Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

論説文のスタイル, 抽象名詞であるはずのものに複数形のsがつくとき, 付帯状況のwith(パンデミックと人権: 国連事務総長の主張)

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今回の実例は、国連のアントニオ・グテーレス(グテレス)事務総長の文章から。

本題に入る前に、そのグテーレス事務総長へのインタビューを行うに際し、毎日新聞が読者から事務総長への質問を受け付けている。受け付けは今日、2月24日いっぱいまでとなっている。下記リンク先に趣旨説明があり、最後のパラグラフに質問投稿受付フォームおよびLINEアカウントへのリンクがあるので、そちらからご投稿のほど。ちなみに私はこういう内容で投稿した。

コロナ禍を人類は乗り越えることができるのか。偽情報や陰謀論自国第一主義の混沌(こんとん)の中で深まる対立、深刻化する気候変動を解決し、貧困を減らして男女平等も含む「SDGs(持続可能な開発目標)」を達成できるのか――。国連の取り組みが、今、改めて問われています。日本は分担金拠出額3位の主要貢献国。みなさんが国連に持つ関心や懸念などを、ぜひお聞かせください。

mainichi.jp

さて、本題。そのグテーレス事務総長が22日に、パンデミックの中の人権というテーマで、ガーディアンのRights and Freedom(権利と自由)のコーナーに寄稿している(→ archived here)。非常に広い範囲を扱った文章で、内容的には決して読みやすくはないが、構成はかっちりしていて、読む側が「藪から棒に、何の話だ?」と思ったところがあっても、そのあとの部分で丁寧な解説と情報の整理がなされ、そのうえに主張があるという、まさに論説文のお手本のような論説文なので、少々分量が多く感じられるかもしれないが(語数カウンターにかけたところ、790語だった)、ぜひ全文を読んでいただきたいと思う。英語学習という点から得るものが多いはずだ。

www.theguardian.com

実例として参照するのは、結びに近い部分から。

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https://www.theguardian.com/global-development/2021/feb/22/world-faces-pandemic-human-rights-abuses-covid-19-antonio-guterres

キャプチャ画像内の最初のパラグラフ: 

Covid-19 has reinforced two fundamental truths about human rights. First, human rights violations harm us all. Second, human rights are universal and protect us all.

ここではグテーレス事務総長は、まず「2つある」と述べて、そのあとに「第一に……」「第二に……」と続けている。

英語のスピーチ原稿などによく見られる形だが、何かを指摘したい場合や明示したい場合、まずそれが何点あるかを述べ、続いて個別に挙げていくという型がある。この型を使うと、思いつくままにだらだらとしゃべる/書く*1というのではなく、論理的で説得力を持った伝え方になる。友達同士でただおしゃべりしているときにこんな話し方をしたらちょっと浮くかもしれないが、仕事や授業で何かを提案したりプレゼンテーションしたりするときには、この型を使うとうまくまとまることが多い。

また、下線で示した "truths" だが、複数形のsがついているということは《可算名詞》として扱われているということである。「真実 truth」は多くの場合、「愛」だとか「寒さ」だとか「おもしろみ」といったものと同様に、《概念》だから数えられないのだが、個別のこと、つまり「真実であること」の意味として使うときは、複数形になる。このことを、英和辞典に掲載されている定義から把握しようとすると、めちゃくちゃ大変だ。例えば大修館書店の『ジーニアス英和辞典 第5版』には、不可算名詞として「真実、事実、真相」、可算名詞として「真理、立証された事実」とあるが、ウェブサイトのWeblioでだれでも閲覧できるようになっている研究社の『新英和中辞典』では、不可算名詞が「真理、真」、可算名詞が「真実、真相、事実」となっている。個人的にはこれは研究社の定義のほうがよいと思うのだが、ほかの語でも常に研究社のほうがよいということはないし、英和辞典だけに頼って語義を会得しようというのがそもそも無理筋である。重要なのは、たとえ概念だけの抽象名詞であっても「個別の具体的なこと」を言う場合は複数形のsをつけて数えられるものとして扱う、という性質が、英語にはある、ということだ。元から「単数形と複数形」というものがはっきりあるわけではない日本語を母語としていると、これがわかりにくくもあり、おもしろい点でもあるのだが。 

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次のパラグラフ: 

An effective response to the pandemic must be based on solidarity and cooperation. 

太字で示した部分は《助動詞+受動態》。《be based on ~》はこのまま熟語として覚えている人も多いだろうが、「~に基づく」(元は「~に基づかせられる」)だから、この文は、直訳するならば「パンデミックに対する効果的な反応は、連帯と協力に基づくものでなければならない」となる。この直訳が読みづらいと感じられたら日本語の表現をいじればよいが、元の文意を変えてはならない。

この次の文は、最初の文で言ったことの言い換えである。

Divisive approaches, authoritarianism and nationalism make no sense against a global threat.

第一文との間に「つまり」を補って考えると日本語では通りがよくなると思うが、「(連帯と協力に基づかねばならない。つまり)人々を分断するようなアプローチ、権威主義ナショナリズムは、地球規模の脅威に対してはなんら意味をなさない」。

そして3番目の文: 

With the pandemic shining a spotlight on human rights, recovery provides an opportunity to generate momentum for transformation. 

当ブログ常連の《付帯状況のwith》 と《現在分詞》の構文である。「パンデミックが人権にスポットライトを浴びせている状況で」と直訳される。グテーレス事務総長の主張としては、「パンデミックによって人権というものがあらためてクローズアップされている中で、(疫病からの)回復は、(人権をめぐる状況の)変革にモメンタムをもたらす機会となる」ということ。

そしてパラグラフの結びの文: 

To succeed, our approaches must have a human rights lens.

太字で示した部分は、《to不定詞の副詞的用法》で、《目的》を表す。「成功するためには、わたしたちのアプローチは人権というレンズを持っていなければならない」と直訳される。常に人権というものを前提として考えていくべきだ、という主張である。

 

参考書:  

英文法解説

英文法解説

 

 

 

 

 

*1:米国のトランプ前大統領の型がこの「だらだら」型だった。「型」というものがあったのだとすれば、だが。

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