found in the Brazil and South African variants - that may help the virus evade some of the body's immune system defences.
少し読みづらいが、文法的には特に難しいものはない。BBCの表記基準ゆえ、ダッシュ(―)の代わりにハイフン (-) が用いられているが、同じ記号2つに挟まれた《挿入》があって長くなっていて、まずはそこをざっくり外してしまえば、構造は見えやすくなるだろう。
One of these changes B.1.525 has is a mutation called E484K - also found in the Brazil and South African variants - that may help the virus evade some of the body's immune system defences.
難しく見えるのは、6語目と7語目で "has is" となっているところではないかと思う。こういうふうに、文法的にあり得ない形で動詞が連続しているときは、そこが節の切れ目だと考えてよい。つまり:
One of these changes B.1.525 has / is a mutation
こうすると、文頭から "has" までが、"is" という動詞の主語なのだなということが見えてくるだろう。
この "One of ~" の部分は《接触節》の構造になっていて、関係代名詞のthatが省略されている。つまり:
One of these changes that B.1.525 has
「B.1.525が有する、これらの変異のひとつが」という意味になる。
なお、この部分の "changes" は、話の流れ的には "mutations" なのだが、この単語を使うとこの文の中でmutationという語を矢継ぎ早に繰り返すことになってしまうので、それを避けるために類義語で言い換えている。英語としてはそうするのが自然だからそうしているのだが、外国語として英語に接する立場からはちょっと読みにくく感じられるかもしれない。私は学生時代、こういう「英語としての文章術」みたいなのが読みにくくて泣いたことがある。
そのあとの部分を見ていこう。
... is a mutation called E484K - also found in the Brazil and South African variants - that may help the virus evade some of the body's immune system defences.
太字で示した "called" は《過去分詞》で、《後置修飾》の構造。直前の "a mutation" を後ろから修飾しているのである。「E484Kと呼ばれる変異」。
下線で示した "that" は、その "a mutation called E484K" を先行詞とする《関係代名詞》(主格)で、そのあとは青字で示したように《help + O + 動詞の原形》の形になっている。この部分、「ウイルスが~をevadeするのをhelpするかもしれない、E484Kと呼ばれる変異」くらいな感じでざっくり日本語にできていれば、意味は取れているということになる。下線部和訳が求められている場合は、そこからさらにevade, helpといった語をどう日本語にするかを考える必要があるが、読むだけならこのくらいざっくりした感じで流してしまってもよい。
で、さっき薄いグレーにしていったん外してしまった《挿入》の部分を戻して、「新たに確認されたB.1.525株にあるE484Kという変異は、ブラジルや南アフリカで見つかった変異株にもみられるものである」という情報をくみ取ってしまったら、先に読み進んでいけばよいだろう。
そして、ここまでのところで、「B.1.525株がなぜ注目されているかというと、既に問題となっている変異株と同じ変異を含むからだ」という内容をくみ取れていれば、この文だけでなく文章全体の読解としては完璧である。
この次の文(第2文)も、英文を正確に読むという点ではよい練習になるのだが、今回の残りの文字数では扱いきれないので、また次回に。
参考書:
*1:これを略すとVOC-202012/01となる。