Hoarding Examples (英語例文等集積所)

いわゆる「学校英語」が、「生きた英語」の中に現れている実例を、淡々とクリップするよ

同格のthat, 未来完了 (米軍が撤退したら、アフガニスタンは)

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今回の実例も、前回見たのと同じ解説記事から。

2001年9月11日の「同時多発テロ」を受けて、「ネオ・コンサーヴァティヴ(ネオコン neo-con)」と位置付けられる政治家たちが中心的存在だった米国のブッシュ政権が開始した「テロとの戦い war on terror」を、米国最大の同盟国である英国の公共放送BBCの安全保障(つまり軍事)担当記者として、非常に近いところから、またそのただ中から取材して伝えてきた元英軍人のフランク・ガードナー記者が、20年目の米軍撤退という発表を受けて書いた記事である。
記事はこちら: 

www.bbc.com

前回は記事の中ほどのところを見たが、今回はさらにその先の箇所から。

ここでは、英軍人が「まあ、この20年でタリバンも変わりましたしねえ」みたいなめっちゃ楽観的な、「脳内お花畑」と形容したくなるようなことを述べているのを受けて、現地情勢に通暁しているアフガニスタンパキスタン地域におけるいわゆる「イスラム原理主義」の研究者であるサジャン・ゴヘル博士のコメントを紹介している部分を見てみよう。

f:id:nofrills:20210421055026j:plain

https://www.bbc.com/news/world-asia-56770570

最初のパラグラフから: 

"There is a real concern,' he says, "that Afghanistan could revert back into the breeding ground for extremism that it was in the 1990s."

発言をそのまま、《引用符》を使って引き写している部分で、英語での書き方のルールにのっとって発言された文が分割されて間に "he says" が挿入されているが、その後半部分の最初の "that" は《同格》を表す接続詞のthatで、先行の "concern" とつながって "a real concern that ..." という構造を作っている。「アフガニスタンが…になりうるという真正な懸念」という意味だ。

ここであえて "a real concern" と言っているのは、その懸念 (concern) が、物事が良くなることはないと固く信じている悲観論者が抱くようなものではなく、現実的な懸念であるということを意味している。

実際、安全保障・軍事的な観点からは、タリバンのような武装組織が、今回見ている部分の少し上のところで英軍人が述べていたように「昔とは違う」つまり「変わった」とみなせるのは、武装を放棄した場合とか武装闘争を完全に廃止した場合だけだろう。1990年代末から2000年代にかけて、北アイルランドでProvisional IRAが「変わった」と認識されるために(そして実際に「変わる」ために)何が必要だったかというと、Óglaigh na hÉireannを自称し、自身を「アイルランドの正当な武装勢力」とみなしているIRAが、さまざまな方面からの圧力、さまざまな方面との駆け引きの末、「武装闘争の停止」を宣言し、「武器を使えなくすること(デコミッション)」を実行することが必要だったのだ。これをしてもなお「昔と何も違わない」と言い続ける人々は少なくはないし、実際、こうすることで昔やったことを隠蔽してしまっている(特に「武装闘争」とは別の面でやったこと、例えば性暴力)面もあるのだが、Provisional IRAという組織を解体せず社会の中に組み込んだ状態でないと、そこから分かれた分派に対する抑止力が社会の中にないことになる(こわいおじさんたちがにらみを利かせていないと、分派が勢力を拡大してしまう)という現実もあり、IRAは結局解体することなく、活動は停止して現在に至っている。先日、ベルファストでの暴動がナショナリスト地域(つまり「IRAのシマ」)にも波及して子供たちが道路の上で物を燃やしたりしはじめたときに、路上の物を撤去して事態の悪化を未然に防いだのは、昔IRAで活動していたような大人たちだった。(対するに、ユニオニスト地域ではそういう大人たちがいなくて、暴れる子供たちに火炎瓶の投げ方を指導したり、それに歓声を上げてはやし立てたりする大人たちがいた。だからああなったのだが。)

何でこんな本家のブログで書くようなことをここで書いているのかと自分でも思うが閑話休題。英文法に戻ろう。

次のパラグラフ:

Dr Gohel predicts, "there will now be a new wave of Foreign Terrorist Fighters from the West travelling to Afghanistan for terrorist training. But the West will be unable to deal with it because the abandonment of Afghanistan will have already been completed."

ここは、太字で示したように、《時制》が見どころだ。

ゴヘル博士の発言では、《未来》の時制が基準になっている。「米軍が撤退した後」のことを語っているからだ。「(米軍撤退後、)テロリストとしての訓練を受けるために、西洋からアフガニスタン渡航する外国人テロ戦闘員の新たな波が生じることになるでしょう」(直訳)というのが博士の見立てである。

続いて第二文では、「そのころには~だろう」の形が出てくる。文全体は、《主節+becauseの副詞節》の構造だが、主節のほうは "the West will be unable to deal with it" 「西洋はそれに対処することができないだろう」という未来の時制で、becauseの副詞節が "because the abandonment of Afghanistan will have already been completed" と《未来完了》になっている。これは、「主節が言っている未来の時点で、既にアフガニスタンからの撤退は完了してしまっているだろうから」の意味。米軍がいなくなっていたら、米国人がそこでテロ訓練をしていようとも、米国は対処はできないだろう、ということである。

いや、むしろ事態はゴヘル博士のこの発言より陰惨だろう。そういう場合、米国は、「米軍」とは別な筋が、戦闘用ドローン(無人機)を投入してテロ容疑者を爆殺(処刑)してきたのである。これはextrajudicial killing(法的な手続きが必要なところでそれを踏まない殺害、つまり暗殺)であり、違法も違法、ど真ん中の違法行為なのだが、21世紀に入ってからそれはごく当たり前の、軍事的に普通の手段になってしまい、ドローンによるテロ容疑者の殺害は、殺害が喧伝された場合の容疑者が凶悪すぎることもあって、いちいち「違法だ」という指摘が大手メディア等でなされることもないくらい常態化している。誰がやっているかも公表されていないからよくわからない軍事攻撃が。

そしてドローンにはいわゆる「誤爆」や「巻き添え」、米軍用語でいう「コラテラル・ダメージ」がつきものだ。どんなに精密爆撃兵器としての精密度が上がったとしても。

この点を含め、「軍」ではないアメリカの諸機関は軍が撤退した後も残るということをNewsweekでウィリアム・アーキンが指摘しているのを、はてブで知った。非常に情報量の多い記事なので、ご一読をお勧めする。

地上部隊の役割は減った。もう相手にする軍隊はいないし、占領する国もない。アメリカ人の命を危険にさらす肉弾戦など、誰も望まない。代わりに出現したのが、柔軟かつ強固でグローバルな情報網に支えられた新手の戦闘スタイルだ。今さら地上に兵員を配備しておく必要はない。実際の戦場は、見えないところにあるのだから。

アフガニスタンを見ればいい。あの国にいる米兵約2500人は9月11日までに本国へ帰還するだろうが、残る要員もたくさんいる。まずは秘密作戦に従事する特殊部隊。そしてCIAの準軍事組織に属する者。彼らは存在そのものが秘密だから、どんな公式集計にも含まれない。

そして彼らと一緒に戦う者たち。アフガニスタンの治安部隊を訓練する要員がいれば、アメリカの供与した最新兵器の使い方を教える技術者もいる。人身売買、汚職などを捜査する国務省、FBIなどのスタッフも残る。

そして今や米軍の活動に欠かせない存在となった民間軍事会社の従業員。アフガニスタンでは彼らの数が7対1で正規兵を上回る。今も54社が求人広告を出してアフガニスタンで働く人材を募集している。職種は各種の情報分析やテロリストの特定からエアコン修理まで多岐にわたる。

こういうやり方なら、正規軍の兵士が撤退しても戦闘は継続できる。この20年で、それ以前には存在しなかった軍事技術も数多く登場した。攻撃用ドローンや自律型の精密攻撃兵器、虫も逃がさぬ監視システム、さらにサイバー戦のシステムもある。

www.newsweekjapan.jp

 

 

実際、アフガニスタン武装勢力はそのままにしておかれ、米国の諸機関も残り、米軍だけが撤退していく状況で、これから警戒せねばならないことのひとつは、タリバンやそのほかのイスラム主義武装勢力が、「アフガニスタンにおける、米国など西洋諸国の蛮行」を強調することで、自国政府に疑問を抱くアメリカ人など西洋人の良心に訴えかけ、そこから自陣に引きずり込もうとすることだろう。米軍は撤退するが、紛争の構造は温存されるのだ。ソマリアのアッシャバブに入った元優等生の例などは研究されつくしているに違いない。そうでなくても米国人はよく「義勇兵」として世界各地に行ってしまう(例えばウクライナの極右勢力と米国人義勇兵についてのこちらのスレッドを参照)。日本も、アフガニスタンに軍隊を派遣してこそいないものの、米国の同盟国として武装勢力のターゲットのひとつとされているだろう。

 

フランク・ガードナー記者のこの文は、最後に個人的なエピソードを書き添える形で結ばれているのだが、その前の「論説」セクションの締めはこうだ: 

So the future security picture for Afghanistan is opaque. The nation that Western forces are leaving this summer is far from secure. But few could have predicted, in the heady days following 9/11, that they would stay as long as two decades.

アフガニスタンの安全保障(軍事、治安)状況がどうなっていくかはわからない。西洋諸国の軍隊が夏には撤退してしまうこの国は、安全とは到底言えない。だが、2001年の時点で、この先20年も駐留が続くと予想した人はほぼいなかっただろう」という内容。ガードナー記者のいつもの論説では、こういうぼやっとした論理構造はまず見かけないと思うのだが、それだけ複雑なものがあるのだろう。

ひとつだけ確実なのは、"Afghanistan is far from secure." ということである。

 

※引用部分が長いんだけど、4600字。

 

 

 

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