このエントリは、2019年12月にアップしたものの再掲である。
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今回の実例は国際報道の記事から。
2001年から08年の間に意識があった大人なら「むしゃらふだいとうりょう」というフレーズは「ムシャラフ大統領」と即座に認識されるだろう。米同時多発テロからイラク戦争へと突き進んだ時代、国際ニュースで何度も出てきた名前だ。多くの人は、彼がパキスタンの大統領だったということも知っているだろう。
だがそのムシャラフ大統領がどういう人だったか、またいつ「大統領」になり、いつ退陣したのか、その後はどうしていたのかは知らない人がかなり多いんじゃないかと思う。ニュースに出なくなり、言及されることもなくなったからだ。
また、2008年までに国際ニュースをそれなりに熱心に見るという経験がなかった人は、まったく名前を知りもしないかもしれない。2005年ごろに小学生だった男性は「ムシャラフ」という名前が何か強そうだったし、テレビで見た顔が印象的で(「人の好さそうな丸顔なのに眼光だけやたらと鋭い」と)覚えてしまったそうだが。
そういう人でも、今回の記事の中ほどに "At a glance" として箇条書きの簡潔な年表みたいなのが挿入されているので、まずはそこを見ればどういう人なのかがわかるだろう。
記事はこちら:
見出しだけでも十分に衝撃的だと思うが、この報道内容については日本語報道を参照しておくのがよいだろう。
実例として見るのは記事のかなり下の方、本題(死刑判決)の話が終わって、ムシャラフ氏について説明しているくだりから。
キャプチャ画像の最初の文:
Serving as president until 2008, Gen Musharraf survived numerous assassination attempts and plots against him during his time in power.
太字にした-ingは現在分詞で、これは報道記事でよくある《分詞構文》の文である。書き換えるなら、Gen Musharraf served as president until 2008, and survived numerous... という形になるだろう。
ちなみにGenはGeneralの省略形で、アメリカ英語なら "Gen." と末尾にピリオドを置くが、BBCはイギリス英語なのでこのピリオドは使わない。
アメリカ英語: Mr. Smith from the U.S.A.
イギリス英語: Mr Smith from the USA
また、"serve as president" という表現で、presidentに定冠詞のtheがついていないのは、presidentが役職を示す語だからである(theをつけることもあり、必ずtheを取らなければならないということではない)。これについて江川泰一郎は『英文法解説』で次のように説明している(127ページより。なお例文に添えられている日本語訳は引用の際に省略した):
通例1人によって占められる役職を示す語が、a) 補語になる場合、b) asに続く場合、c) 前の名詞と同格になる場合はしばしば無冠詞で使われる。
a) Tom is (the) captain of the soccer team...
b) As (the) chairman of the committee, I declare this meeting closed.
c) Darwin, (the) author of "The Origin of Spieces", was born in 1809.
次の文:
He is best known internationally for his role in the US "war on terror", which he supported after the 9/11 attacks despite domestic opposition.
太字にした部分は《be known for ~》で「~で知られている」の意味。これにbestやinternationallyといった副詞が入って「国際的には~で最もよく知られている」という意味を表す表現になっている。
Kagawa Prefecture is known domestically for its udon noodles.
(香川県では日本国内ではうどんで知られている)
For 17 years the actor has been known for his role as the slashing mutant Wolverine in the X-Men film series.*1
(17年にわたって、この俳優は映画の『Xメン』シリーズでの容赦なきミュータント、ウルヴァリン役で知られてきた)
下線で示したコンマとwhichは《関係代名詞の非制限用法》で、先行詞は 'the US "war on terror"' である。この先行詞が固有名詞に近いものなので、ここでは関係代名詞を制限用法で使うのはしっくりこない。
最後の方にあるdespite ~は「~にもかかわらず」。この "~" の部分に-ing形が来ていることもよくある。その形については先日書いているので、そちらもご参照いただきたい。
hoarding-examples.hatenablog.jp
文意は「彼は国際的には、アメリカの『対テロ戦争』における役割で最もよく知られているが、彼は9-11の同時多発テロのあと、この『対テロ戦争』を、国内からの反対にもかかわらず、支持したのである」といったことになる。
ちなみに ムシャラフ氏についてのウィキペディア日本語版のエントリは、断片的な記述が数珠つなぎになっているかと思えば、百科事典を超えた「オタク」じみた詳しさ満載の記述が出てきたりしていて、百科事典として使い物になるかというとかなり難しい。英語版も悪くはないが、日本語版と違って読み飛ばせばよいところと自分が探している情報があるところの区別は形式上とてもつきやすくなっているとはいえどもやはり情報量多すぎなので、とりあえずシンプル・イングリッシュ版をお勧めしたい。「シンプル・イングリッシュ」は、昨今話題の「やさしい日本語」と同様の、外国語として英語を習得しつつある人でも情報がサクサク得られるように語彙・構文を易しくした英語で、目安としては日本の高校生が(わからない単語があれば辞書を引いて)苦労せずに読めるレベルだ。ムシャラフ氏についてのシンプル・イングリッシュ版ウィキペディアのエントリは、これはこれで短すぎるのだが、「名前を聞いたこともなくどの国で何をした人なのかもわからない」といった場合にさくっと参照して確認するための用語集としては、まあ機能するのではないかと思う。
参考書: